■-第3章- 星の紋章
2016年07月09日
第3章 星の紋章 第12話 -光の糸-
朝、薄暗い時から、収穫祭の準備が始まっていました。ドーンドーンドーンと、大太鼓が鳴り響いています。泉の前にお蚕様への祭壇が出来、その前で加奈は舞を披露することになっていました。里の中は、ご馳走を作っているせいか、美味しそうな匂いが漂っていました。
アザレアから作ってもらった舞衣装は、上と下で分かれていて、絹糸で織り込んであるので、光沢も素晴らしく、上着の襟と長いスカートにも、細かい刺繍が散りばめてありました。ただ、日本の着物のように、合わせ襟と紐で着ていくので、上と下の腰ひもが長く、絡まってしまいました。加奈は、紐結びが下手で、いつも絡まってしまうのでした。結びも固くなり、何が何だか分からなくなってしまいました。
ドアの外にはサタンたちを待たせてあるので、余計にあせってしまいます。
「加奈、どうした。そろそろだけど、終わったのか」
サタンの声がしました。
加奈は、ドアを少し開けて、顔だけ出して、ため息をつきました。髪の毛もボサボサになってしまい、サタンはそんな加奈の姿に、あっけにとられていました。
「あの…サタン…、サタンは紐結ぶの上手だよね。それで…その…ドレスを着せてくれた時、リボン結んでくれたよね。それで…あの…」
「わかった…わかったよ、やってあげるよ」
サタンは、困った顔をしながらも部屋に入ると、絡まった紐をほどき、ドレスとは違う服でも、綺麗に手際よく着せてくれました。髪の毛も、衣装に合わせた髪型にしてくれて、刺繍の入った靴も履かせてくれました。
「これでいいか。加奈、化粧は自分でしたのか? 口が裂けているぞ」
「ええ~!!」
鏡を見ると、口紅が口からはみ出して、オバケみたいでした。
「キャー、口裂け女になってる!?」
「加奈は女の子だろ? 少し、練習した方がいいよ、ほら、こっち向いて、直すから」
サタンはうまく直してくれました。
「あ、そうだ。鈴を付けるんだった」
手首と足首に鈴を付けると、リリン、リリンと軽やかな音が鳴りました。
部屋から出ると、シリウスとルーディヒがびっくりした顔で加奈を見ました。
「か、かわいい~!!」
ルーディヒは、思わず加奈を抱きしめてしまいました。
「ぐ、ぐるじいよ~~、ルーディヒ、離してよ~!!」
「ごめんごめん、あまりに可愛くて食べたくなっちゃうぞ」
「加奈は食べ物じゃないよ! あ、そうだ。アザレアにお礼言ってこないと…、とっとっと…」
スカートが長いので、スカートの裾を引っかけて、転びそうになりました。
サタンたちは、ヒヤヒヤして心配げに加奈を見送りました。
「だ、大丈夫かなあ、ああ、危なっかしい歩き方だ。あれで、本当に踊れるのかなあ」
ルーディヒは、心配げに言いました。
「加奈はおっちょこちょいのところがあるからな。ところでサタン、ずいぶん長い時間部屋にいたが、手伝っていたのか?」
「え?」
「お前なあ、少し、加奈を甘やかし過ぎだぞ、過保護過ぎるぞ。お前は昔からそうだ。サラやイザベラにも世話を焼いていたし…」
「シリウス、いいじゃないか。まだカナは10才なんだし、もう少し大きくなれば、何でも自分で出来るようになるさ。さてと、俺も腹減ったから、広場の方に行くか」
ルーディヒは、口笛を吹きながら、ご機嫌の様子で去っていきました。
「シリウス、ルーディヒは、加奈がまだ10才と思っている」
「いいんだよ、それで加奈が15才って知ってみろ、加奈の身が危なくなるぞ」
「ま、まさか」
「俺だって…」
「え?」
「い…いや、なんでもない。と、とにかくだ、ルーディヒには言うなよ」
シリウスは、何故か顔を赤らめて、慌てて広場の方に走って行きました。
サタンはふと昔を思い出していました。自分が星虹王国の王子でなく、どこからかカプセル型宇宙船に乗って来たという事を、幼な心ながら知ったショックは、言葉では言い表せない程でした。
子供ながら、育ててもらっている気持ちは嬉しかったのですが、何故、「サタン」と名付けたのか、聞きたいと思っていました。名付け親は王でした。マーガレット王妃はとても優しく、分け隔て無く愛情をかけてくれ、自分の子供と同じように育ててくれたのです。それを思うと、聞く機会の無いまま銀星へと旅立つ日が来てしまったのでした。
恩義というのか、サタンは自分のことは自分で出来るようにし、年下のサラやイザベルの面倒をみるのは当たり前と思っていたのです。だから、何でも出来るようになったのでした。
でも、加奈は違っていました。加奈を見ていると、心配になり、つい手を貸してしまいたくなる、ほっとけない女の子が加奈だったのです。気づけば、加奈の事ばかり考えている自分がそこにいました。
「お~い、サタン、何してる~!! 加奈の舞が始まるぞ~!!」
ルーディヒとシリウスが手を振って叫んでいました。サタンは慌てて広場の方へ走りました。
“あともう少しだ。加奈との旅も…。長くなりすぎた。早く自分の旅をしなくては…。やらねばならないことがある。別れの日まで加奈を守ってあげよう。そう…、あと、もう少しなのだから”
サタンは自分に言い聞かせながら、広場へと急ぎました。
リリン・リリンと可愛い音をさせながら、加奈は舞い始めました。柔らかな衣装が、加奈の体が回るたびに、まるで花びらがひらひらと風に舞い踊るようでした。
少しずつ、加奈の舞の動きが早くなってきました。手に持っている美しい七色の布を回しながら、加奈は歌い始めました。
七色の布で編み込んだ布は、加奈の歌に合わせるように、美しい円を描き、足に付けた鈴が演奏のようにシャンシャンと鳴り響きます。髪に結んだ美しい紐と七色の布がまるで五線の上の音符のように、曲を奏でているようでした。
その美しさに皆が、うっとりと加奈を見つめていました。天女のようなその姿でした。竜の舞とは違う、華やかな舞でした。見ている方も楽しくなる舞でした。
サタンは、加奈の踊る姿に心が熱くなりました。竜の舞の時と同じように加奈の歌には、何故か遠い記憶を呼び戻すような、不思議な気持ちになるのでした。
「ワア~!! ワア~!! カナ~!! カナ~!!」
加奈の舞が終わっても、皆の歓声は止みませんでした。誰もが笑顔で嬉しそうでした。
午前中に儀式的な物が全部終わり、午後は広場でお酒とご馳走が振る舞われました。今日だけは無礼講で、皆、楽しそうに騒ぐのでした。
「加奈、あの服着ていれば良かったのに、もう脱いだのか? ヒック」
ルーディヒは、だいぶお酒が回って、顔が少し赤くなっていました。
「だって、あの服、絹で出来ているから、汚したら大変だもの」
「おーい、カナ、たまにはこっちへ来いよ~!」
遠くからジークの声が聞こえました。
「あ、ジークが呼んでる、ちょっと行ってくるね」
加奈は、ジークたちの方へ走って行きました。
「加奈は人気があるな。おい、サタン。うかうかしていると、他の男に取られるぞ。いいのか? ヒック」
「ルーディヒ、少し、飲み過ぎているぞ」
「お前のことが心配なんだよ。いいか、あまり考え込むなよ。自分の心に嘘をつくなよ。後悔するぞ。ヒック」
ルーディヒはそう言いながら、ゴロンと横になると、グウグウ寝てしまいました。
「ルーディヒは、なんだかんだと言っても、サタン、お前が心配なんだよ」
「わかってる、シリウス。わかっているさ」
祭りが終わった夜は、何故かしら、いつもより静かな夜も音がまだ鳴り響いているような錯覚を感じます。
その夜は、二つの衛星がはっきりと左右に分かれ、池の中に繭玉を沈める日でした。何が起きるか分からないので、サタンたちも同行しました。
夜もだいぶふけて、皆、寝静まっていました。風の無い静かな夜でした。
「回りに人の気配は無いな。加奈、大丈夫か」
「どの辺に沈めるんだ?」
ルーディヒとシリウスは、あたりを伺いながら、加奈は尋ねました。
「なるべく一番深いところがいいのだけど…」
「一番深いのは、中央というより、中央から少し離れた湧き水あたりだな」
「おいおい、そこは池の中に入らないと、沈められないぞ」
「大丈夫だよ、僕が少しの間、空間移動と飛ぶのを調整出来るから、加奈、おいで」
サタンは、加奈を抱き上げると、池の真上を飛びました。
ちょうど深い所に真上に来ました。加奈は繭玉に祈りを込めて、そっと池の中に沈めました。すると、静かだった池の水がぐるぐると渦を巻き、不思議な図面が浮かび上がって来ました。その図面は、星の紋章を形どっていました。
池がみるみるうちに色が変化して、星の部分が光ったと思うと、光の糸のようなものが空に向かって伸びていきました。それは、何本も何本も、まるで光の竜のように、美しく光り輝き、そして、又、水の中へと消えていきました。
すると、水がドドドーっと噴水のように吹き上がったのと同時に、大きな白ヘビが姿を現しました。
「オババ様!?」
「加奈、ありがとう。よく私たちの願いを叶えてくれたね。これで、きつね族は星へ帰ることが出来るよ。お前には返しきれないくらいの恩をもらった」
「オババ様、恩なんて言わないで下さい」
「お前の欠点は欲が無いところだよ。まあ、それがお前の良い所だけどね。おや、そこの3人、みんなタルタロスの力があるようだけど、私たちとは反対だね」
「え!? このヘビ、誰?」
ルーディヒは、ビックリしたように叫びました。
「説明してやりたいけど、もう時間が無い。お前さんたちも戻る時が来たようだ。そこまで時間の波が迫っている。加奈、このお礼は後で返すよ。いいかい、加奈。一度は自分の星へ帰るんだよ。お前の運命の鍵は、その隣にいる同じ漆黒の黒髪の男にかかっている。自分の信じた道をお行き、さあ、これを渡しとく。アロの力がある九尾の腕輪だ。それじゃあ今度会う時は、人の姿で会いたいものだ。アハハハハ」
大ヘビのオババ様は、笑いながら池の中へと消えていきました。大ヘビが池の中に沈むと同時に回りの景色が不気味に歪んできました。凄い速さで回転しているので、加奈は吐き気がしてきました。頭の中で声がしました。
“加奈、悪かったね。思ったより長くかかってしまった。さあ、皆を戻すよ。ちょっと体がきついかもしれないが、ほんの少し我慢しておくれ”
その声はアルディ星の魔女のおばあさんの声でした。
ぐるぐる体も回転しているようで、深い渦の中へ凄い勢いで体が吸い込まれているような体全体に凄い痛みが走り、加奈は気が遠くなっていきました。
静寂な夜にかすかに風の音がします。誰もいないはずの…、いいえ、池の木々のそばに一人たたずむ、少年がいました。それはジークの姿でした。
ジークの目から、涙が流れていました。手には、加奈に渡すつもりの美しい首飾りが握られていました。
「カナ、僕は、君が女だとわかっていた。きっと理由があると思っていたから…やっぱり君は天女だったんだね。せめて僕が作ったこの首飾り、渡したかった…」
ジークはそっとその首飾りを池に沈めました。
そして、夜空をいつまでも見つめているのでした。
ジークの悲しみと恋しい想いがわかるのか、夜空には降るほどの流れ星が流れていきました。
まるで、ジークの涙のように…。
2016年06月09日
第3章 星の紋章 第11話 -それぞれの想い-
加奈はジークたちとの大部屋で、一緒に寝ていました。まるで雑魚寝状態でしたが、今の加奈には、仲間との大部屋の方が、気が楽でした。
サタンたちも心配してくれていたことは頭では分かっていても、何故か心がそれを拒否していたのです。
時々、サタンたちと会うこともありましたが、なるべく加奈は、ジークたちの中央に入り、避けて通るようになりました。そんな自分が情けなく嫌いでもありましたが、体がそう動いてしまい、どうしようも無かったのでした。
食事の時も加奈はジークたちと一緒にしていました。
里の収穫祭が近づいて、桑畑の仕事もいつもより忙しくなってきていました。それがかえって妖精の繭玉を探すのに、都合が良かったのです。
桑の葉を一杯にカゴに持ち、畑の道を降りていくと、サタンが待っていました。
「加奈、話があるんだ。少しでいいから…」
「ごめんなさい。私、急いでいるの」
加奈は、何も話さないのは良くないと思い、返事だけして、立ち去ろうとした時、サタンは加奈の手を強引につかんで、例の場所へと引っ張っていきました。
「サタン、離して、痛い!!」
加奈は、サタンの手を振り払いました。サタンは、それでも加奈の両肩をつかんで離しませんでした。
「加奈、加奈が何故怒っているのか分かってる。でも、少しでいいから、話を聞いてくれ」
加奈は、今まで見たことのないサタンの悲しい目を見ました。そう…、加奈は分かっていたのです。まだ、加奈は15才。
自分の心に芽生えたものを理解出来ず、ただ、わがままを言っているだけなのだと…。サタンはジークたち以上に自分を探してくれていたことを…誰よりもわかっていたはずでした。
サタンは加奈をいつもより強く抱きしめたのでした。
「ごめん、加奈。早く見つけてあげられなくて」
「謝るのは加奈よ。ごめんなさい、サタン…」
絡まった糸がやっとほどけたようでした。心配していたシリウスとルーディヒは、物陰からそっとその様子を見守っていました。
「あ~やれやれ。人騒がせな二人だ」
「そんなこと言うな、ルーディヒ。加奈は一人で心細かったと思うぞ。俺たちもここに来てからは、加奈の事、放っておいたじゃないか」
「それじゃあ、ぴた~っとくっついていればよかったのか」
「そうは言ってないだろうが!!」
「シリウスだって草摘み兄さんだったじゃないか!」
「草摘みじゃない、薬草採りだ! ルーディヒこそ、女とばかりいて、女たらしじゃないか!」
「なんだと!!」
「なんだよ!」
二人はだんだん声が大きくなって、ハッと気がついた時には、2人の前に、加奈とサタンがあきれた顔をして立っていました。
「おっ、悪い悪い。別に2人の邪魔をするつもりは無かったんだ。ごめんね加奈」
「そうだよな、シリウス。せっかくのラブシーンだったのにね。あれ??」
ルーディヒの言葉に加奈は、真っ赤になって、又、カゴを持って凄いスピードで走って行ってしまいました。
「バカ! ルーディヒ。お前は言葉が多すぎるんだよ」
「お、おりゃ、加奈はまだ10才位だから仕方ないか」
「え? 10才??」
サタンは思わず聞き返してしまいました。
「加奈はもう少し大きくなったら、凄く綺麗な女の子になるぞ~。出来れば、その時に会いたかったな、あ~残念だ~」
「ルーディヒは、いつも、そんなことしか考えていないのか…やれやれ」
2人の会話を聞きながら、サタンは自分の心の変化にも、少し戸惑っていました。宇宙船での生活が長く続いたのもありますが、自分の体の事を忘れていました。
普通の体で無い自分が、人並みの想いを持つことなど、許される訳がありません。
妹のような、そう…妹のような存在なのだと、サタンは自分で言い聞かせていました。
加奈もその想いは同じでした。走りながら、サタンへの想いを自覚しつつ、子供のような自分をサタンは、妹として見ていると思ったのでした。
だから、一緒に寝てくれるし、やさしく抱いてくれるし、よく面倒を見てくれるのだと……。
ふと、考えていた加奈は、カゴが軽いのに、気がつきました。桑の葉を一杯にしたカゴを持っていたつもりの加奈でしたが、思いっきり走ったせいで、カゴには、桑の葉が、ものの見事にカラでした。
「あらら…」
「カナ、何してるの~? 道に桑をばらまいているよお~!?」
後ろから桑の葉を拾いながら、手を振っている少女がいました。カナと仲良しのアザレアでした。
「あ、ごめ~ん。急いで走ってきたから~」
「仕方ないわね。私も手伝うから、カナも拾って、今日で畑の方は終わりよ。最後のお蚕様が繭を作り始めたから」
2人は、仲良く話しながら、桑の葉でいっぱいになったカゴを持ち、今度はゆっくりと里へ下りていきました。すると、門には、クマゴジラが怒ったような顔をして立っていました。
「あ!! まずい、クマゴジラだ」
「え? クマゴジラ??? ベルアング様でしょう」
「あ…そうだった…」
クマゴジラは、ベルアングという、ちゃんとした名前があるのですが、言い慣れたあだ名の方をつい口に出してしまうのでした。
「カナ~~!! また、訓練をさぼって女といちゃいちゃして!!」
「いちゃいちゃなんてしていません!」
「お前はいつも口答えばかりするな、ハァ~。お前の先行きの事を考えると、俺は心配になるぞ。明日からは、せめて道術の訓練だけはするんだぞ」
そう言うと、クマゴジラは、屋敷の方へ歩いていきました。
「クスクス、なんだかんだと言っても、ベルアング様は、カナには甘いんだから。それより、カナ、そろそろ準備しなくていいの?」
「え? 何が?」
「毎年、収穫祭のお祭りには、カナが踊るでしょう?」
「ええ~~~~!!!」
「男のカナは嫌かもしれないけれど、毎年私たちは楽しみにしているのだよ。カナの舞は、姫巫女様より人気だもの。もともと女の子みたいな顔だから、女装すると、ホントの女の子みたいになるから、うらやましいくらい」
「じょ、冗談だよね」
「嫌なのは分かるけど、あの踊りは、お蚕様に奉納する舞なのでしょう。姫巫女様の舞も、妖艶で優雅で美しいので、男たちはうっとりして見ているけれど、私はカナの舞の方が好きよ。服の方はまかせて、毎年、私たちが新しいのを作っているし、今年は、最高の出来栄えよ。期待しててね」
加奈はもう、泣きたい気分でした。竜の舞だって、やっと踊ったというのに、今度は、大勢の前で踊ることになろうとは。ようやく気が晴れてきたのに、また落ち込んでしまいました。
加奈の生家は、大和の数少ない奥深い山の中にありました。今は、昔と違って、寺や神社も少なくなり、山々も削られて、古墳も整備され過ぎて、昔の面影はありませんでした。
確かに、国内も小型宇宙船も飛び交っているし、道路は人専用で、その代わり、空間は高さによって、宇宙バスが飛んでいたし、生活面では、すごく便利にはなっていました。人の寿命も延びて、100才以上なんてザラでした。
加奈の老仙ババ様は、120才で、何千年と伝わる旧家であり、代々伝わる神様を祭る当主でもありました。舞は老仙ババ様に習ってはいたのですが、加奈は母と違い、舞は大の苦手でした。
「お蚕様の舞なんて習っていないわ。困った…。え~っと、神様への舞じゃなくて、空、山、海、森の舞の中に、何か関連する舞あったかなあ…。こんな事なら、もっと真剣にババ様から教えてもらうんだった…。まだ妖精の繭玉も見つかっていないのに、やることが多くて、頭が痛くなってきた」
収穫祭が近づいていても、男たちの訓練は続きます。途中で抜け出そうとするも、いつもクマゴジラに見つかって捕まってしまうので、加奈はなかなか妖精の繭玉を見つけることが出来ませんでした。
お蚕様の繭作りの部屋に行っても、機織りの部屋へ行っても、それらしき繭はありませんでした。特別の繭玉なのだから、もしかしたら、別の場所にあるのかもしれないと、里の端から端まで、目を皿のようにして、探しましたが、それらしき物はありませんでした。
無情にも、重なり合っている衛星が、少しづづずれて、二つに分かれる日も近づいてきました。
ひとり、広場の隅っこで、舞の練習をしていると、サタンが声をかけてきました。
「加奈、ここにいたのか。又、踊るのか?」
「うん、私、正直に言うと、舞は苦手なのよ。それが嫌で、寄宿舎のある学校を選んで大好きな宇宙コースを選んだのに…」
「寄宿舎?」
「サタンは学校は?」
「子供の頃、王族専用の学校へ行ったが、宇宙コース??なんて無かったな」
「王族!? そう言えば、サタンは王子様だったわね。だから、サタンって気品があるし、立ち振る舞いも違うし、マナーも知っているし、完璧だよね。強いし、モテるし、優しいし、イケメン…だし…あ!!」
加奈は、次から次へとサタンを褒めてしまい、顔が真っ赤になってしまいました。サタンと言えば、心なしか、少し顔を赤らめて、照れているようでした。
宇宙では、冷酷の暗殺者と呼ばれていますが、19才の青年の素顔は、今のサタンが本来の彼の姿なのだと加奈は思うのでした。
タルタロスの事が無ければ、サタンも、スチュワートやレッドと同じように王子としての生活をしていたことでしょう。もしかしたら、サラ王女のような美しい王女をめとり、どこかの惑星の王になっていたかもしれません。
「ああ、そう言えば、舞を踊ると、ご褒美が出るらしい」
「え? ご褒美?」
「お蚕様の奉納?だっけ。その年の妖精の繭玉を貰えるらしい」
「え~~~!! 本当ぉ~~~!!」
急に大きな声を出してしまい、サタンはびっくりしている様子でした。
「加奈、欲しかったのか!?」
「うん、うん、欲しかったの。やったあ!! これでアロとババ様の約束を守ることが出来るわ」
「アロ??」
加奈は、サタンにあの日の出来事を話しました。そして、アロもババ様もタルタロスに苦しめられた人間の一人であることも。
「ここでも、タルタロスの魔の手が及んでいたのか…。でも、アロとその大蛇の力って、よほど凄いんだな。タルタロスはよっぽど強い者でないと、興味を示さないし、吸い取った力で魔力を体の中に溜めているから、あいつには死という言葉は存在しない」
加奈は、あの時の壁画の事を言えませんでした。シリウスに、サタンには言わないでくれと頼まれたからです。誰よりもタルタロスを憎み、今なお、マーガレット王妃の行方も分からず、体の一部に埋め込まれたタルタロスの力に、苦しんでいたからです。
時折、発作らしきものが出ると言っていましたが、加奈は、その発作がどのようなものか知りませんでした。
サタンと加奈は、何気なく空を見上げていました。
空は、まばゆい位に澄みきった青さでした。
ここが、時空の波を超えた、過去の星とは思えぬほどの空の青さでした。
気がつけば、互いに手を取り合っていました。
2人は何を想うのか、今はただ、穏やかな時が流れていくのでした。
2016年05月06日
第3章 星の紋章 第10話 -すれ違う心-
ヒュロロ~~ヒュロロ~
美しい旋律の笛の音が聞こえます。里で聞くより、美しい音色が、心の中まで響いてくるようでした。
「お目覚めですか」
「え?」
加奈は気が付くと、不思議なベッドの中にいました。服も知らないうちに、柔らかな絹のような東洋的な美しい服を身にまとい、髪もきれいに結い直してありました。
ベッドの上にベールのような布がかかり、声をかけた女の人の姿が、おぼろげに見えました。
「ここはどこ?」
「ここは、親方様のお部屋です。もうすぐ親方様がいらっしゃいます。もうしばらくお待ち下さい」
そう言うと、女の人は下がって行ってしまいました。入れ違いに長身の男の人が入って来ました。
「お前、女のくせになんで男の格好をしていたんだ? それに、姫巫女で無いのに、風読みの術を使えるなんて、お前も巫女なのか?」
男はそっとベールをふり払うと、ベッドの横に座りました。その男の顔を見て、加奈はびっくりしてしまいました。
耳が長く、銀糸の長い髪と、鋭い切れ長の目の奥は金色に光り、後ろに9本の尾までありました。
あんまりびっくりしてしまったので、言葉がうわずってしまう加奈でした。
「あっ…あっ…あの、ここは、どこでしょうか…」
「ここはきつね族の集落だ。集落と言っても、洞窟の中だけどね。名はなんと言うんだ? 俺はアロペークスだ。アロでいいよ。」
鋭い瞳を持つ割に、優しく話をしてくれるアロは、里で効いた話とはだいぶ違っていました。
「風読みをするが、姫巫女と思い、俺の部下が連れて来てしまった。悪かったな」
「私は加奈、あ…あの…ちょっと聞いていいですか?」
「え?」
「アロは姫巫女様が好きなの?」
アロはすごくびっくりしたような顔をすると、急に大きな声で笑い始めました。
「アハハ、びっくりするなあ。急に何を言い出すと思えば。アハハ」
「あ…あの…」
「俺があの姫巫女を? アハハハ、冗談じゃないぜ。昔から戦ってきた相手だぜ。それにあんなキツイ女は、御免だね。そうだな、加奈が子供でなければ、俺はお前の方がいいな。どうだ、俺の女になるか?」
「ええ~~~~え~~??」
「何をそんなにびっくりするんだ。すぐにとは言わないさ。まだ、子供だからな。加奈は不思議な力を持っているし、そういう力を持つ女と夫婦になれば、強い子が生まれるしな」 加奈は真っ赤になってしまいました。
「おりゃ、まだ早すぎる話だったかな。でも、里と違って、俺らの部族は繁殖力が弱いんだ。だから人数は減るばかりだ。もともとこの里に住んでいた訳でない。自分の星に戻りたいが、オババ様も俺もタルタロスに力を奪われてしまい、ここにいるしかないんだ」
加奈は、ここでもタルタロスの名を聞くとは思いませんでした。大昔から存在するタルタロスは、一体何者なのでしょうか。永遠の命を持つ者なのか、それとも再生するのでしょうか。
何故か加奈は、タルタロスの不気味な赤い目と恐ろしい声を思い出さずにはいられませんでした。
トントンと戸を叩く音がしました。
「なんだ」
「親方様、オババ様がお呼びです」
「わかった、今すぐ行く」
アロは、ベッドから立ち上がると、オババ様という人の所へ行ってしまいました。
何人かの女の人がたくさんの食べ物を運んでき来ました。大きな机なのに、机の上は美味しそうな食べ物でいっぱいになりました。
「親方様はオババ様とお話し中ですので、先に食事をして下さいとのことです」
何人かの侍従は、同じような服を着て、食事の用意を終えると、そそくさと出て行ってしまいました。
豪華な食事ではありましたが、加奈は食欲がありませんでした。久しぶりに箸のようなものがあって、口に運んでみても、何故か食べる気にならず、箸を置いてしまいました。
静かな時間が過ぎていきました。なかなかアロは戻っては来ませんでした。
洞窟の中とは言っても、不思議な光る花のような植物から光が漏れて、明るかったのですが、少し、息苦しさがありました。
皆、心配しているだろうなと思った加奈ですが、前のような宇宙と違い、同じ星で同じ土地なのに、何故、サタンたちは、助けに来てくれないのかと、不安になってきました。
加奈の心に悲しみと不安が膨らみ始め、とめどめなく普段考えない事までも考えるようになってしまっていました。
銀星から竜星に飛ばされた時も、サタンはなかなか加奈を見つけられませんでした。ルーディヒに連れ去られた時も、シリウスがいなければ、加奈は今、こうしていられたのか分かりません。何故、助けに来てくれないのかと思ってしまうのでした。
サタンにとって、私は、なんなんだろうと、加奈の目から涙があふれ出て、心が暗くなるばかりでした。加奈は泣き疲れて、ベッドで寝てしまったのでした。
その次の日も、その又、次の日も、加奈はきつね族の洞窟の中でした。
ずっと親方の部屋にいても仕方ないので、加奈は洞窟の中を歩いてみる事にしました。洞窟の中と言うのに、洞窟をうまく利用してきつね族の生活が成り立っていました。
中央に小さな流れる川があり、女性と男性とで住む部屋が別々にあり、子供たちはいつも集まって遊んでいました。確かに子供の数が少なく、里の人間の半分も満たない人数でした。
女たちは、あまり洞窟の外へは出ないようでした。男たちが狩りをし、洞窟のすぐ外に畑があり、畑を耕すのも男たちでした。
女たちは、植物をうまく加工して、糸を作り、その糸で布を織っていました。畑の中に桑の畑もあったので、お蚕様の部屋も小さいながらあり、里の女と同様にその仕事が主のようでした。
加奈は自分の服に着替え、女たちと一緒に仕事をすることにしました。最初は戸惑っていた女たちも、加奈の人柄なのか、だんだんと心打ち解けるようになり、年の近い友達も出来ました。
加奈は、きつね族の女たちに織ってもらった仕事着を着て、まるできつね族の一員になったようでした。親方も、加奈の部屋を用意してくれました。
時々、外へ出ることもありましたが、何故か自分から、遠くへ行きたいと思わなくなっていました。
洞窟の川で洗濯をしている時、川上から声がしてきました。皆、慌てたように、おじぎをしているので、何事かと思ったら、大きな白いヘビが川の底から顔を出したではありませんか。
怖いのと、びっくりしたので、加奈は、そこで体が固まってしまいました。
「おや、驚かして、悪かったね」
ヘビがしゃべりました。あまりの突然の事で、加奈はまばたきするのも忘れるくらいでした。
「お前が加奈だね。アロから聞いているよ。フーン、確かに巫女的力はあるようだね。でも、姫巫女とは違うようだ。悪いが、ちょっと話がある。後で奥の泉の方へ来てくれないかい、アロと一緒に」
大蛇の話は、加奈に里の池の中に、里で一番美しい繭玉を沈めて欲しいということでした。
「もともと里の湯所は、私たちきつね族の集落があった場所でね、昔から続く争いのせいで奪われてしまったのさ。私たちはこの星の人間ではないからね。環境に適応しないのだよ。唯一、あの池の水があるおかげで保っていたようなものだ。あの水には、不思議な成分が含まれていて、あの泉の湧水でごくわずかだが、美しい繭玉を作るお蚕様が生まれてくるんだよ。それが妖精の繭玉さ。美しいグリーン色の大きな繭玉だよ。妖精の繭玉には力がある。わたしはタルタロスに力を奪われてしまったが、かろうじて多少は残っている力で、アロとともに力を共鳴してもといた星へ帰ろうと思う。それには妖精の繭玉に光の道を作ってもらわねばならないのだよ。お前に頼むのは、筋違いかもしれないが、ちょうど衛星が赤くなる日がもうすぐ来る。もう、その日を逃せば、私たちは帰れない。衛星が二つに分かれた夜に沈めて欲しい」
「私…私に出来るかしら…。それに、私…」
「もうすぐ時空の波が開く。あんたも帰る時が近づいているんだよ。自信をお持ち、加奈。姫巫女のような強い力は無いけれど、お前には宇宙から与えられた力がある。まだ日はあるから、考えといておくれ」
そう言うと、大蛇は又、池の底へと沈んでいきました。
加奈は、その日からふさぎ込んでしまい、食事も摂らなくなりました。毎晩のように加奈の部屋から、すすり泣く声が聞こえてくるようになりました。
ある朝、アロは加奈がいないことに気がつきました。ベッドには、走り書きがしてありました。
「里へ戻ります。短い間でしたが、お世話になりました。オババ様に頼まれた事、私に出来るかどうか分かりませんが、やってみます。黙って行くことをお許し下さい。アロ、皆も、やさしくしてくれてありがとう 加奈」
アロは、何故か、凄く不安になるのを感じました。オババ様は何故、子供の加奈にあんな無理難題を押し付けたのか、分かりませんでした。加奈一人に自分たちの今後の事を押し付けて、自分たちは何もしないとは、凄く卑怯な気がしたのでした。
どこをどう歩いたのか、加奈は分からなくなって来ました。でも、足は歩きすぎて豆が出来て凄く痛かったのですが、見覚えのある場所に気がつきました。
確かここは、アルディ星から飛ばされて、尻もちをついた所でした。もう少し歩けば、里の桑畑に出られるはずと思い、感覚の無い足を引きずりながら、加奈は歩いていきました。
口はカラカラ、服も何度か転んだので、泥だらけでした。モンスターが出ない星と言っても、熊とかヘビとかに出くわさなければいいなと思いつつ、ようやく加奈は桑畑の道を降り、里の門へと近づきつつありました。
「カナ!! カナじゃないか!!」
そう叫んで、近づいて来たのは、加奈の仲良しのジークでした。
「カナ!! 大丈夫か! 心配したんだよ。毎日毎日俺たちいろんな所を探しても、お前が見つからなくて…ウウウ」
ジークの目から涙が流れていました。
「だいぶ疲れたけど、どうにか戻ってこれたんだから、泣くなよ。ジークは男だろ…」
「ウウ…ウ…そんなこと言ったって、俺らお前を守ってやれなかった…」
里の方から加奈の仲良しの仲間たちの少年兵が走って来て、みんな男泣きして、カナの帰りを喜ぶのでした。
加奈のふさぎ込んで暗く沈んだ心を、ジークやブルー、フェルスたちの涙が、洗い流してくれたようでした。
加奈は凄く嬉しくなりました。こんなに心配してくれている仲間のいることに…。
ふと顔を上げると、サタンたちも走って来ました。
「加奈、無事だったか!」
「良かった、凄く心配したんだよ」
「おなか、空いてないか」
加奈は、サタンたちの顔を見ないで、返事をすることなく、ジークたちと帰って来たことを姫巫女様にあいさつに行くのでした。
サタンの横を無表情の加奈が足早に通り過ぎていきました。差し伸べた手を握ることもなく、加奈は何も言わず、まるで見知らぬ人のように…。
「加奈…」
サタンは、加奈の後ろ姿をずっと見続けていました。
夜になっても、加奈はサタンたちの部屋へは戻っては来ませんでした。
「加奈はすごくやつれて顔色が悪かったが…」
「どこに行ったんだろうな」
「部屋に戻ってこないけど、どうしたんだろうな」
ルーディヒとシリウスは、話し込んでいましたが、サタンは加奈の心が分かっていました。何故、自分を早く見つけてくれなかったのだろうと、早く来て欲しかった、自分が戻る前に来て欲しかった、加奈のそう叫ぶ声が、何も言わない加奈だからこそ、余計にサタンは、強く感じたのでした。
サタンは、加奈のいなくなった日から、朝から夜まで探し続けていました。普通なら自分の力で加奈のいる場所がわかるはずでしたが、不思議な力がそれを遮っていました。
たとえ、その力があったにせよ、加奈が自分で戻る前に探すべきだったと。サタンの胸は切り裂く思いでありました。
漆黒の夜に、ふたりの心の闇が重なって、行くべき道を遮っていました。
2016年04月16日
第3章 星の紋章 第9話 -風読みの言霊-
東洋風の大きな屋敷から里の姫が現れました。
“あっ!”
加奈は思わず声を出しそうになりました。髪の色と瞳の色は違いましたが、その姫はサラ王女そっくりだったのです。
竜星の王族の衣装とは違っていましたが、美しい長めの衣装を身にまとい、髪には不思議なかんざしを挿し、独特な色気さえもありました。
「皆の者、ごくろうさまです。今年は桑の葉の出来も良く、無事、お蚕様も繭を作り始めています。今が一番大事な時です。さらに結界を強くして、夜の見回りも今日から始めます。糸をつむぐ時まで、きつね族から守らねばなりません。心して一日を過ごすように」
「オ~!! オ~!! オ~!!」
兵士たちは何度も大声で叫び、姫の忠誠を誓っているようでした。
あいさつが無事終わると、あの熊ゴジラが叫びました。
「これより少し休憩の後、訓練を行う。笛の音を合図に集まるように」
兵士たちは少しホッとしたように、ゾロゾロと又、広場の方へ歩いていきました。
「それにしてもびっくりだなあ。あの姫様、サラ王女にそっくりだったぜ。きつい所まで似ているぜ」
「ルーディヒ、きついはないだろう」
「シリウス、お前は知らないんだよ。おれは子供の頃から知っているからな。サタンやスチュワートが大変だったんだ」
「え? ルーディヒ、何故、サラ王女やスチュワート王子を知っているの?」
「俺は一応あいつらとは、母親の違う兄弟だからな」
「???」
「なあ、サタン。お前どうした、顔色が悪いぞ!」
「いや…何でもない。悪いが一人にしてくれ」
サタンは一人、広場から外へ出てしまいました。
「何だあいつ、どうしたんだ」
「サタンだって俺らと同じで、いろいろあるのさ。そっとしておいてやろうぜ」
「あいつ、この頃おかしいぞ。何か嫌な予感がするな。あの姫様、ずっとサタンを見ていたし…。あの姫様、いくつぐらいだろうな」
「さあ、サラ王女より年上に見えるな」
「それじゃあ、俺たちと同じ19才かな」
「うそ~ぉ~!!」
「うわ、びっくりした。加奈、どうしたんだ?」
「皆、19才なの~!?」
「そんなに驚くことかなあ…」
加奈は、サタンたちはもっと大人だと思っていました。顔立ちが整って長身で、サタンは落ち着いていたし、加奈の面倒もよく見てくれていたからです。
加奈は凄く恥ずかしくなったのと同時に又、あの時のことを思い出さずにはいられませんでした。あの夜のことを…。
あまり考えたくはありませんでした。あの夜、何があったか、加奈は想像だけで決めつけてはいけないと思いました。それにあの姫様は、顔はそっくりでも、サラ王女ではないからです。
「ピィ~、ピ~ィ~」
笛の合図です。
サタンも外から走ってきました。広場に集まると、別の上官がいました。
「これより訓練を行う前に、精神統一と心の虫を取り除くために、呼吸法の訓練を行う。全員その場に座り、始め!!」
今までザワザワじていたのが、嘘のくらい、静かになりました。
「それでは始める。息を深~く吸って吐いて~。腹で呼吸だ、鼻で呼吸するな!」
それが終わると、色違いのはちまきをつけさせられました。
私とルーディヒ、シリウスとサタンと違う組になってしまいました。私たちは青色、サタンたちは赤色でした。
ドーンドーンドーン
と、太鼓が鳴り響くと、屋敷の2階からやぐらまで長く続く廊下に、姫様が現れました。そして、一番高いところに座りました。
「これより青、赤組に分かれ、試合を始める。決められた者は1対1で戦い、最後の2人になったら、道術ではなく、好きな武器で戦うこと! ただし、武器を離した者を負けとする」
シリウスとルーディヒ、サタンはさすがに強く、あっという間に次々と倒していきました。加奈も今まで戦って来ていたし、道術は祖父方の流派だったため、勝ち進んでいきました。
加奈の柔らかな風のような道術に、サタンたちはあっけにとられました。何故なら、そんな加奈の姿を見るのは、初めてだったからです。まるで別人のような加奈の姿でした。
「わぁ~、きれいに型が決まっているなあ。女にしておくにはもったいないな。でも、この分だと…。まずいな、加奈とサタンになるぞ」
実際、シリウスとルーディヒ、そして、加奈とサタンの組み合わせになってしまいました。
シリウスとルーディヒは互角で、なかなか勝負がつきませんでしたが、ちょっとの差でルーディヒが勝ちました。
加奈とサタンが向かい合います。練習の時に、時々、剣を合わせることはありましたが、こうして向かい合うと、何か変な気がしました。
「さあ、加奈、あれから随分と強くなったはずだ。遠慮なく向かって来い! さあ、構えて!」
同じ構え方で、2人はまるで剣舞のようで、その剣さばきに、皆、見入ってしまっていました。
柔らかな加奈の剣と、鋭さのあるサタンの剣が、嬉しそうに踊っているようで、皆、ワイワイそれぞれ2人の応援を始めました。
「加奈の剣は、何と言うか舞のようだな。モンスターには使えないんだから、今まで戦えなかったはずだ」
「でも、シリウス、サタンも楽しそうだぞ」
サタンの剣が加奈の剣を宙に浮かせ、ようやく試合が終わりました。皆、試合というのに、楽しそうにワイワイ、2人の所まで近寄ってきました。みんな笑顔でした。
そっと強い視線の先を見ると、やはりあの姫様でした。加奈を見る目が、サラ王女と同じでした。加奈はその目の意味するものを理解していました。この姫様も王女と同じように、サタンが好きなのだろうと…。たとえ今は加奈が少年だとしても、サタンに近づく者を許せないのだろうと…。
「こら、お前たち、何、騒いでいる。試合は終わったが、訓練は終わらないぞ。情けないぞ。いつも勝つのはこの4人だ。少しは他の連中も太刀打ちできるようにならないのか! さあ、今日は外での訓練だ。担当の者は、武器庫で、弓を用意しろ!」
「おっ! 今度は弓だぞ。加奈の得意分野だな。でも、俺たちも負けないぞ」
ルーディヒは何か嬉しそうでした。
「ルーディヒ、お前、何か、楽しそうだな」
「そりゃあ楽しいさ。こうしてみんなで訓練するんだから、銀星との訓練とは、比べものにならないほど楽さ。それ以上に楽しく出来るのが嬉しいのさ」
「そうだな、銀星の訓練は地獄の苦しみだったしな…。考えてみれば、星虹銀河の消滅は悲しいが、銀星も無くなるのだから、良かったかもしれないな」
「甘いな二人とも。あいつが星と共に消滅すると思っているのか。あいつは死なない。宇宙の闇がある限り…」
サタンは、そうつぶやきながら、外の方へ歩いていきました。
ルーディヒもシリウスも分かっていたことでした。タルタロスは他の銀河へ移動するだろうと。
どこへいってもタルタロスは銀河を支配し、罪の無い星人を洗脳し、改造していくことでしょう。仮にタルタロスがいなくなっても、あのタルタロスの分身は、いたる所に存在しているのだから。
里の生活も幾日が過ぎ、規則正しい生活と訓練のたまもののせいでしょうか、加奈も少しづつ、体力がついて、元気になっていきました。
サタンたちも呼吸法の訓練のおかげで、心の闇のコントロールが前より楽になったようでした。
しかし、楽しい生活ばかりとは限りません。
サタンは、姫様の呼出しが多く、帰ってくると一日中話をしないし、ルーディヒは、里の女たちと仲良くなり、いつも女の人とばかりいるし、シリウスは、里の薬草が気になるのか、しょっちゅう外歩きばかりし、外回りも率先して志願する始末です。
加奈は、3人の様子にあまり意見するつもりはありませんでした。それより、お蚕様の世話に夢中でした。女たちと桑畑で桑の葉を取り、お蚕様の屋敷(?)に葉をいっぱい敷きつめると、お蚕様が嬉しそうに葉を食べる音がリズミカルに聞こえます。別の棟でも、繭玉を糸にしている様子、そし、機を織る音が心地よくてたまりませんでした。
もともと養蚕は、加奈の親戚の家でも盛んで、科学が進歩したといっても、細々とやっていたおかげで、まだ続いていたのです。
桑の葉畑では、女たちが歌を歌い、桑の葉を摘んでいきます。その歌の中に加奈も入り、お蚕様の作業をする女たちとだいぶ仲良くなっていきました。
モンスターが現れないので、気が楽でしたが、時折、不思議な音色が気になっていました。その音色は、風とともに流れていきます。
「又、だわ」
「え?」
「カナも聞こえるでしょう、あの音色は、きつね族の統領の笛の音色なの。何を血迷ったか、姫様に夢中なのよ。所詮、結ばれない縁よ。敵同士だし、お互い好きならいいけど、姫様はサタン様を昔から好きだしね」
「でも、サタン様は、全然その気が無いし、身分も違うし、姫様も可哀想よね」
まるで、サラ王女と同じと思いました。しかし、ここは星虹王国ではありません。まして、サタンがここに居たいわけでもないのに、まるで昔からいたような話です。
「こら~! カナ~! 今日も訓練をさぼるつもりか~!!」
「あっ! 熊ゴジラだ」
「クスクス、カナったら、男のくせに訓練が嫌いね」
「今日は風読みの術の訓練だ! お前がいないと訓練にならないだろうが! 早く来い」
「いたい…そんなに強く引っ張るなよ。ぼくは華奢なんだからな」
「何! 一丁前に口答えして!」
「いたいよ!」
加奈の男言葉もさまになってきました。心の中で自分がだんだん雑になっていくようで、怖くなる時もありました。一体、いつになったら、あのアルディ星に戻れるのだと思うばかりでした。
それと、風読み術は、加奈の先祖代々、引き継がれている家の秘術でもありました。この星で何故、その術があるのかも不思議でした。風読み術は、加奈は苦手でした。
加奈の母親は、強いオーラを持ち、巫女的能力も強く、道術、陰陽師、弓、剣道も人並み以上に優れ、その家を守る当主となるはずでした。母はそれを嫌い、まるで違う宇宙大学の方へ進み、大学院では、宇宙科学を専攻し、今では博士号まで取って、宇宙パイロットの父と結婚し、加奈を生んだのでした。
両親は仕事で忙しいため、結局、加奈は祖父母に育てられ、必然的に巫女的修行を叩きこまれてしまったというわけです。しかし、いつでも祖母に怒られているばかりでした。必ず最後には、お前の母さんはもっと強いオーラを持っていた、邪念なく呪文を唱えるし、舞も歌も上手だったと…。
風読み術はいつも失敗ばかりで、祖母はあきれて、途中で教えてくれなくなりました。祖母の悲しい顔を見るたび、加奈はひどい劣等感に陥りました。
そんな事もあり、加奈は全寮制の学校を選んだのでした。まるで祖母から逃げるように。
それなのに、大好きな宇宙に来て、結局は苦手とする舞や術を使うことになろうとは、何の因果でありましょうか。
険しい高台に皆が登っていきます。久しぶりの山道はきつく、日差しも強くなってきました。
「おい、カナ、今日は大丈夫なのか」
加奈と同じ年ぐらいのジークという少年兵が尋ねました。ジークとは年が近いので、話も合い、仲良し仲間でした。
「何が?」
「今日は風が吹いていないぞ。又、失敗するんじゃないか。心配だよ」
「う~ん」
「風読みは、姫様とお前しか出来ないんだぜ。風読みで結界を作る場所も決まるし、今年はきつね族の笛の音がやたら聞こえるし、先行き不安だぜ」
「おい、あまりカナを困らせるなよ」
横から話しかけたのは、同じ仲良し仲間のブルーという少年兵でした。
「風読みは難しいんだ。もし、失敗しても、俺たちの戦力で補えばいいんだ」
「ブルー、何言ってんだよ。俺たちはカナより弱いんだぜ。見かけはカナが一番弱そうなのにな」
「ああ~、サタンたち位、強くなれたらいいのになあ」
「俺はサタンが嫌いだ!」
「お前が嫌いなのは、サタンがカナをいつも大事にしているからだろう」
「なんだとう、それじゃあ、まるでやきもちみたいじゃないか」
「おりゃ、そうじゃないのか」
「どういう意味だよ!」
「ちょっと二人ともやめろよ」
加奈は必死に止めるも、2人はもう取っ組み合いのケンカをしそうでした。
「お前ら、何やってんだよ!」
二人を押しとどめたのは、カナたちの仲間兵のリーダー格のフェルスという年上の兵士でした。
「なんでお前たちはカナのこととなると、何故いつもそうなるんだよ。カナが女だったら、良かったのになあ」
「え~~~!!」
加奈は、一瞬、ドキッとしました。
「アハハ、冗談冗談。皆、カナのことが好きだってことさ。里の女の子より、カナの方がかわいいからな。明るくて、強くて、やさしくて、気が利くしね」
「そんなこと言われても、ちっとも嬉しくない」
「アハハハ、ごめんごめん。カナは男だからね」
皆は、カナの顔を見ながら、又、笑い合いました。この気のいい優しい仲間たちの事を思うと、加奈は、何か騙しているようで、気が引けました。
高台に着くと、加奈はひとり瞑想を始めました。皆はそんな加奈の様子を、心配げに見つめていました。
ヒュ~~~ルルルルル~~
風の音がします。加奈は風に話しかけます。
「風よ教えておくれ。風の道を教えておくれ、私のそばでささやいて、私の言霊をあなたに届けます」
すると風は、加奈の体のまわりに近づいて、やさしく吹きかけました。
ヒュルルル~~~
加奈の目に風の道が見えました。そして、次の風の集まる場所が分かりました。それを教えようとして、後ろを振りかえようとした時、突然、黒い風が吹き抜けました。
その黒い風は、加奈のまわりにまとわりつき、その風が止んだとき、カナの姿はありませんでした。
「カナ!!」
「カナはどこだ!!」
高台にはもう風は吹いていませんでした。
一体、カナはどこへ行ってしまったのでしょうか。
仲間たちのカナの呼ぶ声が、山にこだまして、その声がカナに届く日は来るのでしょうか。
2016年02月13日
第3章 星の紋章 第8話 -風の音符-
「ドッシーン」
「いたたた…もろにお尻ぶつけた」
加奈の回りにサタン、シリウス、ルーディヒも倒れていました。
「いたたた…一体なんなんだよ、あれ??」
「あいたた…お尻が痛い、どうしたんだ??」
「ここは、どこだ??」
4人がいる場所は、うっそうとした林の中でした。気がつけば、何故か4人ともいつも着ている服ではない、色違いのお揃いの服を着ていました。
「な…なんだ、この服は! それに、皆、髪の毛を上に一つに縛っているし、アハハハ、結構皆、似合っているぞ」
「ルーディヒ、笑っている場合か。囲まれているぞ!」
「何、本当かサタン。チッ、武器が無いぞ、まずいな」
「加奈を守るんだ」
ザザザッと音がしたかと思うと、数十人の男たちが現れました。
「何やってんだ、お前たちは! いい加減にしろ!」
「???」
一人の男が怒ったような顔をして、近づいて来ました。
「結界がほころび始めている時に、遊んでいる場合か! 早く里へ帰らないと、もうすぐ夜になる。夜の闇に紛れて、きつね族が現れたらどうする!」
「き…きつね??」
「カナ、お前は一番年下だから、少々大目に見ていたが、明日からは皆と同じ訓練をするからな。さ、早く、里へ戻るぞ!」
“なんで、私の名前を知っているのかしら???”
何かなんだか分からないまま、加奈たちは男の集団とともに、里へ下りていきました。林の道を下っていくと桑畑が一面に広がり、女たちが、桑の葉をいっぱいにしたカゴを手に持って、同じ方向へ歩いていました。加奈たちを見つけると、キャーキャー言って手を振っていました。
「おお!! 女たちが手を振っているぞ」
「ルーディヒ、お前はどこへ行っても女には興味津々だな」
「なんだよシリウス、男なら女に興味あるのは当たり前だろうが!」
「お前、興味ありすぎなんだよ」
ここがどこだか分からないのに、相変わらずルーディヒとシリウスは、言い合いばかりしていました。加奈は不安でたまりませんでした。あの老婆が、時をさかのぼると言っていたけれども、ここはこの星のあの村の過去の世界なのだろうかと…。
しかし、星の雰囲気が違うし、違和感がありました。
「加奈、どうした。具合が悪いのか」
「体は大丈夫よ、サタン。私たち、どこへ飛ばされたのかしら」
「ここはアルディ星とは違う感じがする」
「え? やっぱり…」
「もう少し、様子を見ないとわからなが、この星にはモンスターがいないみたいだ。普通なら、これだけの自然が豊かで、ここまで長く歩いているのに、一匹も現れないのは不思議だ」
どの位の時間、歩き続けたでしょうか。少し、薄暗くなりかけた道の光に、小さな炎の光がたくさん見えてきました。
里へ近づくと、里の入口には兵士が立っていました。門といっても、木の柵のような造りで、頑丈な城壁とは違う、みすぼらしい門でした。
里に入ると、もう真っ暗で、里の様子がよく分かりませんでしたが、加奈たちは、兵士たちの部屋に入りました。
部屋は組ごとに分かれていて、加奈はいい具合にサタンたちと一緒の部屋でした。4人なのに、すごく狭い部屋で、ベッドではなく、ふとんなので、体を寄せ合い寝ることになりました。
「加奈、ルーディヒの隣は危ないからやめろよ」
「なんだよ、シリウス。それはどういう意味だ。俺はずっと加奈と一緒に寝ていたんだからな。子供の加奈を相手するはずないだろうが!」
「いい加減にしろよ。お前たちはちっとも昔と変わっていないな」
「ふああ…。眠くなってきた。腹も減ったな。ここは夕食が出ないのか」
そう言いながら、ルーディヒはもう横になると、寝てしまいました。
「加奈、ここへおいで」
サタンは、加奈を招き入れて、ふとんをそっとかけ直しました。結局、サタンとシリウスの間にすっぽりと収まり、不思議な夜が暮れようとしていました。
「ピィ~!! ピィ~!!」
笛の音で起こされ、慌てて外に出ると、大勢の兵士が整列していました。
「またお前たちか! いつも遅れているぞ。早く泉で顔を洗い、整列しろ!」
昨日の男が怒鳴りつけてくるので、里の中央に位置する泉で顔を洗い、急いで整列しました。
とにかくめまぐるしいので、何が何だか分からないまま動いているので、ようやく落ち着いてきたのは、大きな木のお椀を持って、朝食をもらう順番を待っている時でした。
良い香りが漂ってきます。
「ああ、腹減った。いいにおいだなあ。昨日は何も食べていなかったから、余計にこのうまそうなにおいはこたえるぜ」
「ルーディヒ、お前は本当に危機感ゼロだな。ここがどこだか分からないのに、よく腹が減るな」
「悩んでも仕方ないだろ、シリウス。食べたくないなら、お前の分も俺が食べてやるぜ」「フン、誰がお前なんかにやるか」
大きなお椀に、給仕の女がなみなみと温かなスープを注いでくれ、さらに大きな丸いパンのような物と木のスプーンを渡してくれました。そして、水の入った木の筒も渡してくれました。
それぞれ広い広場に座って、大勢の若者の兵士の朝食の時間でした。スープは野菜と肉が入っていて、ポトフのような香りがしました。多分、ブイヨンみたいな調味料は無いと思うので、自然の薬味がふんだんに使ってあるのでしょう。パンは少し硬めで、ちょっとかみ切るのは大変でした。
「加奈、少しちぎってスープの中に入れて食べると、食べやすいよ。ほら、貸してごらん」 サタンは、加奈のパンを小さくちぎって、食べやすいようにスープに入れてくれました。それでも加奈は、あまり食欲がありませんでした。
「加奈、どうした。食べたくないのか」
加奈の目から涙があふれ、涙の粒がポトポト、スープの中に落ちていきました。
「加奈、泣くなよ。大丈夫だよ。俺たちがいるんだから」
シリウスは、そっと方をやさしくたたきました。
「加奈は何が食いたいんだ?」
ルーディヒは突然聞きました。
「え?」
「少し、味が濃いからな。ここは宿屋じゃないし…。でも、せっかく体が治ってきたのだから、無理してでも、柔らかくなったパンだけでも食べろよ。ほら、アーンして」
ルーディヒは、小さくしたパンをスープにつけると、加奈の口元へ運びました。
「パク」
思わず、加奈は、ルーディヒのパンを食べてしまいました。
「そうそう、いい子、いい子。はい、もう少し、食べようね」
そんな二人の様子にサタンとシリウスは、びっくりもしましたが、何より加奈が食べてくれた事をうれしく思うのでした。
4人の輪の中に、暖かな風が吹いていました。サタンもシリウスもルーディヒも、こんな穏やかな暖かな食事をしたことがありませんでした。それぞれに家族もあったし、子供の頃は、何不自由ない恵まれた環境の中で育ちました。
しかし、いつも何か物足りなさと寂しさがありました。
血のつながりとかつながりでないとか、そんな事ではない、ただ、単純に自分の感情をそのままに受け止めてくれて、素直に笑い、心配し、怒ることを…。たったそれだけが、どれほど満ち足りたことだと、3人は知ったのでした。
3人のやさしい加奈を見る目に、加奈の不安の心も無くなってきました。
「おーい」
兵士の一人が走って加奈たちの所に来ました。
「おい、今日は姫様のお言葉をいただく日だぞ。急いで屋敷の方へ行こうぜ」
「姫様?」
「なんだ、忘れたのか? 毎月1の日は、姫様からお言葉をいただく日だぜ。もうすぐ、おかいこさまの収穫祭があるから、忙しくなるぜ。おい、カナ。お前もっとしっかりしろよ。そんなんじゃ立派な男になれないぞ。俺たちも協力するから、もう少し、訓練にも励めよ。皆、お前のことが心配なんだからな」
そう言うと、一人の兵士は、屋敷の方へ走っていきました。
「私、ここでも男なの???」
「ふーむ、だから一緒の部屋だったんだ、ムヒヒ」
ポカッっとシリウスはルーディヒの頭をたたきました。
「痛いな、何すんだよ!」
「そのムヒヒはなんだよ!!」
「別に、深い意味は無いよ。かえって良かったと思ったんじゃないか。一緒なら安心だろうが」
「そ…それより、早く屋敷の方へ行きましょう。姫様のお言葉を聞きに行かないと、あの熊ゴジラに怒られるよ!」
加奈は、ルーディヒとシリウスの服を引っ張りました。
「何? あのひげ面の恰幅のいい男は熊ゴジラという名前なのか!?」
「ち…違うよ。私が勝手につけたあだ名なの!」
「ブ…ブブブ!!」
ルーディヒは、腹を抱えて笑い始めました。
「ルーディヒ、笑いすぎよ!」
「アッハッハ、あ~おかしい。だって、確かにそのあだ名ぴったりだぜ」
ルーディヒは、笑いが止まらない様子で、加奈は何故こんなにおかしいのか、分かりませんでした。
「コラ~!! お前たち。いつまで食ってるんだ!! 早く屋敷に集合しろ~!!」
「おっ!! 熊ゴジラが叫んでいるぞ。早く行こうぜ」
「シリウスまで…」
4人は何故か笑いながら屋敷へと走っていきました。その時、ふと加奈は、風のそよぐ音を聞きました。久しぶりに聞く、穏やかな風の音符でした。
心地よい、爽やかな、そして穏やかに…。風の音符は4人の心の中に響いていました。
2016年01月24日
第3章 星の紋章 第7話 -妖精の繭玉-
「おい、シリウス、加奈はまだ目を覚まさないのか!」
「体が相当疲れている。熱がなかなか下がらない…」
「もう2日だぞ! 加奈がこのまま目を覚まさなかったら、俺はサタンに殺される」
「バカ、縁起の悪いこと言うな。加奈は大丈夫だ! お前はいつも後先考えないで行動するから、こんな事になるんじゃないか!」
「なんだと! シリウス、お前に言われる筋合いはない!!」
「お前たち、うるさいよ!! 病人がいるのに、何をしているんだね!!」
2人が言い争っているので、古い家の戸が開き、老婆が出て来ました。
「言い争っている暇があるなら、池の水を汲んできておくれ。あの子の体を拭くのだからね。体中が傷だらけだ。かわいそうに…」
「ばあさま、加奈は大丈夫か?」
「まだ、わからんね。もう少し、様子を見ないと…」
2人は木の桶を持ち、池の方へ歩いて行きました。シリウスは加奈を背負い、どうにか夜になる前に、この村にたどり着いたのでした。
しかし、以前、あれ程いた村人は姿を消し、老婆1人しかいませんでした。村の住居は荒れ果て、老婆の住む家と家畜の小屋だけが、どうにか形を留めているだけでした。
盗賊やモンスターに襲われた訳でもないのに、村人は、どこへ姿を消してしまったのか、老婆は口をつぐんだままでした。
しかし、ちょうど、ルードィヒと海賊の仲間も、この村にたどり着いて、町まで戻る所でもありました。
何日か老婆に世話になっているので、村の畑や家の修理などは、ルードィヒの仲間たちが請け負い、最初に来た時より、荒れた村が少しずつ綺麗になっていきました。
緑少ない大地の中で、ここの村のまわりだけ、桑の葉の畑が広がり、村の中央に澄んだ池があり、別世界のような趣でした。
池の水を汲みながら、シリウスは今までのことを、ルードィヒに話をしました。
この星にも、タルタロスの魔の手があること、そして、銀星で、体を変えられ、それに耐えられなかった少年のことも…。
「俺たちもいずれモンスターになるのかもな…」
「そうならないためにも、俺たちは放浪の旅をしているんじゃないのか…しかし…なんで、あの少年は、元に戻ることが出来たんだろう…。あの星の弓が関係しているのか。それとも…」
「それにしても、いつ来ても、ここだけは楽園だな。不思議なことに、モンスターも近寄らないし、泉も涸れることはない。この池の水は、薬の水とも言われているらしいから、早く加奈に良くなって欲しいなあ」
そう言いながら、水を汲んでいるルードィヒが池の水を見ると、もうひとつの影が見えました。顔を上げると、そこにサタンの姿がありました。
「うわ!! サタン、お前…そこにいたのか」
「ルードィヒ!! 加奈はどこだ!!」
すごい勢いで詰め寄るサタンを、シリウスは押しとどめました。
「サタン、落ち着け!! 加奈はこの村にいる。今、会わせるから」
青い顔で眠り続ける加奈に、サタンは一瞬、信じられない顔になりました。
「加奈、加奈、どうした!!」
何度呼んでも、加奈は答えることもなく、眠ったままでした。
「ルードィヒ!! お前、加奈に何をしたんだ!!」
「サタン、俺から話すよ。ここではまずいから、外に行こう」
シリウスはサタンの手を強く引っ張り、外に連れ出しました。
シリウスはなるべく正確に、今までの状況をサタンに話を聞かせました。しかし、何故かシリウスは、最後に戦ったタルタロスの事は話しませんでした。それでも、サタンの顔は青ざめていきました。
「サタン、すまない。俺が加奈を連れ出したばっかりに…」
「いいや、ルードィヒのせいじゃない…。加奈のそばにいてやりたい。部屋に入るよ」
そう言うと、サタンは又、加奈の部屋へ入っていきました。
それからどの位の時間が過ぎていったのでしょうか。カタンコトン、カダンコトンと、どこかで聞いたような音がします。その音はとても心地よく、加奈の耳元で、リズミカルに懐かしく響いてきました。
加奈は、重たいまぶたをそっと開けると、目の前に、心配そうに見つめるサタンの姿がありました。
ようやく目を覚ました加奈を、サタンは思わず強く抱きしめてしまいました。あまりに強い力で抱きしめたものですから、加奈は、びっくりしたのと同時に、苦しくもなりました。
「ぐぐ、サタン、ぐ…ぐるじい…」
「あ…ごめん…」
少し顔を赤らめたサタンに、加奈は竜星の時のサタンに戻ってくれたと、嬉しく思うのでした。
「あっ! 加奈、目を覚ましたのか!! おい、シリウス。加奈が目を覚ましたぞ!!」
加奈のまわりにルードィヒとシリウスも駆け寄り、狭い部屋がさらに狭くなったような感じでした。その姿を後ろで老婆は、呆れ顔で見ていました。
ベッドの横の窓から、薄日が差して、窓の外を見ると、サタンたちとルードィヒの仲間たちが上着を脱いで、村の修復をしていました。
みんなのその様子を見ながら、そのありふれた風景がどれ程尊いものか、あの時の戦いと少年の最後を見た加奈にとって、心温まる思いでした。
隣の部屋から、カタンコトン、カタンコトンと音がしてきます。加奈にとってその音は聞き覚えのある音でした。
その音のする戸を開けると、老婆が機を織っていました。コトンカタンとは、機の織る音だったのです。
「おや、もう歩けるようになったのかい。無理はしない方がいいよ」
老婆は加奈に気づき、笑いかけながら言いました。
「すみません。世話になりっぱなしで…」
「いいや、こちらこそ、あんたらのおかげで村が元に戻ってうれしいさ。久しぶりに村に活気が戻って、昔のようだよ」
「おばあさんも機を織るんですね」
「おや、機織りのことをよく知っているね」
「私のおばあ様も機を織るので、機を織る音が懐かしくて…」
「私が子供の頃は、この辺は皆が機を織っていたものさ。桑畑がもっと広がっていたからね。でも、肝心のお蚕様がここ数年で減ってしまい、今、織っている糸が最後になってしまった」
老婆の織っている布は、不思議な光沢のある緑色でした。
「この糸は染めた色じゃない。妖精の繭玉と言って、特別な糸でとても美しく、丈夫で、強い浄化力を持つこの村の宝なんだよ」
老婆は手を休め、今度は加奈の顔をまじまじと見つめました。あまり見つめられるので、加奈は少し、困惑してしまいました。
「久しぶりにお告げの夢を見て、この布を織っているんだよ。もう少しで仕上がる。この布はあんたのものだよ」
「ええ!」
「私はこれでも昔は占いのオババと言われた魔女さ」
「ま…魔女???」
「そう、もう長い長い時を生きてきた。私の星はここじゃない。そろそろ帰る時が来たようだ。でも、その前にひと仕事しないとね」
老婆は古びたタンスの中から、大きな水晶みたいな玉を出しました。その玉は、中が美しく輝き、玉の中が七色に輝いていました。
老婆は、その玉をまばたきもせず見つめていました。すると、水晶が急に光り始め、水晶がガタガタと左右に動き始めたのでした。
玉は、机の上から、ゴロンゴロンを落ちて、加奈のベッドまで転がると、ピタッと止まりました。
「ふーむ、やっぱりね。夢のお告げのとおりだ。でも、まだ確認しなければならない。時間を少し止めるよ。さあ、時間の波よ、さかのぼれ。妖精の繭玉よ、声を聞かせておくれ」
老婆がそう言うと、水晶は宇宙に浮き、加奈のまわりの空間が少しずつ歪んできました。「おばあさん、何…何するんですか?」
「ほんのちょっとの間、時間をさかのぼっておくれ。皆も一緒だからね。さあ、飛ぶよ!!」
「うわあ~~~」
加奈は体がぐるぐる回転しているような感じがしました。回りの景色が凄く歪んで見えて気持悪いくらいでした。加奈は不思議な感覚を感じました。一体、どこに向かっているのでしょうか。
2015年12月26日
第3章 星の紋章 第6話 -タルタロスの影-
銀星のタルタロスよりは、半分の大きさではありますが、シリウスの武器で傷つけても、弱るどころか、赤い目はさらに鋭く輝き、その強さは尋常ではありませんでした。
くねくねした体の管は、シリウスの体を巻きつけていきます。このままでは、シリウスはあのタルタロスの電流にやられてしまいます。頭の部分がぐるぐると動き、風のような魔法を使うので、加奈が星の弓を使いたくても、体ごと飛ばされて傷だらけになるだけでした。
タルタロスの目が不気味に光り、加奈を方を睨みつけました。その時、加奈の心に声が響いてきました。
加奈は、その声が水竜であることに気づき、水竜の眼球をタルタロスの目に向かって投げつけました。
「グガアァ~!!」
水竜の眼球がタルタロスの目に当たり、苦しそうにもがきました。タルタロスの片目は潰れ、動きが鈍ってきました。加奈は、タルタロスが苦しんでいる時がチャンスと思いました。
タルタロスの目と目の間が鈍く光っている所があり、加奈は、そこに狙いを定め、星の弓を引きました。
「グカガアァ~」
矢は命中し、タルタロスは苦しみのあまり、シリウスを離しました。しかし、タルタロスはしぶとく、やたらめったら風の魔法を使うので、シリウスと加奈は、飛ばされないように、後ろへ下がりました。
岩がバリバリと音を立て崩れ、このままでは、埋もれてしまう危険があります。
その時です!! どこからともなく、巨大ムカデが現れました。そのムカデこそ、加奈が助けた巨大ムカデでした。タルタロスの体に巻き付き、締め付けていくではありませんか!! 壮絶な戦いが始まりました。タルタロスの管も、ムカデを締め付けていきます。
苦しみもがく互いのモンスターの声が、洞窟の中をこだましていきます。加奈は、胸が締め付けられる思いがしました。
“ムカデを助けなければ”
加奈はなるべく近くに行き、タルタロスの急所を探しました。やはり、血の目だと思い、精神を集中して、星の弓を引きました。星の弓は加奈の強い心に反応して、金色の矢がタルタロスの目を目がけて射抜きました。
「グガガグガカア~~!! ギャアァ~~!!」
タルタロスは苦しみもがき、巨大な体が後方へ倒れ、動かなくなりました。
「加奈、まだ近づくと危ないぞ!!」
加奈は、シリウスの声を振り切り、ムカデの元へ走り寄りました。気づけば、巨大ムカデも大ケガを負い、虫の息でした。加奈の溢れる涙が、ムカデの体に降り注ぎ、ムカデはうっすらと目をあけました。
するとどうでしょう。巨大ムカデが、一人の少年に変わっていくではありませんか。
“ありがとう。君のおかげで…これで、これで、人として、天に行けます。”
少年は、嬉しそうな笑顔を加奈に向けると、静かに目を閉じました…。美しい金髪の青い空のような瞳のやさしい顔の少年が、何故、巨大ムカデになってしまったのでしょうか。
しかし、少年の顔は、とても穏やかでした。立ちつくす加奈に、シリウスは独り言のように話し始めました。
「この少年も、タルタロスの犠牲者だ。下手をすれば俺たちも、彼のようなモンスターになり、一生を獣の心で終わっていたかもしれない。」
信じられない事実を突き付けられて、頭の中はパニック状態でしたが、バリバリと洞窟は音を立て、崩れかかっていました。
モンスターを倒すと、目の前の大きな扉が開き始めました。しかし、シリウスと加奈の足には、倒れたはずのタルタロスの管が、何重にも巻き付いて、動く事ができませんでした。
それだけでなく、倒れたタルタロスの下に、不思議な結界が張られ、息苦しくなってきました。
「くそっ、タルタロスの結界だ。この結界を破ることは不可能だ…」
「結界は、悪を遠ざけるものよ。これは、結界じゃないわ!! シリウス、お願い。私の唱える呪文を一緒に唱えて!! きっときっと、この結界を破ってみせるわ」
加奈は、ムカデの尾に刺さっていた剣を、タルタロスに突き刺しました。すると、タルタロスの体がみるみるうちに消えていき、足の管は解かれました。しかし、結界のために、その外へは出られませんでした。
加奈は呪文を唱え始めました。その不思議な呪文の言葉は、シリウスの心に強く響いてきました。
二人の強い思いが、呪文に力を与え、二人の陽のオーラが、陰のオーラを遠ざけて、タルタロスの結界が消えていきました。
封印の洞窟の入口の扉に向かって、二人は走りました。二人はようやく外に出ることが出来ました。
二人が扉から出た瞬間、扉は閉まり、激しい音とともに、洞窟の入口は崩れて、跡片も無くなってしまいました。そこに封印の洞窟の入口があったとは思えない程、崩れた山肌の後になってしまっていました。
荒野の景色でも、外の空気は澄んで、まばゆくなま暖かな風でも心地よく感じました。
随分、長い時間洞窟の中にいたような気もしましたが、外界はまだ明るいので、夜になるまでまだ間がありました。しかし、外に出られたからといって、安心は出来ません。夜になればなるほど、モンスターの数が増えて、猛毒を持つモンスターが現れるからです。夜になるまでに、町へ帰らねばなりません。
広い荒れた大地に、目標となる物は無く、無常にも、ヒュ~ヒュ~と風の音しか聞こえませんでした。しかし、空を見上げると、町で見た大きな衛星が二つ、ここでも見ることが出来ました。
シリウスは、衛星の位置から、町の方角を割り出しました。まずは、東の方向へ歩けばいいのですが、長い時間、モンスターとの戦いで、疲れ切った加奈を、歩かせるのは無理のような気がしました。ましてや、食べ物や飲み物もありません。昼間でもモンスターは現れます。
町へは反対の方向にはなりますが、小さな村があることを思い出しました。以前来た時に、何気なく立ち寄った村でした。
モンスターや盗賊などに、もし、襲われて、村人たちがいなくても、多少、緑の中にあるし、井戸や池もあり、そこで一日休めば、そこから野生馬を確保し、町へ戻る方が安全と思いました。
二人は、少し休んでから、西へ歩いていきました。疲れのためか、加奈は言葉少なめになっていました。体が鉛のように重く、口がカサカサに乾き、それなのに、汗がびっしょりととめどなく流れ、周りの景色がグラグラと回転して見えました。
「加奈、どうした!! 大丈夫か!!」
シリウスの声がしたかと思ったのですが、返事をしようと思った瞬間、強いめまいで意識を失いそうでした。その時、加奈はまた、あの声を聞きました。
「ウォ~ウォ~」
という、あの恐ろしいタルタロスの声を!
空の上に、タルタロスの目が不気味に光るのを、加奈は感じとっていました。タルタロスの影は、シリウスと加奈に覆いかぶさって、暗黒の闇の中へ引きずり込もうとしていました。
その影から、シリウスと加奈は、逃れることは出来るのでしょうか…。
2015年12月06日
第3章 星の紋章 第5話 -苦難の道筋-
二人の目の前にそそり立つように巨大な氷の扉が立ちはだかっていました。氷の扉にも、今まで同様に同じ模様が描かれていました。
二人が近づくと、触りもしないのに、ゆっくりと氷の扉は開きました。しかし、その先の風景は、恐ろしい氷の世界でした。
氷の柱がガターンガタッと上下に動き、その振動で、上のつららがバラバラと崩れ落ち、道があっても無いようなものでした。氷の柱を通り抜けなければ、先へ進む事は出来ません。
シリウスは、腕組みをしたまま、その場から動かずにいました。何かを考え込んでいるのでしょうか。
寒いせいか、吐く息も白く、体も冷たくなってきました。
氷の柱の上下する音と、つららが落ちる音が、交互に聞こえてきて、その中間地点でモンスターもこちらをうかがっていました。シリウスは、マントを脱ぎ去り、加奈を包みました。
「うわあ、何するの?」
「今回は、抱いていくぞ。モンスターとも戦わないといけないから、悪いが、少しきつめにひもで結ぶからな」
「ええ~!? 今度は抱っこ~!?」
躊躇する加奈に、シリウスは、強引に加奈を抱き寄せ、ひもで加奈をしっかりと縛りました。
「加奈、つららの氷が飛び散るかもしれないから、なるべく目を開けないほうがいい。さあ、行くぞ!」
シリウスは、変った形の鎖の付いたブーメランを両手に持ちました。氷の柱をブーメランで壊して、その開いた隙間を素早く渡り、襲いかかるモンスターには、もう一方のブーメランで倒していきました。
加奈は固く目を閉じてはいましたが、氷の柱のくずれる音と、モンスターの恐ろしい鳴き声が、嫌でも耳に入ってきます。
強く抱かれているので、シリウスの激しく鼓動する心臓の音が、加奈に体に響いてきます。
シリウスが激しく動く都度、加奈の体も上下左右に動くので、頭がくらくらしてきました。ようやくシリウスの動きが止まったので、加奈は恐る恐る目を開けました。シリウスは、氷の谷と谷の間で、立ち止まっていました。シリウスは、加奈を下へ降ろすと、今度は縄で自分の腰と加奈の腰に巻きつけました。
「加奈、氷はすごく滑るから、ゆっくり歩くんだ。途中に動く氷の岩がある。滑るとその下は奈落の底だ。いいか、もし落ちそうになったら、俺が縄で引っ張り上げるが、なるべく落ちないように、注意深く岩に乗るんだぞ」
シリウスにそう言われたものの、氷の地面はツルリツルリと滑るし、歩くことさえままならないのに、動く氷の岩に飛び乗ることなんて、至難の業としか言いようがありません。 動く氷の岩は、よく見ると、場所が決まっていて、上手に乗れば、向こう側へ行けそうですが、違う方向に乗ると、また戻ってきてしまい、やり直しする必要がありました。
右へ右へ左へ左へ左へ右へ、そして、一度少し戻る岩へ乗って上下に動く岩に乗って、下へ降りたところで、次に動く岩に飛び乗れば、あとは向こう側まで行けそうです。
「な…なんか、この場面、どこかで見たような」
まさか、加奈は現実にこんな状態になるとは、夢にも思いませんでしたが、頭で分かっていても、体が動くか不安でたまりませんでした。
岩に飛び乗る都度、足が滑り、下へ落ちそうになりました。シリウスがひもで引っ張ってくれるのですが、腰に巻いた縄は、キリキリと喰い込んで、痛いほどでした。
どうにか半分くらい来た所で、つい、加奈は下を見てしまいました。下から冷たい冷気が吹いて来ますが、下は、恐ろしいほどの暗黒の世界でした。
加奈は、心が折れそうになりました。体も冷えて、手足も凍傷になりかかっていました。まつ毛も凍り、瞬きも痛い位です。
“もう、いやだ。もう、動けない。もう、だめだ”
加奈の心に絶望の渦が襲いかかってきました。
「加奈! 下を見るな! こんな暗い洞窟の中でくたばるつもりか! サタンに永遠に加奈を捜させるつもりか!」
シリウスの言葉に加奈は、はっと我に返りました。そして、意を決して、次の氷に岩に飛び移りました。
氷の岩は、深い穴の上を、ギィ~ギィ~と音を立て動いています。時おり、小さな岩が大きな岩とぶつかって粉々になり、下へ落ちていきます。ヒュ~と下へ落ちる音しか聞こえず、穴の下がどれほど深いか、知る術もありませんでした。
やっとのことで氷の岩から解放され、平坦な雪の道へと変わり、シリウスも加奈も安堵の表情になりました。ようやく上の道になった時、モンスターの気配が消えたので、二人は腰をおろし、残りの半分のパンと干し肉を食べました。
パンはパサパサになっていましたが、それでも加奈はとても美味しく感じました。
「少し横になった方がいい。多分、次の間が最後の難関だ。そこを過ぎれば出口だ。加奈、おいで」
シリウスは、自分のマントの中へ加奈を抱き寄せました。そして、冷たくなった加奈の手足に息を吹きかけ、自分の手でやさしく包み込みました。
シリウスの温かな胸元に抱かれて、加奈は安心したのか、眠りの世界へ入っていきました。
シリウスは、小さくて華奢な体の加奈を見つめていました。強く抱きしめれば、折れそうな位の加奈を何故、サタンが面倒を見ているのか、わかるような気がしました。そして、きっと加奈をサタンの元へ送り届けなければと、強く思うのでした。
静かな音の無い洞窟に、時折、かすかに音が響いています。その音が時間が増すごとに、不気味な音がはっきりと聞こえるようになりました。
「ウォ~ウォ~」
その不気味な声に、加奈は目を覚ましました。その声は、洞窟に描かれていたタルタロスの声と同じで、加奈は恐怖で青ざめてしまいました。
「加奈、扉を守っているモンスターがいる。そのモンスターは、凄く強い。生半可の武器では体に傷をつけることも不可能だ。しかし、どんなモンスターでも、弱点がある。そこを狙えば、勝てる可能性が出てくる。決して恐れるな、ひるむな、あきらめるな。いいな、加奈」
シリウスと加奈は、もう一度身支度を整え、シリウスは自分の荷物から、小さな槍を取り出しました。シリウスが槍を手に取ると、光を発し、どんどん大きくなって槍の部分が大きな鎌の形へと変化していきました。
加奈はリュックから、星の弓を取り出しました。すると、星の弓は、キラキラと光り始め、いつも以上に強靭な弓の姿へと変化していきました。
シリウスは、その弓を見て、言葉を失いました。シリウスはその弓を知っていました。伝説の星の弓、その弓を扱うことが出来るのは、ごく限られた者だけで、その星の弓の最初の持ち主であるルナ王女は、シリウスの亡き母だったのです!
「加奈、その弓…誰に貰った?」
「この弓? 竜星のおじいさんだけど…シリウスもこの弓も知っているの?」
「加奈、その弓は危険だ。使わない方がいい!!」
「うん、分かっている。この星の弓を使うと体が凄く疲れるもの。だから、本当に危険な時しか使わないようにしているよ。光の矢だけは絶対使わないようにって、言われているけれど…」
シリウスは、巡り巡って母の弓と出会うとは思ってもみませんでした。光の矢を使ったばかりに心が破壊され、自分の心を失ったまま、シリウスの父と結婚し、自分を生んですぐに死んでしまった母…。母の顔も知らず、すぐに別の女性と結婚した父を憎み続けたシリウスだったのです。
その後、ロミオが生まれ、シリウスは自分の居場所が無くなりつつあることに気づき、追われるように銀星へと旅立ったのでした。そして、銀星の主がタルタロスで、そこでサタンとルーディヒに出会ったのでした。
星虹国に所属する騎士になるための修行の星と言われ、本来は王族以外で15才で行くことになっていました。
3年間の修行が終われば、帰還となるはずですが、大半は挫折し、違う星に送られることになっていました。王族でもあったサタン、ルーディヒ、シリウスは、もともと武道に優れ、どの武器でもすぐに上達して、過酷な訓練を耐え続けていたのです。
しかし、強さを要求されるが故に、3人とも体を改造されてしまったのでした。他にも改造された少年たちがいましたが、異常反応が起きてしまうことも多かったのです。
そんな恐ろしい星であることなど、誰が予測出来たでしょうか。銀星での事は、決して口外しないように、帰還の時に記憶を消されてしまうので、誰も真実を語ることは出来ませんでした。
しかし、銀星内での異常な磁場のせいで、銀星内の施設がことごとく破壊されてしまったのでした。
命からがら3人は、銀星から脱出出来たものの、記憶は消されてはいなかったので、タルタロスの手から、逃れることは不可能でした。まして、タルタロスの一部が体の中にある以上、それぞれの国の星に戻ることなど、出来ませんでした。
サタンは、宇宙の暗殺者と呼ばれ、ルーディヒは海賊となり、シリウスは宇宙をさまよう暗黒の死神と呼ばれるようになってしまいました。
人並み以上に強かったこともありますが、3人とも自分ではコントロール出来ない心の闇と戦わなければならなかったのです。
しかし、今は、この強さに感謝していました。自分の心を見失わないように、力を覚醒させる必要がありました。人前でこの力を出すのは初めてでしたが、加奈なら大丈夫と思いました。
シリウスは目を閉じ集中しました。少しづつ体が熱くなって来ました。シリウスの体から青いオーラが広がって、青い色の髪が逆立ち、青い瞳が鋭く燃えるような赤い目と変化していきました。
加奈はシリウスの体が徐々に恐ろしく変わっていくのを、まばたきもせず見つめていました。一体、何が起こっているのか、頭の中が真っ白になってしまいました。
シリウスは、そのまま扉の前に立ち、深く息を吸い込むと、強い気で岩の扉を押し倒していきました。
ガラガラ~と大きな音を立て、岩の扉は崩れていきました。激しく崩れていったので、砂ぼこりであたりを白く濁してはいましたが、その先に不気味な音の主が現れてきました。
ゆっくりと頭をもたげ、加奈たちをあざ笑うかのように、血の色の大きな目が、二人を捉えました。
その姿も、あのタルタロスと同じモンスターだったのです。
「ウォ~ウォ~」と声を発し、脳みそのような頭から電流が流れ、タルタロスの長い管が、加奈たちの方へ伸びていきました。
シリウスのブーメランがその管を切り裂きましたが、後から後から管が伸びてきて、キリがありませんでした。
シリウスの体から、青い炎が大きく広がっていきました。手に大きな鎌を持ち、タルタロスへと立ち向かっていきました。
あのタルタロスと同じモンスターを倒さなければ、外へ出ることは出来ません。
モンスターの声が勝ち誇ったように、加奈の体中に響いてきました。震える手で星の弓を持ち、加奈もタルタロスへと立ち向かっていくのでした。
2015年11月21日
第3章 星の紋章 第4話 -星の紋章の剣-
「そう言えば、お前、ルーディヒに聞いたが、サタンと一緒だったらしいな」
「え?」
「人と関わるのを嫌うサタンが、まして女のお前と一緒にいるなんて、信じられないことだ」
「あなた、サタンを知っているの?」
「サタンと俺とルーディヒは、訳ありでね…」
「???」
「あまり、サタンと長くいない方がいい。お互いのためにな。さあ、少し寝てから先へ進もう。この扉を開けたら、当分、休めないからな」
男はそう言うと、ゴロリと横になって目をつぶってしまいました。
加奈は、とても眠ることなど出来ませんでした。サタンとルーディヒ、そしてこの男の人は、なんで互いに知っているのだろうと。そして皆、とても強くて、一種独特の冷たさがあり、どこか暗い影を背負っているような気がしてなりませんでした。
男の寝息が聞こえてきました。
加奈は滝壺から水の流れではない、何か変な音がするのに気がつきました。
そっと滝の内側から外を見ると、水の中から大きなヘビが現れました。そのヘビは口に剣をくわえています。そして、じっと加奈の方を見つめたまま、動こうともしませんでした。
加奈は誘われるように滝壺の方へ歩いて行くと、ヘビが加奈の方へ近寄ってきました。
真っ白な美しいヘビでした。吸い込まれそうな深い青色の眼が加奈に何かを訴えているような感じで、加奈もそのヘビを見つめていました。
するとヘビは不思議な剣を加奈の足元に置くと、又、水の中へ消えていきました。
その剣はとても美しく、細く、持ち手の所に星のマークがありました。
不思議な事ばかり起こるのは、何故なのでしょうか。失われた文明の強い意志がそうさせているのでしょうか。
頭蓋骨の悲しい目に涙…、そして、タルタロスの壁画は、その文明が消滅した何かの要因であったのかもしれないと、加奈は思わずにはいられませんでした。
男の呼ぶ声が聞こえました。あわてて岩をよじ登り、さっきいた空洞の所まで戻りました。男は加奈の持っていた剣に、何の関心を示すことはありませんでした。最初から持っていたと思ったのかも知れません。
「そろそろ行くぞ。俺はシリウスだ。お前は?」
「加奈よ」
「よし、気を引きしめて行くぞ」
「ハイ!!」
模様の入った扉を開けると、中は滝の中とは思えないほど、迷路になっていました。
やけに熱く、ところどころにボコボコと地獄谷のような赤い炎も見えます。道は曲がりくねって、途中で途切れている所もあります。その熱いドロドロとした沼のような場所から、モンスターが顔を出して、加奈たちの方を見ていました。
「チッ! 思ったよりモンスターが多いな。右側から行けば、近道になりそうだが、道があそこで分かれている…。左側から行くと、その先の道から離れてしまう…」
「汗が止まらない…。うう…、熱中症になりそう…」
「大丈夫か? よし、お前、おぶされ」
「ええ~?? また~!?」
「またって…初めてだろうが…。ほら、早くしろ」
「いつもおんぶだ、ぶつぶつ…」
「何ブツブツ言ってる。炎の右側から行くか。途中で沼地を越えねばならない。顔を火傷しないように、熱いが俺のマントで全体を被せるからな。よし、行くぞ!!」
男は加奈をおぶさり、マントで加奈を包み、すごい勢いで炎の道をモンスターを倒しながら、通り抜けました。
ゴォ~ゴォ~と時おり火柱が出て、熱い熱気が加奈たちを襲います。マントの中の加奈は、蒸し風呂状態でフラフラしそうでしたが、マントのおかげで、火傷しないで済みました。
ようやく熱い炎から解放されましたが、二人とも汗びっしょりでした。せっかく炎の道を越えてはきましたが、岩と岩が互い違いになって、先の道をふさいでいました。
「岩の隙間から光へ行く道が、かすかに見えるが…どうしたものか…」
よく見ると、岩の隙間が何か剣の形のように見えました。それもヘビがくれた剣の形と似ています。加奈はその隙間に剣を差し込んでみました。するとどうでしょう。剣はぴったりと収まるではありませんか。
剣から光が発すると、岩はギリギリと音を立てながら開いていきました。
「うわあ~、この岩の扉を開けるための剣だったのね。何か不思議な形の剣だと思ったけど…」
「加奈、その剣は…?」
加奈は、滝壺のヘビの話をしました。シリウスはびっくりすることも無く、何か考え込んでいました。
「伝承の通りだとすると、剣の間に入っているみたいだな」
「伝承って?」
「神殿とは別に、同じ意味を持つ、剣の神殿というのを聞いたことがある。本当の神殿を守るための隠れみの神殿とも言うらしいが、問題は、入口を守っているモンスターだな…」
シリウスの言うにも増して真剣な顔に、加奈は少し不安になってきました。
どんどん歩いて行くと、先の道は二手に分かれていました。ここまでは、モンスターは襲ってこないので、少し休むことにしました。加奈はリュックから宿屋のおじさんに、もらったパンと飲み物、干し肉を出しました。
「用意がいいな」
「宿屋のおじさんにもらったの。はい、パンと干し肉、半分づつね」
「助かるよ、体力をつけとかないと後がもたないからな。でも、全部食べないで、半分にして、次の休む場所まで取っておいた方がいい」
そう言うと、シリウスは例の短剣で、パンと干し肉を半分にしました。やはりシリウスの短剣は、ロミオと同じ物で、思い切って加奈はロミオからもらった短剣を、シリウスに見せました。シリウスはびっくりして、加奈を見ました。
「なんで加奈がこの短剣を持っているんだ!?」
「この短剣、そんなに大事な物なの?」
「この短剣は、身分を示す物さ。でも今となっては、もう国は無くなるから、ただの短剣に過ぎないけどね」
「シリウスはロミオと兄弟なの? この短剣、ロミオからもらったの」
「ええー?? ロミオからもらったのか。それじゃあ、加奈はロミオの許嫁なのか?」
「い…い…許嫁~??」
「なんだ、知らなかったのか。この短剣は、持ち主から女性に渡す場合、愛情表現にも使う物なんだ。ロミオも見かけによらず、やるな」
「ち…違います!!」
「アハハ、そんなにムキにならなくても、かえって怪しいぞ」
シリウスは、ロミオと兄弟だったとは不思議な縁のように思えましたが、そんな大事な短剣を何故、加奈にくれたのでしょうか…。
シリウスが、先に言って、二つの道の様子を見てきたところ、両方に装置らしき物があり、一度踏んでもスイッチから離れると元に戻るようになっているため、別々に行く必要がありました。
危険ではありますが、加奈は一人で装置の所まで、行かねばなりませんでした。
「この辺のモンスターは毒を持っている。鳥系はいないから、なるべく下に注意しろ。そんなに素早くモンスターは動かないから、見つけたらやっつけろ。毒を持っているから、石を投げるんだ。なるべく頭を狙え、気絶している間に装置まで進んで、スイッチの上に乗れば、次の部屋の扉が開く。扉が開き始めたら、迷わず一気に走れ。いいな、素早くだ。すぐに閉まってしまうから、気をつけろ」
加奈はポケットに石ころをいっぱい詰めました。
「いいか、行くぞ!!」
シリウスと同時に加奈も走りました。
下に注意しながら走っていくと、前方からキイキイと変な声がしました。ムカデのようなモンスターが、結構たくさん加奈の方へ近づいてくるのがわかりました。
「き…気持ち悪い…くねくねして黒くて口がやけに大きい…」
加奈はなるべくムカデモンスターの頭を狙い、石を投げつけました。モンスターは変な液体を吐き出しながら、動かなくなりました。その液体を踏まないように、加奈はモンスターの上を飛び越えました。
モンスターの気配が無くなり、やれやれと思った矢先、一部崩れかかった橋がありました。他に道は無く、橋は今にも下へ落ちそうな位もろく、湿度が高いせいか、滑りやすくなっていました。
加奈は注意深く渡って行きましたが、すごく揺れるし、下の木は腐りかかって、歩く都度、バリバリと思がして、生きた心地がしませんでした。どうにか渡りきったと思ったら、橋は、バリバリと音を立て、下の暗闇の中へと落ちていきました。
加奈は足がすくんでしまいました。一生懸命足を動かそうとしても、恐怖のために、動かなくなっていました。
「ど…ど…どうしよう。足が足が動かない…」
すると、かすかですが、声が聞こえて来ました。
「加奈~! あと、もう少しだ~!! 頑張るんだ、こんな所でへばるんじゃないぞ~!!」
シリウスの声でした。加奈はもう一度、足に力を入れました。どうにか足が動くようになり、又、走り始めました。
ようやく装置の所まで来ましたが、今度は黒い大きなムカデのモンスターが、オレンジ色の口からダラダラと液体を流しながら、加奈に向かって今にも遅いかかってきそうでした。
「キャア~! ムカデのおばけ~!? 気持ちわる…あれ、何か変だわ…」
よく見ると、その大きなムカデは、ひどく苦しそうでした。長い尾の所に剣が突き刺さり、動けないようでした。
加奈が近づいても、遅いかかるどころか、苦しそうな声を出していました。そのムカデがいるために、装置のスイッチの所まで行けそうにありません。
加奈は意を決して、ぬるぬるしたムカデの上によじ登り、尾の先にある剣を手に取り、一気に抜き取りました。
刺さった所から、ムカデの血が流れ出て、加奈は自分の腰のスカーフをぐるぐると巻いて、血が止まるように、少しきつく、結んであげました。
大きいムカデのモンスターは、ホッとしたような顔をして、加奈をじ~っと見つめると、さっきの橋の方へと去っていきました。
「こ…怖かった…早く、早くスイッチ踏まないと」
丸い大きなスイッチらしき物を踏むと、ゴゴゴーォっというすごい音と共に、目の前の石の扉が開き始めました。
「加奈、全部開き終えたら、一気に扉に向かって走れ。スイッチから離れると、又、扉が閉まる、気をつけろ~!」
シリウスの声が、又、聞こえてきました。
石の扉がガタンと大きな音をたて、全部開き終えた感じでした。加奈は扉目がけて全速力で走りました。
加奈が装置から足を離した瞬間、石の扉は、ゴゴゴーっと締まり始めました。開く時より閉まる時の方が、早いので、もうダメだと思った瞬間、シリウスが、加奈の手をつかみ、素早く引っ張ってくれたおかげで、石の扉から出ることが出来ました。
「う…疲れた…危なかった。シリウス、ありがとう…」
加奈は、ゼイゼイ言いながら、その場に座り込んでしまいました。
随分と歩いたつもりでしたが、まだ洞窟は深く、本当に出口へたどり着くことが出来るのか、加奈は心配になってきました。
シリウスは、加奈が持っていた剣に血がついているのに気がつきました。
「加奈、その剣とその血はどうした!?」
「あ、これ、巨大ムカデのモンスターの尾に突き刺さっていたから、取ってあげたの。すごく苦しそうだったから」
「何!? 襲われなかったのか!」
「だって、瀕死の状態だったし、襲うどころでは無かったと思うわ。わあ~、血がべっとり…あっ、モンスター、大丈夫だったかしら」
シリウスは、加奈の言葉が信じられませんでした。下手をすれば、自分の命が危ないと言うのに、モンスターを助けるとは、なんて変わった少女なのだろうと思いました。
それに、モンスターに突き刺さった剣が、どこかで見たような感じがしました。
「ねぇ、シリウス。この剣も何かの仕掛けの鍵かしら?」
「血は拭き取った方がいい。それと、これを口に含んで、ゆっくりと噛んでから飲み込むんだ」
「この草は何?」
「モンスターの体を触ったのだろう。モンスターの毒が付いていたら大変だ。解毒の草だ」
「グゲェ~、にが~~い、ひどい味~、これ…飲み込みの?」
「我慢して飲み込め」
加奈は必死になって草を噛んで、あまりの苦さと不味さに涙を流しながら、やっとのことで飲み込みました。
二人は、先の道を注意深く進んでいくと、だんだん道の幅が狭くなってきました。体をかがんで歩かないと、先へ進めないので、腰も痛くなってきました。
「うう…、腰が…腰が痛いよ~」
「いい若い者が、泣き言を言うな」
「あ、そうだ。四つん這いで歩けばいいんだ。う~ん、やっぱり腰が痛い! ねえ、シリウス、あとどの位で広い所へ出るのかしら。もう、限界」
「情けないな…やれやれ」
その時、前方から冷たい冷気が吹いて来ました。道は広くなって、ようやく立ち上がって、歩けるようになったものの、急に冷え込んで来ました。
「な…なんか、すごく寒くなって来たけど」
「あ…あれは!?」
二人の目の前にあった物とは…!?
2015年11月07日
第3章 星の紋章 第3話 -天空の矢じり-
ポタポタと水滴が落ちて来ました。
加奈の顔に落ちて、冷たい水が頬を濡らします。
加奈は、自分が何故ここにいるのか、良く分かりませんでしたが、意識がはっきりしてくると、穴の中へ落ちてしまったことに気づかされました。
「いたたた…、お尻痛い。高い所でも、あんなに上から落ちたのに、骨が折れてなくて良かった…。骨折していたら、命とりだわ。あ、荷物、荷物は大丈夫かしら…」
リュックの中もみな無事でした。星の弓も折れていなかったので、加奈は胸をなでおろしました。深い穴に落ちていたというのに、中は意外と明るく、浅い川が流れていました。上を見ると、落ちた穴が、かすかに小さく見えました。
周りに、小さな土器や美しいガラスの瓶が散乱していました。
「なんでこんな穴の中に人の作る物があるのかしら。わあ~、この小さな瓶、すごくきれい…。星屑の瓶みたい。何か使えるかもしれないから、何個か持って行こう。この土器も軽いから、少し持って行こう」
加奈は、川で土器と瓶をよく洗い、リュックの中へ入れました。
しかし、ここから出るには、どうしたらいいのでしょうか。一緒に落ちたはずなのに、馬車も他の人も見当たりませんでした。
周りを見渡すと、川上と川下に道は分かれていました。ここはちょうど中間地点なのでしょうか…。幸い、モンスターの気配はありません。
どちらの道を取るかで、加奈の運命が決まってしまいそうで、少し、中の様子を探ろうと思いました。
川上から水が激しく流れる音がして、少し歩くと洞窟の中なのに、大きな滝がありました。凄い幅広の滝でよく見ると、滝の間に人が一人通れるような道があり、かすかに滝の中央に、穴が見えました。
加奈は、石の階段のようなものをよじ登り、滝の中の道を滑らないように少しずつ歩いて行きました。すると不思議な扉みたいなものがあり、変った模様が描かれていました。
「これ、自然のものじゃないわ。誰かが作った感じ。」
加奈が、その模様を触ると、ギィ~っと扉が開きました。
「うわ…扉開いたけど…中は、どうなっているのかしら…」
好奇心旺盛な加奈は、穴に落ちたことも忘れて、中に入っていきました。
加奈が、中に入った瞬間、扉がバタンと閉まってしまいました。
「キャア~、 イヤだ、閉まっちゃった!! ど…どうしよう…」
「ウォー、ウォー」
と、変な声がしてきます。
「何?何か、いるのかな…」
穴の中は、思ったより広く、両側に変わった壁画が描かれていました。まっすぐと道が次の扉まで続いていました。
ひかり苔なのか中は明るく、歩いていくと何かが足に引っ掛かりました。
「痛い! 何、この大きな白…キャア~、が、頭蓋骨がいっぱい~~~」
至るとことに頭蓋骨がいっぱい散らばっていて、もう先へ進むしかなく、変った絵の扉を触ると、ギィ~っと第2の扉が開きました。
目の前にピラミッド型の台があり、上に何かを祭っているような感じです。そこは何か神殿のような感じで、右側と左側に大きな壁画がありました。
その壁画を見て、加奈は凍りつく思いでした。その壁画は銀星のタルタロスそっくりだったのです。赤い目を見開き、まるで、あざ笑うような顔…。その回りに多くの人間が逃げまどう、恐ろしい絵でした。
反対側の絵は、弓を構える戦いの女神の壁画でした。美しい盾を片手に、弓の矢じりに蔦のような草が巻かれ、星図がいっぱい描かれていました。
いったいこの二つの絵は、何を表しているのでしょうか。
随分、昔から描かれているようで、色の彩度もだいぶ薄くなっているし、長年の岩の変色で、絵も所々、欠け落ちている所もあります。
それなのに、タルタロスは何故、銀星にいるのでしょうか。加奈は何かすごく嫌な予感とサタンのことが心配になってきました。
「ウォ~、ウォ~」
と又、変な声がしまして、その声がだんだんと大きくなり、地面がズズ、ズズンと揺れ始めました。
「じ…地震、凄い揺れ、危ないわ。ここにいると、絵の岩が崩れてくるわ。早く出ないと!!」
突然、背中のあたりから、すごく熱くなって来ました。加奈がリュックを開けると、星の弓が何かと反応しているのでしょうか、だんだん大きくなっていつにも増して光り始めました。
同時に、ピラミッドの台が崩れ落ち、その上から、七色に輝く矢じりが星の弓めがけて近づいてくるではありませんか。星の弓の光の渦が、七色の矢じりを包み込み、その矢じりが、星の弓の中に吸い込まれてしまいました。
吸い込まれた後、右側に描かれたタルタロスの赤い目が、ギロリと加奈を睨みつけたような感じがしました。
「ウォ~、ウォ~」
という、不気味な声は、そこから聞こえてくるような気がしました。
すると、タルタロスの管が、加奈めがけて壁画の中から伸びてくるではありませんか。加奈は恐怖と恐ろしさで、体が硬直して動けなくなってしまいました。
もうダメだ、と思った瞬間、左側の戦いの女神の絵から矢が放たれ、タルタロスの管は溶けてしまいました。女神の絵から声が聞こえてきました。
“さあ、今のうちに早く、ここから出るのです。強靭の盾、錬金を重ねタルタロスの炎に耐える盾を、その天空の矢じりに命の源、グリーン生命体を含んだ繭玉で作った…”
そこまで言うと、又、タルタロスの管が伸びて女神の口を塞いでしまいました。そこから、めらめらと炎があがり、あっという間に壁画の絵が溶けていってしまいました。
加奈は死に物狂いで第2の扉から出ました。加奈が扉から出た瞬間、扉が閉まり、崩れ落ちていくすごい音がしました。
もう声は聞こえては来ませんでした。
「た…助かった…でも…」
最初の扉は、まだ閉じられたままでした。この狭い空間で、外に出ようと思っても、出口さえもなく、加奈はその場所にへたり込んでしまいました。
すると、まわりに散らばっている頭蓋骨が、カチカチと口を開けながら加奈のそばに寄ってくるではありませんか。
「キャー、ず…頭蓋骨が…う、動いた…」
真っ青になった加奈は、体中が震えるのを必死に両手で押さえ、短剣を構えました。
「そばに来ないで~~~!!」
すると、頭蓋骨がしゃべり始めました。
〝カワシモノ、タキノナカ、ツルギノマ〟
〝3ツノツルギト、3ツノケッカイノモン〟
〝フウインノドウクツノイリグチ、モンスター〟
〝フウインノドウクツ、ホシノモンショウ〟
〝ノロイヲケシテ〟
そう言いながら、頭蓋骨はカタカタと口を開けながら何度も繰り返すのでした。頭蓋骨の目から、涙が流れているのに、加奈は気づきました。加奈は、頭蓋骨に向かって、やさしく返事を返しました。
「わかったわ、やってみる。だから、静かに安心して眠ってね」
加奈がそう言うと、最初の扉がゆっくりと開きました。頭蓋骨はもう何も言わず、動くこともしませんでした。
加奈が扉から出ると、又、崩れ落ちる音がして、扉の模様も消えてただの岩だけになってしまいました。キツネに包まれているような錯覚を感じました。
「穴に落ちて、幻覚を見るようになったのかしら…あまりにも不思議なことばかりで、なんか頭が変になりそう…」
加奈は少し、疲れて来ました。落ちた場所まで戻って休んでから、今度は川下の方へ行ってみようと思いました。お腹も空いてきたし、宿屋のおじさんにもらったパンと干し肉を食べようともと来た道を戻って行きました。
歩いていくうちに、川の水が少し増えたような感じがしました。流れもさっきより速くなったようで、加奈はちょっと不安になってきました。足は疲れているけれど、もう少し、先へ行こうと思った時、前方に人が歩いて行くのが見えました。
加奈は嬉しくなって、その人の所まで走っていきました。
「お~い!! あなたも馬車から落ちたの?」
「え?」
その人が振り返った時、加奈は思わず叫んでしまいました。
「あ~~~!! 感じの悪い男!! あ…」
ロミオと同じ短剣を持っていた不愉快な男でしたので、つい、口が滑ってしまい、慌てて口を押えましたが、後の祭りでした。
「なんだ、ガキじゃないか。感じが悪くて悪かったな」
「ご…ごめんさない。だって、ガキガキってばかり言うんですもの」
「??? 言うんですものって… お前、男でなくて女だったのか!」
「あっ…、しまった…」
加奈は頭を真っ赤にしてオロオロしてしまいました。その様子を見て、男は何故かクスクスと笑って、その笑い顔が、しかめっ面顔の時と違い、気さくな感じの青年にも見えて来ました。
「アルディ星では、確かに女だとマズイこともあるけれど、子供なら別に関係ないと思うけどな」
「また!! 私、これでも15才なのよ」
「ええ~!! 10才くらいかと思ったよ、悪かったな。それより出口を早く探さないと水のかさが増えて来ている。このままだと危険だ。川下の方へ行けば、確か封印の洞窟の入口へ通じる道があったはずだが…」
「ええ~~?? 封印の洞窟!!」
「ああ、ここは、失われた文明の地だ。高度の技術と優れた天文の知識があって何千年も続いたという話だが、まだ確証的なものは発見されていない。お宝マニアか、この星に来ては探してりうらしいが、お宝は見つかっていないみたいだ。しかし、いろんな宇宙船の部品が見つかるから、そっちを目当てに来る輩も多いけどな」
「宇宙船の部品?」
「ああ、その部品は、その文明の前のものらしいが…」
「???」
ふたりが話をしながら歩いていくと、急に道が途絶え、流れ落ちる川が見えました。下は滝壺です。滝壺から、その先に、まだ川は続いていますが、岩穴のようになって先の皮へは、とても狭くて行けません。
「まずいな…あの川の先が封印の洞窟へと通じる道があるはずなんだが…」
「あ…あの…滝の中には道はないのですか?」
「え? 滝の中に?」
男は、少し考え込んでから、回りを見渡し、近くの岩に持っていた縄を括り付け、自分の腰にもう一方の縄を巻きつけました。
それほど凄い水流ではなかったので、滝の間から大きな石を足場にしながら、男は滝を注意深く降りて行きました。男の姿が急に見えなくなりました。すると、
「お~い、中に通じる道があったぞ。今戻るから、待ってろ~!!」
男は一度戻ると、自分と加奈の体を縄で巻きつけると、慎重に滝を降りて行きました。滝の中に大きな空洞があり、その先は、やっぱりさっきと同じ模様の扉がありました。その空洞の中で、二人は腰を下ろしました。
「この先はモンスターの気配がするな。お前、少しは武器が使えるのか?」
「多少は…」
「あまり無理するなよ。俺より前に出るな。洞窟のモンスターは、外のモンスターより更に凶暴で、魔法を使う奴もいる。サンダーを使う奴がいる時は気をつけろ。体が痺れて一時的に体が麻痺するからな」
加奈はさっきの頭蓋骨の言葉を思い出していました。もし、ここが頭蓋骨の言っていた場所であったなら、剣の間で三つの結界の門もあるということ…。まるで謎解きのようで、先行き不安にもなりましたが、男がいることで気持ちも少し楽になるのでした。
さっきの壁画に描かれた女神の言っていたことも気になりました。確か、命の源グリーン生命体を含んだ繭玉と言っていたような…。タルタロスと天空の矢じり、それとグリーン生命体は、どこかで何かが繋がっているような気がして、サタンとの出会いが自分にとっては、何らかの意味があるような、そんな気がしてなりませんでした。
サタンに早く会いたい…。加奈は強く願わずにはいられませんでした。
2015年10月31日
第3章 星の紋章 第2話 -短剣の謎-
アルディ星が見えてきました。今までの星よりだいぶ小さくて、その周りに似たような惑星が何個か見えました。海賊船は、アルディの発着所に降り立ちました。
タラップを降りると、アルディは夜なのでしょうか。まあるい電灯が点いてはいるのですが、薄暗く遠くに町並みが見えてはいますが、やたら荷物が積み上がって不思議なところでした。
それでも人は多く、いろんな星の人が集まるらしく、何か特別な町なのでしょうか…。
「お頭、今日は、セティがいますから、酒場はマズイんじゃないんですか」
「なんで?」
「特に、アルディの酒場は、ガラの悪い連中が集まりますしね。前回もケンカになったじゃありませんか」
「そうだな…とばっちりを食わされたしな。それじゃあ、宿屋の方に行くか」
酒場の隣に宿屋らしき店がありましたが、暗いせいか、何か薄汚れている店で、店のドアを開けると、宿屋の一階の食堂も人であふれていました。
「いらっしゃい、お客さん。すいませんね、すごく混んでいるんで、席は廊下の方になってしまうんですがね」
「食べられればいいさ」
「不自由おかけする分、酒をサービスしますよ」
廊下の長机と椅子にぎゅうぎゅうに座って、窓に向かって座るので、加奈にとっては、夜空の星がよく見えるので、かえって良かったと思いました。でも、食事は何か油っこいのか、味が濃すぎてあまり食が進みませんでした。弓のおじいさんの野菜スープがとても懐かしく思い出されて、ついため息をついてしまいました。
「セティ、どうした。あまり食べてないじゃないか」
ルードィヒは、心配げにセティの顔を覗き込みました。
「え? う…ん、ちょっと、油っぽくて…」
「そうか? 確かに味は濃いな。ちょっと待ってろ」
ルードィヒは立ち上がって、食堂の主人の所へ行って、一言三言何か言ったようでした。しばらくして、主人が、どんぶりのような物を持って来ました。
「いや~、済まないね。最近、子供の客が少ないんで、つい大人用ばかりを作ってしまってね。ほれこれなら食べられると思うよ」
「す…すみません、おじさん」
「いいや、なんのなんの。子供はいっぱい食べないと大きくなれやしない。アハハ」
子供子供と言われて、加奈は苦笑いでしたが、どんぶりに盛ったドリヤみたいなスープは、とても美味でした。お米とは違いましたが、感触が似ていて、野菜のダシで煮込んであり、小さく刻んだいろんな野菜も沢山入って、ほんの少し、ピリッと香辛料も効いていました。
隣のルードィヒや他の船員たちも、ワイワイ、グイグイ、ザワザワと和やかな食事の時が流れていきました。
宿は客がいっぱいで、大部分で雑魚寝状態でしたが、疲れていたせいか、着のみ着のままぐっすりと寝てしまいました。
窓ガラスのカーテンの隙間から、光の筋が入ってきました。その明るさで、加奈は目を覚ましましたが、まだ朝も早いせいか、皆、ぐっすりと寝入っていました。
加奈は、そっと部屋を出ました。
宿屋の廊下を降りると、昨日の宿屋の主人が、朝の食事の仕込みをしていました。
「おや、早いね」
「おじさん、昨日はありがとう」
「いいや、今日はパンを焼いたから、スープと一緒に食べるといいよ。それと、外に出てもいいけど、町の外へは決して行ってはダメだよ。凶暴なモンスターがいるからね」
「ハイ、この辺だけにしときます」
「気を付けて、行っておいで」
加奈は、宿屋のドアを開けると、昨日とは違った風景が目に入りました。町といってもレンガ造りの四角い建物が立ち並び、土色の町でした。
馬かロバか牛か?何かわからない馬車がたくさん並んで、目の前は、いろんな宇宙船が降りたっていました。昼間でも、隣り合っていた惑星が大きく空にあり、青空と言うより黄色っぽい空の色でした。
町と外の境は、塀とかありませんでした。急な坂道の下が、外となり、町からは山とか海とか見えず、じゃりじゃりとした砂っぽい土の大地に形の変わった木々が間隔を置いて、生えていました。
「動くな!!」
急な声でびっくりして立ち止まっていると、足元で、大きなヘビのモンスターがいまにも加奈の足に噛み付こうとしていました。口を大きく開けた瞬間、短剣が飛んできてヘビの頭にグサリと刺さってヘビは声なくパタリと動かなくなりました。
「町だからと言って気を付けて歩かないとダメじゃないか」
後ろから、声の主は加奈の所まで歩いて来ました。そして、ヘビの頭から、短剣を取ると、ヘビの亡骸を遠くへ飛ばしました。
「ここは毒ヘビのモンスターが多いんだ。お前、この惑星が初めてのようだが、ここは特に、猛毒を持ったモンスターが多いんだ。その華奢な足を出して歩くなんて、命とりだぜ」「す…すみません」
加奈は男の顔より短剣の方が気になりました。その短剣は、竜星でロミオにもらった短剣とよく似ていたからです。
その男は、加奈の顔をじろりと見ました。
「お前、昨日、ルードィヒと一緒にいた坊主だろう」
「ぼ…坊主…!?」
「子供が一人でチョロチョロ歩くな」
そう言うと男は、さっさと町の外へ歩いて行きました。
「あの短剣、確かにロミオのと同じだったような気がする。何か、関係あるのかしら…」
加奈は、ルードィヒ達が心配していると思い、走って宿屋の方に戻りました。案の定、大騒ぎで加奈が戻ると、ルードィヒにひどく叱られてしまいました。叱られながら、加奈はサタンのことを思い出していました。すぐ戻るつもりか、城下町の方で、歩き回ってしまい、サタンに叱られ、頬を叩かれてしまったこと…あの時はひどくサタンに対して、腹も立ちましたが、とても心配していたのだと今になって、痛いほどわかるのでした。
朝の食事をしながら、加奈はさっきの男の事をルードィヒに話をしました。短剣のことを聞こうかと思いましたが、何故か言わない方が良いような気がして、自分で確かめうようと思いました。
「あいつとは腐れ縁だ。でも、腕は確かだ。でも、一番強いのは、サタンかもしれない。でも、この間のサタンはおかしかったな。剣に迷いがあった。今まで、一度もそんなことは無かったのに…。サタンらしくないと言えば、それまでだが…」
加奈は、その原因が自分にあるような気がしてなりませんでした。自分に会わなければ星虹銀河へ戻ることもなく、サラに会うこともなく、宇宙の旅を続けていたのに…。
加奈は、サタンに申し訳なく、謝っても謝りきれない自分が、情けないとも思うのでした。だが、いつか、今度は自分がサタンのために、何かをしてあげたいと思うのでした。
「セティ、外は危ないけど、一緒に連れていくよ。宿屋にいても、荒くれがいるし、一緒に方が安全だからな。部屋に別の服を用意したから、それに着替えたら、出発だ。馬車を用意したから、外の場所で待っている。慌てなくていいから」
ルードィヒと船員たちは、ドヤドヤと外へ出ていきました。
加奈は階段を上がり、泊まった部屋に入ると、机に上に置いてあった服に急いで着替えました。王子たちに買ってもらったリュックは、あの時、どうにか持って来れたので、ロミオからもらった短剣を腰に差し、星の弓は、リュックに入れたままにしました。
部屋の鏡を見ると、何か別の自分がいるような気がしました。髪はポニーテールにしていて、白い長袖に緑色の革のチョッキ、そして、長いブーツ…。腰のリボンは、革のチョッキと同じ緑で、柔らかな素材だったので、大きくリボン結びにしました。又、パンツは、ぴったりしてはいましたが、前の格好よりは、こっちの方の男の子といった感じでした。
宿屋を後にしようとした時、宿屋の主人が、パンと飲み物と干し肉をくれました。
「これは、あんただけの分だから、その荷物入れに入れときなさい。無理しないようにな」
「おじさん、ありがとう。行ってきます」
「なんのなんの、行っておいで」
馬車から皆が手を振っていました。加奈は走っていきました。
「おう、その服の方が似合うぜ。海賊少年だな」
「海賊少年だなんて、マンガみたいなこと、言わないで下さい」
「??マンガってなんだ?」
「遊びじゃないんだ、くそガキ。うるさいぞ」
後ろの方から声がしました。後ろを振り返ると、昨日の男も同じ馬車に乗っていました。加奈はその男の目の鋭さが嫌でした。何か自分は嫌われているようで、感じの悪いその男と一緒の馬車なんて不愉快で、黙って外の景色を見ていました。
長く、ずっと茶色の大地が続いていました。すると遠くから、何か変な音がして来ました。何か風のような不気味な音です。
「まずい、竜巻がくるぞ」
馬車は、竜巻から逃れるために、凄い速度で丘の方へと走り続けました。
カラカラガッシャ~~~ン!
あまり速く走ったため、馬車の馬の蹄鉄が外れてしまい、馬もろとも転げ落ちていきまいした。
「キャ~~~!!」
何か大きな穴へ落ちていく自分を感じました。暗い穴へ真っ逆さまに落ちながら、加奈は、薄れていく意識の中でサタンの名を呼び続けていました。
地下深く続く暗い穴は、どこまで続いているのでしょうか。まるで、黄泉の入口のようで、加奈の行く末をあざ笑うかのように、穴の中から数万匹のコウモリが、黒い影を作るように、飛び立っていきました。
2015年10月24日
第3章 星の紋章 第1話 -宇宙海賊ルードィヒ-
「お頭、何ですか、それ、子供じゃないですか」
「空いている部屋はあるか?」
「無いですよ、荷物がいっぱいで」
「困ったな」
「ヤローばかりなんですから、そんな子供、何で連れて来たんですよ」
「うーむ…」
「それとも、次の停泊地で売り飛ばしますか。でも、そんな子供、大人ならいざ知らず、金にもなりませんぜ」
「仕方ない、俺の部屋に連れて行く」
「お頭、そんな子供を相手にするんですか」
「バカヤロウ、いくら仕事中で女から離れているからと言って、子供を相手にするか!」
加奈は、荒っぽい会話を聞いているうちに、自分は売り飛ばされてしまうのかと、怖くなってきました。どこかの星に停泊と言っていたので、売り飛ばされる前に、逃げなければと思いました。金髪の男は、加奈をどかっとベッドに下ろしました。
「あぁ~、疲れた疲れた。おいお前、腹減っただろう。もう少ししたら、食事になるから、それまでそこで寝てろ」
そう言うと、金髪の男は、服を脱ぎ始めました。たくましい男の体は、汗でキラキラ光って、加奈は顔を真っ赤にして、後ろを向きました。
“何! 何…この人!! 初対面の人の前で!! 恥ずかしくないのかしら”
薄い上着に着替えると、その男も加奈の隣で横になりました。加奈は、びっくりして、ベッドの端に後ずさりしました。
「ふああ~眠い眠い。そんなにびくびくしなくても、何もしないよ。子供を相手にするほど、女には困ってないよ。サタンが加奈って呼んでいたな。お前とサタンはどういう関係なんだ。ふああ~、まあ、いいか。ちょっと眠る…グウグウ」
男はもう寝てしまっていました。
加奈は、そっとベッドから降りると、窓の外を見ました。星がキラキラ輝いて、さっきまでサタンの船で自分の部屋で、星空を見ていたのにと、悲しくなってきました。
「サタン、サタンに会いたい…シクシク、シクシク」
泣いてもサタンの元へ帰れるわけではありませんが、涙が止まりませんでした。
ドアを叩く音がしました。
「お頭、食事の支度が出来ましたぜ。部屋で食べますか、それとも食堂で食べますか」
金髪の男はベッドから起き出して、
「部屋に持って来てくれ。こいつのも忘れずにな」
机の上に大きな肉とスープとパンが、ドカッと置かれました。変わった果物とワインみたいなお酒もありました。
お城での食事とまるで正反対でした。スープも野菜がゴロゴロ入っていて、何かとても食べにくそうです。
「なんだ、食べないのか。うまいぞ」
加奈は、いろんな事がありすぎて、食欲がありませんでした。
「食べないと、体がもたないぞ。サタンに会いたいんだろ」
「え?」
「よっぽどサタンが恋しいんだな。心配するなよ。俺はサタンとの勝負が楽しみなんだ。普段、表情も変えないサタンが、あんなに取り乱すのを見て、ちょっと意地悪をしてみたくなったのさ。お前の気持ちも考えず、悪かったよ」
金髪の男はそう言うと、フッと笑いながら加奈にパンを渡しました。大人っぽく見えますが、まだ笑い顔に、少年の面影が残っていました。
「仕事が終われば、サタンの所へ帰すから、少しの間、俺と一緒に旅をしようぜ。食べにくそうだな。ほら、細かくしたから、肉も食べろ」
口が悪く大雑把ではありましたが、根は優しそうなので、加奈は少し安心しました。
海賊の統領は、ルードィヒと言う名前でした。船の大きさの割に部屋が少なく、やたら荷物が多く、いろんな物がごちゃごちゃしていて、男所帯という感じです。ロボットとかサイボーグとか居ないので、誰もが毎日、忙しく働いていました。海賊船の割に、宇宙船が古いのか、時々故障するらしく、あまりワープは出来ないようでした。
「お頭、又、故障ですぜ」
「今度はどこだ」
「推進システムがいかれているようで、次の停泊地までどうにか動きますが、もう限界ですぜ」
「新しいのに替えるとなると、金がいるな」
「いっそ、新しい船に変えた方がいいと思うんですがね」
「バカヤロウ、他が壊れていないのに、新しい船に買い替えられるか!! 俺はこの船が気に入ってるんだ!!」
「ヘイヘイ、すみません」
「返事は1回でいいと、いつも言っているだろうが」
いつも言い合いばかりしていましたが、人間味あふれている海賊船だと加奈は思いました。船員はみんな見るからに怖そうな感じではありましたが、日を追うごとに加奈にも話しかけてくれるようになりました。
いつものように船窓から星を見ていると、ルードィヒが、机の上に何かしらの服をバサリと置きました。
「加奈、もうすぐ、次の停泊地、アルディ星に着く。野蛮な奴が多く、モンスターも凶暴だ。船が故障してなければ、すぐにでも荷物を金に換えて出航したいが、船の修理があるから、直るまで、アルディに滞在しなければならない。女だと誰もが襲われる。加奈は男の格好をしろ」
「ええ? 男…男の格好するんですか!!」
「男の子なら大丈夫だ。髪は一つに結んで、当分の間、俺たちの仲間という事にするから、なるべく男の言葉で話せ。加奈は大丈夫だよ。まだ10才くらいだろ。まだ出ている所が出てない歳だし、十分、少年になれるさ」
「で、出ている所が、出ていない…」
加奈は、ガ~ンと頭が痛くなりました。15才なのに、又、10才という子供の年令に見られてしまいました。だから、毎日、一緒にベッドに寝ていても気にならないのかと思いました。そう言えば、サタンとも竜星で一緒に寝ていました。
女の子の魅力が全然無いことが、今の境遇には良かったのだと、加奈は自分で自分を慰めるのでした。
練習も兼ねて、早速、海賊の(?)少年の格好の服を着て、加奈という名前もダメなので、セティといいう名前になりました。
「それと、何か武器は使えるか」
「え? 武器ですか!!」
「いつ、何時、何かあるかわからない。少し、武器を使えたほうがいいだろう。基礎だけ教える。そうだな、この剣なら、そんなに重くないだろう。早速練習だ。上のデッキに行こう」
「こ…これからですかあ~」
まさか、剣の練習をするとは思いもよりませんでした。サタンからも多少習いましたが、どちらかというと、弓の方が得意な加奈でしたから、深いため息をつかずにはいられませんでした。二人の練習を見ようと、皆もワイワイ集まってきました。
「さっ、構えて」
加奈の構え方はサタン流でした。まるで風の妖精が武器を持ち、舞い踊るような剣さばきにルードィヒや他の船員たちの顔色が変わりました。
「加奈、君はサタンに剣を教わっていたのか。これは嬉しいね。それじゃあ、行くよ」
背の高いルードィヒと、背の低い華奢な加奈は、どう見ても加奈に分がありませんでしたが、美しい剣の立ち方、振り方に皆、見とれてしまいました。
「ふう、それだけ出来れば十分だ。しかし、驚いた。まだ、子供なのに、ここまで出来るとは、サタンが、手放さないはずだな。アハハハ」
そして、全員に言ったのでした。
「いいか、みんな。今日から、加奈はセティだ。俺たちの仲間、女では無く男だ。いいな、もうすぐアルディの軌道に入る。準備しろ」
「オーーー!!」


















































































