■-第4章- いざないの扉

2017年12月29日

追憶《サタン編》-強き想いの果てに…。-③

 不気味に光る異様な形をした巨大な銀色の建物の中に、吸い込まれるように宇宙船は入って行きました。その宇宙船の中にサタンたち3人の姿もありました。
 銀星に着いてすぐに地獄の特訓が待っていました。
 1日目で、もう脱落者が半分にもなり、脱落しなかった者は、さらにふるいにかけられたのでした。
 サタンたち3人は、武術にも優れていたものの、毎日続くいろいろな武器の特訓に、体中が悲鳴を上げていました。

「サタン、お前、今日食事あまり食べていなかったじゃないか」
「食欲が出ないんだよ」
「体が疲れ過ぎているせいかと思うけど、無理しても食べないと、ますます体が弱るぞ。今、お茶を煎れたから飲めよ。ルーディヒ、お前も飲めよ」
「又、その変な味のお茶か!! 苦くて不味いし、一体何のお茶だよ!」
「薬草や干した虫やモンスターの骨とかいろいろだよ」
「ゲー!! 虫!!」
「ゲー!! モンスターの骨!!」

 2人は思わず口からお茶を吐き出してしまいました。
「吐き出すことはないだろう! 体に良い成分が一杯入っているんだ。 昔から、伝わっている薬茶だし、これのおかげで俺たちは、他の奴よりは体力があるんだぜ。不味くても飲むんだ、ほら」
 シリウスは、又、二人のコップになみなみと黒っぽい液体を注いだのでした。サタンもルーディヒも顔をしかめながら、一気に飲み干したのでした。

「オエ~!! 不味い不味い」
「ウップ、ひどい味だ…」
「こんな時、母様のケーキがあったらな…」
「おやや、サタンはもうホームシックにかかったのか。ケーキだって、プププ」
「な、なんだよ、プププって。 ルーディヒ、変な笑い方するなよ!」
「お子ちゃまは、まだおっぱいが欲しい年頃なんだね」
「な、何だよ!! 何でケーキがおっぱいなんだよ!!」
「おっぱいケーキってあるのか?」
「ええ!?」

 シリウスが真面目な顔をして聞いたとたん、3人は大笑いしてしまったのでした。苦しい状況であるからこそ、3人はいつものように過ごしたのでした。一人だったら耐えられなかったとそれぞれが思い、そして、お互いの存在を感謝するのでした。
 14才と言っても、まだ大人では無いのですから、心細くなるのは当たり前です。3人は泣き言一つ言わず、互いに励まし合いながら、耐えていました。
 しかし、気づかぬうちに3人の体はタルタロスによって、変えられていったのでした。まさか、体の中にタルタロスの一部が植えつけられてしまったとは、想像さえしなかった事でしょう。
 18才になれば戻れることを希望に、3人はどんな苦しい訓練にも、歯を喰いしばって頑張っていました。しかし、思ったより早く、銀星から離れる時が来ました。

 原因不明の銀星内の事故で、3人はその時、別々の武器の練習をしていたため、互いを探したくても探せない状況にありました。
 一番最初に見た巨大な銀色の建物から、激しい炎が上がり、皆、逃げるのがやっとでした。燃えさかる炎の中で、サタンは母の声を聞きました。
 巫女的能力を持つ王妃は、どんなに遠く離れていてもテレパシーを飛ばすことが出来ました。
 危機を察知した母の指示通り、黒い鷹の形をした宇宙船に乗り込み、サタンは銀星を後にしたのでした。

 ふと宇宙船の窓を見ると、あれほどひどい事故にも関わらず、何事も無かったように銀星は、銀色の光を発していました。その銀星から、不気味な目に気がつきました。その目はサタンの宇宙船まで近づいてきました。
“サタン、これで終わりだと思うな。これからが始まりだ。お前は、私のしもべに過ぎない。ルーディヒもシリウスも私の手足となり、働いてもらわねばならない。私から逃げようと思うな!! どこへ行こうとも、宇宙の果てさえ、私はお前を見つけることが出来るのだからな。アハハハハ、アハハハハ!!”

 恐ろしい声がサタンの体の中まで響き、今まで経験した事の無い、痛みがサタンに襲いかかって来ました。
 宇宙船の窓に、おぼろげながら写る異形な自分の姿に、サタンは悲鳴を上げて気を失ってしまったのでした。
 サタンの乗った宇宙船は、静かに星ぼしの中を飛んでいました。
 美しい銀河の中を
 星の川の中を
 サタンの絶望を飲み込むように、星の光は宇宙船を見守っていたのでした。
 
サタン編 終



tritonsora at 14:21|PermalinkComments(0)

追憶《サタン編》-強き想いの果てに…。-②

「おい、サタン。久しぶりだな」
 サタンが剣の練習をしていた時に、後ろから金髪の少年が笑いながら声を掛けてきました。

「ルーディヒじゃないか、いつ着いたんだ?」
「さっき着いたばかりだけれど、オマエに会いたかったから、真っ直ぐに来たよ。元気だったか?」
「おい、やめろよ。ルーディヒ!!」
「あいさつのキスだろ、お前。昔から、スキンシップが苦手だな、アハハハ」
「アハハじゃないよ、ルーディヒはスキンシップが多すぎるんだよ」
「サタンは真面目すぎるんだよ。それで彼女は出来たか?」
「な…又、その話か! それどころじゃないだろ」
「ルーディヒの声は大きいぞ! 廊下まで筒抜けだぞ」

 少し、怒った声で、二人のまえに現れたのは、サラサラの短髪の切れ長の茶色の瞳のシリウスでした。
「おう、シリウスか。久しぶりだな」
「久しぶりと言っても、1ヶ月しか経ってないよ。大げさな」
 ルーディヒもシリウスに近づき、あいさつのキスをしようとした時、シリウスはすかさず顔をそむけ、ルーディヒの手を叩いたのでした。
「いて!! 何すんだよ、人があいさつしようとしているのに!!」
「結構だ。お前のキスは、うんざりだよ」
「へいへい、それはすみませんね」

 なんだかんだと言い合いながらも、3人の王子たちは幼馴染みで、とても仲良しでした。 大人しく無口のサタンのとって、明るく、おおらかなルーディヒと面倒見の良いシリウスは、悪友でもあり心友でもあったのでした。
「なあ、銀星の話は聞いたか?」
「ああ、3人で行くことに決まったらしいな」
「シリウスは他人事のように言うな。お前、不安じゃないのかよ」
「へ? ルーディヒらしくないな。お前が不安なんて言うなんて、熱でもあるのか?」「不安というより変だろ? 何で王族の俺たちまでが行かないと行けないんだよ。騎士になるための修行なら、散々王族の学校でやらされているじゃないか」
「俺たちは王族と言っても、王様から見れば、王族じゃないんだろ。他の奴らとは違う問題児だからな」

 3人とも、銀星の話になると、憂鬱になってしまうのでした。銀星は、騎士になるための修行の星を言われていました。
 しかし、銀星から戻って来た兵士たちから話を聞いても、何故か銀星にいた事すら覚えていないような口ぶりだったのです。
 行ったものすべてが戻ってくるわけではありません。途中で挫折する者が多く、挫折した者は、何故か帰ってくるわけでもなく、更に違う星へ連れていかれ、その後、消息が途絶えてしまうのでした。

「なあ、サタン。王妃様から何か聞いていないのか?」
「いいや…、でも、母様は、ぼくが銀星に行くことは反対らしい」
「そりゃそうだろう。お前は王妃様にとって、一番大事な息子だからな」
「そう言うシリウスの方が可笑しいぜ」
「可笑しい? ルーディヒに言われたくないね」
「だってそうだろ。お前、自ら銀星に行くことを志願したんだろ」
「フン、ここにいるよりもマシさ。銀星から戻ったら、俺は旅に出るつもりなんだ。サタンはミーティアと結婚して、スクトゥム銀河の王になるんだろ」
「ええ!! そうなのか。恋も知らずに結婚か? お前、早く彼女作って、楽しんどいた方がいいぜ」
「楽しむって何を?」
「そりゃあ決まっているじゃないか」
「やめろよ、ルーディヒ。サタンは、お前とは違って真面目なんだから」
「なんだよ!! どういう意味だよ!!」
「言葉通りだよ!!」
「二人ともやめろよ!! なんでいつもこうなるんだよ!! 僕は剣の練習があるから行くよ」
「あっ、待ってくれよサタン!!」
「サタン、怒ったのか。悪かったよ」

 足早に部屋を出て行くサタンに、ルーディヒとシリウスは慌てて追いかけるのでした。端から見たら、いつも言い合いばかりしている3人でしたが、互いに信じ、互いに大切に思っていたのでした。
 似たような境遇の3人は、性格が全然違っていましたが、強い絆で結ばれていたのです。3人の運命の歯車は、恐ろしい闇の中へと凄い早さで回転し、奈落の底へ落ちて行く事など、まだ、この時は、そんな予兆さえありませんでした。

 サタンは、銀星へ行く事より、戻って来た後、成人式後にスクトゥム銀河に旅立つことの方が不安でした。ミーティアと結婚するのが嫌という訳ではなく、自分が王という器では無いと思っていたからです。
 
 ルーディヒは、銀星から戻った後、自由気ままに生きたいと思っていました。堅苦しい王族の生活にうんざりで、自分の宇宙船を持ち、まだ見ぬ多くの惑星へ旅立ちたいと思っていました。
 シリウスは、今の生活に息苦しさを感じていました。家族の中でやさしくされればされる程、自分の居場所が無いような気がしていたのです。
 複雑な家庭環境の中で、3人は自分の居場所が欲しかったのでした。そして、少年らしい夢も互いに持っていたのです。
 しかし、そんな強い想いとはうらはらに、3人の人生を狂わせる闇が近づきつつありました。



tritonsora at 14:19|PermalinkComments(0)

2017年12月24日

追憶《サタン編》-強き想いの果てに…。-①

 物語も最終章に入ります。
 その前に、今まで登場した人物が、主人公とどのように関わり合ったか、ひも解いて行きたいと思います。
 それでは、皆さま、少しの間、サタンの少年時代へと誘いましょう。



 サタン編≪追憶≫ 強き想いの果てに…。 ①

 バタバタ、バタバタ!!
 廊下を激しく走る音でマーガレット王妃は、思わず部屋のドアを開けました。
「スチュワート!! みっともないですよ。何事ですか!?」
「ご…ごめんなさい、母様、サラとイザベルが!!」
「又、なの!! ふたりともどこにいるの!?」
「ミーティア王女の部屋です!」

 マーガレット王妃とスチュワート王子は、急いでミーティア王女の部屋へと走って行きました。
「母様…待って下さ~い」
「スチュワート、男のくせに遅いわね!! 先に行ってますよ!」

 スチュワートにみっともないと言っておきながら、王妃たるもの、ドレスの裾をまくし立て、全速力で走る姿は、今回に限ったことではありませんでした。
 すれ違いざまに何人かの兵士や従者や召使いたちは、茫然として立ちつくしてしまうほど、王妃の走る速さは風のようでした。
「何よ! サラは妹じゃない!」
「イザベラだって従妹じゃない! 妹と言っても血は繋がってないもん!」
「でも、妹は妹じゃない!!」
「や…やめなさいよ~~、二人とも!!」
「ミーティアもいい気にならないでよ」
「え…」
「許嫁と言っても、決まった事じゃないんだから~~!!」
「三人とも、何をしているの!! いい加減にしなさい!!」

 マーガレット王妃の鶴の一声で、今まで言い合っていた三人は、ピタリとケンカをやめて、うなだれてしまったのでした。
「サラ、イザベラ、ミーティア、普段はとても仲良しなのに、ケンカの原因はなんなの?」

 三人は下を向いたまま、黙って何も答えませんでした。マーガレット王妃は、深い溜息をつきました。
「サラ、イザベラ、この間も何度も話をしたはずでしょう。二人の気持ちは、母様も良く分かりますよ。でも、この事は、王とスクトウム銀河の王との約束でもあるのです。」

 サラとイザベラは、目に涙をいっぱい溜めて、泣いていましたが、少し年上のミーティアは、さらにうなだれてしまうのでした。
「さあ、もう泣くのはやめなさい。まだずっと先の事でしょう。サラもイザベラも他にやることがあるはずでしょう」

 マーガレット王妃は、少し困った顔になっていました。
 その時、ドアをたたく音がしたと同時に、澄んだ声が聞こえてきました。
「母様、こちらですか? 今、戻りました」
「あら、サタン。お帰りなさい、入りなさい」

 ドアが開くと、背の高い凛々しい少年が立っていました。長い黒髪を1本に束ね、少し鋭い漆黒の瞳は、キラキラと輝き、独特の雰囲気を醸し出していました。
「サタンお兄様、お帰りなさい」
 サラはサタンに走り寄り、抱きついたのでした。
「ちょ、ちょっとサラ、ど…どうしたの?」
サタンは、抱きつくサラに戸惑っていました。
「さあ、お茶の時間にしましょうね。皆、花の間に行きましょう」

 サタンのそばにべったりとくっつくサラとイザベラ、その後にスチュワートとミーティアは、困り顔でついて行くのでした。
 そんな様子を見ながら、マーガレット王妃は一抹の不安を感じずにはいられませんでした。
“何か嫌な予感がする…。もうすぐサタンは14才になるけれど、王は本当に銀星へ行かせるつもりなのかしら。王族は行かない決まりなのに、サタンだけでなく、ルーディヒやシリウスも行かせるような事もきいたし…。”
「母様、心配事でもあるのですか?」

 不安げなマーガレット王妃の顔を見て、サタンは駆け寄って来たのでした。
「ありがとうサタン、何でもないわ。ねえ、サタン…」
「はい、母様」
 まっすぐに見つめるサタンの顔を見るにつれ、王妃は、更に胸騒ぎがするのでした。
「母様、ぼく、ルーディヒやシリウスと一緒で心強いです」
「え…!!」
 サタンは、母が何を気にしていて、何を心配しているのか、良く分かっていたのでした。

 星虹銀河の母体にあたる星虹星は、銀星とは双子星でもありました。
 銀星が、どのような星で、どのような国で、どのような住民が住んでいるかは、代々、王にしか知らされていませんでした。そう…、はるかなる遠く遠く星虹銀河が誕生し、星としての生命が維持された時からの定めなのですから…。




tritonsora at 14:07|PermalinkComments(0)

2017年11月12日

第4章 いざないの扉 第8話 -終わりなき戦い(後編)-

扉は何をしても固く閉ざされたままでした。

「びくともしないぞ」
 王子は強く押してみましたが、全く開く気配すらありません。
「魔法で壊してもだめかしら?」
「だめだ、ミーティア。塔が崩れかかって来ている。強い衝撃はだめだ」
「そんな事言って、サタン、どうするのよ!?」

 扉が開かなければ、タルタロスを倒すことは出来ません。
 加奈は、扉の模様を注意深く見てみました。すると、星の形の中央に、かすかですが小さな穴があるのに気がつきました。
 不思議な事に、その穴は星の形をしていました。

「ねえ、サタン。この穴だけど…」
「え、穴?」

 サタンには、その穴が見えませんでした。王子もミーティアにも見えませんでした。ライに聞いても、穴は見えなかったのです。
 加奈にしか見えない不思議な星の穴でした。加奈は星の弓を引きました。星の弓はキラキラと光り、加奈はその小さな穴に気を集中させました。
 弓をひくと、氷の矢がその穴めがけて的中しました。すると、扉がギィ~~ギィ~~と言い、ゆっくりと開き始めたではありませんか!!

 中に入ると、変った図面の上にタルタロスがいました。ゆっくりと目を開き始めると、百本の管が加奈たち目がけて伸びて来ました。
 洞窟のダルタロスより大きめで、風の魔法ではなく、炎の魔法を使ってくるので、どこがタルタロスの急所か分かりませんでした。
 あの時は、目の中央でしたが、同じだとは限らないのです。脳みそのような、グニャグニャした頭からは電光が走り、近くに行こうにも、体がしびれて動くことが出来ません。それでもサタンと王子は、タルタロスに向かっていくのでした。
 ミーティアは大きく鞭を回し、伸びてくる管を打ちのめしていきましたが、とめどなく管は伸びて、キリがありませんでした。ライは、魔法で少しでも弱らせようとするのですが、タルタロスはびくともしませんでした。

 加奈は、あの時は、タルタロスの下に、図面は無かったことに気がつきました。よく見れば、タルタロスは、その中央から動こうとしませんでした。
「あの結界を解けば、少しは弱らせる事が出来るかもしれない」
 加奈は、気を集中しました。加奈は、呪文を唱え始めました。その呪文がタルタロスの結界の中へと流れ込んで行きました。

 一瞬、タルタロスの動きが止まりました。加奈はこの時を見逃しませんでした。
 星の弓を引き、タルタロスの目に矢を集中し、何本もの矢じりがタルタロスの目を射抜きました。
「グアアア~グアア~」
 タルタロスの両眼が潰れ、苦しみもがき始めました。タルタロスは加奈に向かって管を伸ばして行きました。
「キャア~~」
 加奈の首に管が巻き付いてしまいました。
「加奈!!」
 サタンは、管を切ろうとしても、管は何故だか切ることが出来ませんでした。

“息が出来ない…”
 加奈の意識が遠のきかけた時、その時でした。
「ガアアア~~」
 凄い勢いの氷の渦がタルタロスに向かって流れ込んで来ました。リュウトが小さな体で、口から凄い勢いで氷の渦を、タルタロスに吹きかけているではありませんか。
「ギャオォ~~」
 タルタロスは苦しみのあまり、管を引っ込めてしまいました。
「ゴホ、ゴホ、ゴホ」
「加奈、大丈夫か!」
 サタンは加奈のそばに駆け寄りました。
「し、死ぬかと思った…」
 タルタロスは、さっきよりだいぶ動きが鈍くなっていました。加奈はもう一度、星の弓を引きました。
「加奈、あまりその弓を使うな!!」
 サタンが叫びました。それでも加奈は力をふりしぼり、気を集中させて弓を引きました。
 今度は、鋭い氷の矢じりがタルタロスの目の中央を射抜きました。
「グガア~」
 タルタロスの体が少しずつ溶けていき、結界も一緒に、ブクブクと泡が吹いて、溶けるように消えていきました。
 洞窟のタルタロスと違い、二重の結界は無かったので、浄化の呪文を使う必要はありませんでした。
 
 加奈は、自分の気を使い過ぎてしまったせいか、又、気が遠くなり、その場に倒れてしまいました。
「加奈! 加奈! しっかりしろ」
 リュウトも心配そうに加奈の頬をペロペロとなめるのでした。しかし、加奈は眠ったままでした。

 タルタロスが倒れたと同時に、塔も崩れていきました。不思議な事に砂の大地が見る見るうちに消えて、緑の大地が広がっていきました。
 大鳥は、ゆっくりと城へと飛び始めました。サタンは、加奈をしっかりと抱いていました。
「加奈は大丈夫かしら…」
 ミーティア王女は不安そうに言いました。
「とにかく、城の侍医に見せるんだ! 加奈は大丈夫だ」
 そう言いながら、王子も心配が止まりませんでした。

 春のような穏やかな日差しが、部屋の中まで差し込んで来ました。フワフワのお城のベッドで、加奈は寝ていました。
「加奈はまだ目を覚まさないの?」
 ミーティア王女は、花束を抱えながら、部屋に入って来ました。
「ああ…」
「サタン、私が替わるわ。もう3日も付きっきりじゃないの。今度はあなたが倒れてしまうわ」
「大丈夫だ」
「でも、顔色が凄く悪いわよ。あなたが倒れたら、余計に加奈が可哀そうじゃないの」
「ありがとう、ミーティア。それじゃあ明日、少し替わってもらうよ」
「そうしてね。それじゃあ、花を入れ替えてくるわ」
 ミーティアが部屋を出て、サタンが又、加奈の方を見つめました。

 最初の頃より、だいぶ顔色も良くなって、手のケガも治りつつありました。
「加奈、早く目を覚ましてくれ。なんでこんなに無理をするんだ。体中もひどいケガだし、指先も…」
 サタンは、加奈の手を取り、そっと頬にあてました。小さな手はあの時のケガで包帯でぐるぐるに巻かれて痛々しく、タルタロスの管に締め付けられた首は、ひどい火傷になってしまいました。しかし、ライのきつね族の魔法のおかげで、火傷の跡は少しずつ消えてはいますが、まだ赤く残っていました。元に戻るまで時間がかかりそうです。
 サタンはそっと加奈を自分の胸に抱き寄せました。華奢な加奈の体にサタンは余計に辛く、悲しくなるのでした。

“何だろう、この気持ちは… この切ない胸の高鳴りは… こうして加奈を抱いていると、余計に愛おしくなるのは、何故なんだろう…”

 加奈を抱き寄せているサタンの姿を、ミーティアは複雑な思いで、花瓶を持ったまま見つめていました。
 互いに想いを持ちながら、決して口には出さないサタンと加奈でした。初恋は実らない、でも、甘酸っぱいレモンのような思い出も、いつまでも心に残るのは、実らないからなのでしょうか。
 サタンと加奈の想いは、星に届くのでしょうか…


 この後、サタン編に続いて
第5章、最終章に続く。



tritonsora at 13:21|PermalinkComments(0)

2017年10月29日

第4章 いざないの扉 第8話 -終わりなき戦い(前編)-

上の階にいるタルタロスの声が大きくなってきました。不思議な地鳴りがして、塔が地震のように揺れて来ました。砂嵐まで吹き付けて、タルタロスとの戦いが始まろうとしていました。
 加奈は泣いている場合ではないと思い、リュックから星の弓を出しました。星の弓は、加奈が手に取ると、加奈の心に反応して、みるみると大きくなり、光り輝き始めました。

 上に上がる都度、モンスターの数は増えるばかりでした。
「くそ、この塔はどうなっているんだ。モンスターの巣じゃないか。上に着くまでに疲れてしまうぞ」
「泣き言を言うなんて王子らしくないわね。でも、確かに多すぎるわね」
 ミーティア王女も、鞭を回しながら、辺りをうかがっていました。
「外階段は急で砂石が崩れやすくて危険だけど、モンスターが少ないから外階段の方を上って行こう」
「サタン、それは危険よ。私たちは大丈夫だけど、加奈には無理よ」

 皆の目が加奈に集中しました。加奈は何を言っていいのかわからず、オロオロするばかりでした。
「加奈、ゆっくり上がっていくから、足元に気をつけて上るんだ。出来るな?」
「う…うん、大丈夫だよ、サタン」
 そうは言ったものの、外階段は予想以上に急で、砂で滑りやすくなっているだけでなく、手摺りなど無く、もし、落ちてしまえば、下まで真っ逆さまで一巻の終わりです。

 加奈は一番最後から上っていきました。上手に上れないため、小さな石を下へ落としてしまう恐れがあるからでした。
 少しずつとはいっても、皆、素早く上っていくので、加奈は一人だけすごく遅れてしまいました。足場は狭く、一段上がる高さが高いため、よじ登って上がらねばなりませんでした。
 両方の手は、砂岩をきつくつかんでいるので、血だらけになってしまい、痛みのために、さらに上がるのが遅くなってしまうのでした。

“痛い!! 手が麻痺してきた。こんな指では弓が弾けない。こんな事なら、一緒に来なければ良かった。もう帰りたい。もう地球へ、お家へ帰りたい。もう嫌だ”
 加奈はもう限界でした。上に上がろうにも指からは血が流れ、つかんだ石が赤く染まり、加奈はその場に留まってしまいました。

「加奈、何してる!! お前だけだぞ!! ゆっくりでいいから、上がってくるんだ!!」
「……」
 加奈は返事をしませんでした。
「加奈!?」
 サタンは、加奈の様子がおかしいのに気づき、又、下へ降りていきました。
 加奈の所まで来た時、サタンは、加奈の両手が真っ赤に染まっているのに愕然としました。サタンは、加奈の体を回り込むようにして、自分の腰ひもで加奈の体をくくり付けました。
 強い風が吹くと、バランスを崩しやすく、サタンの体は一瞬、落ちていきそうになりました。砂岩は崩れやすく、足元も何度も滑ってしまいます。加奈を抱いて上がるのは、至難の業でした。

 それでも少しずつ、注意深く登っていきました。そして、ようやく上がりきることが出来ました。
「加奈、もう大丈夫だ。タルタロスのいる階までもう少しだ」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
 加奈は、自分が情けなくなって、涙がぽろぽろと頬を流れていきました。
 サタンは何も言わず、加奈の怪我した手を自分の筒の水で、砂を洗い流していきました。

「何だかんだ言っても、サタンは加奈が心配なんだな」
「昔から、サラとイザベラの面倒もよく見ていたけれど、やっぱりサタンは変わっていないわね」
「いいや、違うと思うよ」
「え?」
 王子には分かっていました。サラとイザベラとは違うのだと。

 少しずつ、指先の痛みが取れて来て、加奈は安心しました。あのままでは弓を弾くことが出来ないからです。
 最後の戦いの前に、つかの間の休息です。サタンは加奈を自分の方へ引き寄せました。
 加奈はびっくりして、離れようとしましたが、サタンの強い力にはかないませんでした。

「あ…」
 加奈は、皆の前なのに、恥ずかしくなりました。
「少し休むんだ、加奈」
 座ったサタンの膝の中にすっぽりはまってしまい、加奈は恥ずかしいやら困ってしまうやらで顔が真っ赤になり、冷や汗をかきそうでした。
 サタンは、自分のマントで加奈をそっとくるむと、自分も目をつぶったのでした。

 はたから見ると不思議な光景でした。
 サタンは加奈を抱いているのに恋人の感じでは無く、父親が愛しい我が子を抱くような、兄が可愛い幼い妹を抱くような、そんなメルヘンのような情景でした。
 加奈は、サタンの懐にいると、すごく安心するのでした。子供の頃、病気の時、父が膝に乗せて絵本を読んでくれた、あの暖かな感覚に似ていました。
 きつい目で見られても、怒られても、やっぱりサタンのそばが一番落ち着く加奈なのでした。

 サタンはそっと目を開けました。加奈が少しずつ、落ち着いて来ているのがわかりました。
“この戦いを最後にして、加奈を早く地球に帰さなければ…。この戦いで多くの露金が手に入る。加奈の宇宙船の位置は大体把握した。メシエに頼んで宇宙船の修理が終われば、加奈は、地球に帰れるはずだ…。
 こうして加奈を抱いてあげるのも、あと少しかもしれない。そう…やっと自分の旅が出来るのに、なんで、こんなに心が苦しいのだろうか…”

 しかし、二人の心の想いとは裏腹に、運命の歯車はもう回り始めていました。
 一番上の階の扉には、不思議な星の紋章が描かれていました。

“あ!! この模様は、あの時の扉の紋章と同じ!”
 加奈は一抹の不安がよぎりました。
 その扉の奥で、タルタロスの声が大きく響くように聞こえてきます。

「ウォ~、ウォ~」
 
 そう、あの時と同じように…。 



tritonsora at 14:16|PermalinkComments(0)

2017年09月25日

第4章 いざないの扉 第7話 -覚醒の時(後編)-

 どこを向いても果てしなく砂漠が続いています。はるか遠くにそそり立つ塔が、おぼろげに見えるだけです。
 前にサタンと王女とペルセウス王子、後方に加奈とライが乗っていましたが、それでも背中に余裕があるのですから、大鳥の大きさはドラゴンより大きいかもしれません。

 サタンとミーティア王女、そしてペルセウス王子は、これからタルタロスと戦いに行くというのに、何か楽しそうに話をしていました。緊張感が無いと言えばそれまでですが…。
 加奈はサタンの穏やかな顔とミーティアを見る目の優しさに、寂しさを感じていました。

“私はいつも怒られてばかり。ドジだから仕方ないけど…。あんなに優しい目、ミーティア王女は綺麗でグラマーだから当たり前だけど…。私は女の子として見てもらってないし、ペチャパイだし…。なんか、いつもきつい目で見られているし…。私…何か、お邪魔虫みたい。”

「か…加奈様…あまり、むしり取りますと…」
「え?」
 気がつけば、加奈は大鳥の羽を丸くむしり取っていました。
 イライラ、イジイジしていたせいなのでしょうが、無意識に加奈は座っていたそばの鳥の羽をむしって、そこだけまん丸く禿げてしまっていました。

「あ…鳥さんに悪い事しちゃった…」
「加奈、何やってんだ!!」
 サタンが、加奈を方を向いて、怒ったような顔をしました。加奈は返事もせずにプイっと後ろを向いて、サタンに背を向けました。

“フン、どうせ私ははみ出しっ子ですよ!”

 ライは加奈のそんな様子を見て、サタンの方を見ましたが、サタンはまた、王女と話をしていました。

“サタン様は何故、あんな態度を取るのだろう。加奈様はまだ、戦いにも慣れていないし、タルタロスの戦いがこれからあるというのに、もう少し気を遣われてもいいと思うのだが…”

 加奈の方をもう一度見ると、加奈はしきりに目を手でこすっていました。加奈が必死に泣くのをこらえているようで、ライは自分が守ってあげようと強く思うのでした。

 塔の入口まで来ると、やはりあの不気味なタルタロスの声が上から聞こえてきました。中に入ると、凄い砂ぼこりで、モンスターがどこから襲ってくるか、分からないくらいでした。サタンとペルセウスが先頭に立って、次から次へと襲ってくるモンスターを倒していきました。
 上に上がる階段にも、虫みたいなモンスターがカシャカシャと足に喰いついてきます。ライは炎の魔法で小さな虫を追っ払っていきました。それでも上から鳥のようなモンスターがひっきりなしに襲ってきます。
 ミーティア王女の鞭が、鳥のモンスターを素早く倒していきました。
「ミーティア、助かるよ」
「まだ私だって、腕はなまってないわよ。サタンこそ相変わらず強いわ」

 二人は互いに褒めながら助け合いながら、戦う様は息がぴったりでした。そんな二人を見て、加奈はますます落ち込むのでした。
  息をつく暇もなく、モンスターだけでなく、塔の中は迷路になっていて、あの時の洞窟の動く氷の石のように、動く床を渡らねばなりませんでした。
 砂で滑りやすくなっているため、動くだけでなく、一人ずつ、渡っていかねばなりません。あの時はシリウスが腰にひもを付けてくれていたのですが、今回は腰ひもが無いので、綱渡りのように、体のバランスを見ながら渡る必要がありました。
  最後に加奈が渡る番が来ました。加奈は、真ん中まで来た時、つい下を見てしまいました。下にはたくさんのモンスターが上を向いて加奈の方を見て威嚇したり、飛び上がって襲いかかろうともしていました。

「こ…こわい…」

 モンスターとの戦いは、今までもありましたが、こんなにたくさんのモンスターと戦うのは、初めてでした。

「加奈様、下を見てはダメです! ゆっくりとゆっくりとあせらず…」
「ライ…足が、足が動かない…」

 加奈は恐怖のあまり体が震え、足もガクガクしてその場に座り込んでしまいました。

「加奈、何やってる! この床は一人だけでも崩れそうなんだ。這いつくばっても一人でここまで来るんだ!!」
「……」

 加奈はサタンの声に返事をしませんでした。何でいつも怒られなければならないのだろうと涙があふれてきました。
 震える足を少しずつ動かしながら、どうにか渡り終ってライが手を差し伸べてくれました。
 
 モンスターの気配が少し消えて、ちょうど真ん中の階あたりまで来たので、休息を取ることになりました。
 加奈は一人、皆から離れて座りました。そんな加奈にサタンは声をかけようとしませんでした。タルタロスとの戦いについて、王女たちと話し合っていました。
 ライはコップに水を注ぎ、加奈の元へやって来ました。

「加奈様、喉が乾いたでしょう。どうぞ」
「うん…」

 加奈は、コップを持ったまま、塔の窓から見える外の景色を見ながら、ライにつぶやきました。

「私、全然、役に立ってないみたい。かえって、足手まといみたい。私、どうしよう。シクシク、シクシク」
 加奈の目から涙が溢れ、もう、押さえきれませんでした。

「加奈様、泣かないでください。大丈夫ですよ。加奈様は以前、シリウス様とタルタロスと戦われたではありませんか。自信を持ってください。ライがいつもおそばにいますよ」

「うん…」
 ライは、加奈の溢れ出る涙をそっと拭き取ってあげるのでした。
 
 そんな二人の様子をサタンは見つめていました。
 サタンも、心の中では加奈の事が凄く心配で、出来る事なら一緒に連れてきたくはありませんでした。しかし、一緒に戦う以上、あえて加奈に対して、構うことをグッと堪えたのでした。

 サタンは、その場を少し離れて、上の階が見える少し高くなっている踊り場まで来ました。タルタロスの声はさっきよりはっきりと聞こえるようになりました。

“銀星のタルタロスとは声の感じが違うが、タルタロスの分身には変わりない。気を引き締めて戦わなければ…。いざとなったら、力を解放するしかない…”

 ちょうどその時、リュウトは籠の中で暴れていました。動物の直感というのでしょうか、暴れた拍子に籠の鍵が取れて、リュウトは翼を広げました。そして、窓から外へと飛び出したのでした。
 リュウトは迷わず加奈の元へと全速力で飛んだのでした。
 飛んでいくうちに翼は体より大きくなって風を切り、顔つきもドラゴンの鋭さへと変化していきました。
 白ドラゴンの力が、少しずつ覚醒しつつありました。



tritonsora at 12:50|PermalinkComments(0)

2017年08月19日

第4章 いざないの扉 第7話 -覚醒の時(前編)-

「加奈、用意は出来たか?」
「……」
「加奈?」
「ドアを開けるよ」

 サタンがドアを開けると、加奈の姿にサタンは深いため息をつきました。

「加奈、いつになったら、紐が上手に結べるようになるんだ。髪の毛は逆立っているし、靴下も右と左が色が違う…」
「だって、この服、着るの難しいんだもの。ボタンだって後ろにあるし…靴下だって…」
「わかった…わかったから、こっちへおいで」

 サタンは何度、加奈の服を直した事でしょう。確かにボタンの数も多いし、紐を結ぶのもコツが要ります。加奈の星の服と、そんなにも違うものなのか、不思議に思うのでした。

「加奈、上着、前と後ろ、逆に着ているぞ」
「そ…そうなの?」

 加奈の服は、昨日王女からいただいた戦闘用にもなる服でした。ロミオとジュードからもらった服でもありましたが、その服は宇宙船に置いたままなので、王女からいただいた服を着ることになりました。
 見た目は可愛いのですが、ボタンがやたら多く、加奈の苦手な紐もいたるところにあり、着るのに苦労します。モンスターの襲撃に耐えるように胸の所は少し厚手のチョッキで、ミニスカートと言っても、下にタイツと長めのブーツを履くので、動きやすくなっていました。

「ほら、後ろ向いて。髪のリボンも直すから」
「トントン」
「おう、サタン、入るよ」

 ペルセウス王子が部屋に入ってきました。

「あれ? なんで加奈がサタンの部屋にいるんだ? って~!! も…もしかして、昨日の夜から一緒だったのか!!」
「そうだけど、加奈とはいつも、一緒に部屋だよ」
「な…なに~~~!! お前たち、もう、そういう関係なのか~!! サタン、まずい、まずいぞ。加奈はまだ子供なのだから!!」
「そういう関係って、どんな関係?」

 そう言いながら、キョトンとしている加奈に、ペルセウス王子は頭を抱え込んでしまいました。

「私、先に外に行っているね。リュウトと少し遊んであげないと…」

 加奈が部屋から出ていくと、ペルセウスは首をかしげました。

「あの調子だとまだなのか?」
「だから、何が?」
「う~ん…お前たち、一体どうなっているんだ?」
「お前の言いたいことは分かっているよ。ロミオにも不思議がられたし…。妹のような感覚なのかも」
「確かに加奈は幼いしな。まだ小さな女の子って感じだが…ジロリ」
「な…何だよ、その目は」
「いや別に…少しづつ教えていくのか? ニシシ…」
「イヤらしい笑い方するな! そういう関係じゃないって言っただろ。それより、王女が待っているから行こう」

 にやにや笑っているペルセウスを振り切って、サタンは部屋を出ました。
 サタンが加奈を妹として見ようとすればするほど、心の中は苦しくなっていくことは事実でした。幼くて純粋な加奈を大切にしたいと思う反面、サタンも19才という若さなのですから、もわ~~んと来るのは当たり前です。しかし、それ以上に加奈を守りたいという気持ちの方が強かったのです。

 宿屋の前の道で加奈は、リュウトとボール投げして遊んでいました。

「ほら、リュウト、もう少し遠くに飛ばすよ、取れるかな?」
「キュウキュウ」

 リュウトの背の羽が少しずつ大きくなって、体はまだ小さかったのですが、だいぶ飛べるようになりました。

「わあ~、凄い凄い。飛ぶ時間も長くなってきたね」

 リュウトは嬉しそうに宙でクルリと回りました。

「さあ、そろそろ時間だから、リュウト、ごめんね。狭い籠の中で悪いけど、お留守番しててね」
「ガウ~~!!」
「だめだよ、そんな顔しても、帰って来たら、う~~んと遊んであげるからね」

 加奈はリュウトを籠に入れて、自分の部屋へ戻りました。
 加奈がリュウトにパンと飲み物をあげている時、ドアがノックされました。

「はい」
「加奈様、ライですが、ちょっといいですか?」
「ライ? いいよ」

 ライも昨日とは違うきつね族の服を着ていました。

「うわあ~、何か懐かしいなあ。アロを思い出すわあ」
「アロ?」
「私が知っているきつね族の頭領なの。あ~思い出したわ。ライはアロに似ているんだわ」
「そ…そんな、偉大な頭領に似ているなんて、勿体ないです。」
「笛がとても上手でね、部屋には凄く大きな弓も飾ってあったのよ。頭領なのに、とても気さくで優しい人だったの」

 加奈はライに短い間でしたが、きつね族の話を聞かせてあげるのでした。ライは少しびっくりしたようでした。自分の村の生活とはだいぶ異なり、占いのババ様がよく話をするだいぶ前の生活の様子だったからです。

「魔法使いのお婆さんに、変な術をかけられて、過去の世界へ飛ばされたみたいなの」
「ええ~~!?」
「自分の星では無い所にいたためか、きつね族の人たちは大変だったみたい」
「それじゃあ加奈は…」

 ライは絶句してしまいました。加奈こそが数千年前、きつね族の滅亡から救ってくれた人であることを確信したからです。父からもババ様からも聞いていたし、祈りの場では、いつも救いの女神として、妖精の繭玉とともに、祭られていたからです。
 ライの心は震えました。加奈がいなければ、自分はこの世に存在していなかったし、わずかではありますが、その他の惑星で暮らしているきつね族も、すでにいなかったはずです。

「あ、そうそう」
「ハイ?」
「私、多分、この戦いが終わったら、私の星から乗って来た宇宙船が見つかったら、地球へ帰ることになるの。ライは、私に仕えると言ったけど、無理よ」
「な…何故ですか!?」
「だって、地球では、野生動物はいるけれど、モンスターはいないから」
「???」
「だからね、大丈夫なの。私は学生に戻るだけだから」
「学生ですが?」
「うん。、だから、気にしなくていいよ。それに、大蛇のオババ様に一度、自分の星へ帰りなさいと言われているし…」

 ライはますます困ってしまいました。せっかく出会えたきつね族全体の恩人の加奈に何も出来ないとは…。

「ライ、そんな困った顔をしないで。でも、ひとつだけ、お願いがあるの。多分、このお願いは、大変だと思うから、それで勘弁してね」
「お願いですか?」

 ライの顔が少し明るくなったようでした。
 加奈は、ライに結界を解く術を教えようと思ったのでした。何千年前から存在するタルタロス、そして、いたるところに現れるタルタロスの分身。
 まだ、どこかの惑星にいるかもしれないし、今、倒したとしても、完全に消滅するとは限らないからです。
 多少、戦術も使え、きつね族の術を使えるなら、結界を解く術も出来るはずと思ったからです。加奈自身も、すべての術を教わったわけでは無いので、心もとないのですが…。

「ライは、きつね族や魔法を使う時、自分の気を一つにまとめるよね」
「ハイ」
「それが出来れば、後は呪文を唱えるだけよ」

 加奈は、結界を解く呪文と浄化の呪文をライに教えました。

「ちょっと唱えてみて、ライのオーラを見るから」
「オーラ??」
「うん、やってみて」

 ライは、精神を研ぎ澄まし、加奈に教えてもらった呪文を唱え始めると、ライの体から気のオーラがほとばしって来ました。その光は、ライの体を大きく包み込んでいきました。

「すご~い!! もう、いいよ。私なんかより、強い気を持っているから。安心安心」

 加奈は嬉しそうに手をたたきました。加奈の笑顔にライは、ますます加奈のために、何も出来ない自分を悲しく思うのでした。
 呼びに来たサタンとともに、4人は、城へと急ぎました。城の入口の門には、昨日乗った大鳥のモンスターと王女が待っていました。昨日とはうって変わって戦闘姿の王女は、とても眩しく映りました。
 4人は、大鳥に乗って、砂漠がつづく、大地へとあの不気味な塔へと、それぞれの決意を胸に飛び立つのでした。



tritonsora at 14:07|PermalinkComments(0)

2017年08月14日

第4章 いざないの扉 第6話 -決意-

「サタンはまだなの?」
「はい! 王女様」
「何か胸騒ぎがするわ。お父様もお父様よ。何もスクトウム国のモンスターをサタンに退治させることを頼まなくても!!」
「しかし、王女様。あの塔のモンスター退治には、多くに兵士が犠牲になっています。サタン様の強さに王様が苦渋の決断をなさったのは、王女様もご存じのはずです」
「サタンが強いのは、私だって知っているわ。私が言っているのは、国の難題をサタン一人に押し付けるのは良くないと言っているのよ!」

 王女が部屋の中を行ったり来たりしている時、ドアをたたく音がしました。

「王女様、サタン様たちがいらしてますが…」
「え? サタンたち?? いいから、早く、呼んでちょうだい」

 召使いがドアを開けると、サタンたちの姿が王女の目に映りました。

「あら…ペルセウス王子とライ、どうなさったの? そちらの女の子はどなたかしら?」

 ミーティア王女は、加奈の前に走り寄って来ました。

「まあ、なんて可愛い王女なのかしら。もしかして、昨日会えなかったペルセウス王子の妹のセーラ王女!?」
「ミーティア、違うよ。朝、話を少ししただろう、加奈だよ」
「まあ! サタンと一緒に旅をしている女の子ってこの子なの! よろしくね、加奈。サタンと同じ漆黒の髪と黒い瞳、珍しいわね」

 ミーティア王女は、やさしい笑顔で加奈の手を取りました。

「あ…あの…王女様、初めてお目にかかります…」

 頬を染めて恥ずかしそうに挨拶する加奈を王女は思わず、ぎゅっと抱きしめてしまったのでした。

「わ~、可愛いわ~」

 加奈はびっくりしていまいました。サラ王女とはまるで正反対の王女でした。美しさだけでなく、均整の取れた体に、明るく輝いているオーラを持ち、金髪の長い髪がキラキラと光り、大きなブルーの瞳は、包み込むような優しさがありました。
 それより凄いグラマーで、加奈の顔いっぱいに、大きな柔らかな胸を押しつけられて、加奈はますます赤くなってしまったのでした。

「ミ…ミーティア、もう、その辺で、加奈が困っているよ」

 サタンは呆れ顔でした。

「あら、ごめんなさい。私、いつも男ばかりの中にいるものだから、女の子って珍しいのよ」
「それより、ミーティア、塔のモンスターの事で話があるのだが」
「え? 何か長くなりそうね。立ち話もなんだから、お茶を飲みながら話をしましょう。ルイゼ、お茶の用意をしてちょうだい。それと、お菓子も忘れずにね。サタンの好きなお菓子も持って来てちょうだい」
「ミーティア、ぼくはいいよ!」
「あら、何言ってんのよ。子供の頃からお菓子には目がなかったくせに。いつもサラと取り合いになっていたじゃないの」
「それは、子供の頃だろうが」
「まあいいわ。食べないなら、私と加奈で食べるから」

 加奈はサタンが甘いお菓子を好きだとは知りませんでした。クールで無口で誰よりも強いサタンが、お菓子を食べる姿を想像できませんでした。
 サラと取り合いになったというのですから、昔のサタンは、今とは性格が違っていたのかもしれません。
 どこから、サタンの歯車が狂ってしまったのでしょうか。銀星での出来事が、すべての元凶の始まりだったのでしょうか。

 加奈の話を聞くうちに、ミーティアの顔も表情が険しくなってきました。加奈は銀星のタルタロスとシリウスたちの体のこと、そして変身したシリウスの姿、きつね族の話はしませんでした。
 サタンは、加奈が言葉を選ぶように話をしているのに、加奈の優しさを感じるのでした。
 その時、突然、ミーティア王女が椅子から立ち上がりました。

「私も戦うわ!!」
「え!何言ってんだよ、君はこの国の王女だろ」
「王女だからこそ、一緒に戦うべきだわ」
「何かあったらどうするんだ。君一人の体ではないんだよ。国のことも考えなくては」
「分かっているわよ、サタン。でも、人まかせばかりにしてはいけないと思うのよ。自分の国のことなのよ。こんな小さな加奈だって戦うというのに、私だけ、城でのほほんとしていられないわ。私だって、武器を持って戦えるわ。子供の頃から一緒に剣の練習をしたじゃないの」
「サタン、王女の言う事は正しい。一人でも多い方が、タルタロスを倒すのに有利だと思うぞ」

 ペルセウスもミーティア王女と同じ考えでした。

「加奈の言うように、武器が使い物にならないとすると、戦いが長くなりそうだ。体力が続かないと、致命傷になるな」

長い時間4人は、念密に作戦を立てました。加奈は疲れてきて、うつらうつらとしてしまいました。無理もありません。いろんな事が次から次へと起きて、頭の中で整理が出来なくなっていました。

「ミーティア、悪いが今日はこの辺にしてくれないか。加奈が眠そうだ」

 サタンの肩に寄りかかって、半分眠ってしまっている加奈をサタンはそっと抱き上げました。

「え…っと、それで、星の弓で、その後、結界を解くじゅも…ん、ムニャムニャ…クゥ~」

 加奈は、眠そうにしながらも一生懸命タルタロスの戦いについて語るのでしたが、完全に最後の方は寝てしまいました。

「あらあら、おねむの時間みたいね。寝顔まで可愛いわあ~。それじゃあ、今日はこれ位にしましょう。また、明日、お城へ来てちょうだい。ペルセレス王子は、まだ話があるから、もう少し、残って下さらない?」
「私も王女にお話があります。ライ、お前は夜だけ開いている薬屋があったな、そこで、必要な薬草を買っといてくれ。何を買うかはお前に任せるよ」
「ハイ、承知しました」

 城の外はもう暗くなり、町の明かりが遠くに見えました。夜空には、降るほどの星がまたたき、美しい3つの衛星が金色に輝き、その光が夜の闇の暗さを明るくしていました。
 昼間の暑さが嘘のように冷たい風が吹きつけていました。サタンは、黒いマントを羽織り、加奈をマントの中に抱かかえました。
 華奢な加奈は、すごく軽く、それが余計に可愛いらしく、いじらしくサタンは、包むように抱くのでした。

「サタン様、お待ちください」

 後ろからライが走ってきました。

「ああ、ライか。夜だけ開いている薬屋なんて、ちょっと危なげだな。大丈夫なのか?」
「その薬屋の存在は、この星の者でも知っている人は少ないのです。特別な調合の薬もあるので、普通の人は必要ないでしょうね」
「ライは、昔から変わりないな。子供の頃から、ペルセウスとともにいたからな」
「ペルセウス様は命の恩人です。村がモンスターの襲撃に遭い、私ひとりだけ生き延びたのも、ペルセウス様のお陰なのです。でも…」
「でも?」
「あ…すみません。私、ここで失礼致します。加奈様のこと、よろしくお願いします」

 ライは悩んでいました。ペルセウス王子は、ライについて命の恩人であり、兄のような存在でもありました。モンスターによって、きつね族の村は全滅となり、自分だけが生き残ってしまいました。
 きつね族の父ときつね族ではない母の間に生まれたライでした。しかし、きつね族の集落で過ごす事は、亡き母の遺言でもありましたが、集落に行った後は、ライも随分と苦労しました。父もライが訪ねる前に亡くなっていたため、ライは一人ぼっちでした。まだ6才にも満たないライでしたが、自己流で武道・魔法。武術そしてきつね族の術を死にものぐるいで鍛錬に励みました。
 8才の頃には、幼くして、きつね族の戦士の称号をもらったのでした。しかし、突然現れたモンスターによって、村は全滅してしまったのでした。

 危機一髪のところ、たまたまそこを通りかかった王子一行のお陰で、たった一人、ライだけが助かったのでした。
 そして、それから17才の今現在になるまで、ライは王子に仕えてきました。王子もライの事を従者としてではなく、自分の兄弟のように接しくれたのです。
 それでも、父に言われた事を忘れた事はありませんでした。九尾の腕輪をはめている方こそ、命かけて仕える相手であることを。

 ずっと探し続けて、やっと出会えたのが加奈でした。戦士の儀式の時、村の占いのババ様にも言われたこともはっきりと覚えていました。

「きつね族の九尾様からのお告げじゃ。いつか巡り合う九尾の腕輪をはめている方のために、全身全霊お仕えするのじゃ。よいな、忘れるでないぞ」

 命の恩人ときつね族としての定めの仕えし相手、どちらもライにとっては、天秤にかけることは出来ませんでした。

 サタンは、自分の部屋に加奈を連れていきました。そっとベッドに下ろし、布団を掛けて、ベッドの横に座りました。
 静かに時間が過ぎていきます。加奈は深い眠りの世界へ、そして、サタンは、そっと加奈の頭を優しく撫でていました。
 "銀星のタルタロスではないにしろ、強いことには変わりはない。いざとなったら力を解放するべきだろうか…。あの力があれば、タルタロスを倒すことが出来るだろうが、力が暴走する可能性もある。下手をすれば、自分を見失ってしまえば、タルタロスに飲まれてしまう。加奈たちを助けるどころか、襲ってしまうだろう…"

 サタンにとって、加奈を傷つける事が一番避けたい所でした。
 夜の闇に星々の光りとともに、それぞれの想いと決意が交差していました。



tritonsora at 08:08|PermalinkComments(0)

2017年07月15日

第4章 いざないの扉 第5話 -忍びよる影-

「加奈、まだ、眠そうだな」
「ほへ…」
 加奈は、持っているスープのスプーンを落としそうになりました。
「アハハハ…昨日と今日の加奈のギャップが可笑しいぜ」
「そ…そんなに笑わなくても…」
「サタンがお前を可愛がる理由が分かったよ」
「え~~!! あ…あの…サタンにばれたんですか!!」
「仕事が終わるまで待っててくれってさ」
「仕事? 仕事って、ミーティア王女に会うことじゃなかったんですか?」
「サタンは、小さい頃、許嫁だったミーティア王女とは、自分の兄弟より仲が良かったんだよ。王女も本当は、サタンと結婚したかっただろうに。銀星の事故で二人には可哀想な事をしたと思うよ」

 王子の話を聞いて、加奈は、さらにサタンが遠くの存在のように思えてきました。何かが心にグサリと突き刺さったような感じがしました。
 気持ちを入れ替えなければと、加奈は思いました。トリトンとの約束が叶えられない今、タイタン号を早く見つけ、地球に戻り、地球でグリーン生命体の事を勉強しようと思いました。宇宙の旅でグリーン生命体の存在はますます謎に満ちて、もう一度、初心に戻った方がいいように思えてきたのでした。何より、学生であった加奈は、普通の学生に戻りたくなったのでした。

「あの…サタンは?」
「王女と話があるらしく、朝早くにまた、城の方へ行ったよ」
“私が加奈とわかったのに会いにも来てくれない…。王女には、朝早くから会いに行くのに…。そうだよね…。私はサタンにとって、あの日助けた厄介者の女の子に過ぎないんだもの。サタンは優しいから…。ただ、面倒を見てくれているだけ。私、何を期待していたんだろう。バカみたい”
 加奈は、心の中でつぶやいていました。
「ああ、そうだった。今日は俺もサタンの仕事を手伝うから、ライと一緒に留守を頼むよ。王様から頼まれたモンスターの退治なんだ」
「え!!」

 加奈はその時、昨日のオババ様の言葉を思い出していました。そのモンスターこそ、タルタロスの分身であろうと。
 一緒に行くと言っても、きっと王子は連れて言ってはくれる訳がありません。ましてサタンも一緒ならなおさらです。
“今まで面倒を見てもらったお礼として手伝おう…そして、これを最後にサタンへの想いを断ち切ろう。私がサタンに出来るのは、これくらいだもの”
 強い決心を胸に加奈は、王子が外出してすぐに、自分の部屋で用意を整えました。ライに頼んで動きやすい服を調達してもらい、ロミオに貰った短剣を腰に差し、弓を背に抱き、ライと共に宿屋を後にしました。

 スクトウム星は、城の周りは緑あふれた町並みでしたが、ひとたび城下を離れると砂漠の世界でした。原因不明の異常気象のせいで、砂漠化が進んでいるのでした。十年前に大きな隕石が落ちてからというもの、モンスターの数も増えて、城の兵士たちがモンスター狩りを毎日行っていても、減るどころか、増えるばかりだったのです。
 原因を調べていくと、砂漠の中央に不思議な塔が出来ていて、そこから不気味な声が聞こえてくるようになったのです。
 塔の中を調べに行った者は、一人として帰らず、サタンに白羽の矢が立ったのでした。

 砂の上に立つ塔は、まるで崩れかかりそうな異様な形の塔でした。高くそそり立つ塔の上は、不気味に稲妻のような光を放っていました。
 塔の中は、至る所に穴があいて、気をつけて進まねばなりませんでした。その間にもモンスターが襲いかかり、強い二人でも先へ進むのは困難でした。
「おいサタン、こんな事していると、なかなか上へ行けないぞ。モンスターが多すぎるんだ」
「上の階段は、一カ所だけじゃないと思うのだが…暗くてよく分からないな…」

 その時、強い風が吹き、モンスターが後方へ飛ばされました。
「今のうちに、上に上がって!!」
 二人の後ろに加奈とライがいました。
「加奈!! なんで来たんだ!!」
「話は後で聞くから、今は急いで! もう一度風の術を使うから、モンスターが気を失っている間に早く!!」
 四人は、ようやく上の階へ少しずつ上がれるようになりました。
 しかし、階を上がるたびに、部屋が迷路みたいになっていて、毒のような水たまりの前で行き止まりになってしまいました。

「まだ半分も来ていないが、少し休もう」
 ペルセウスは、そう言うと腰を下ろしました。サタンは、加奈の方を向いて、少し怒った口調で言いました。
「加奈!! 何のつもりだ。遊びじゃないんだぞ。ケガをしたら、どうするんだ。今からでもライと一緒に帰るんだ。一緒だと足手まといだ!!」
 加奈は何も答えませんでした。
「加奈! 聞いているのか!」
「上の階に、タルタロスがいるの!」
「え!! 今…今、何て言った!?」
「だから、タルタロスの分身がいるの!!」

 加奈の言葉に、サタンは耳を疑いました。銀星にいるはずのタルタロスが何故、このスクトウム星にもいるのか理解が出来ませんでした。
「上の階のモンスターは、タルタロスと言うモンスターなのか?」
 ペルセウスは、タルタロスの事を知らなかったので、普通のモンスターと思ったようでした。
「普通の武器で戦っても無駄なの。強力な魔法を使うし、手のような管がいっぱい伸びてくるからそれも注意しないと…。体中に結界を張っているから、弱らしてもその結界を解かないと、息の根を止めることが出来ないの」
 前にも戦った事を話していなかったので、加奈の言葉にサタンは言葉を失いました。
「ごめんなさい、サタン。私、シリウスと一緒に以前、タルタロスの分身と戦ったことがあるの」
「何故、何故黙っていたんだ」
「シリウスに口止めされて…。ごめんなさい」
 サタンは、口を閉ざしてしまいました。

 二人の様子を見て、上の階のモンスターが普通のモンスターで無いことが分かったペルセウスは、このまま先へ行くのは危険と思いました。
「今日のところは戻ろう。もう少し、準備をした方がいいようだ。ライ、お前、ルーラの魔法を使えるな?」
「ハイ、塔の入口の前に戻ります。今、魔法を唱えますから、加奈様は目をつぶってください。少しめまいがすると思いますが、辛抱してくださいね。それでは行きます!!」

 ライのルーラの魔法で、塔の入口の前まで戻ることが出来ました。加奈はサタンをそっと見ました。サタンの顔はすごく青ざめて、塔を見上げたままでした。
 王女から借りた大鳥のモンスターに乗って加奈たちは、町まで帰ることになりました。大鳥は、ドラゴンと違って、飛ぶ速度は遅かったのですが、それがかえって乗り心地は快適でした。
 空の上からの景色は、一面砂漠で大鳥はそれでも迷うことなく、町の方へ戻っていくのでした。時折、風が吹いてくるので、砂が目に入ってしまいました。
「痛い!!」
 加奈の声に、今まで黙っていたサタンが声をかけました。
「砂が目に入ったのか?」
「うん…」
「手でこするな。こっち向いてごらん」

 サタンは、自分の荷物から布を出して、筒の中の水で湿らせてそっと加奈の目に当て、少しずつ、砂を取ってくれました。
「まだ痛いか?」
「もう大丈夫、ありがとう」
 サタンは、加奈を自分の方へ引き寄せ、自分のマントの中に加奈を抱き寄せました。
「目をつぶっていろ。また砂が目に入る」

 サタンの胸の中で、加奈は自分の胸の鼓動が早くなるのを感じました。加奈はもう自分の気持ちに気がついていました。その気持ちを抑える事はもう出来ないと思いました。サタンが自分に事をどう思おうと、加奈は自分の気持ちに正直になろうと決心したのでした。もう、後戻りは出来ない。この気持ちを大切にしようと思う加奈でした。
 甘えん坊で、奥手の加奈の初めての胸ときめく人がサタンになろうとは、皮肉にも険しい道への始まりを意味していました。 



tritonsora at 09:32|PermalinkComments(0)

2017年04月16日

第4章 いざないの扉 第4話 -九尾の腕輪-

 宿屋に戻って、少し心も落ちついて、せっかくの舞踏会の料理が食べられなかったためか、加奈はすごくお腹が空きました。そんな加奈のために、ライは、部屋にパンと飲み物を持って来てくれました。
 ライとリュウトとそして加奈は、小さな丸いテーブルで、遅い夕食を食べたのでした。「加奈様、せっかくのごちそう、残念でしたね」
「ううん、このパンがおいしいわ。気楽に食べられるし、ライもリュウトも一緒でとてもおいしいわ」
「加奈様はお優しいですね」
 加奈は、ふと、ライのことを見つめました。話し方が大人っぽいのですが、まだ少年らしさもあり、整った顔立ちで、柔らかな茶色の髪に緑色の切れ長の目、どことなく誰かに似ているような気がしました。その時、ベッドの上からカタコトと音がしました。

「え? 何!? ま…まさか、虫でもいるのかしら。弓、大丈夫かしら。腕輪も!!」
 加奈はあわててリュックの紐を解くと、白ヘビのオババ様からもらった九尾に腕輪が、触らないのに突然加奈の腕にはまってしまいました。
「キャア~何、これ!?」
 はずそうと思ってもはずれず、しっかりと加奈の腕にピタリとはまってしまったのでした。
「加奈様、どうな……あ、そ、その腕輪は!?」
 ライはその腕輪を見た途端、加奈の足元にひれ伏したのでした。
「ああ…やっと…やっとお会いすることが出来ました。姫様…どんなにこの時を待った事でしょう」
「え? ライ、何を言っているの?? 私は姫様じゃないわよ、加奈よ」
「いいえ、その九尾の腕輪が紛れもない証拠です。私は今は王子の従者でありますが、きつね族として、姫様のお守り役をオババ様より言いつかっております」
「何が…何だか良く分からなくなってきた。確かにきつね族の大蛇のオババ様から頂いた物だけど、私は姫じゃないのよ」

 ライは、話し始めました。星虹銀河より離れた位置にあるサブナック星は、多くの種族が集まった星であるがゆえんに争いが絶えませんでした。大きな戦争といかないまでも、部族同士の衝突は日常茶飯事でした。
 ライたちきつね族は、もともと違う星から来た移民のため、なかなか受け入れてもらえず、特殊な力を持っていたため、妬みも買われ、苦労の連続だったのです。ライの父親は、きつね族の中でも強い戦士でもありました。
 頭領の娘でもあるミモザを妻とし、二人の女の子もいました。
 サブナック星人ときつね族との争いで、父親は一時、囚人として、長い牢屋生活を余儀なくされました。その時に出会ったのが、ライの母親のマチルダでした。
 マチルダは、囚人たちの世話をしていました。マチルダは、どの種族にも平等にやさしく対応していました。囚人たちは、彼女を牢屋の女神として、慕っていたのでした。
 
 ライの父親とマチルダが愛し合うようになった経緯は、ライは聞かされてはいませんでした。しかし、死の間際の最後まで、母が父の名を呼び続けていた事だけでも、母は父をすごく愛していたことは理解していたのです。
 ライが生まれて3年後位に父は、釈放され、きつね族の里へ帰ることになりました。しかし、マチルダと幼いライを一緒に連れていくことは出来ませんでした。その時、父はライに、手紙ときつね族の紋章が入った剣を渡したのでした。父の言った言葉が、幼いライにも強く心に響いたのです。
「ライ、男として生まれたからには、きつね族の頭領、もしくは姫様にお仕えする事が習わしだ。九尾の腕輪を持つ者こそ、その人がお前の仕えし人だ。よいな、忘れてはならぬ」
 
 加奈は、ライの話を聞いても何故自分が姫様なのか、分かりませんでした。まして、加奈はきつね族ではないし、地球人です。
「この手紙をご覧ください」
 ライから受け取った手紙には、文字が書かれてありませんでした。不思議な図とヘビの絵が描かれていました。すると、ヘビの目が光り、加奈の頭の中で声がしました。
“加奈、私だよ、覚えているかい”
“あ!! 大蛇のオババ様??”
“お前のおかげで星へ帰れる事が出来たよ。アロには随分叱られたけどね。でも、お前の力になる事は出来る。お前は苦労を背負い込む定めがあるが、人との出会いは、宇宙からもらった宝だ。さあ、一つめの私からの贈り物だ。ライは、お前の力となるだろう”
“私、姫じゃないし、ライは人間よ。贈り物だなんて…”
“アハハ、加奈は本当に欲の無い子だよ。でも、明日戦うモンスターは、タルタロスの分身だよ。あの二人だけでは勝てないよ。加奈とライの術があってこそ、タルタロスの息の根を止める事が出来る。九尾の腕輪がお前を守るだろう。いいかい、前に戦ったタルタロスの分身よりはるかに強い相手だ。心してかかるんだよ! 健闘を祈るよ”
“あ、待ってよ、明日の戦いって…”

 もう、オババ様の声は聞こえては来ませんでした。加奈はもう何が何だか頭の中がガンガンとして、考えるだけでもくるくると思考判断力が止まってしまいました。
「と…とにかく、今日はもう寝るわ。ライ、自分の部屋の戻って休んでね」
「はい、何かありましたら、呼んでください」
 ライが部屋を出て行った後、隣の部屋のドアの開く音が聞こえて来ました。声が聞こえてきたので、サタンも一緒のようでした。
 加奈は、もう考えるのに疲れて、ドレスを脱いで木綿の下着のまま、布団をかぶって眠りについてしまいました。リュウトもベッドの下ですぐに寝てしまいました。

 静かな夜の闇に、時折訪れる星の光が差し込んできます。加奈の部屋のドアが、そっと開かれても、加奈は気づきませんでした。黒い人影は、加奈のベッドへと近づいてきました。黒い人影はそっと加奈の髪を撫でて、布団をかけ直し、しばらくの間、加奈を見つめていました。
 加奈の部屋のドアが静かに閉まりました。廊下を歩く足音がかすかに響きます。その足音が夜の闇へ溶け込んでいきました。
 



tritonsora at 14:02|PermalinkComments(0)

2017年02月05日

第4章 いざないの扉 第3話 -つながる過去(後編)-

 加奈は、ペルセウス王子の妹、セーラー王女ということで、真っ白なサラサラの長い髪のかつらをかぶり、花刺繍が織り込んであり、フリルいっぱいのドレスを着せてもらいました。結構、胸が開くので、加奈は凄く恥ずかしく侍女にドレスと同じ色の絹のリボンを首に結んでもらいました。
 少し、濃いめの化粧をしたためか、いつもより大人びて見え、鏡を見ると、別の自分がいるようでした。後ろへ長くレースの布が流れるように、サタンが選んでくれたピンク色のドレスは、又、違った美しい衣装でした。
 侍女たちは、そんな加奈を見て、驚嘆の声を上げたのでした。部屋へ入ってきた王子も、加奈の美しさに目を見張るのでした。

「やっぱり、思ったとおりだ。加奈、綺麗だよ」
「そ…そんなに褒めないで下さい」
「このまま城へ行かないで、加奈を連れ去り、国へ帰り、そのまま結婚式を挙げたいくらいだ」
「妹とは結婚出来ませんよ」
「アハハハ、そうだな、悪いな加奈。分かっているつもりが、なかなか受け入れられなくてね。でも、加奈が一緒だと心強いよ。舞踏会が終わったら、加奈の宇宙船まで送るよ」
「ほ…本当ですか??」
「ああ、それではセーラ王女、参りましょうか」
 
 王子は加奈に手を差し伸べました。加奈も王子の手に自分の手を乗せました。
 しかし、加奈の喜びも、これから始まる過去の扉の重さに押しつぶされるとは、加奈自身、分かるはずもありませんでした。
 お城の大広間には、すでにたくさんの人が来ていました。立食らしく、テーブルには、いろいろな料理とお酒が並んでいました。

「ミーティア王女への挨拶が終わったら、料理を食べよう。ここの料理は、コックが一流で有名なんだ。お菓子もうまいぞ」
「ほんと!? わあ~楽しみ~」
「あれ…王女の隣にいるのは…」
「え?」

“え…う…うそでしょ……”
 加奈は、声が出るのを必死にこらえました。
“な…なんでサタンがここにいるの。仕事って言っていたのに…”
 美しい王女の横にサタンが立っていました。王女と何か話をしている様子でした。加奈はペルセウス王子の後ろに隠れました。
“大丈夫…ばれるわけ無いわ。髪の色も違うし、今日はお化粧もしているし、まさか私がここにいるなんて、思わないもの”
 王女とサタンに近づくにつれ、加奈の心は凍りつく思いでした。見たこともないサタンの笑顔でした。
“私にはあんなに優しい笑顔で話したこと無いのに…口数の少ないサタンがあんなに話をするなんて…嫌だ、この場に居たくない…”

 加奈はそっとその場から離れ、広間の隅に立っているライの所まで、走っていきました。裾が絡みそうなのを両手で押さえ、目に涙があふれ、その涙を止めることが出来ませんでした。
「加奈様、どうなされたのですか?」
 青白い加奈の泣く姿を見て、ライは駆け寄って来ました。
「私…私、ここに居たくない。ごめんなさい、ごめんなさい」
「加奈様、大丈夫ですよ。人酔いなされたのでしょう。少し、外に出てみましょうか。とても綺麗な花畑の庭があるのですよ。さあ、行きましょう」

 ライが連れて来てくれた庭の花畑は、とても見事でした。夜の闇の中でも、不思議な光を発していました。花の色がその光で鮮やかに浮かび上がっていました。色とりどりに咲く花たちは、虹のように美しく、加奈の悲しみを癒してくれるのでした。
「この花は夜咲花と言うのですが、別名、虹花とも言うのですよ」
「綺麗…。まるで宇宙の星々みたいな花ね」

 加奈とライが花を見ていると、王子とサタンが近寄ってきました。加奈は王子たちの姿に又、現実に戻され、ライの後ろに隠れました。加奈の異常な反応にライは、何かあると感じ、加奈の手を優しく握りました。
「セーラ、ここにいたのか。俺の幼馴染みを紹介するよ。サタン王子だ」
「もう、王子じゃないのだから…」
 サタンは、セーラの前に立ち、さらに腰を落とし、正式な挨拶をしました。
「初めてお目にかかります、セーラ王女」
「……」

 加奈は何も答えることは出来ませんでした。声を出したら、何を言われるか怖かったし、外見は違っても、声でばれると思ったからでした。すぐにライの後ろに隠れてしまいました。
「すみません、サタン様。セーラ王女は、城から滅多に出られず、とても人見知りであらせられます。初めての舞踏会で、人酔いもなされていますので、失礼致します」
 ライはすかさず、サタンに返事をしました。
「いや、私こそ、失礼しました。でも、ペルセウスに妹王女がいらしたとは、知りませんでした」

 サタンは、加奈をじっと見つめていました。加奈はその目がまるで加奈の心を見透かされているようで、体中に震えが来てしまいました。
 その時、加奈は、サタンのきつい目がさっき、ミーティア王女と話しをしていた時の優しい目と違い、よけいに悲しみが増すのでした。
「ペルセウス王子、だいぶ夜もふけました。セーラ王女はお疲れのようです。私は宿屋の方へ先にお連れしてよろしいでしょうか?」

 ライは加奈の手が震えて冷たいのが、とても気がかりでした。とにかく早く、この場所から、離してあげなければと思ったのでした。
「セーラはあまり食べてないのだろう。後でお菓子は持って行ってあげるからな。ライ、それじゃあ、セーラを頼むよ。俺はサタンともう少し、話があるから」
「はい、分かりました。それではセーラ王女、お疲れでしょう。私の手をしっかりつかんでいて下さいね」

 ライは、加奈をそっと支えるように歩きました。二人の姿はまるで恋人同士というより、仲の良い兄妹のようで、とても微笑ましく映りました。
「何かやけるな、あの二人!!」
「え? 妹なんだろ」
「あ…ああ、そうだけど…なんだよ、その疑り深い目は!!」
「本当にお前に妹なのか? まるで似てないし…それに…」
「サタン、お前、しつこいな」
「いや、そんなはずはない。加奈は宇宙船にいるのだから…」
「え? 今、加奈って言わなかったか?」
「え!? 言ったけど…」
「お前の宇宙船、黒い鷹の形をした宇宙船なのか!?」
「な…なんで、知っているんだよ!?」
「う…ムム…訳が分からん」

 ペルセウス王子は、首をかしげながらも、今までの事をサタンに話をしました。
「やっぱり加奈だったんだ。でも…どうして…」
 サタンは加奈が、何故自分を避けているのか分かりませんでした。挨拶した時の加奈の手は冷たく、心なしか、震えていたのも気になり、次から次へと疑問だらけで、早く加奈に会いたいと思いましたが、しかし、今は、仕事で来ているし、明日は王の頼みのモンスター退治もあるのです。

「まさか、加奈とお前が知り合いだったとはね。お前も隅に置けないな。お前、子供好みだったのか?」
「な…何言ってんだよ!! 僕と加奈はそんなんじゃない。それに、加奈はもうすぐ自分の星へ帰るのだから」
「勿体ないなあ、後2年位したら、すごく綺麗な女の子になるぞ。今だって見ただろう。可憐で美しくて、妖精のようだぜ。あ~王女の事がなければ、俺の妃にしたかった。残念だ~」

 サタン自身も、今日の加奈のドレス姿には、びっくりもしました。普段の服とは違うのもありましたが、今日の加奈は、確かに妖精のような清らかな美しさでした。自分の胸の高鳴りに躊躇するサタンでもありました。
「ペルセウス、悪いが仕事が終わるまで、加奈を預かってくれないか。お前の所なら安心だ」
「サタン、まだ、あの仕事しているのか!」
「仕方ないだろ。生きていくためにも、金は必要なんだ」
「お前、変ったな。それより王から頼まれたモンスターってどんなのだ?」
「分からない」
「何!! 分からないだって! お前、危険だぞ。よし、俺も行く。最近腕が鈍っているからな」
「ペルセウス、何、言ってんだよ。お前は大事な体だろう。王になるのだから」
「王になるからこそ、この星の悩みの種のモンスターを倒すのは、当たり前だろうが。加奈のことなら大丈夫だ。ライがいるからな。ライはああ見えて、腕は確かだ。俺とも互角に戦えるからな。俺より年下のくせに、しっかりしている」

 ペルセウスとサタンは、子供の頃から、大の仲良しでした。互いに剣を磨き、競い合ってきたライバルでもあったのです。
 星虹銀河から離れた別の星の王子として、ルーディヒやシリウスとともに、サタンにとってもかけがえのない仲間であり、悪友でもあったのです。
 ルーディヒやシリウス、サタンと違い、銀星に行くことはなかったため、タルタロスの存在は、知りませんでした。

 しかし、運命の糸は動きだしてしまいました。タルタロスの魔の手が近づきつつありました。サタンの過去のおぞましい出来事が、決して終わった訳ではなく、そして、現在も続いている事実を嫌でも認識する戦いが、この後に待っていようとは、思いもよらなかった事でしょう。
 サタンと加奈の戦いが始まろうとしていました。



tritonsora at 13:27|PermalinkComments(0)

2016年11月26日

第4章 いざないの扉 第3話 -つながる過去(前編)-

 何が何だかわからないまま、加奈はスクトウムという星に連れて行かれ、お城の地下の牢屋に入れられてしまいました。
 暗いじめじめした牢屋は、地下のせいか、空気がよどんでいます。なんとか加奈のリュックは持ってこれて、荷物検査もなかったので、少し安心しました。

「キ…キュウ…」
「え??」
 リュックを開けようとした時、リュックの中から白ドラゴンのリュウトが苦しそうに顔を出しました。
「いやだ! リュウト、一緒に来ちゃったの。ちょっと星の弓は壊してないよね。それと…」
 加奈は慌てて中を確認すると、今まで以上に小さく縮んだ星の弓と、アロの腕輪は無事でしたが、保存食は無くなっていました。
「はぁ…リュウト…全部、食べちゃったの?」
「キュ…キュ~ン」
 リュウトは申し訳なさそうにうなだれてしまいました。
「いいのよ、リュウト、怒ったんじゃないから。でも、当分、食べ物はあげられないかもしれないよ。いつ、ここから出られるか、わからないから」

「おい!!」
「え?」
 誰かが自分を呼んでいる声がしました。
「お前みたいなガキが何で牢屋に入れられたんだ。それに、何でトカゲなんか連れているんだ?」
 加奈の牢屋の斜め前の牢部屋から、声が聞こえて来ました。薄暗いせいか、人の影しか見えませんでした。

「私、ガキじゃないわよ!!」
「ふん、子供に変わりはないだろうが」
「リュウトはトカゲじゃないわ。ドラゴンよ!」
「あん!? ドラゴンだって、アハハハ。ドラゴンがキュウとか鳴くかよ」
「まだ子供なの!!」
「はいはい、二人とも子供なんだね」
 なんて感じの悪い嫌な男なのだろうと加奈は思いました。声は若そうな感じでしたが、きっとすごく嫌みな嫌らしい顔つきなのかもしれない……。加奈は頭の中でそんな風に想像してしまいました。

 暗い地下にも目がようやく慣れてきましたが、それでも暗いことには変わりはないので、加奈はすごく心細くなって来ました。
 薄い布に薄い毛布、それが寝床なのでしょうか。こんな硬い石のような地べたに寝たら、背中が痛くなりそうです。リュックを壁に置いて、それを背もたれにし、ペラペラの毛布を掛けました。
 リュウトを抱いているので、いくぶん暖かでしたが、時間が経つにつれ、冷え込んできました。

「う~、冷えるな~。いつまでここに閉じこめておくつもりだ。この惑星の牢屋は、食事も出ないのか!!」
 男が文句を言っている時、慌ただしく何人かの城の人間が石の階段を降りて来ました。「ペルセウス様、大変失礼いたしました。ペルセウス王子とはつゆ知らず、牢屋に閉じこめてしまい…」
「そんな事はどうでもいい。ここから早く出してくれ!! 寒いし、腹も減ったし、ひどい牢屋だ。俺の星よりひどいぞ。それと、そこの俺の妹も出してくれ」
「は?? 妹さんですか?」
「一緒に連れて来たんだよ!!」
「はいはい、分かりました」
「あ…あの…本当に妹さんですか? 星特有の白い髪でなく、黒い髪ですが…」
「だ・か・ら!…牢屋に入れられて、ストレスで白い髪が黒くなったんだよ! 早く出してくれ!!」
「わ…わかりました」

 加奈は何故だか、その王子という男の妹ということになっていました。
“ストレスで白くなるって聞いたことはあるけど、白い毛だと黒くなるのかしらん??”
 王子はぼんやりしている加奈の手をつかんで、城の外まで引っ張っていきました。
「あ~、えらい目にあったな。あれ、一緒にいたトカゲはどうした?」
「トカゲじゃないよ、リュウトはリュックの中よ」
 リュウトは、リュックからひょこっと顔を出しました。
「へえ、随分なついているトカゲだな。珍しいな、白いトカゲか。よしよし」

 その男は、リュウトの頭をなでると、リュウトは嬉しそうに男の手をペロペロとなめました。その様子に加奈はびっくりしてしまいました。サタンと同じだと思いました。噛みつくこともせず、かえって嬉しそうでした。
 加奈はそれだけでなく、その男の顔を見て、目が点になりました。長い白い髪の毛と気品ある整った顔立ちと深い藍色の吸い込まれそうな瞳、長身の男は、王子というより騎士って感じでした。
 荒っぽい話し方とは、まるで正反対な感じでした。
「ふう~ん」
 その男も加奈をまじまじと見ました。

「思ったより可愛い顔してるな。子供なのが残念だな」
「ど…どういう意味ですか?」
「もう少し大きければ、俺の后になれるってことさ」
「え?え~~え~!!」
「びっくりすることはないだろ。俺は顔の知らない女とは結婚したくないんだよ。それより先に俺の好みの女を見つけて結婚すれば、この星の王女と結婚しなくて済むからな。ま、幼くてもお楽しみは後で取っておくというのも、いいかもな。どうだ、俺の后にならないか?」
「冗談はやめてください。まだ会ったばかりです!!」
「すぐに返事してくれとは言わないよ。考えといてくれ。それより腹が減ったな。行きつけの宿屋へ行こう」
「ち…ちょっと、引っ張らないでください~!!」
 なんて強引な男なのでしょう。しかし、知らぬ星でどうすればサタンの宇宙船に戻れるかもわからず、仕方なく加奈は、ペレセウス王子と共にいることを余儀なくされました。

 行きつけの宿屋で食事をしていると、何人かの彼の城の人間が、慌てて訪ねて来ました。「王子、勝手に行動されては困ります。手続きも済ませていないのに、お一人で行かれるから…」
「もういい、ライ、それより、何枚か服を買って来てくれ」
「王子のですか?」
「違う、この子の服だ。金に糸目はつけないから、上等なのを10枚、それとドレス5枚、くつ、宝石、アクセサリー、店の一番いいのを買ってきてくれ」
「ちょっと待って」
 加奈は、慌てて王子の前に立ちました。
「私、服なんていらないし、アクセサリー、宝石も興味ないの。無駄使いしないで!」
「俺と一緒にいるからには、それ相当の服を着てもらうぜ。一応、俺の妹にするからな。明日の舞踏会はお前も連れていくから、そのつもりで」
「ブ…ブ…舞踏会~!?」
「心配するな。お前は子供だから、ダンスは必要ないよ。ふあ~、なんか眠くなってきた。お前もゆっくりしろよ。隣に部屋を取ってある。おい、ライ。案内してあげろ」 

 ライという王子の従者に案内されて、加奈は部屋に入りました。思った以上に広く、一人ではもったいないくらいでした。
「それでは私はこれで…え…っと」
「加奈よ」
「加奈様、私は買い物がありますので…」
「ちょっと待って、私も、一緒に行くわ」
「え?」
「聞きたいことがあるの」
「困ります。王子に怒られます。お話は後でおうかがいします。なるべく早く買い物を済ませてきます」
 ライは、急ぐように部屋を出てしまいました。加奈は途方に暮れてしまいました。こんな所に長くいては、宇宙船に戻れなくなってしまうような気がしました。

 どうにかして宇宙船に戻る方法を考えなくてはなりません。サタンは仕事に出たばかりだから、戻ってくるまでに宇宙船に戻りたいと、加奈は思っていました。
「ガウガウ…」
 リュウトは、窓の手すりによじ登って外に向かって吠えていました。
「リュウト、危ない! そんなに身を乗り出したら、落ちるわよ」

 リュウトを抱くと、広い窓から町の様子が一望できました。竜星よりも町並みが同じ色で統一されているせいか、美しく、町並みを囲むように高い城壁が山のように連なっていました。
 はるか彼方には、山の姿も見えて、空には大きい鳥がたくさん飛んでいました。
 加奈はなんとなく違和感を感じました。町はすごく広く人が多いのに、何故か、人の活気が無いのです。人の表情がうつろというか、元気が無いというか、町の音さえも心なしか沈んで聞こえるのは、何故なのでしょうか。
 
 ぼ~っと窓の外を見ていると、戸をたたく音がしました。
「はい」
 加奈が返事をすると、大きな箱を両手いっぱい持って、ライが入ってきました。
「お…お待たせしました」
 ライは、たくさんの箱をテーブルの上に置きました。箱を開けると、美しい衣装や帽子、靴、宝石のアクセサリーが眩いくらいの光を発していました。
「はあ…」
 加奈は、その衣装を手に取ることなくため息をついたまま、椅子に座り込んでしまいました。
「加奈様、お気に召しませんか?」
 ライは、不安そうな顔をしながら、加奈に話しかけました。
「違うの、私、こんな豪華な衣装、もったいなくて着れないわ。それに、私、王女じゃないし、似合わない。舞踏会なんて、初めてだし、王族のしきたりとかもしらないし…」
「ご心配には及びません。加奈様は、とても可愛くて可憐でいらっしゃる。もっとご自分に自信を持ってください」
 ライは笑顔で答えました。
「それと、ご不満でしょうが、ペルセウス王子を助けていただきたいのです」
「え? 助ける?」
「このスクトウム星は、スクトウム銀河の母体の星にあたります。大昔、星虹銀河と流星銀河、それとこのスクトウム銀河は、戦争が絶えなかったのです。何千年も続く惑星群戦争で銀河は荒れ果て、このままではいけないと3つの銀河が協定を交わしたのです。それぞれの王の子供を相手銀河に嫁がせ、互いの条件をまとめる形となったのです。スクトウム星は、ミーティア王女お一人のため、星虹王国のサタン王子をこの国の王として、迎えるつもりだったのです」
「え? サタン王子を!?」
「はい…でも、星虹銀河は、銀星の事故で、サタン王子は一時、行方不明になってしまい、急遽、第2候補のペルセウス王子が決まったのです」
 加奈は言葉を失ってしまいました。サタンはこの銀河を治める王となる人だったということにびっくりするより、サタンが遠い存在に思えてきたのでした。
 それと、相手のミーティア王女とはどんな人なのだろうと気になってきました。

 その夜はなかなか寝付くことが出来ませんでした。明日の舞踏会は、ペルセウス王子とミーティア王女の顔合わせなのでしょうか…。そんな大事なパーティーに、何故、加奈は一緒に行かねばならないのかと不安に押し潰されそうになりました。
 何より加奈は、知りたくなかったと思いました。サタンとはいずれ、別れることになると覚悟していたものの、それまでの時を大事にしたいと思っていたのに、いつも離れてしまい、そして、更に遠い存在であることに余計に辛く悲しみが増すのでした。

 ベッドの中で、加奈はサタンの名を呼び続けていました。
 その悲しい声が、夜の闇に溶け込んで、星の光と混ざり合い、サタンの心に届けとばかり、美しい星ぼしは、色鮮やかに光り輝いていました。



tritonsora at 13:56|PermalinkComments(0)

2016年10月15日

第4章 いざないの扉 第2話 -メシエの秘密-

「加奈、話がある」
 サタンはそう言うと、食べ終わったお皿を横に動かし、加奈の方にいつになく真剣なまなざしで話し始めました。
「タイタン号の事だけど、前にも話をしたと思うが、船全体が移動したみたいだ」
「え? それじゃあ…今は…」
「大丈夫。メシエが場所を割り出している。確実な場所がわかるまで、数日かかるだろう。加奈をひとり、この宇宙船に残すのは不安だが、頼まれた仕事が山積みだ。それに、宇宙金もだいぶ減っている。宇宙船の整備とタイタン号を探すためにも多くの金が必要だから仕事をこなしてくるよ。加奈、悪いが、少しの間、留守を頼む」
「え…仕事って…」
「いろいろだ。メシエにも皆にも頼んであるが、万が一、前みたいに奇襲される可能性もあるが、加奈、ある程度戦えるようになったはずだ」
「え…でも…」
「ただ、なるべく道術は使うな。宇宙間では、加奈の体に負担がかかる。それと、星の弓は特にだめだ。宇宙船の機能に支障が出てくるからね。それじゃあ、頼むよ」
「もう行くの?」
「タイタン号の詳しい話を知りたかったら、メシエに聞くといい」

 サタンは、椅子の後ろに掛けてあった黒いコートをはおり、銀の剣を腰に差し、食堂を出ました。加奈はあわてて見送りしようと、後ろからサタンの後を追いました。
「加奈、見送りはいい」
 サタンの顔は、もういつもの顔ではありませんでした。

 加奈は時々、サタンが怖くなる時がありました。鋭い視線が、加奈の心を突き刺すような、戦いの時のサタンは、普段のサタンとまるで別人のようだったからです。
 シリウスの変身の時、ルーディヒの最初に会った時の獣のようなまなざし、そしてサタンの凍るほどの鋭いオーラ…。それは、体の中に埋め込められたタルタロスの力からくるものなのでしょうか…。

 3人の人生を狂わせたタルタロス、そして遺跡の中にいた巨大なムカデに変わってしまった少年、タルタロスとは一体、何者なのでしょうか。タルタロスの事を思うと、言い知れぬ恐怖に襲われる加奈でした。

 メシエは、加奈に分かりやすくタイタン号の事を話してくれましたが、宇宙知識があまり無いため、ちんぷんかんぷんでした。加奈が自分なりに解釈すると、タイタン号の船長さんは、船のパワー全部を使って、ワープを試みたようでした。もともと強いワープは使えない構造でしたから、飛んだ先の宇宙空間では、すべての機能が使えなくなっているため、幽霊船状態といった方が言いかもしれません。それでも重力波で粉々になるよりはましです。
 
 タイタン号が無事であるならば、修理をすれば地球へ戻れると、メシエは言ってくれました。しかし、タイタン星は無理とのこと。
 何故か、タイタン星の位置がおかしいらしく、その回りの銀河が、とてつもなく大きなブラックホールに飲み込まれて、さらに巨大化しているため、星の電波が狂っているようでした。
 以前無かったブラックホールが、突如現れる訳ではなし、宇宙を詳しく知っているメシエにも分からない事だったのです。

 時空の道をたどれば、思ったより早くアンドロメダ経由で地球に戻れるようでした。タイタン星へ行くはずが、随分と違う旅になってしまい、グリーン生命体の事はさらに謎が深まってしまいました。
 でも、大ヘビのオババ様が一度は地球へ戻りなさいと言っていた事を加奈は思い出していました。

 もうすぐサタンと一緒の旅も終わろうとしていました。それは、サタンとの別れを意味していました。そしてリュウトとも…。
 地球にはドラゴンはいません。連れて帰れば、研究材料にされてしまうでしょう。
 きっと、サタンが面倒を見てくれる、加奈は急に悲しくなってきました。
 でも、今は、考えないようにしようと思いました。何故なら、考えている時間より、サタンとリュウトの時間を大切にしたいと思ったからでした。

 サタンが留守の間でも、規則正しく生活しなければならなかったのですが、どうも勉強は苦手でした。勉強を教えてくれるロボットスクール君には悪いと思いつつ、その時間になると、加奈はメシエの所へ行くようにしていました。
 メシエのいる操縦室は、緊急時を除いて、サタンと加奈だけが入れるようになっていました。
「メシエ、また来たよ~」
“加奈様、この時間は勉強の時間のはずですが”
「う~ん、勉強嫌いなの」
“お気持ちはわかりますが、知識が無いと、特に宇宙では危険です。知らないと大ケガします”
「でも、本を開くと吐き気がするんですもの、難しすぎて」
“困りましたね。サタン様から叱られますよ。私が怒られます”
「あら、それは悪いわね。それじゃあ、もう少しお話したら、部屋に戻って勉強するわ」“ハイ、そうして下さい”
 加奈はメシエと楽しく話をした後、自分の部屋へ戻っていきました。

 メシエは加奈と話をしていると、遠い記憶の中で、誰かが自分を呼ぶような感じがする時がありました。その感覚は、メシエは人では無いので、自分の記憶メモリーの中に、まだ覚醒していない部分があると確信していました。その部分は、最近、特に強くなって、時折、何故だかコンピューターが、誤作動を起こす原因にもなっていました。すぐに、それは感知され、正常に戻るのですが、メシエには、誰かがその記憶を誤作動させないように、強い電波で邪魔しているような気がしてならなかったのです。
 その強い波動が、誰だかメシエには分かっていました。だからこそ、1日も早く、その記憶を呼び戻したいと思っていました。
 ただ、不思議なのは、今まで何も感知していないことが、加奈が来てから、その記憶が少しずつ、鮮明になって来たことでした。

 まだ、自分が小さな部品に過ぎなかった頃、いろいろな情報の中に、不思議な星図と文字と人の言葉も入力されていました。
 メシエの記憶をたどると、サタンと自分、そしてサタンの両脇に金と銀の剣が、小型カプセル形の宇宙船で宇宙をさまよっていたことは、はっきり覚えていました。サタンがいつも持っている銀の剣は、この時の銀の剣でした。金の剣は、何故だか鞘が抜けず、何か意味のある剣なのは確かでしたが、サタンの部屋の奥の扉の箱にしまったままでした。
 では、誰がサタンとメシエを宇宙船に乗せたのか、そこがメシエの記憶からすっぽりと抜けていたのでした。

 しかし、加奈と話すたびにその抜けたところ、一番肝心なサタンが生まれた星、何故赤ん坊のサタンを宇宙へ旅立ちさせなければならなかったこと、サタンの両親のことが、おぼろげながら、断片的に記憶が繋がってきているのです。
 そこが分かりかけると、コンピュータ内部に異常音が出て、宇宙船の機能に支障が出るため、メシエは思い切った事が出来ずにいました。
 この事は、まだサタンには話をしていませんでした。はっきりしないまま話をすることは、サタンの心を傷つけると思ったからでした。
 メシエには、自分の事が謎だらけで、本来のやるべき事をやりたいと強く思うのでした。

「ビィ~、ビィ~、ビィ~」
 宇宙船内に異常音が響き渡ります。
「メシエ様、大変です!! 前方から、黄色の信号をキャッチしました」
 緊急のため、宇宙船の戦闘準備サイボーグから、メシエに報告が入りました。
“しまった、気付くのが遅れてしまった。私とした事が…今、ここで戦うと加奈様に危険がおよぶ!!”

 メシエは、一時、少し離れた銀河にワープしました。突然にワープのため、宇宙船がだいぶ揺れて、加奈が慌てて操縦室に入ってきました。
「メシエ、どうしたの? 敵の奇襲?」
“加奈様、申し訳ありません。気付くのが遅れ、このまま戦闘になりますと、船内に敵が入ってくる恐れがあるため、少しの間、軌道を離れました。位置を確認します”

 操縦室のコンピューターが、凄い勢いで数字が回っていました。加奈はそれが、メシエが何かを悩んでいるように見えました。
 機械が悩むなんて考えられないことかもしれませんが、加奈には、人間と同じように話をするメシエが、ただの機械とは思えなかったからです。
“お待たせしました。位置を確認しました。このまま少し待機した後、また元の軌道に戻ります”

 その時、今まで聞いたことの無い異常音が鳴り響きました。その音が鳴ったかと思うと、急に宇宙船の機能がすべて切れて、異常時に作動する電気だけになりました。

 薄暗くなった宇宙船内に、メシエのコンピューターの作動も止まり、上からシャッターが下りて、すべての操縦室がまるで壁だらけになったような感じでした。
 もう、メシエの声も聞こえなくなりました。
「こちら、宇宙銀河団警備の者だ!! そこの宇宙船!! そのまま待機しろ!!」
 宇宙船の中に、声が聞こえて来ました。


「??? どうしたの? どうしたらいいの?」
 加奈はオロオロして、そこに立ちつくしてしまいました。

 ガタンと宇宙船が激しく揺れて、船内に人が入ってくる異常音も鳴り響いていました。 ダダダと人の走る音がすると、ドアの外から声が聞こえてきました。

「宇宙銀河団警備の者だ。ここを開けなさい!! これより先、スクトウム銀河に入る。手続き無い者は、スクトウム銀河の法律により、強制的に身柄を確保する!!」

 何が起きて、どうすればいいのかわからないまま、加奈は操縦室の二重扉を開けました。加奈の目の前に、武器を持った制服姿の男たちが、加奈を睨みつけていました。そして、加奈の回りを取り囲んだのでした。



tritonsora at 14:14|PermalinkComments(0)

2016年09月10日

第4章 いざないの扉 第1話 -サタンの宇宙船-

 アルディ星にようやく戻ってからは、まだ頭の中が現実に戻ることが出来ず、4人とも何日かぼんやりと過ごしていました。 ようやく頭がすっきりして来て、このアルディ星から離れる時が来ました。 ルーディヒとシリウスとも、ここで別れる事になりました。

「加奈、短い間だったけど、楽しかったよ。さよならは言わないぜ。多分、又、会う事になるからな。おいサタン、俺は加奈が気に入った。いつでも連れ去ってやるから、覚悟しておけ」
 ルーディヒは、笑いながら言うのでした。
「なに言ってんだよ。加奈はまだ10才だろ」
「シリウス、知らないのか。幼い頃から教育すれば、俺色になるのさ」
「バカか、お前は!! 何を教育するんだよ」

 相変わらずの二人に皆、大笑いでした。家から、おばあさんが出て来ました。手には見たこともない美しい布ひもを持っていました。その布ひもを加奈に腰に巻きました。

「ようやく出来上がった。さあ、その布は、お前のものだ。きっと、その布が、他のものと共鳴して、お前の力となるだろう。さあ、みんな。新たな旅の始まりだ。ここの結界は解くから、もう、この村は無くなる。私も星へ帰るからね」

 ルーディヒの仲間とシリウスは、野生馬をつかまえて町の方へと走っていくのでした。サタンは剣を空へ向けて、イカロス号を呼びました。加奈を抱いて、イカロス号へと飛びました。
 サタンと加奈が下を見ると、村全体が星の紋章の図面の中にある事に気がつきました。不思議な体験でした。星の紋章は、あの里ときつね族の星とアルディ星、そして遺跡と、何かで繋がっているのかもしれません。
 そして、どこへ行っても、タルタロスの存在がある事に加奈は、一抹の不安を感じないわけにはいきませんでした。

 ようやくサタンの宇宙船に戻って来ました。ドラゴンの子供がすっとんで来ました。嬉しそうにペロペロペロと加奈に頬を嘗めるのでした。
「キャ~、くすぐったい。ちゃ~んと覚えてくれたのね」
「最初にうちは、加奈がいないから、全然エサを食べないから心配したよ」
「そーいえば、お前、名前をつけてあげないと。でも、オスかメスか分からないわね」
 加奈はドラゴンをひっくり返してみました。
「キュ~ウ~!! ガウガウ」
 ドラゴンはびっくりしてバタバタしていました。
「加奈、何やってんるんだ!?」
「あれ~、おかしいなあ。このドラゴン、メスかオスか分からないんだけど、ねえ、この子どっち?」
「分からないよ。きっと、オスだろ?」
「なんで?」
「な…なんでって…。別にどっちでもいいだろう。ちょっとメシエの所に行ってくる」
「あ…サタン!! なんで、そんなに慌てているの? 変なサタンね。仕方ない。それじゃあ、お前はオスという事で、そうね、竜斗(リュウト)にするわ。お前の名前はリュウト、わかった?」
「ガウガウ」
 白ドラゴンのリュウトは、わかったように返事をしました。

 リュウトを抱いて、加奈は自分の部屋へ行きました。加奈のお付きロボットが部屋を片付けてくれていたので、整頓された部屋でようやく加奈はホッとしました。
 宇宙にいると1日の時間がよく分からなくなりますが、サタンの宇宙船では、規則正しく時間が管理されているので、朝の太陽とはいかないまでも、1日の時間を自覚することが出来ました。
 部屋にはいろんな色のボタンがあり、色別で分かるようになっていました。
 
 すると、緑色のボタンが光りました。
「あ! 食事の時間だわ。久しぶりだなあ。おなか、空いてきたし、楽しみ~♪楽しみ~♪」
 今日こそ、ゆっくりと食事が出来るだろうと、食堂へと急ぎました。
 サタンの宇宙船は、すごく大きかったので、乗務員の半分以上はロボットとサイボーグでした。人間と言っても、人造人間らしく、表情があまりありませんでした。

 それでも、加奈がサタンの宇宙船に乗るようになってから、少し変化が出て来ました。皆、番号で呼ばれているため、加奈は勝手にそれぞれにアダ名を付けていました。
「あ、加奈さま、お食事の準備が整いました。今日はサタンさま、加奈さまがお戻りでしたので、腕をふるいました」
 料理長のサイボーグのコックが呼びに来ました。RD134-2567なんとか・かんとか??と言うらしいのですが、とても覚えられないため、料理をつくるサイボークということから、"コック"というアダ名をつけました。

 食堂には、もうサタンが座っていました。テーブルには、美味しそうな料理がいっぱい並んでいました。
「わあ~、すご~~い!!」
「コックが張り切り過ぎたようだ。こんなに作らなくても…」
「でも、嬉しいなあ~。ご飯もあるし、教えてあげたハンバーグ、カレーライス、わあ~~、加奈の大好きなオムライスもある~~★★ いっただきま~す」
 凄い勢いで食べている加奈に、サタンは、唖然としていました。

 二人だけの食事でしたが、サタンは、加奈の楽しそうに話をし、食べている様子に、心の安らぎを感じるのでした。
 宇宙船に乗ってから、サタンはいつも一人でした。加奈と違って、乗組員は、宇宙船の一部と考えられていたため、事務的なこと以外、話すことなど無かったのです。唯一、メシエだけが、サタンの話し相手でした。

「あ~、お腹いっぱいになった。お腹いっぱいになったら、眠くなったわ」
「加奈、今日は戻ったばかりだから休んで構わないけど、明日から普通の生活に戻るよ」
「え? も…もしかして…」
「その、もしかしてだ。勉強と剣の練習は明日から始めるから、そのつもりで」
「え~~え~~!! そんなあ…」
「宇宙では、何が起きるか分からない。ある程度の知識と剣の強さが必要なのは身に染みてわかっているだろう?」
「ブー…ゥ……」
 急にふくれっ面になる加奈でした。
 自由奔放のルーディヒと違って、サタンは加奈にも厳しかったのです。何をしても大丈夫だったルーディヒの海賊船の生活に慣れたためか、加奈は少し、怠け癖がついたようでした。

 部屋に戻ると、加奈は大きな窓から見える星を見ていました。地球から見る星と宇宙船から見る星はだいぶ違います。時折、宇宙船を見かける事もありました。その時は互いに交信し、ぶつからないように船の位置を修正したり、違う方へワープすることもありました。
 宇宙船もいいのですが、加奈は宇宙酔いする事が多かったため、本を読むのが嫌いでした。勉強が嫌いなせいもありますが、文字を目で追うとそれだけで何故か吐き気がしてくるのでした。

 サタンが呼ぶランプが点きました。
「あれ? こんな時間にどうしたのかしら?」
 加奈は急いでサタンの部屋へ急ぎました。加奈の部屋からサタンの部屋まで入り組んでいるため、覚えるのに随分時間がかかりましたが、ただ、曲がる所が多いだけで、すぐの距離なのですが…。

 方向音痴の加奈にとっては、結構大変でした。サタンの部屋のドアは開いたままでした。
「サタン、どうしたの?」
 サタンは、いつもの服と違って薄い柔らかなシャツと長い光沢のある腰ひもを軽く結んだ楽な格好をしていました。
 酒のグラスを片手に、大きな窓の外の星空を見つめるサタンの姿に、加奈は一瞬ドキッとしました。長い黒髪が少し乱れて、何かを考えている横顔は、凄く大人びて見えました。

「加奈、どうした。早く、ここへおいで」
「う…うん…」
「また、何が起こるか分からない。それにこれからは、もっと危険な旅になる。加奈、一緒の部屋でいいか?」
「え~~!?」
「??竜星では一緒に部屋だっただろう。加奈の荷物、持ってこさせるけど、自分で持ってくるか?」
「あ…あう…自分で持ってくるから大丈夫。そ…それじゃあ」
「加奈??」

 加奈が急に背を向けたので、サタンは加奈の手を取り、加奈を自分の方へ向けました。
「どうしたんだ? 加奈、嫌なのか? 嫌なら部屋を隣にするよ。ちょうど隣、空いているからそうしようか?」
「う……。今日のところはいい。サタンと一緒で…」
「もう時間が遅い。疲れただろう。先にベッドで寝ていてくれ。僕はちょっと調べる事があるから。さあ、こっちへおいで」

 サタンは加奈を軽々と抱くと、ベッドに寝かせました。一緒についてきた白ドラゴンも大あくびをして、ベッドの下に潜り込んでしまいました。
 サタンはやさしく布団を掛けてくれました。布団の中から覗くと、少し離れた机で、サタンは何かを調べているようでした。部屋の電気は消えているので、薄暗い所に小さなお洒落なランプの光が、サタンの横顔を写していました。

 加奈は布団をかぶってしまいました。
“今まで一緒に寝ていたのに、何で急に恥ずかしくなったのかしら… ううん、違う。本当は恥ずかしいのが当たり前なのに。今までが私、どうかしていたのかも。 それともいつも一緒に寝ていたが、慣れちゃったのかしら…。どうしよう。 まだ、嫁入り前なのにハレンチかも…。いや、でも、こんな状態なんだもの。仕方ないよね…。本当はサタンと一緒に方が安心するのに…。でも、サタンは平気なのかな。やっぱり私を女の子として見てないのかも…。うう…分からなくなってきた。でも、眠くなてきた。むにゃむにゃ…”
 
 加奈の頭の中は混乱していましたが、疲れていたせいか、知らないうちに寝息を立て、眠りの世界へと入っていきました。そんな加奈の気持ちをサタンは分かっていたのでしょうか。加奈を起こさないように、そっとサタンはベッドの中に入り、気持ち良さそうに寝ている加奈をいつまでも見つめていました。

 静かな時の流れに二人の想いを乗せて、サタンの宇宙船は、星々の海の中を進んで行くのでした。



tritonsora at 10:35|PermalinkComments(0)
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

アクセスカウンター

    記事検索
    ギャラリー
    • 第5章 最終章 別れ路 -光と影-⑥-
    • 第3章 星の紋章 第12話 -光の糸-
    • 第3章 星の紋章 第11話 -それぞれの想い-
    • 第3章 星の紋章 第10話 -すれ違う心-
    • すみれの説明案内板3
    • 第3章 星の紋章 第9話 -風読みの言霊-
    • 第3章 星の紋章 第9話 -風読みの言霊-
    • 第3章 星の紋章 第8話 -風の音符-
    • 第3章 星の紋章 第7話 -妖精の繭玉-
    • すみれの説明案内板2
    • 第3章 星の紋章 第6話 -タルタロスの影-
    • 第3章 星の紋章 第5話 -苦難の道筋-
    • 第3章 星の紋章 第5話 -苦難の道筋-
    • 第3章 星の紋章 第5話 -苦難の道筋-
    • 第3章 星の紋章 第4話 -星の紋章の剣-
    • 第3章 星の紋章 第4話 -星の紋章の剣-
    • 第3章 星の紋章 第3話 -天空の矢じり-
    • 第3章 星の紋章 第3話 -天空の矢じり-
    • 第3章 星の紋章 第2話 -短剣の謎-
    • すみれの説明案内板
    • 第3章 星の紋章 第1話 -宇宙海賊ルードィヒ-
    • 第2章 ドラゴンの翼 第7話 -星の心-
    • 第2章 ドラゴンの翼 第7話 -星の心-
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-4(明暗)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-4(明暗)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-3(嵐の前兆)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-3(嵐の前兆)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-3(嵐の前兆)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-2(竜の舞)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-2(竜の舞)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-1(夢と現実と)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第5話 -2人の王子と水のドラゴン-1
    • 第2章 ドラゴンの翼 第4話 -再会と加奈の想い-
    • 第2章 ドラゴンの翼 第3話 -ドラゴン狩り-
    • 第2章 ドラゴンの翼 第1話 -青き竜星-1
    • 第1章 光の海へ 第9話 -星虹銀河、七色の弓矢-
    • 第1章 光の海へ 第8話 -星虹銀河、宇宙木の音色(後編)-
    • 第1章 光の海へ 第8話 -星虹銀河、宇宙木の音色(前編)-
    • 第1章 光の海へ 第7話 -タイタン号の危機-
    • 第1章 光の海へ 第7話 -タイタン号の危機-
    • 第1章 光の海へ 第6話 -サタンの剣-
    • 第1章 光の海へ 第6話 -サタンの剣-
    • 第1章 光の海へ 第5話 -ブラックホールの謎-
    • 第1章 光の海へ 第5話 -ブラックホールの謎-
    • 第1章 光の海へ 第4話 -原始星よ、永遠に-
    • 第1章 光の海へ 第4話 -原始星よ、永遠に-
    • 加奈の宇宙日記 -花粉モンスターの到来-
    • 第1章 光の海へ 第3話 -氷の花-
    • 第1章 光の海へ 第3話 -氷の花-
    • 第1章 光の海へ 第2話 -アンドロメダE-23号-
    • 第1章 光の海へ 第1話 -トリトン-
    • 第1章 光の海へ 第1話 -トリトン-
    • 光のオルゴール(-プロローグ-旅立ち) その3
    最新記事(画像付)
    にほんブログ村ランキング