第4話 -原始星よ、永遠に-

2015年03月29日

第1章 光の海へ 第4話 -原始星よ、永遠に-

 加奈のタイタン号の生活は、地球を出てから、船内カレンダーで3ヶ月の月日が過ぎていました。
 午前中は、筑波先生のスケジュールに沿って、家庭教師のロボットと、嫌いな勉強の時間です。午後は、船内を探検するのが日課になっていました。
 加奈のいちばん好きな部屋は、地下にある生物室でした。生物室は、ガラスのブロックで分かれていました。真中の大きな部屋には、バイオテクノロジーで、米や麦、野菜や果物が栽培され、通路を隔てた小さな部屋には、いろいろな植物が育成されていました。その一角を、船長から借りて加奈は、アンドロメダでアルヴェーン博士からゆずり受けた種をまいたのですが、いつになっても芽が出ませんでした。加奈は、心配でたまらないので、毎日、足を運びました。

 いつものように種に水をあげていると、静かな部屋に、変な音が響くので、音のする方へ目を向けると、貯蔵庫のそばで誰かが、うずくまっていました。加奈が近づいて声をかけると、うずくまっていた男は、不意をつかれたように手に持っていた物を落とし、ふり向いたのでした。
 加奈は、声を出せずにいました。男は加奈の半分しか背がなく、土を固めたような顔はどこに目や鼻や口があるか、わかりませんでした。植物のつるで作った服を着て、男の体からは土と草の香りがしました。
「君、地球人だろう」
 男は、はっきりした口調でいいました。
「おなかがすいてたまらない。タイタン号の土はまずくて、変にくせがあるんだ。君は平気なのかい」
 男は手についている土を、長い舌でペロリとなめると、ため息をつきました。
「おいしい土ってあるの」
 加奈は、気さくな土色の異星人に、好感を持ちました。
「ぼくの星、原始星というのだけど、ここの土と比べ物にもならないよ。香りもいいし、いっくら食べたって、おなかがもたれないんだから」
「ふうん」
 加奈は、感心したように聞いていました。土に、まずいおいしいがあるのなら、アンドロメダの種も、おいしい土にまけば芽が出るのではないかと思いました。
「もうしばらくの辛抱さ。原始星に着けばおいしい土を、たくさん食べられる」
「勝手なお願いだけど、原始星の土を少し分けてもらえないかしら」
「それはかまわない。でも、タイタン号は原始星には着陸しないよ。発着所がないからね。小型宇宙船で降りるから、星の土を乗組員の人に渡しといてあげるよ。ほら、外をごらん。もう少ししたら、原始星がみえる」
 加奈が窓をのぞくと、星ぼしの光の色が変化して、密集していた星の空間が広くなってきました。船のスピードが落ちているのでしょう。光速から推進システムに変わる時は、到着する星が近づいているのです。
 南の方角に、美しい二色に光る星が見えてきました。どこか地球を思わせる、宇宙のオアシスのような星でしたので、加奈は、好奇心を抑えることが出来ませんでした。

 鉱物採集のため、母船タイタン号は原始星のまわりをまわり、着陸船だけが上陸することになっていました。加奈は、船長に、無理やり許しを得て、着陸船に乗せてもらいました。原始星は、地球と同じ大気なので、宇宙服を必要としないので、加奈はうれしくてたまりませんでした。身軽というより、ひさしぶりに自然と接することが出来ると思ったからでした。
 加奈の思ったとおり、原始星は、緑のじゅうたんが敷き詰めたように、森はどこまでも続き、壮大な景色でした。火山地帯なのか、どの山にも、空まで届きそうな噴煙が、もくもくと立ち登っていました。
「加奈ちゃん、ぼくたちは北のペグマタイト地帯で鉱物を採集するけど、あまり遠くに行かないようにね」
 心配そうに加奈の腕に、特殊時計をつけたのは、イオンという名のエンジニアのサイボーグでした。
「この時計の針が6をさしたら、空を見上げて、恒星の位置を確認するんだよ。レーダースイッチは左側のポッチ。自分の位置が着陸船から離れないよう、気をつけて何度も押して迷子のならないようにしてよ。シルト、加奈ちゃんを頼む。彼女は夢中になると、時間を忘れてしまうから」
「だいじょうぶ。いちばん近くて安全なカオリン地帯に連れていくよ」
 加奈たちは、イオンたちと別れて、西の方角へ向かいました。木で作られた細い道を少し行くと、原生林があり、そこから先は道はありませんでした。
「この林を抜けないと、カオリン地帯には行けないんだ。加奈ちゃんの足ではちょっと無理だから、車にするかな」
「車!車って、ここ道路ないのに走れるの」
「道路なんか必要ないよ」
 シルトは、ポケットから金属製の箱を出しました。それを広げると、なんと二メートル四方の金属板になりました。
「シルトさん、この四角いのが車?」
「そうだよ。原始星の車は、皆、これなんだ。携帯用だから、少し小さいけれど、乗り心地はばつぐんさ」
 加奈とシルトが乗ると、金属板の車は、ふわりと上に上がっていきました。原生林の上を、音もなく振動もなく、雲のように、流れるように走って行きます。
「うわー。すごいすごい。これなら道路いらないわね」
「ちょっちょっと、加奈ちゃん。静かに乗っていないと落ちるよ」

2011008-ls-001

 車から見おろす原生林の緑は、さえるほどの色で、植物特有の香りが空まで届き、赤茶けた山の絶壁から、どうどうと滝は、水しぶきを浴びて、うっそうとした林にはげしく流れ落ちていきました。
加奈たちは、滝の近くの、巨大な板根のある所で降りました。顔ほどもある長細い葉は、熱い日差しを防いでくれるし、板根はいすの役目もしてくれました。
「加奈ちゃん、ここの土が、いちばんおいしいんだよ」
 シルトは、手早く土を丸めると、口にぽいといれると、おいしそうに満足そうに食べました。あまりにシルトがおいしそうに食べるので、そんなにおいしいものかと加奈も、土を小さくだんご状にして、口にぽいと入れて食べてみました。
「ペッペッ、泥臭い。これ、おいしい土なの。おえー」
「あれ、加奈ちゃん、だめなの。こんなにおいしいのに。さわやかな味なのに」
 土を口いっぱいほおばりながら、シルトは、不思議そうに加奈を見ました。
「木の実を取ってきてあげるよ。加奈ちゃん、迷子になったらこまるから、絶対に動かないでね」
 シルトはそう言うと、金属板に乗って、滝の向こう側へ行ってしまいました。土を袋にたくさん詰めると、少し疲れたので木陰で、うっつらうっつらとしていました。

Art_D_05恐竜

「ギギイー!」
 悲鳴にも似た泣き声が、川の方から聞こえてきました。何事かと加奈は、葉のすきまから川に目をやると、大きな恐竜が小さな恐竜の首にくいついているではありませんか。あまりの突然のことに、加奈は身動きさえ出来ませんでした。それは、単なる争いではありませんでした。恐ろしいほどの闘争は、土ぼこりをあげ、川の水さえもせき止める程でした。大きな恐竜は、小さな恐竜を倒すと、すごい不気味な音をたて、飲み込むように食べてしまいました。後には、小さな恐竜の無惨な姿が残るだけでした。大きな恐竜はひと声
鳴くと、あたりをキョロキョロとうかがいました。鼻を、クンクンさせ、巨大な体を揺らしながら、加奈の方へ近づいてきました。
「体、体が動かない」
 加奈は逃げようと思っても、体が硬直していうことがききませんでした。このままでは小さな恐竜のように、食べられてしまいます。シルトは、どこへ行ってしまったのでしょうか。声さえも出せず、加奈は、ズシンズシンと地面をひびかせ、近づいてくる恐竜に、なすすべもありませんでした。 
  「加奈ちゃん、早く車に乗って」
 シルトの車が後方から飛んできました。加奈は、シルトの差し出した手を、しっかりとつかみました。
「ああ、びっくりした」
「加奈ちゃん、だいじょうぶ?おかしいな。あの恐竜は山にいて、川まで降りることはないんだけど。やっぱり、原始星の時空が、ゆがんできているのかな」
「キャアー」
 突然、車が激しく横に揺れました。シルトは、加奈の体をしっかり支え、全速力で着陸船へと飛ばしました。
「シルトさん、シルトさんは乗らないの」
 船に乗ろうとしないシルトの手を、加奈はひっぱりました。
「ごめんね、加奈ちゃん。ぼくは行けないんだ。これを持っていって」
 シルトは、小さな草色の袋を開けて、小さな石を加奈に渡しました。その石は、なんとも言えない冴える程の、緑色の石でした。
「これは、原始星の石なんだ。きっと、加奈ちゃんを守ってくれるはずだよ。大切にしてね」
 そう言うとシルトは、もと来た道を戻って行きました。
「シルトさあん」
 ドドドドー、火山地帯から噴火が始まりました。赤く燃えあがる炎が、一気に空を舞い、一瞬のうちに、青空を灰色へと変えていきました。

 着陸船がタイタン号に戻り、窓からは原始星の姿が、少しづつ小さくなっていきました。
「加奈ちゃん、宇宙も生きているんだよ」
「船長さん、原始星はどうなるの」
「原始星の銀河の第六惑星のそばに、ブラックホールに近い重力星がある。その星の強い引力が原始星を引っぱっているんだ」
「それじゃあ、原始星は、その重力星と衝突してしまうの」
「いいや、ブラックホールとは違う別の宇宙の入口かもしれない。宇宙空間は、時空の波の波動が激しくて、一定ではないんだ。時空間の落とし穴は、宇宙のいたる所に存在している。私たちも、いつその穴に遭遇するかもしれないんだよ」
 加奈は、シルトのくれた石を手のひらに乗せました。小さな石が、原始星の運命を悲しむかのように、ぬれたように光っていました。
 
 宇宙の恐ろしさに、加奈は不安になってきました。しかし、加奈は歩き始めてしまったのです。不安を打ち消すように、生物室にこもり、花の手入れにいそしんでいました。
「船長さーん、船長さーん」」
 加奈は、思い切り走っていました。ダダダーとすごい足音は、船長室まで聞こえました。
「加奈ちゃん、いつも言っているだろう。走ると危ないよ」
「で、でも、早く船長さんに知らせたくて。いっしょに、生物室に来てください」
 加奈にせかされるように船長は、生物室へと急ぎました。船長は、生物室に入ったとたん、声を出せず、そこから動くことも出来ませんでした。
「こ、これは、どうしたんだ」
 生物室は、植物でいっぱいになっていたのです。花の香りと草の香りが、部屋中に満ちて、なんともいえない空気となっていたのです。
「加奈ちゃん、何かしたのか」
「きのうは、なんともなかったのよ。今日ここに来て、一日でこんなになってしまったのだもの」
「もしかしたら、シルトが、加奈ちゃんに夢を託したもかもしれないよ」
「私に夢を?」
「シルトも、自然をとても大事にしていたからね。だから、加奈ちゃんに石を渡したんだと思うよ。その石は、自然界でも不思議なパワーを出し、時空の道を渡ることも出来るんだよ。でも、加奈ちゃんにその日がこない方がいいのだが…」
「?」
 きょとんとしている加奈に、船長は少しさびしげな笑みを浮かべ、部屋を後にしたのでした。
 加奈は、原始星の小さな分身が、シルトの想いとともに、生きていると思いました。
【ここにいるわよね、シルトさん。原始星は、いつまでも植物といっしょに残っていくわ。化石の種も、こんなに美しい花を咲かせたもの】
 アルヴェーン博士からゆずり受けた種も、大輪の真紅の花をつけていたのでした。

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