第12話 -光の糸-
2016年07月09日
第3章 星の紋章 第12話 -光の糸-
朝、薄暗い時から、収穫祭の準備が始まっていました。ドーンドーンドーンと、大太鼓が鳴り響いています。泉の前にお蚕様への祭壇が出来、その前で加奈は舞を披露することになっていました。里の中は、ご馳走を作っているせいか、美味しそうな匂いが漂っていました。
アザレアから作ってもらった舞衣装は、上と下で分かれていて、絹糸で織り込んであるので、光沢も素晴らしく、上着の襟と長いスカートにも、細かい刺繍が散りばめてありました。ただ、日本の着物のように、合わせ襟と紐で着ていくので、上と下の腰ひもが長く、絡まってしまいました。加奈は、紐結びが下手で、いつも絡まってしまうのでした。結びも固くなり、何が何だか分からなくなってしまいました。
ドアの外にはサタンたちを待たせてあるので、余計にあせってしまいます。
「加奈、どうした。そろそろだけど、終わったのか」
サタンの声がしました。
加奈は、ドアを少し開けて、顔だけ出して、ため息をつきました。髪の毛もボサボサになってしまい、サタンはそんな加奈の姿に、あっけにとられていました。
「あの…サタン…、サタンは紐結ぶの上手だよね。それで…その…ドレスを着せてくれた時、リボン結んでくれたよね。それで…あの…」
「わかった…わかったよ、やってあげるよ」
サタンは、困った顔をしながらも部屋に入ると、絡まった紐をほどき、ドレスとは違う服でも、綺麗に手際よく着せてくれました。髪の毛も、衣装に合わせた髪型にしてくれて、刺繍の入った靴も履かせてくれました。
「これでいいか。加奈、化粧は自分でしたのか? 口が裂けているぞ」
「ええ~!!」
鏡を見ると、口紅が口からはみ出して、オバケみたいでした。
「キャー、口裂け女になってる!?」
「加奈は女の子だろ? 少し、練習した方がいいよ、ほら、こっち向いて、直すから」
サタンはうまく直してくれました。
「あ、そうだ。鈴を付けるんだった」
手首と足首に鈴を付けると、リリン、リリンと軽やかな音が鳴りました。
部屋から出ると、シリウスとルーディヒがびっくりした顔で加奈を見ました。
「か、かわいい~!!」
ルーディヒは、思わず加奈を抱きしめてしまいました。
「ぐ、ぐるじいよ~~、ルーディヒ、離してよ~!!」
「ごめんごめん、あまりに可愛くて食べたくなっちゃうぞ」
「加奈は食べ物じゃないよ! あ、そうだ。アザレアにお礼言ってこないと…、とっとっと…」
スカートが長いので、スカートの裾を引っかけて、転びそうになりました。
サタンたちは、ヒヤヒヤして心配げに加奈を見送りました。
「だ、大丈夫かなあ、ああ、危なっかしい歩き方だ。あれで、本当に踊れるのかなあ」
ルーディヒは、心配げに言いました。
「加奈はおっちょこちょいのところがあるからな。ところでサタン、ずいぶん長い時間部屋にいたが、手伝っていたのか?」
「え?」
「お前なあ、少し、加奈を甘やかし過ぎだぞ、過保護過ぎるぞ。お前は昔からそうだ。サラやイザベラにも世話を焼いていたし…」
「シリウス、いいじゃないか。まだカナは10才なんだし、もう少し大きくなれば、何でも自分で出来るようになるさ。さてと、俺も腹減ったから、広場の方に行くか」
ルーディヒは、口笛を吹きながら、ご機嫌の様子で去っていきました。
「シリウス、ルーディヒは、加奈がまだ10才と思っている」
「いいんだよ、それで加奈が15才って知ってみろ、加奈の身が危なくなるぞ」
「ま、まさか」
「俺だって…」
「え?」
「い…いや、なんでもない。と、とにかくだ、ルーディヒには言うなよ」
シリウスは、何故か顔を赤らめて、慌てて広場の方に走って行きました。
サタンはふと昔を思い出していました。自分が星虹王国の王子でなく、どこからかカプセル型宇宙船に乗って来たという事を、幼な心ながら知ったショックは、言葉では言い表せない程でした。
子供ながら、育ててもらっている気持ちは嬉しかったのですが、何故、「サタン」と名付けたのか、聞きたいと思っていました。名付け親は王でした。マーガレット王妃はとても優しく、分け隔て無く愛情をかけてくれ、自分の子供と同じように育ててくれたのです。それを思うと、聞く機会の無いまま銀星へと旅立つ日が来てしまったのでした。
恩義というのか、サタンは自分のことは自分で出来るようにし、年下のサラやイザベルの面倒をみるのは当たり前と思っていたのです。だから、何でも出来るようになったのでした。
でも、加奈は違っていました。加奈を見ていると、心配になり、つい手を貸してしまいたくなる、ほっとけない女の子が加奈だったのです。気づけば、加奈の事ばかり考えている自分がそこにいました。
「お~い、サタン、何してる~!! 加奈の舞が始まるぞ~!!」
ルーディヒとシリウスが手を振って叫んでいました。サタンは慌てて広場の方へ走りました。
“あともう少しだ。加奈との旅も…。長くなりすぎた。早く自分の旅をしなくては…。やらねばならないことがある。別れの日まで加奈を守ってあげよう。そう…、あと、もう少しなのだから”
サタンは自分に言い聞かせながら、広場へと急ぎました。
リリン・リリンと可愛い音をさせながら、加奈は舞い始めました。柔らかな衣装が、加奈の体が回るたびに、まるで花びらがひらひらと風に舞い踊るようでした。
少しずつ、加奈の舞の動きが早くなってきました。手に持っている美しい七色の布を回しながら、加奈は歌い始めました。
七色の布で編み込んだ布は、加奈の歌に合わせるように、美しい円を描き、足に付けた鈴が演奏のようにシャンシャンと鳴り響きます。髪に結んだ美しい紐と七色の布がまるで五線の上の音符のように、曲を奏でているようでした。
その美しさに皆が、うっとりと加奈を見つめていました。天女のようなその姿でした。竜の舞とは違う、華やかな舞でした。見ている方も楽しくなる舞でした。
サタンは、加奈の踊る姿に心が熱くなりました。竜の舞の時と同じように加奈の歌には、何故か遠い記憶を呼び戻すような、不思議な気持ちになるのでした。
「ワア~!! ワア~!! カナ~!! カナ~!!」
加奈の舞が終わっても、皆の歓声は止みませんでした。誰もが笑顔で嬉しそうでした。
午前中に儀式的な物が全部終わり、午後は広場でお酒とご馳走が振る舞われました。今日だけは無礼講で、皆、楽しそうに騒ぐのでした。
「加奈、あの服着ていれば良かったのに、もう脱いだのか? ヒック」
ルーディヒは、だいぶお酒が回って、顔が少し赤くなっていました。
「だって、あの服、絹で出来ているから、汚したら大変だもの」
「おーい、カナ、たまにはこっちへ来いよ~!」
遠くからジークの声が聞こえました。
「あ、ジークが呼んでる、ちょっと行ってくるね」
加奈は、ジークたちの方へ走って行きました。
「加奈は人気があるな。おい、サタン。うかうかしていると、他の男に取られるぞ。いいのか? ヒック」
「ルーディヒ、少し、飲み過ぎているぞ」
「お前のことが心配なんだよ。いいか、あまり考え込むなよ。自分の心に嘘をつくなよ。後悔するぞ。ヒック」
ルーディヒはそう言いながら、ゴロンと横になると、グウグウ寝てしまいました。
「ルーディヒは、なんだかんだと言っても、サタン、お前が心配なんだよ」
「わかってる、シリウス。わかっているさ」
祭りが終わった夜は、何故かしら、いつもより静かな夜も音がまだ鳴り響いているような錯覚を感じます。
その夜は、二つの衛星がはっきりと左右に分かれ、池の中に繭玉を沈める日でした。何が起きるか分からないので、サタンたちも同行しました。
夜もだいぶふけて、皆、寝静まっていました。風の無い静かな夜でした。
「回りに人の気配は無いな。加奈、大丈夫か」
「どの辺に沈めるんだ?」
ルーディヒとシリウスは、あたりを伺いながら、加奈は尋ねました。
「なるべく一番深いところがいいのだけど…」
「一番深いのは、中央というより、中央から少し離れた湧き水あたりだな」
「おいおい、そこは池の中に入らないと、沈められないぞ」
「大丈夫だよ、僕が少しの間、空間移動と飛ぶのを調整出来るから、加奈、おいで」
サタンは、加奈を抱き上げると、池の真上を飛びました。
ちょうど深い所に真上に来ました。加奈は繭玉に祈りを込めて、そっと池の中に沈めました。すると、静かだった池の水がぐるぐると渦を巻き、不思議な図面が浮かび上がって来ました。その図面は、星の紋章を形どっていました。
池がみるみるうちに色が変化して、星の部分が光ったと思うと、光の糸のようなものが空に向かって伸びていきました。それは、何本も何本も、まるで光の竜のように、美しく光り輝き、そして、又、水の中へと消えていきました。
すると、水がドドドーっと噴水のように吹き上がったのと同時に、大きな白ヘビが姿を現しました。
「オババ様!?」
「加奈、ありがとう。よく私たちの願いを叶えてくれたね。これで、きつね族は星へ帰ることが出来るよ。お前には返しきれないくらいの恩をもらった」
「オババ様、恩なんて言わないで下さい」
「お前の欠点は欲が無いところだよ。まあ、それがお前の良い所だけどね。おや、そこの3人、みんなタルタロスの力があるようだけど、私たちとは反対だね」
「え!? このヘビ、誰?」
ルーディヒは、ビックリしたように叫びました。
「説明してやりたいけど、もう時間が無い。お前さんたちも戻る時が来たようだ。そこまで時間の波が迫っている。加奈、このお礼は後で返すよ。いいかい、加奈。一度は自分の星へ帰るんだよ。お前の運命の鍵は、その隣にいる同じ漆黒の黒髪の男にかかっている。自分の信じた道をお行き、さあ、これを渡しとく。アロの力がある九尾の腕輪だ。それじゃあ今度会う時は、人の姿で会いたいものだ。アハハハハ」
大ヘビのオババ様は、笑いながら池の中へと消えていきました。大ヘビが池の中に沈むと同時に回りの景色が不気味に歪んできました。凄い速さで回転しているので、加奈は吐き気がしてきました。頭の中で声がしました。
“加奈、悪かったね。思ったより長くかかってしまった。さあ、皆を戻すよ。ちょっと体がきついかもしれないが、ほんの少し我慢しておくれ”
その声はアルディ星の魔女のおばあさんの声でした。
ぐるぐる体も回転しているようで、深い渦の中へ凄い勢いで体が吸い込まれているような体全体に凄い痛みが走り、加奈は気が遠くなっていきました。
静寂な夜にかすかに風の音がします。誰もいないはずの…、いいえ、池の木々のそばに一人たたずむ、少年がいました。それはジークの姿でした。
ジークの目から、涙が流れていました。手には、加奈に渡すつもりの美しい首飾りが握られていました。
「カナ、僕は、君が女だとわかっていた。きっと理由があると思っていたから…やっぱり君は天女だったんだね。せめて僕が作ったこの首飾り、渡したかった…」
ジークはそっとその首飾りを池に沈めました。
そして、夜空をいつまでも見つめているのでした。
ジークの悲しみと恋しい想いがわかるのか、夜空には降るほどの流れ星が流れていきました。
まるで、ジークの涙のように…。















































































