第7話 -星の心-
2015年10月17日
第2章 ドラゴンの翼 第7話 -星の心-
弓のおじいさんは、変わらず作業をしていました。加奈を見ると、又、部屋に招き入れて、朝食の野菜スープをふるまってくれました。心温まるひとときに加奈は、あふれる涙を抑えることしか出来ず、スープの中に涙がポタポタと落ちていきました。
「今日は、もう、出発の日なのかい?」
老人は、加奈の涙の訳を聞かないで、やさしく会話を始めました。
「おじいさんは、いつ、移民船に乗るんですか?」
「うん、少し前までは、この竜星に残るつもりだったが、やるべきことが出来たから、流星銀河ではないが準備が整い次第、そっちの惑星に行くつもりだよ」
「もう…、会えないんですね…寂しいなあ」
「それは、わからないよ」
「え?」
「すぐではないが、どうも君の時の運命の糸と、わしのやるべきことと、どうもつながっているようだ。まだ、わからないが、わしは、君と又、会いたいから、さよならは言わないよ。再会を楽しみにしているよ」
老人は、そう言うと、加奈を抱き寄せて、背中をやさしくさすってくれました。
「まだまだ、これからいろんな事があるだろう。君は、感受性が強いから、人一倍、悲しみや辛さも多いだろう。でも、多いからと言って、決して、それは不幸なことじゃない。それが、君の心の糧となる。何より君の守護神は、強力だがいざという時に助けてくれるから、あまりくよくよしちゃあダメじゃぞ。よしよし、良い子だな」
老人の大きな手は、とても温かく、加奈の心をほんわりと包み込んでくれるようでした。
老人の家を出ると、サタンがそこに立っていました。加奈はその時、サタンの青白い顔が昨日までとは違う、何か別なものを感じました。老人もそれに感じ取っていましたが、笑顔でサタンの肩を軽く叩きました。
「加奈のお出迎えかい? サタン。さあ、君たちの出発だ。昨日までのことは、星に流して行きなさい。新たな気持ちで君たちのやることをやりなさい。星の心は君たちの心に、いつも光り輝いているはずだ。加奈、星の弓は、普段は使ってはいけないよ。本当に困った時に使いなさい。君たちの健闘を祈るよ」
老人の言葉は、二人のこころの中に染み透っていきました。
「加奈、皆に、別れを言って無いだろう。一度、城に戻ろう。それと七色の弓矢は、借りたから安心しろ…」
サタンの声は、凄く疲れているような感じがしました。加奈は返事をする代わりに、サタンの手を強く握りました。加奈の小さな柔らかな温かい手のぬくもりが、今のサタンにとって、かえって辛く、昨日の出来事がのしかかってきました。
思わず振りほどいてしまいました。そして、一人、先へ歩いていくのでした。
そう…サタンは、最初に出会った時の雰囲気に戻ってしまったと加奈は思いました。いいえ、それ以上に、表情が、暗く冷たく、笑うことをしないサタンになってしまったと加奈は感じました。
一つの出来事が、二人の心の距離を、又、離してしまいました。さらに、それが、サタンと加奈の将来に、暗い影を落とすことになろうとは、今の二人には夢にも思わなかったことでしょう。
城の前に王子たちがいました。サラもいました。サタンは少し離れた場所で、加奈が王子たちと別れを惜しんでいる様子を見つめていました。サラ王女は、ずっとサタンを見ていましたが、サタンは、一度も彼女を見ませんでした。
「加奈、又、会えるといいな」
レッドは、一番、名残惜しそうでした。
「楽しかったよ、加奈と過ごした時間は忘れられない思い出になりそうだ」
別れが、ロミオも残念でたまらない様子でした。
「それより、加奈、サタンと旅をするんだろ。気をつけろよ」
ジュードが心配そうに言いました。
「え? なんで?」
「あいつ、俺たちと違うからな。加奈が心配だよ。あいつは、心が氷のように冷たいし、加奈が傷つくんじゃないかと」
「ジュード、誤解しているよ。サタンはそんな人じゃないよ」
「加奈は優しすぎるんだよ。本当に困ったら、ぼくの星においで。妃にしてあげる」
「キャハハハ、嫌だ、ジュードったら」
「何だよ、冗談じゃないぞ、真剣なんだから」
加奈がいるだけで場が和むとスチュワートは、そう感じました。スチュワートは、サタンのただならぬ変わった様子に嫌な予感がしました。再会した時も、昔とは変わってしまった人柄に驚きもしましたが、今の方が、まるでさらに近寄りがたい雰囲気を感じたからです。
「加奈、そろそろ行くぞ」
サタンは、加奈にそう言うと広場の方へ歩いて行きました。サタンは銀の剣を垂直に立てました。イカロス号がその剣をめがけて降りてきました。
加奈は、あわててサタンの所へ駆け寄りました。サタンは、加奈を軽々と抱くと、イカロス号まで高く飛びました。まるで、その二人の姿は、異様にさえ見えました。長い黒髪とマントが風になびき、片手で抱かれた可憐な少女の加奈は、まるで悪魔と天使のようでした。
「大丈夫かな、加奈。出来ることなら、引き止めたかった。出来ることなら、流星銀河に連れていきたかった…」
スチュワートは、はっと自分の気持ちに気付きました。しかし、その思いは、加奈に届くすべもありませんでした。スチュワートにとって、初めての切ない恋の想いが、風に乗ってはかなく飛ばされていきました。
久しぶりのサタンの宇宙船でした。相変わらず、サタンが戻ると、船員一同、サタンを出迎えます。
「サタンさま、加奈さま、お帰りなさいませ」
「変わりはないか」
「メシエさまから、お話があるそうです。至急、操縦室までお越し下さい。加奈さま、加奈さまのお部屋は、いつでも使えます。お荷物をお持ちします」
召使いロボットが加奈の荷物を持ちました。リュックに入っていた白ドラゴンはびっくりして、リュックから、慌てて、加奈の足にしがみつきました。
「ピィーピィー、モンスター発見、モンスター発見」
従者ロボットが白ドラゴンに向かって武器を構えました。加奈は、慌てて白ドラゴンを胸に抱きました。
「違う、違う、モンスターではないの!! 皆、武器をしまって!!」
「??? 加奈さま、モンスターではないのですか」
「この子は、私の友だちなの。それに、普通のドラゴンでは無い、特別な子よ。皆もよろしく頼むわ」
「加奈さまにとって、大事なものですか。わかりました、インプット完了です」
「あ~、びっくりした。ねぇ、サタン… あれ、もういない…」
サタンの姿はもうそこにはいませんでした。加奈は何か凄く寂しくなって来ました。竜星の時のサタンと、今のサタンはまるで別人のように感じました。
「キュ~ン」
白ドラゴンが、顔をペロペロなめました。
「こら、くすぐったいわよ、お前がいてくれて、本当に良かったわ。そうで無ければ、もっと寂しかったもの」
久しぶりの加奈の部屋でした。王宮のような広さと豪華さはありませんでしたが、大きな窓から満天の星々がよく見えます。もう既に竜星の軌道を回っていました。地球にも似た青き竜星がよく見えました。そして、巨大な移民船が列をなして、待機していました。それぞれの想いを乗せて…。
その時、ガガンと凄い音がしました。
その音と同時に、船の異常ランプがつきました。
「え、何? どうしたの? まだ出発したばかりなのに」
白ドラゴンは窓の方を見ながら、ガウガウと唸り続けていました。
加奈がもう一度、窓の外を見ました。
さっきまで見えなかった、違う宇宙船がサタンの宇宙船に近づいて来るではありませんか。その宇宙船もサタンの船同様に大きく、船の上の部分から光を発しています。その光と同時に急に互いの宇宙船が止まったような気がしました。
すると、横づけされた宇宙船から、長い何かが、サタンの宇宙船まで伸びて来ました。
一瞬、強い揺れを感じましたが、宇宙船の中の照明が、全部切れて、自動ランプだけどなりました。
長い何かは、透明でしたので、加奈の部屋の窓から、一人の人間が歩いて来るのがよく見えました。
金色の長い髪を後ろで束ねて、両手に大きなヤリのような武器を持ち、サタンとはまた違う野生的な若者でした。
何故か、その若者と目があってしまいました。
「何、あの人…あの人、怖い」
加奈は、窓のカーテンを降ろしました。そして、何が起きているか、部屋の外に出ようと思ったら、何故か急に体が動かなくなってしまいました。
「嫌だ、体、体が動かない」
加奈の部屋のオートロックが開いた瞬間、加奈は自分の目の前に立っているのが、サタンではなく、さっき目のあった金色の髪の青年であることに悲鳴の声を出さずにはいられませんでした。
「やめろ、彼女に手を出すな!!」
サタンの声が聞こえました。
「へぇ~、珍しいな。サタンがそんな顔をするなんて。それじゃあ、少しの間、お連れしますか」
その若者は、加奈をひょいと抱き上げ、宇宙船の廊下を走って行きました。
「やめろ、ルードィヒ!!」
「おやおや、いつものサタンと違うじゃないか。試合は一本勝負。珍しくお前の負けだ。勝った者は、何でも好きな物を持っていっていい約束じゃないか」
「加奈は物ではない!!」
「いいや、これにする。取り戻したければ、勝つんだな。安心しろ。それまでは大事に扱うさ、アハハハ」
笑い声が宇宙船の中でこだまし、何故か、加奈も船員も動くことが出来ず、なす術もありませんでした。
「加奈、待ってろ。必ず、必ず助けに行くからな!!」
サタンの悲痛の声が、宇宙の暗闇の中で響き渡り、サタンの宇宙船に横づけされた宇宙船は、風のようにあっと言う間に姿を消していきました。
船内は、異常音がずっと鳴り響き、やっと動けるようになった白ドラゴンの子は、親を見失った子供のように、ぐるぐると船内を走り回り、加奈の姿を泣きながら探し続けていました。
加奈の部屋の前でサタンは、拳で廊下を叩きつけていました。
「ちっとも変わっていない。変わっていたと思っていた、銀星から旅立つ時に決心したあの思いは、ぶれてしまったのか… 加奈、加奈、ごめん。もっとお前のことを気遣っていれば、こんなことにはならなかったのに…」
加奈は、どこへ連れ去られてしまったのでしょうか。
ようやく、3つの神器を手に入れて、タイタン号を救う旅に出ようとしていた矢先に、サタンと加奈は、又、引き離されてしまいました。
星に心があるのなら、星の光に想いを乗せて、いとしい君に届くように。
今は涙を見せまい。君に会うまでは…。星の心とともに二人が、巡り合うのはいつになるのでしょうか。















































































