■-第1章- 光の海へ

2015年06月28日

第1章 光の海へ 第9話 -星虹銀河、七色の弓矢-

 加奈にとって、宇宙とは星ぼしを眺め、ロマンを思うものでした。宇宙とはこうなのだ。だから、これこれだという深い意味など必要とはしませんでした。地球にいた時は、それで良かったのです。しかし、宇宙の旅に出てからは、わあわあきれいと、言っているだけではすまなくなってきました。

 サタンは休むことなく操縦室で、壁面スクリーンにいろいろな表を写し出していました。電波や紫外線の特殊な望遠鏡も使い、銀河を観測し、弓矢を捜していました。
「サタン、こんなにたくさんの星から、弓矢を捜すの」
「七色の弓矢は電波を発するから、たやすく見つかるはずだった。この表をごらん」
 サタンが、番号スイッチを指先で押すと、スクリーンに三つの表が写しだされました。
 サタンが表した表は、星虹銀河中心の星やガスの回転速度を示すもの、銀河系の地図、電波などでコンピュータが、色分けして星の密度を示したものでした。
 加奈は、専門的なことはわかりませんが、銀河の中心で、異常が起こっていることはわかりました。複雑ではありますが、秩序ある動きをしている銀河が、何かの原因で星の散乱を生み、星虹銀河は終末を迎えようとしているのです。そのために、星ぼしの出すX線や電波が、弓矢の電波と入り乱れて、弓矢の場所を確認するのをむずかしくしていました。
 メシエの電子スイッチランプがつくのと同時に、ビービーと激しい音が鳴り響きました。

「メシエ、何をしている。確認ランプがついている。弓矢の場所がわかったのなら、早く星図を出すんだ」
『……』
「私の命令が聞けないのか」
『答えたくありません』
「やれやれ、へそ曲がりのメシエ。答えたくないのなら、答えなくてもいい。おおよその見当はついている。お前が私の言うことを聞かないということは、あの星しかないからな」
 サタンは、棚に並んだ銀色の小さなカードを取り出し、照合コンピュータに組み入れ、スイッチをひねりました。すると、スクリーンに星図が写し出され、別のスクリーンには銀色の星が大きく写し出されました。

「うわー、銀星!」
「別名、サタン星ともいう」
「え、サタンと同じ名前なの」
「メシエが作られた星。そして、私が育った星だ。まさか、弓矢が銀星にあるとは、不思議な因縁だ」
 銀星の輝きは、まるでサタンの剣の出す光そのものでした。
 星虹国星と隣り合う銀星は、お互いに決まった周期を持ち、十年に一度、ふたつの星は近づき、七色のガス雲の橋を作ります。

「弓矢は、たぶん、タルタロスの所だろう」
 加奈は、何か、肌寒いものを感じました。銀星とは、いったいどのような人たちの住む星なのか、地獄の意味を持つタルタロスとは、いったいどのような人物なのか、いやな予感がしてきました。

「加奈、出来れば、私ひとりで銀星に降りたいが、万が一にも戻れない場合、弓矢を持ってくることは出来ない。危険だが、いっしょに連れて行くよ」
「サタン、危ないことはよして。私、胸騒ぎがするわ」
「タイタン号は、どうなってもいいのか」
「で、でも…」
「さあ、この帽子をかぶって出発だ」
 サタンは、青色のつばの大きな帽子を、加奈に渡しました。
「これ、日よけですか」
「いいや、心を読みとれないためのものだ。それと、私がいいと言うまで、声を出さないように。いいね」
「は、はい???」
 加奈には、何が何だか、わからないことばかりでした。
 小型宇宙船イカロス号に乗って、サタンと加奈は、銀星の軌道に乗りました。暗黒の空を背景に、強い光輝につつまれた銀星の姿を、はっきり見ることが出来ました。
「加奈、公転軌道に乗るよ。もう一度、ベルトを確認して」
 サタンのことばが終わるやいなや、イカロス号はすべるように、銀星の宇宙港へと近づきつつありました。

20130617-ls024(紫)

「サタン、ここ!」
「声を出すな!黙って!」
 そんなこと言ったって、つい声を出したくなります。なぜなら…。
 薄暗い灰色の空に、竜巻状の雲が浮かんで流れ、紫色の電光が空をかけめぐり、地の底を鳴らすような雷が、とぎれることなく響きわたります。炎のような色の地面から、きれつが走ったかと思うと、激しい地鳴りがして、加奈は、やっと立っている状態でした。
「加奈、私の背におぶさって、しっかりつかまるんだ」
 また、空間移動するのかと思い、サタンの背中にしっかりとつかまりました。
 サタンが剣を天にかざすと、紫色の電光が剣の光とぶつかって、剣は炎の剣となり、大地を溶かしました。
 ゴオーと下から押し出すような音がしたかと思うと、地面はまっぷたつに分かれ、銀色の光につつまれた巨大な城壁が現れました。

『サタン、ヒサシブリダナ。サア、ソノママ、マッスグニコイ』

 低いひきずりこまれそうな声が聞こえたかと思うと、城壁の門が開き、サタンの所まで白い道がのびてきました。ふたりが乗ると、白い道はすべるように、城の中へとふたりをみちびきました。
 薄暗い城壁は、空気までどんよりと濁り、息苦しく感じました。らせん状のエレベータは、暗やみの底へ落ちています。
 加奈はしゃべってはいけないと言われていたので、身振り手振りでサタンに、このエスカレーターに乗るのかたずねました。サタンはうなづくと、マントの中に加奈を抱き寄せ、エスカレーターの階段を飛ぶように走り降りました。音も光もない沈黙の世界。つきることなく続く階段は、まるで奈落の底へ落ちていくようで、加奈は恐ろしくてたまりませんでした。
 暗やみから、ほんのひとすじの小さな光が見えてきました。光は少しずつ大きくなって、エスカレーターは、その光の部屋の前で止まっていました。
 加奈は血が逆流するのを感じました。本当にここでメシエが作られ、サタンが育った所とは、とうてい信じられませんでした。

 電子回路がびっしりと並ぶ壁と、人の気配がない部屋には、コンピューターが自動的に作動していました。まるで、人間の心臓のようにドクンドクンと、不気味な音は青白い炎の中から聞こえてきます。加奈は、あまりの恐ろしさにふるえが止まりませんでした。
 サタンは、そっと加奈を降ろすと、加奈の手にはめてある安全時計を0にセットしながら、テレパシーで言いました。
(加奈、青白い炎の右側に、オレンジ色の光が見えるだろう。亜空間走路がそこにある。私が剣を十字に切ったら、その中に飛び込め)
 不安げにサタンを見上げる加奈に、サタンはそれ以上は何も語りませんでした。

 青白い炎は火花を散らし、火炎が大きくなるにつれ、その中の物体がはっきりと見えてきました。ああ、その物体の異様さ。まるで脳みそのオバケです。ドクンドクンと音がするたびに、脳みそから何千本、いえ、何万本もの管から、青い液体が流れ込んで、あの不気味な声は、そこからひびいてくるではありませんか。

『サタン、オマエハ、ツイホウノミノウエダッタハズダ』
「タルタロス! 私が何も知らないと思っているのか! 私を暗黒の世界へ追放したつぐないをしてもらおうか!」
『サタン、オマエガ、ナナイロノユミヤヲホッシテイルコト、ヒャクモショウチ。ナンオクコウネン、ハナレテイル、タイヨウケイギンガノ、ソノショウジョヲタスケルタメニ、ワタシノモトヘクルトハ、オマエハマダ、サタンノナヲツグセンシニ、ハナッテイナイ』
 脳みそのオバケが、タルタロスとは、加奈は、この得体の知れない巨大な物体が、悪魔の使者のように思えてきました。脳みその中央に赤く光るふたつの目が、加奈を見おろしました。
『ナント、ゲンシテキナドウブツダ。カンジョウノママニシカウゴカナイ、オロカナドウブツ!』
 赤いふたつの目がかっと開いたかと思うと、光の矢が加奈に目がけて飛んできました。加奈が身をふせた瞬間、加奈の体のまわりにバリヤーができ、光の矢は、飛び散ったのでした。
『ナマイキナヤツ! コンドハ、テカゲンシナイゾ』
 細い管が、くねくねと加奈をめがけて伸びてきます。その時です! サタンの体から七色の光が炎のように発し、その熱気で、管はトロトロに溶けてしまいました。
『サタン! ワタシニ、テムカウツモリカ! オマエニ、ワタシヲタオスチカラガ、アルトオモウノカ! オロカモノメ!』

 ゴォーッっと炎は、サタンの七色の炎と激しくぶつかり、そのすさまじさは、バリヤーの中の加奈の体にまで、ビリビリと電流は走りました。加奈は、目の前で繰り広げる光のうずのぶつかり合いに、気の遠くなるのを必死にこらえ、両手で顔をおおっていました。
「タルタロス、王の思考コントロールを支配するのはこれで最後だ!」
『アッハハハ、ナニヲイオウ。オマエノ、チュウスイシンケイニ、ワタシノ、シンケイセンイガ、ケツゴウシテイルノヲ、ワスレタカ! ウッ…!! ナニヲスル! サタン、キガクルッタカ!』
 バリバリ、ピィーピィーと異常な音がしたかと思うと、炎の中でサタンは加奈に叫びました。
「加奈! 亜空間走路へ飛び込め! 早くするんだ!」
 加奈は、ゴォーとうなる熱気の中を走り、オレンジ色の光へ一気に飛び込みました。

 加奈の体はふわりと宙に浮いて、何かの力が加奈の体を引っぱっていました。まるで、綿毛が空を風に乗って飛ぶかのように、ふわりふわりと、加奈を運んでいました。感覚を感じない。まるで夢の世界にいるよう。それなのに、加奈はとても心細く、サタンの身を案じるばかりでした。
「サターーン!!」
 声をかぎりに叫んでも、音はなく、光の渦の中に加奈の体が、のみこまれていきました。
 サタンとタルタロスの戦いは、星虹銀河の運命を変えられるのでしょうか。そして、七色の弓矢を手にすることはできるのでしょうか。加奈は、タイタン号を救い、トリトンとの約束を果たすことができるのでしょうか。
 ただ、星虹銀河の終末は、こくこくと近づきつつありました。



tritonsora at 13:52|PermalinkComments(0)

2015年06月07日

第1章 光の海へ 第8話 -星虹銀河、宇宙木の音色(後編)-

「加奈、加奈!」
 誰かが、加奈の体を激しく揺さぶりました。
「う…ん、誰?」
「大丈夫か。私だ」
「サタン、どこ行ってたの!」
「一度、母船に戻らねばならない。思ったより早く銀河のゆがみが広がっている。星の動きが狂って、この星もあと数時間で爆発する」
「爆発!」
 サタンは、剣を天に向かって垂直に立てました。剣からは、炎のような光がまっすぐと伸びて、光めざして小型宇宙船が降りてきました。
「さあ、加奈、乗って」
「爆発するって、ほんと」
「石星を回っている衛星が、すごい速さで近づいているんだ」
「そ、それじゃあ、あの子もいっしょに連れて行って」
「あの子?ここには、石星星人はいないはずだ」
「だって、私に琴を聞かせてくれたのよ。どこに行っちゃたのかな。私、その辺を捜してくるわ」
「夢でも見たんだろ。ぐずぐずしないで、早く乗りなさい!」

 サタンは、加奈の手を強引に引っぱって、小型宇宙船に乗り込みました。
 石星の大気圏から離れると、いくつかの衛星とすれ違いました。衛星は、ゆっくりと回転しながら、まるであやつられるように、石星に向かって行くのでした。

Art_B_02宇宙木の音色2

 加奈たちが母船に戻ると、操縦室のスクリーンからは、石星の姿は消えていました。ただ、大きな石の固まりが、空間をただようばかりでした。あれほどの大きな星が、爆発のエネルギーでこなごなになってしまうとは、加奈は、宇宙の恐ろしさにいいしれぬ恐怖を感じました。それと同時に、ズシリと体に重さを感じました。

「疲れたのかしら。何か、やけに背中にひどく重さを感じるけど…」
 加奈は、右手を背中に回すと、どうでしょう!加奈の背中にしっかりと、何かがおぶさっているではありませんか!
「キャアー!」
 メシエと、星虹銀河の星表を作っていたサタンは、加奈の叫び声にびっくりとして、ふり向きました。
「加奈、どうした!」
「背、背、背中に、オ、オ、オバケが取り付いたんだ。ワーンワーン」
 大声で泣き出す加奈の背を見て、サタンは驚きの声を出しました。
「これは、いったい…」
 加奈の背中におぶさっていたのは、オバケでも亡霊でもありませんでした。サタンは、それをそっと持つと、加奈に見せました。
「これは、あの少年が持っていた琴だわ!夢じゃなかった。あの子、死んじゃった。見捨ててきちゃた。グスグス…ウ、ウワーン!」
 加奈の激しい泣き声は、広い操縦室に響くほど、すごい大きな声でした。
『た、たまらない!サタン様、加奈様を泣きやましてください。頭脳の電子システムに狂いが生じてしまうほど、すごい波長音です』
 メシエの悲鳴にびっくりして、加奈は、泣き顔でくちゃくちゃになったのも直さないで、メシエのそばに走り寄りました。
「メシエ、グズン、ごめんなさい。ヒックヒック、頭痛がするの?シュックシュック」
『ああ、加奈様。かわいいお顔がだいなしですよ。目はまっかか。鼻もかみましょうね』
 立体的な姿は人間とはほど遠い、頭脳コンピュータメシエと話をする加奈を、サタンは腕組みしたまま、何も言わず見つめていました。
『加奈様、泣くことはありません。はい。たしかに、私も見ました。加奈様がその少年といたのを。けれども、その少年に生命電波は感じられませんでした。たぶん、加奈様が会ったのは、過去の時間帯から宇宙木が出した精神波の影像でしょう』
「???メシエ、あなたの言っている意味、よくわからないわ」
『宇宙琴は、その少年そのものなのです。弾いてごらんなさい。夢の彼方から、あなたの心に共鳴して音を奏でるはずです。少年はあの時点では、そこに存在していなかったのです』
 メシエの話にうなずきながら、何度も首をかしげる加奈に、サタンは苦笑するばかりでした。
「理由はどうあれ、捜す手間がはぶけたわけだ。しかし、神殿に祭られてあるはずの琴が石星にあったとは…。この分だと、弓矢も星虹国星にはないかもしれないな」

 神殿に祭られていたということは、琴も弓矢も星虹国星にとって、とても大切な宝物に違いありません。そんな大切な物を、だまって持ち出すのはいけないことだと、加奈は思いました。
「心配は無用だ」
「え!」
「借りるだけさ。用が終わったら返す」
 私が思っていること、なんでわかったのだろうと、目を白黒している加奈をよそに、サタンは、星表を壁面スクリーンに映し出し、計算を始めていました。
 じゃまをしては悪いと、加奈は琴をそっと胸に抱いて、操縦室から出て、自分の部屋に戻りました。
『サタン様、加奈様に、もう少し説明をなさった方がいいのではありませんか』
「何を?」
『加奈様の脳波が、だいぶ乱れています』
「説明する必要はない。そんな事を考える余裕があるのなら、弓矢の居場所を割り出せ」
『はい…』
「ん?何か聞こえないか、メシエ」
『いいえ、私には何も』
「そのまま計算を続けてくれ。すぐ戻る」

 サタンは、かすかに聞こえる音をたよりに、音の方へと近づいて行きました。その音色の響きは、昔、どこかで聞いたような気がしました。
 閉ざされたはずの扉が開かれ、その部屋から何ともいえぬ良い香りと、ささやきにも似た緑色の風が、そこだけ吹いていました。
 サタンは、部屋の前で動くことも、声を出すにも言葉が見つかりませんでした。
 加奈の部屋で、ひとりでに宇宙琴は、若草色の光を発し、美しい音色を奏でていました。深い森の透き通るほどの香りをそえて、その中で、加奈は気持ちよく、スヤスヤと眠っているのでした。

tritonsora at 10:52|PermalinkComments(0)

2015年05月24日

第1章 光の海へ 第8話 -星虹銀河、宇宙木の音色(前編)-

 ブラックホールの引力に引きよせられ、ゆがんだ次元の道を通り、別の宇宙に迷いこんだのでしょうか。そうでなければ、こんな不思議な星があるわけがありません。
 サタンと、星虹国星に降り立った瞬間、加奈は足すくむ思いだったのです。加奈は、神秘のベールに包まれた宇宙のひとこまを、垣間見たような気がしました。

E_Random07宇宙木の音色1

 虹を細かく砕いて、砂丘にしたような七色の砂の大地が、はてしなく続いています。瑠璃色の空に、幾すじの光の帯が金色のへびのように、天空を舞っています。光のすきまから銀色のすじがゆっくりと、天空から地上へのびてきました。七色の砂丘にその光のすじがふれると、風に流されるように砂は、渦を巻き始めました。渦は大きく激しく回り、数百メートル下に、緑色の湖が砂の中から姿を表しました。
「さあ、加奈。この下に星虹国の地下都市がある。急いで、弓と琴を拝借して、船に戻らなければならない。朝がくれば、地上は灼熱地獄に変わる」
「えー。この湖、潜るの! 私、水が苦手なんだけど…」
「潜る?そんな必要はない。リフトがあるから」 
 サタンは、手首の銀色のブレスレットをはずすと、湖に投げ入れました。すると、ドドドドーッと音がしたかと思うと、湖の水はまっすぐに噴き出し、サタンの前でぴたりと止まりました。
「こ、これが、リフト!」
「さあ、早く」
 サタンは、加奈の手を取ると、水の中に入りました。水の中と言うのに体は全然ぬれず、水のリフトは下へゆっくりと降りていきました。

 リフトから降りると、そこは、荒涼とした風景が広がるばかりでした。鍾乳洞の石筍のような白い塔が立ち並び、巨大な枯れ木が塔のまわりにそびえていました。石塔にぶつかって風が、もの悲しい音をたて、まるで廃墟のようでした。
「サタン、何か、さびしい所ね。人がいないみたい」
「しまった!計られた!」
「???」
「ここは、作られた空間だ。危険だ。早く脱出しなくては。加奈。私の背中におぶさるんだ!」
「えっ!おんぶするの!いやだ。恥ずかしい。そんなこと!」
「恥ずかしがっている場合じゃない。早く、するんだ」
 サタンは、加奈をひょいとおぶさると、剣で宙を十字に切りました。ほんの数秒後、サタンと加奈は、描象的な空間の中にいました。その中を、サタンの作った重力泡で浮いていたのです。丸とも、四角とも、三角ともいえない物質が渦巻いて、めまいを起こしているような感じで、加奈は、吐き気がしてきました。
サタン、なぜ、戻って来た】 
 どこからともなく、声が聞こえてきました。
【お前は、永久に追放の身になったはずだ】
 声がしえども、姿は見えません。
【たとえ私の息子でも、国の掟を破った者はどうなるか、わかっているな】
「私のことなど、あなたの好きなようにすればいい。しかし、ただでは、命はやらぬ」
 加奈は、姿を見せない声の主と、サタンの会話を聞いているうちに、星虹国星はサタンのふるさとで、サタンは星虹国の王子であることを知りました。サタンが追放されたいきさつは、わかりませんでした。けれども、サタンは自分のために、危険を承知で星虹国星に戻ってくれたのでした。
「加奈」
 サタンは、加奈に呼びかけました。
「声を出さないでくれ。今、テレパシーで話をしている。空間移動するから、私が渡した安全時計を0にセットしろ。シールドが加奈の体を守る」
「で、でも」
「心配するな。大丈夫だから」
 加奈は、サタンの言うとおりに、銀色の安全時計を0にセットしました。
「私にしっかりとつかまって。いいね。行くよ」
 ぐらりと激しいめまいがしたかと思うと、体が宙に浮いたような、まるで感覚のない世界をただよっている感じでした。しかし、それも、ほんのつかの間でした。

 加奈が降り立った所は、ごつごつした石原が続く大地でした。まるで石の世界。どんよりと曇った空は、暗く寒々しく、風は吹き抜けて行きます。
「サタン、ここ、どこ」
 返事がありません。加奈は、あたりを見回しました。しかし、サタンの姿は見当たりません。
「サターン!サターン!」
 加奈の声だけが、響くばかりでした。心細くて、加奈は大声で、ワーンワーンと泣き出してしまいました。泣いて、どうなるわけでもありません。それから、どのくらい泣き続けたでしょうか。泣き疲れて加奈は、大きな石に腰をおろし、しゃっくりをあげていました。
 サヤサヤ。風の音でしょうか。かすかに聞こえるその音は、旋律にも似た悲しい調べでした。
「風の音じゃないわ。楽器の音だわ。誰かいるんだ」
 音に誘われて、灰色の石の大地を、加奈は歩き続けました。歩いても歩いても、石の大地が続くばかり。時おり、小さな木の姿を見かけても、それは、石灰岩の地層が作った石林でした。
 足はもう、棒のようになり、歩いている感覚さえなくなってしまいました。ひとり、さまよう加奈は、今ほど地球を恋しく思ったことはありません。
「帰りたい。緑の大地に帰りたい。クスン、クスン…」
 加奈は、あふれる涙をぬぐうことさえしないで、しゃがり込んでしまいました。

 サヤサヤ、サヤサヤ、木の葉が触れ合うような風のやさしい調べは、いつしか聞こえなくなり、音のない世界が広がるばかりでした。小さな音さえ聞こえない。いいえ、何か聞こえます。それは人の足音!
 小さな影が、おぼろげながら見えます。その影はまるで宙を浮くように、風の流れのように、静かに近づいてきました。
 加奈はその時、妖精を見たような気がしました。目の前で、たたずんだ少年は、まるでギリシャ神話にも出てくるような美少年でした。栗毛色の巻き毛は、草のつるで巻き込んで、肩までたれていました。うす茶色の大きな瞳は、加奈をやさしく見つめていました。
 少年は加奈のそばに座ると、手に持っていた琴をつま弾き始めました。ああ、その音色こそ、さっき加奈が聞いた調べであったのです。なんと、不思議な音色なのでしょう。
 加奈は、いにしえの時代、枯野と言う名の船の木で作った琴が、さやかな音色で遠くまで、響き渡った話を思い出していました。なぜか、なつかしいようなそんな気さえしました。
「あなたも、サタン様と同じ、漆黒の宇宙の色の髪を持っているのですね」
「サタンを知っているの!」
 少年は、こくんとうなずきました。
「それじゃあ、今、サタンがどこにいるか知っている?」
「いいえ。でも、ここにいれば、サタン様は戻られます。あなた様が、いらっしゃるのですから」
 少年はにこりと笑うと、また、琴をつまびき始めました。心に染みとおる琴の音に、加奈は、まぶたを閉じて夢の世界にただよっていました。気持ちが良くなって、深い眠りにつきました。
 灰色の空は暮れて、空には降るほどの星々の光が、加奈をやさしく照らしていました。石の大地は、昼とは違う世界をかもし出していました。加奈のそばには、小さな一本の石木が枝を曲げ、包みこむように加奈の体を、冷たい風から守っていました。

tritonsora at 11:43|PermalinkComments(0)

2015年05月09日

第1章 光の海へ 第7話 -タイタン号の危機-

 王宮のようなサタンの宇宙船は、タイタン号より、数倍もすぐれた船の機能・設備を持っていました。船の位置や航路の設定、エンジンパワーの保守や監視など、すべてコンピュータがしてくれるのです。頭脳コンピュータで、タイタン号の行方をキャッチ出来たのも、科学船ともいえるサタンの船だからかもしれません。

「加奈、タイタン号は、あきらめた方がいい」
 サタンは、コンピュータからはじき出される計算と、タイタン号の救出の確率が0であることを、加奈に告げました。
「やっぱり、ブラックホールに落ちてしまったのですか!」
「いいや。磁気星空間だ」
「磁気星空間って…?」
 タイタン号は、強力な磁気を持つ、星と星の空間に、閉じこめられていたのです。タイタン号のバリヤーで、かろうじて爆発はまぬがれているものの、へたに動けば、襲撃波面にぶつかってしまうでしょう。そうなれば、こなごなになってしまうのです。

story_g2_16タイタン号の危機

「磁気って、磁石の作用でしょう。それなら、地球だって磁気星でしょう。なぜ、タイタン号を救出できないの」
「加奈、宇宙を理論的に説明することは出来ない。地球星とこことでは、力の作用も磁界の強さも、まるっきり違うのだから」
 加奈は、サタンの言っている意味がわかりませんでした。でも、タイタン号が、ブラックホールのように特殊空間に、とじ込められているのは事実なのです。
「それじゃあ、なぜ、加奈だけが助かったの?」
「加奈の首にかけてある、首飾りのせいだと思うが、ちょっと、見せてくれないか」
「氷星の女王様から、いただいた首飾りが?」
 サタンは、加奈から首飾りを受け取ると、手首の銀色のブレスレットから光線を出し、首飾りの材質を調べました。
「私の思ったとおりだ。しかし、これだけでは、広範囲の空間移動は出来るはずはないのだが…」
 加奈は、ますます、頭が混乱してきました。
 サタンの話によると、首飾りの石は、特別な鉱物で出来ていて、それを身につけると、エスパーと同じ能力を持てるということでした。しずくの形をした淡い水色の首飾りが、そんな力を発揮するとは、加奈には夢のことのようでした。
「加奈、他に身につけているものはないか」
「何も…、あ、これかしら。でも、これ、シルトの形見の石だけど」
「いいから、それも、見せてごらん」
 加奈は、絹織物のに入った石をサタンに渡しました。サタンはじっと見つめたまま、長い時間、身動きさえしませんでした。
「サタンさん、どうしたんですか」
「さんはいらないと言っているだろう。サタンでいい。加奈、この石は、誰にもらったんだ」
「原始星のシルトさんからです。それが何か?」
「不思議な色を持つ石だ。深く透いこまれそうな神秘的な碧玉だ。分析しても、ただの石玉にすぎないのに…。理由はわからないが、首飾りと石は不思議な反応をするのだろう。加奈が時空を飛べたのも、多分、そのためだと思う」   
 加奈は、船長の言葉を思い出していました。シルトの石が、時空の道を渡ることも出来ると、言ったことがありました。加奈の危機を救った首飾りと石が、加奈の行くべき道に重要な位置を示すものになろうとは、誰が予測出来たでしょうか。
 氷星に降り立たなければ、シルトから石をもらっていなければ、加奈の命ははかなく消えていたかもしれません。なおの事、加奈はタイタン号を見捨てたくありませんでした。「加奈は、タイタン星に行けばよいのだろう。私の船で連れて行ってあげよう」
 サタンの言うことに、加奈は何も答えませんでした。涙をポロポロ流しながら、画面に映し出されているタイタン号を、見つめたまま出した。
 食事の時間になっても、加奈は食べようとはしません。寝る時間になっても、部屋に戻ろうとはしません。ただ、大好きなタイタン号の行く末を案じるばかりでした。そんな加奈を見てサタンは、最後の手段を使うしかないなと思いました。
「なんと言うことだ。自分のため以外に、それも危険な事をしようとしている私は、サタンの名にも恥じるじゃないか。加奈、ひとつだけ方法はある」
 サタンの言葉に、加奈は飛び上がって喜びました。
「喜ぶのは、まだ早い。すごく危険なんだよ。失敗したら、タイタン号とともに目ざめることなく、宇宙の中で永遠の眠りの世界へ入って行かねばならない。その覚悟は、出来るか」
「はい!」

 サタンの宇宙での生活は、もうどのくらいになっていたでしょうか。時を忘れるほど、サタンの旅は、長くはてないものでした。それでも、宇宙は限りなく続くばかりです。宇宙に果てがあるのなら、その先の外の世界はどうなっているのでしょう。ほんの切片にすぎないサタンの旅に、時はとどまらない。終わりのない旅の中で、ひとりの少女の出会いで、道を閉ざされたくはないサタンでした。
  (ふん。私とあろうものが、こんな事で悩むとは。この少女の存在で、旅の歯車が狂うのはたまったもんじゃない。それにしても、変わった子だ)
 サタンが驚くのも、無理のないことでした。
 安心したのか加奈は、遅い食事を、サタンと取っていました。さっきの泣き顔はどこへいったのでしょう。ごきげんに、もくもくと食べている加奈を、サタンは不思議に思いました。
「サタン、タイタン号、きっと救えるわよね」
「何も考えずに、ぐっすりとお休み。加奈は、だいぶ体が疲れている。体力がないと、亜空間通路で体が分解してしまうぞ」
「タイタン号は、大丈夫かしら」
「心配しなくても大丈夫。タイタン号のエネルギーは強力だからね。まだ、持ちこたえるだろう」
 加奈は部屋に戻り、ベットにもぐり込みました。加奈は信じていました。きっと、サタンは、タイタン号と自分を助けてくれるだろうと…。
  『サタン様、星虹国へお帰りになるのですか』
 頭脳コンピュータ、メシエは、サタンに話しかけるのでした。
「二度と帰るつもりはなかった。けれども、タイタン号を救うには、星虹国の七色の弓矢と、宇宙木で作った琴が必要なんだ。そう、私の剣もね…」
  『サタン様、生存確率は0に等しい。何度やっても同じ確率しかでません。無駄の事をなさるとは、サタン様らしくない』
「仕方がない。自分でもわからない。しかし、やすやすと宇宙に還元されはしない。メシエ、星虹国と磁界との距離と、時空の道をわりだしてくれ。時間がない。ワープをくり返して、星虹国星に飛ぶんだ。加奈が目ざめた時は、星虹国に着いているだろう」
 サタンは、グラスを傾けながら、静かな時の流れに身をまかせていました。

A_Random16タイタン号の危機2

 大きな窓からは、星虹銀河の姿が見えつつありました。光の強さが時間的に変化する恒星、変光星群の中を船は進んで行きます。星虹銀河の光の渦は、サタンの船を、一気にのみこんでしまいました。

tritonsora at 14:33|PermalinkComments(0)

2015年04月26日

第1章 光の海へ 第6話 -サタンの剣-

 薄紫の空に、やわらかな甘い香りの風が舞って、砂色の大地に横たわる加奈の体に、やさしくふれました。

E_Random06サタンの剣

 目ざめた加奈は、自分のいる場所がわかりませんでした。タイタン号の船内にいるはずが、見たこともない惑星にひとりだけいるのは、なぜなのでしょう。タイタン号は、ブラックホールの中で分解し、加奈だけが助かったのでしょうか。
「いいえ、どこかにタイタン号はいるはずよ。ワープは成功したのよ。そうでなければ、私が今こうしているはずないもの」
 加奈は、希望を捨てはしませんでした。

 薄紫の空の大気はあたたかく、風はそよそよと加奈の髪を揺らします。虹のような光が空間を流れていきます。目で見れないはずの風が、はっきり見えます。
 遠くかすかに、人の影が見えました。加奈はその人の所まで行こうと立ち上がろうとしたら、足をくじいたのか、痛くて立ち上がることが出来ませんでした。大声で加奈は、叫びました。加奈の声が届いたのか、その影はゆっくりと近づいてきました。
 春のようなやわらかな大気の中で、加奈の目の前で立ち止まったその人は、冷気を誘うような、野性的な獣のような雰囲気を持つ人でした。黒絹の、長い髪をむぞうさに後ろで留めて、氷るほどの漆黒の瞳は鋭く、黒い服を身にまとい、マントからは銀色の剣が見えていました。サタンの剣
 殺気とも思えるすごい威圧感に、加奈は、呆然と、その人を見上げるばかりでした。
「君は、風星の住民じゃないな。なぜ、こんな砂漠にいるんだ」
「あ…あの…」
「足をくじいているのか。見せてごらん」
 その人は、ふわりと加奈のそばに座ると、加奈のはれあがった足首に、手を触れると、すると、どうでしょう。あんなに赤くはれあがって痛かった足首が、知らないうちにもとに戻り、加奈は立ち上がることが出来ました。
「まだ、無理はしない方がいい。ところで君…」
 加奈は返事をしようと思ったら、おなかがきゅるるんとなりました。そういえば、すごく加奈は、おなかがすいていました。だからといって人前で、おなかの虫が大きくなるなんて、すごく恥ずかしくて、穴があったら入りたいくらいでした。
 その人は、クスクスと笑って、さっきの恐いくらいの雰囲気から一変して、やさしい顔つきになりました。

 その人は、じぶんの宇宙船に加奈を連れて、テーブルいっぱいの、ごちそうを並べてくれました。タイタン号より数十倍も大きな鷹の形をした真っ黒な宇宙船の中は、とても船内とは思えないほどでした。豪華な家具が置かれまばゆいくらいの大きなシャンデリア、あわい色の変わったデザインの敷物からは、なんともいえない良い香りがして、加奈が充分走れ回るほどの部屋の広さがありました。金と銀のお皿、宝石で飾られたナイフとフォーク。加奈は傷つけてはいけないと、緊張して食べたので、せっかくのごちそうの味もわからないくらいでした。
 乗組員は、全身銀色体のロボットと、不気味にマシーンが透き通る半透明の人間型ロボットたちは、その人の忠実なしもべでした。料理を運んでくれた人や部屋に案内してくれた人は人間でしたので、加奈は少し安心しました。
 何かとても疲れていたので、ベットに入ると加奈は、タイタン号や船長たちのことを心配しつつ、眠りの世界に入っていきました。

 それから、どのくらいの時間が過ぎたでしょうか。ぐらりと船体が揺れたかと思うと、鈍い爆発音が聞こえました。
「うわ!何?」
 完全に深い眠りに入っていなかった加奈は、がばっと跳ね起きました。
 船の窓を見ると、小型の飛行形の宇宙船が光線銃を、加奈の乗っている黒い宇宙船に向かって発射しているではありませんか。
「えー!し…信じられない」
 加奈は、目の前で広がる激しい銃撃戦に、ただぼうぜんとして、見つめるばかりでした。
 ふいに後ろから、加奈の首をぐいと、つかむものがいました。
「キャアー!」
 加奈は、ぐろてすくな顔の悪臭をともなうエイリアンに、必死に抵抗しました。いつ、加奈の部屋に入りこんできたのか、エイリアンの力はとても強く、加奈は気が遠くなりそうでした。最後の力をふりしぼって、加奈は思いっきりエイリアンの手に、がぶりとかみつきました。
「キッーキー!」
 エイリアンはかん高い声で叫ぶと、ばったりと床に倒れてしまいました。
「か、かみついただけで、死んじゃったのかしら…」
 異常発生音装置が、たてつづけに鳴り響く中、加奈は、急いでベットの下にもぐり込みました。
 ヒタ、ヒタ、ヒタとぐろてすくな顔のエイリアンは、また、加奈の部屋に入ってきました。あたりをうかがいながら、ベットに近づいてきました。加奈の心臓は、恐ろしさと恐怖で、破裂しそうなくらい激しく打ち続けていました。
「こうなったら、また、かぶりついてやる」
 ぶるぶる震える体を、加奈は両手でしっかり押さえ、身構えていました。その時、激しい声とともにエイリアンは、ばったりと倒れてしまいました。エイリアンの後ろに立っていたのは、銀色の剣を持つ、黒い服を身にまとったその人でした。

 加奈の体は、一瞬、硬直しました。なぜなら、胸元に二本の剣の銀色のマークを見たからです。
「サタンの剣のマーク!」
 加奈は、船長から聞いていました。宇宙には、暗黒の暗殺者がいて、サタンと呼ばれる男は、悪魔の名を持つにふさわしく、冷酷で凶悪な男で、逆らう者は皆殺しになると。
 黒絹の長い髪は乱れることもなく、かすかに笑みを浮かべながら、エイリアンを殺すサタンは、まさに悪魔そのものでした。けれども加奈は、サタンのやさしい顔を見ていました。ごちそうを進めてくれたサタンは、人のうわさの言うような人とは思えなかったからです。
 加奈は、ベットの下から、ごそごそとはいあがりました。サタンは、加奈が無事だと知ると、ほっとしたような顔をしました。
「あの、エイリアンは何者なんですか」
「風星の兵士だ。今度のターゲットは風星の王宮の後継者だったからな。まだ、気は許せない。くわしい話は後だ。すぐワープするから、その、ガラスのカプセルに入るんだ」
「えー!こんな狭い小さなカプセルに入るんですか」
「体を曲げれば充分入るさ」
「こんなとこ入らなくても、平気です」
「体がバラバラになっていいなら、入らなくていい」
 サタンはもう何も言わず、加奈の部屋から出ていきました。しぶしぶと体を曲げてカプセルの中に入ると、思ったより中は広く、加奈が座ると、自動的にふたが閉まりました。なぜかとても良い心持ちになって、加奈は眠りこんでしまいました。

 次元の道を、サタンの船は進んでいきました。はてしない宇宙の中で、加奈はタイタン号にめぐり逢うことが出来るでしょうか。加奈の願いを託したグリーン生命体からは、さらに遠くなるばかりでした。まるで、宇宙の地平線から、さらに、百数十億光年先に宇宙の地平線があるように…。



tritonsora at 13:56|PermalinkComments(0)

2015年04月11日

第1章 光の海へ 第5話 -ブラックホールの謎-

 暗やみの中で光る星ぼしは、宝石の輝きよりも神秘で美しく、幻想の世界へみちびいてくれます。
 地球の大地に、色とりどりな花があるように、宇宙にも星の花が咲きほころび、星雲は花びらのように二重、三重と、周りながら開花していきます。人の一生と同じように、星ぼしにも、誕生と終わりがあります。永遠に続く時の中で、終わりを迎える星のエネルギーは、巨大な力を出し、空間も時間も光さえも巻き込んでしまいます。
 
 加奈は、寝る前のひとときを、絵本を読んでは楽しんでいました。いつものように絵本を読みながら、うとうととしていたら、扉の呼び出し音が鳴りました。
「加奈ちゃん、もう寝たかい」
「船長さん、どうしたんですか」
「寝ているとこ悪いのだけど、重要な話があるんだ。ちょっといっしょに、光電室に来てくれないか」
 光電室は地下にあると聞いていましたが、特別のリフトに乗ると、船長は光電室のスイッチを押しました。
「光電室はタイタン号の心臓部にあたる部屋でね。すべての機能は、光電室のコンピュータからの命令で動いている」
 光電室の保安扉を開けると、浄化装置が働いて無菌室となり、スライド式扉が自動的に左右に開くと金属板の扉が見えました。その扉は船長と加奈が近づくと、ゆっくりと上に上がっていきました。
 
 加奈は、思わず息をのみました。
 機械の音なのか、巨大な塔のようなコンピュータが、いなずまのような光を頭の部分におくりこんでいました。電子回路がびっしりと並び、異様な光景でした。
「加奈ちゃん、宇宙は計り知れないほど謎に満ちている。科学がどんなに進んでも、計算どおりいくことはないし、ワープを続けても宇宙のはてにさえも行けない。これをごらん」
 船長は、細かい数字の書いてあるプログラムを、加奈に見せました。
「船長さん、私の頭の悪いの知っているでしょう。数字の並んだの読めませんよ」
「それをぜひとも読んでもらいたい。解読出来るのは、加奈ちゃんしかいない」
「そんな無理言わないで下さい」
「加奈ちゃん、あと数時間でタイタン号はブラックホールに突入するんだ」
 勉強中の加奈でも、ブラックホールのことは知っていました。一度入ったら、決して出ることはない恐ろしい世界。なぜ、タイタン号が軌道を離れて、ブラックホールの引力に引きよせられてしまったか。原因はわかりませんでした。けれども、ただこのまま、ブラックホールに引きよせられるより、船長は数%の確率でも時空を飛び、ブラックホールの軌道を外れたいと思ったのでした。一秒たりとも時間のミスは許されない。確実にワープの位置を定めるには、念密な計算が必要でした。
 船長は人間でもなく、サイボーグでもなくロボットと言うにはあまりに知能が高く、不思議にひびくマシーンの頭脳の一部でありました。すべての乗組員も、タイタン号の緊急時に作動するための一部として、作られたのでした。なぜ、こんな緊急時に船長は、加奈にこんな難問を託したのでしょうか。
 
 船長は、加奈の鋭い勘にかけたいと思ったのです。ロボットがどんなに人間に近くなったとはいえ、直感までは科学の力ではどうしようもなかったのです。エスパーとは違う勘というものは、不確かな物ですが、船長は人の言う奇跡を信じて見たくなったのです。
「加奈ちゃん、ぼくはこのコンピュータの頭脳と計算を組んでいくから、画面が映ったらさっきの数字を入力してくれるかい。終わったら完了ボタンを押して、次の画面で交差した図の位置が0にくるまで、何度でも繰り返してほしい。その後は、ぼくの言うとおりにしてね」
 加奈は、船長も乗組員もロボットだとは信じられませんでした。大きなショックを受けましたが、今はそんなこといってはいられません。船長が、塔のコンピュータの中に入ると、電子回路が作動し、光電室は、人間の心臓のように動き出しました。
 
 大きな画面に向かって加奈は、船長の指示通りに数字を入力していきました。しかし、何度くり返しても、0の所で交差することはなく時間だけが過ぎていきました。加奈の心は焦るばかりでした。
「加奈ちゃん、0に近い所で図を合わせて、後は手前にある青いスイッチを押してくれれば、私は、コンピュータと合体して計算を続ける。加奈ちゃん、もうこれからは、君に指示出来ない。後は、君の力でワープレバーを引いてほしい」
「船長、私、わかりません。そんな…」
 加奈は、なぜ船長が、自分を選んだのかわかりませんでした。船長の声は、もう聞こえず、画面の図は0に近い所で交差し、加奈は青いスイッチを押しました。そして今度は、ワープレーバのある操縦室へと急ぎました。静寂な船内に、加奈の靴の音だけが響くばかりでした。
 操縦室に、いつもは数十人もいる乗組員が誰もいませんでした。なぜ、誰もいないのでしょう。

70mm_B_05ブラックホールの謎差し替え
 
 加奈は、全神経を、窓の星へと集中しました。
「いちかばちかだわ。星の動きと光の変化を見のがさないで、ワープレバーを引くしかないわ」
 静かに時間は過ぎていきます。広い操縦室にひとり加奈は、宇宙にただひとりさまよう自分を、感じました。恐くはありませんでした。星の美しさが、加奈の心を真っ白にしていました。
 タイタン号は、確実に、ブラックホールに近づいていました。光の軌跡は、空間のゆがみで小さくなっていきました。時空の壁をやぶることは出来るのか、加奈の運命は宇宙の中では、ささやかな出来事に過ぎないのです
 一瞬、暗黒の世界が広がり、加奈の目の前で時空の光の階段が見えました。
「今だわ!」
 加奈は、大きなワープレバーを下へ、ぐいと引きました。

blue_spaceブラックホールの謎2
 
 タイタン号は、七色の光を発し、宇宙の中へ消えていきました。もう、どこにも、タイタン号の姿は見あたりませんでした。何事もなかったように、宇宙の星々は、静かに時の中で光り輝くばかりでした。
 宇宙の力がどこから出て、どのように成長して、そして誰が、宇宙の運命を決めているのでしょう。ブラックホールとは、宇宙の落とし穴のようなものなのか、それとも、違う宇宙の入口なのか:。謎につつまれたブラックホールは、タイタン号を飲み込んでしまったのでしょうか。



tritonsora at 13:50|PermalinkComments(0)

2015年03月29日

第1章 光の海へ 第4話 -原始星よ、永遠に-

 加奈のタイタン号の生活は、地球を出てから、船内カレンダーで3ヶ月の月日が過ぎていました。
 午前中は、筑波先生のスケジュールに沿って、家庭教師のロボットと、嫌いな勉強の時間です。午後は、船内を探検するのが日課になっていました。
 加奈のいちばん好きな部屋は、地下にある生物室でした。生物室は、ガラスのブロックで分かれていました。真中の大きな部屋には、バイオテクノロジーで、米や麦、野菜や果物が栽培され、通路を隔てた小さな部屋には、いろいろな植物が育成されていました。その一角を、船長から借りて加奈は、アンドロメダでアルヴェーン博士からゆずり受けた種をまいたのですが、いつになっても芽が出ませんでした。加奈は、心配でたまらないので、毎日、足を運びました。

 いつものように種に水をあげていると、静かな部屋に、変な音が響くので、音のする方へ目を向けると、貯蔵庫のそばで誰かが、うずくまっていました。加奈が近づいて声をかけると、うずくまっていた男は、不意をつかれたように手に持っていた物を落とし、ふり向いたのでした。
 加奈は、声を出せずにいました。男は加奈の半分しか背がなく、土を固めたような顔はどこに目や鼻や口があるか、わかりませんでした。植物のつるで作った服を着て、男の体からは土と草の香りがしました。
「君、地球人だろう」
 男は、はっきりした口調でいいました。
「おなかがすいてたまらない。タイタン号の土はまずくて、変にくせがあるんだ。君は平気なのかい」
 男は手についている土を、長い舌でペロリとなめると、ため息をつきました。
「おいしい土ってあるの」
 加奈は、気さくな土色の異星人に、好感を持ちました。
「ぼくの星、原始星というのだけど、ここの土と比べ物にもならないよ。香りもいいし、いっくら食べたって、おなかがもたれないんだから」
「ふうん」
 加奈は、感心したように聞いていました。土に、まずいおいしいがあるのなら、アンドロメダの種も、おいしい土にまけば芽が出るのではないかと思いました。
「もうしばらくの辛抱さ。原始星に着けばおいしい土を、たくさん食べられる」
「勝手なお願いだけど、原始星の土を少し分けてもらえないかしら」
「それはかまわない。でも、タイタン号は原始星には着陸しないよ。発着所がないからね。小型宇宙船で降りるから、星の土を乗組員の人に渡しといてあげるよ。ほら、外をごらん。もう少ししたら、原始星がみえる」
 加奈が窓をのぞくと、星ぼしの光の色が変化して、密集していた星の空間が広くなってきました。船のスピードが落ちているのでしょう。光速から推進システムに変わる時は、到着する星が近づいているのです。
 南の方角に、美しい二色に光る星が見えてきました。どこか地球を思わせる、宇宙のオアシスのような星でしたので、加奈は、好奇心を抑えることが出来ませんでした。

 鉱物採集のため、母船タイタン号は原始星のまわりをまわり、着陸船だけが上陸することになっていました。加奈は、船長に、無理やり許しを得て、着陸船に乗せてもらいました。原始星は、地球と同じ大気なので、宇宙服を必要としないので、加奈はうれしくてたまりませんでした。身軽というより、ひさしぶりに自然と接することが出来ると思ったからでした。
 加奈の思ったとおり、原始星は、緑のじゅうたんが敷き詰めたように、森はどこまでも続き、壮大な景色でした。火山地帯なのか、どの山にも、空まで届きそうな噴煙が、もくもくと立ち登っていました。
「加奈ちゃん、ぼくたちは北のペグマタイト地帯で鉱物を採集するけど、あまり遠くに行かないようにね」
 心配そうに加奈の腕に、特殊時計をつけたのは、イオンという名のエンジニアのサイボーグでした。
「この時計の針が6をさしたら、空を見上げて、恒星の位置を確認するんだよ。レーダースイッチは左側のポッチ。自分の位置が着陸船から離れないよう、気をつけて何度も押して迷子のならないようにしてよ。シルト、加奈ちゃんを頼む。彼女は夢中になると、時間を忘れてしまうから」
「だいじょうぶ。いちばん近くて安全なカオリン地帯に連れていくよ」
 加奈たちは、イオンたちと別れて、西の方角へ向かいました。木で作られた細い道を少し行くと、原生林があり、そこから先は道はありませんでした。
「この林を抜けないと、カオリン地帯には行けないんだ。加奈ちゃんの足ではちょっと無理だから、車にするかな」
「車!車って、ここ道路ないのに走れるの」
「道路なんか必要ないよ」
 シルトは、ポケットから金属製の箱を出しました。それを広げると、なんと二メートル四方の金属板になりました。
「シルトさん、この四角いのが車?」
「そうだよ。原始星の車は、皆、これなんだ。携帯用だから、少し小さいけれど、乗り心地はばつぐんさ」
 加奈とシルトが乗ると、金属板の車は、ふわりと上に上がっていきました。原生林の上を、音もなく振動もなく、雲のように、流れるように走って行きます。
「うわー。すごいすごい。これなら道路いらないわね」
「ちょっちょっと、加奈ちゃん。静かに乗っていないと落ちるよ」

2011008-ls-001

 車から見おろす原生林の緑は、さえるほどの色で、植物特有の香りが空まで届き、赤茶けた山の絶壁から、どうどうと滝は、水しぶきを浴びて、うっそうとした林にはげしく流れ落ちていきました。
加奈たちは、滝の近くの、巨大な板根のある所で降りました。顔ほどもある長細い葉は、熱い日差しを防いでくれるし、板根はいすの役目もしてくれました。
「加奈ちゃん、ここの土が、いちばんおいしいんだよ」
 シルトは、手早く土を丸めると、口にぽいといれると、おいしそうに満足そうに食べました。あまりにシルトがおいしそうに食べるので、そんなにおいしいものかと加奈も、土を小さくだんご状にして、口にぽいと入れて食べてみました。
「ペッペッ、泥臭い。これ、おいしい土なの。おえー」
「あれ、加奈ちゃん、だめなの。こんなにおいしいのに。さわやかな味なのに」
 土を口いっぱいほおばりながら、シルトは、不思議そうに加奈を見ました。
「木の実を取ってきてあげるよ。加奈ちゃん、迷子になったらこまるから、絶対に動かないでね」
 シルトはそう言うと、金属板に乗って、滝の向こう側へ行ってしまいました。土を袋にたくさん詰めると、少し疲れたので木陰で、うっつらうっつらとしていました。

Art_D_05恐竜

「ギギイー!」
 悲鳴にも似た泣き声が、川の方から聞こえてきました。何事かと加奈は、葉のすきまから川に目をやると、大きな恐竜が小さな恐竜の首にくいついているではありませんか。あまりの突然のことに、加奈は身動きさえ出来ませんでした。それは、単なる争いではありませんでした。恐ろしいほどの闘争は、土ぼこりをあげ、川の水さえもせき止める程でした。大きな恐竜は、小さな恐竜を倒すと、すごい不気味な音をたて、飲み込むように食べてしまいました。後には、小さな恐竜の無惨な姿が残るだけでした。大きな恐竜はひと声
鳴くと、あたりをキョロキョロとうかがいました。鼻を、クンクンさせ、巨大な体を揺らしながら、加奈の方へ近づいてきました。
「体、体が動かない」
 加奈は逃げようと思っても、体が硬直していうことがききませんでした。このままでは小さな恐竜のように、食べられてしまいます。シルトは、どこへ行ってしまったのでしょうか。声さえも出せず、加奈は、ズシンズシンと地面をひびかせ、近づいてくる恐竜に、なすすべもありませんでした。 
  「加奈ちゃん、早く車に乗って」
 シルトの車が後方から飛んできました。加奈は、シルトの差し出した手を、しっかりとつかみました。
「ああ、びっくりした」
「加奈ちゃん、だいじょうぶ?おかしいな。あの恐竜は山にいて、川まで降りることはないんだけど。やっぱり、原始星の時空が、ゆがんできているのかな」
「キャアー」
 突然、車が激しく横に揺れました。シルトは、加奈の体をしっかり支え、全速力で着陸船へと飛ばしました。
「シルトさん、シルトさんは乗らないの」
 船に乗ろうとしないシルトの手を、加奈はひっぱりました。
「ごめんね、加奈ちゃん。ぼくは行けないんだ。これを持っていって」
 シルトは、小さな草色の袋を開けて、小さな石を加奈に渡しました。その石は、なんとも言えない冴える程の、緑色の石でした。
「これは、原始星の石なんだ。きっと、加奈ちゃんを守ってくれるはずだよ。大切にしてね」
 そう言うとシルトは、もと来た道を戻って行きました。
「シルトさあん」
 ドドドドー、火山地帯から噴火が始まりました。赤く燃えあがる炎が、一気に空を舞い、一瞬のうちに、青空を灰色へと変えていきました。

 着陸船がタイタン号に戻り、窓からは原始星の姿が、少しづつ小さくなっていきました。
「加奈ちゃん、宇宙も生きているんだよ」
「船長さん、原始星はどうなるの」
「原始星の銀河の第六惑星のそばに、ブラックホールに近い重力星がある。その星の強い引力が原始星を引っぱっているんだ」
「それじゃあ、原始星は、その重力星と衝突してしまうの」
「いいや、ブラックホールとは違う別の宇宙の入口かもしれない。宇宙空間は、時空の波の波動が激しくて、一定ではないんだ。時空間の落とし穴は、宇宙のいたる所に存在している。私たちも、いつその穴に遭遇するかもしれないんだよ」
 加奈は、シルトのくれた石を手のひらに乗せました。小さな石が、原始星の運命を悲しむかのように、ぬれたように光っていました。
 
 宇宙の恐ろしさに、加奈は不安になってきました。しかし、加奈は歩き始めてしまったのです。不安を打ち消すように、生物室にこもり、花の手入れにいそしんでいました。
「船長さーん、船長さーん」」
 加奈は、思い切り走っていました。ダダダーとすごい足音は、船長室まで聞こえました。
「加奈ちゃん、いつも言っているだろう。走ると危ないよ」
「で、でも、早く船長さんに知らせたくて。いっしょに、生物室に来てください」
 加奈にせかされるように船長は、生物室へと急ぎました。船長は、生物室に入ったとたん、声を出せず、そこから動くことも出来ませんでした。
「こ、これは、どうしたんだ」
 生物室は、植物でいっぱいになっていたのです。花の香りと草の香りが、部屋中に満ちて、なんともいえない空気となっていたのです。
「加奈ちゃん、何かしたのか」
「きのうは、なんともなかったのよ。今日ここに来て、一日でこんなになってしまったのだもの」
「もしかしたら、シルトが、加奈ちゃんに夢を託したもかもしれないよ」
「私に夢を?」
「シルトも、自然をとても大事にしていたからね。だから、加奈ちゃんに石を渡したんだと思うよ。その石は、自然界でも不思議なパワーを出し、時空の道を渡ることも出来るんだよ。でも、加奈ちゃんにその日がこない方がいいのだが…」
「?」
 きょとんとしている加奈に、船長は少しさびしげな笑みを浮かべ、部屋を後にしたのでした。
 加奈は、原始星の小さな分身が、シルトの想いとともに、生きていると思いました。
【ここにいるわよね、シルトさん。原始星は、いつまでも植物といっしょに残っていくわ。化石の種も、こんなに美しい花を咲かせたもの】
 アルヴェーン博士からゆずり受けた種も、大輪の真紅の花をつけていたのでした。

tritonsora at 13:59|PermalinkComments(0)

2015年03月15日

第1章 光の海へ 第3話 -氷の花-

「加奈ちゃん、この問題は、昨日教えてあげたばかりでしょう。どうして、わからないの」
「むずかしいのですもの。仕方ないでしょう。3003号さん」  
「3003号でなく、3005号です」
「なんで、名前ではなく数字なの。頭が混乱してしまうわ」
「ロボット には、名前はいらないのです」

    加奈は、勉強の時間がいちばんきらいでした。宇宙船に 乗ってまで勉強しなくてはならないのは、加奈の通学していた学校の、筑波先生の思いつきでした。宇宙知識を知らないまま、宇宙に旅出させることは心配だったからです。
    おかげで、加奈に10人の家庭教師のロボットが、宇宙船に便乗したということです。3001号から3010号まで、人間型ではありますが、頭でっかちの電子コンピューターで、先生のお気に入りのロボットたちでした。数字から生物、天体物理学から宇宙論にいたるまで加奈にとっては、頭が痛くなる科目の数々でした。
「それでは今日は、ここまでにします。明日、もう一度復習しますから、ちゃんと勉強しといてくださいね」
「わかりました、先生」
「先生ではなく、3005号です」
「どっちでもいいでしょう。もう!」
「クス、クスクス」
   そんな加奈を見て、笑う人がいました。
「あっ、シャーベットさん、いらしたんですか」
「大きな声を出すのですもの。通路までつつぬけよ」
「あ、すみません。エアロック開けたままだわ」

  シャーベットさんは氷星の住民でした。アンドロメダから乗ってきたとても美しい人でした。水晶のような膚で、頭の上には昆虫のような触角を持ち、水色のしずくのような髪はいつもつややかでした。地球のどんな美人でも彼女には負けてしまうほど、きれいな人でした。
「勉強で疲れたでしょう。アイスクリームごちそうするわ。私の部屋にいらっしゃらない」
「わあ、うれしい。シャーベットさんの作ったアイスクリーム、とってもおいしいんですもの」
「防寒着、忘れないでね」
  シャーベットさんの部屋は、氷のように冷たい部屋なのです。彼女は高温の所では生きていけないので、部屋を出る時は特別の服を着なければなりませんでした。
  加奈は、シャーベットさんの作ったアイスクリームが大好きでした。生クリームのようなきめこまやかな、ちょっぴり甘酸っぱい味なのです。
  加奈が、シャーベットさんの部屋でアイスクリームを食べている時、タイタン号は氷星の大気圏に入っていました。
『まもなく、氷星に到着いたします。氷と水が確保でき次第、出航しますので、船内から出られませんようお願いします』
  加奈が、窓をのぞくと、巨大な氷星が見えました。氷星の表面には、何本かのしま模様があって、氷のつぶや氷におおわれた岩のようなものが、星のまわりをゆっくりと公転していました。
  氷星に近づくにつれ、しま模様がはっきりしてきました。濃淡さまざまな灰色模様で、見るからに氷の世界でした。氷河と氷海につつまれた星。それが氷星の姿でした。
「シャーベットさん、どこに住んでいるの?平地が全然ない」
「もう少し近づくと、わかるわ。氷の山の麓に、私たちの城があるのよ」
  タイタン号は、軌道に乗りながら、氷の大地にゆっくりと着陸していきました。

story_g7_04氷の山

  灰色の雲が浮かんで流れ、氷海の氷が恒星の光に反射して、雪原はキラキラと輝いていました。けれども、それもいっしゅんで、雲は日射をさえぎり、暗く冷たい世界が広がるばかりでした。南と西の方角に、今にもぶつかりそうな変形した大きな衛星が見えました。加奈は、これほど近くに、丸くない衛星を見たのは始めてでした。
「シャーベットさん。あの衛星、角ばった形しているのね」
「氷星には、全部で衛星が15個あるのよ。あの2個は、とりわけ大きいけれど、夜になれば金色に輝く衛星が見えるわ」
「地球の衛星の月みたい!見たいなあ。氷星に降りたいなあ」
「とんでもない!宇宙船から見ているだけではわからないけれど、外の気温はマイナス130度よ。大気も薄いし、とても無理よ」
「宇宙服着ても、だめかしら」
「だめだめ!」
  船長室のそばの絞り開きのエアロックが外へ飛び出し、そこから氷の大地へまっすぐと通路がのびていきました。その開閉装置まで加奈は、シャーベットさんを見送りました。
「加奈さん、短い時間だったけど、とっても楽しかったわ」
「シャーベットさん、ほんのちょっとでも無理かしら」
「まだそんなこと言って!加奈さんは宇宙の恐ろしさを知らなすぎるわ」
「それでも、行きたい!」
「加奈ちゃん、わがまま言ってはだめだよ」
  加奈の後ろから、笑いながら船長が近づいてきました。
「でも船長さん。外に出たくても出られないなんて、つまんないわ」
「やれやれ、加奈ちゃんの冒険心には感服するよ。普通だったら外に出るのは、こわいはずなのだけれどね」
  船長は、大きな扉を開けると、中から白い特殊宇宙服を取り出しました。
「3時間しか、この星にはいられないよ。無理はしないと約束してくれるね」
「わーい!氷星に降りていいのですね」
「汽笛を鳴らしてあげるから、すぐ戻ってくるのだよ。あと5時間で夜になる。金色の衛星が東の方角から西へ傾くと、大気の流れが変わる。その前に出航しないと、氷の吹雪があれくるって、氷海に船が暗礁してしまって危険だからね。星の位置をしっかり覚えときなさい」
「はい。それでは、行ってきます」
「小型の補結艇に乗って行きなさい。運転はコンピュータがしてくれるから、まん中の赤いスイッチを押して、後は指示通りにすればいい」
「船長、私、まちがいなく加奈さんを送りとどけますわ」
「シャーベットさん、頼みます」

  たまご型の補給艇に乗って、加奈たちは船から氷星の大地へ飛び出しました。
「ゼンポウ、イチキロ。オオキナブッタイガアリマス。
  艇のコンピュータが知らせます。
「私たちの城だわ」

氷星のお城

  薄暗い空の下、キラキラ輝く氷の城が見えました。まるで中世の城と同じぐらい、すばらしい建物でした。
  大きな扉の前で、シャーベットさんは頭の
触角を動かしました。すると、左右に扉が開き、長い通路がまっすぐに続いていました。アーチ型の扉の前までくるとシャーベットさんは、補給艇から降りるようにいいました。加奈が足をそろっと置くと、思ったより氷はやわらかく雪のような感触でした。加奈が歩くと、湿地のように地面が揺れました。
「加奈さん、気をつけて歩いてくださいね。ちょっと安定感がないから」
「この氷、溶けることはないの」
「氷の厚さが増すことはあっても、溶けることはないの。女王さまがお待ちかねだから、急ぎましょう」
  シャーベットさんは、今度は大きく触角を動かし、扉に手を当てました。すると、開閉
装置が作動し、たちまち扉が開きました。
  部屋の両側には、シャーベットさんと同じように美しい長い髪の女性たちが、並んでいました。
「シャーベット、お帰り。さっき知らせてくれたお客さまはこちらのかたなの?」
  鈴のようなやさしそうな声が、白いカーテンの奥から聞こえました。加奈がカーテンの前に立つと、カーテンはゆっくりと天井に上がり、女王は氷のいすに座っていました。加奈は、思わず目をみはりました。
  シャーベットさんと始めて会った時、これほど美しい人はいないとびっくりしてしまったのですが、彼女以上に女王は、絵のような美しさでした。
  透き通るほどの膚に、水色のやわらかい髪が足の先まで伸びて、頭の触角は金色に輝いていました。マリンブルーの瞳は、やさしさをひめていました。寒い星なのに女王も、薄い絹のような布を軽く身にまとっているだけでした。
「ようこそ、いらっしゃいました。お客様がいらっしゃるのは何百年ぶりかしら。うれしいわ」
「何百年!」
  加奈は、あまりの年月の長さに、呆然とするばかりでした。
「さあ、ゆっくりくつろいでくださいな」
  女王が手をたたくと、女の人が大きなうつわにガラスの食器に盛られたアイスクリームを持ってきました。
「お口にあうかわかりませんけれど、食べてくださいな」
「わあ、うれしい。私、アイスクリーム大好きなんです。シャーベットさんにいつも、ごちそうになっていたんです」
「加奈さんの星では、アイスクリームというのね。氷星では、ミルク雪というのよ」
  ミルク雪の味は、それはそれは舌がとろけるほどおいしく、すばらしい味でした。

  加奈は、地球の話を女王に聞かせました。緑美しい大地や動物のこと、海や魚のこと、そして人間の生活のことなどを話しました。女王はうれしそうに聞いていましたが、急にぽろぽろ涙を流し始めました。
「女王さま、どうなさったんですか」
「ごめんなさいね。なんだか、とってもうらやましくなってしまって」
  加奈は、女王にどういってなぐさめていいのか、途方に暮れてしまいました。
「加奈さん、こちらにいらして」
  隣に座っていたシャーベットさんが、加奈を地下の部屋に案内しました。その部屋は巨大なコンピュータがあって、自動的に動いていました。機械の音だけがひびく、不気味な部屋でした。シャーベットさんが、コンピュータの大きなハンドルを下へ降ろすと、壁だった所が上に開きました。その部屋は、蜂の巣のような六角形の氷部屋にいくつも別れ、氷星の女性たちが横たわっていました。
「シャーベットさん、この部屋は冷凍保存室なの」
「氷星住民百名の肉体よ。私たちは再生をくり返すクローン体なの。巨大なコンピュータが私たちの命のみなもと。氷星の一生が終わるまで、私たちは生き続けなければならないの」
「それじゃあ、シャーベットさんは、何千年もこのお城に住んでいるの」
「正確にいえば、八千年かしら。300年ごとにアンドロメダへ行く事が、私たちの楽しみなの。女王さまにお話をするために」
「八…八…八千年!気が遠くなるような年月。とても信じられない」
「異星人が氷星にくることは、めったにないの。だから、加奈さんの地球のすばらしい話に、女王さまがどれだけお喜びになったか。ほんとに良かったわ。ありがとう」
「シャーベットさんたちは、アンドロメダ以外の惑星には行かないの」
  加奈が聞くと、シャーベットさんはとても悲しい顔になりました。これ以上聞いてはいけないと思い、加奈は話題を変えようと、テラスへ出ました。
  外は氷河がどこまでも続く、銀世界でした。空も大地も白く輝く氷星は、冬の星なのでした。
「決して訪れることのない春、一年中冬なんて。あっ!そうだ。いいことがあるわ。なんでもっと早く気がつかなかったのかしら」
  加奈はテラスからさがっているつららを三本、ぽきりと折り、女王の部屋に戻りました。
  加奈がいったい何を始めるのか、女王もシャーベットもまわりに仕えている女性たちもわかりませんでした。加奈は何を思ったのか、自分が座っていた氷のいすを、つららでけずり始めました。コツコツ、ジャリジャリ、氷の削る音だけが部屋中響きます。それからどのくらいの時間が流れたでしょうか。金色の衛星が、夜空に姿を表しました。
「ああ、なんてすばらしいのでしょう!」
  女王たちは、加奈の作った物に感嘆の声を出しました。

  加奈が作ったのは、氷の花でした。長く寒い冬の中で眠っていた草木が、やわらかな日差しを受けて花を咲かせる春のすばらしさを教えてあげたいと思ったのです。言葉では語れない。せめて形だけでもと、心をこめて作った春の花でした。女王にふさわしい大輪のバラの花と、シャーベットさんたちが女王に仕えるやさしい気持ちと似たスミレとスズランの花を、加奈は選んで作りました。
「これが、さっき加奈さんが話をしてくださった花というものなのね」
  女王は、あまりのうれしさに胸が熱くなりました。体が震えるほど感激してしまう、この満ちたりた気持ちに、女王も皆も、涙を流して喜ぶのでした。
  その時、加奈は風の音を聞きました。遠いけれど、かすかに響く風の音です。
「おかしいわ。たしかに聞こえる」
「加奈さん、どうしたの」
「シャーベットさん、風の音聞こえない?」 シャーベットさんは、頭の触角を左右に動かすと、顔色を変えました。
「たいへんだわ。嵐がくるわ。早すぎる。どしましょう」
「シャーベット、補給艇ではまにあわないわ。加奈さん、こちらへいらっしゃい」
加奈が女王のそばに行くと女王は首にかけていた首飾りをはずし、加奈の首にかけました。「加奈さん、花のお礼に、この首飾りをさしあげます。さあ、皆、加奈さんのまわりを囲むのよ」
「女王さま! 加奈さんは普通の女の子です。とても無理です」
「シャーベット。大丈夫。私たちの精神波と加奈さんの心は、かならず共鳴出来るはずです。加奈さん、目をつぶって、タイタン号を思い浮かべてくださいね」
 加奈は目をつぶり、タイタン号を思い浮かべました。頭がぼぉーとして何か体がとても軽くなり、よい心持ちになりました。
*加奈さん、もう二度と会うことはないと思います。でも私たちは決して加奈さんのことは忘れることはないでしょう。氷の花は私たちの希望です。さあ、いいですよ。ゆっくりと目を開けてごらんなさい*
 加奈が目を開けると、なんと、そこは、タイタン号の船長室でした!
「あっ!加奈ちゃん、いつの間に戻ってきたんだ」
「あっれ???」
 いったい何がおこったのか、加奈には何が何だかわかりませんでした。
「それより急いで、シートベルトを着けて。そこまで嵐は来ている」
 タイタン号が出航するとまもなく、今まで静かだった上空に、低気圧性の渦巻きの嵐が吹き始めました。小さな渦がだんだん激しさを増し、城も氷河も灰色におおいかぶせてしまいました。

 タイタン号は、氷星の大気圏を離れ、静かな宇宙空間に戻りました。遠くに見える氷星は嵐がうそのように、風の音も氷のふぶきさえも見えませんでした。
 加奈の胸元に飾られた、女王の首飾りの露のような玉が、まるでぬれたように輝いていました。女王の涙のしずくのように……。 


tritonsora at 13:35|PermalinkComments(0)

2015年03月01日

第1章 光の海へ 第2話 -アンドロメダE-23号-

 宇宙船の窓から、渦巻模様のアンドロメダ星雲が見えてきました。暗黒の宇宙の中で、千億の星が、星花のようにまたたいています。星ぼしに近づくにつれ、光線の色が変化し、光の橋をタイタン号は進んでいきます。

アンドロメダ星雲

「まもなくアンドロメダに到着いたします。エネルギー補充と瞬間移動装置点検のため、72時間停泊いたします。出航時刻は8時30分。出航30分前に鐘を鳴らしますので、乗り遅れませんようにお願いします。
 アンドロメダの科学は地球より数倍もすぐれ、全人口の半分がロボットで、残り半分がアンドロメダ人でした。銀色の幾何学的な建物が建ち並び、ハイウェーが建物の空間をつなげ、車はすごい速さで走っていました。
 銀色の都市を見て、加奈は圧倒されて立ちつくしてしまいました。 
「加奈さん、ご案内しましょう」
 名前を呼ばれてふり向くと、コバルトブルーの服を着た乳白色の髪の青年が立っていました。
「私の名前、なぜ知っているの」
「私は、タイタン号から加奈さんの案内を頼まれていました。E-23号ロボットです」
「ロボット!」

  加奈は失礼とは思ったものの、目の前の青年をじろじろ見ないわけにはいきませんでした。とてもロボットとは思えなかったからです。人間型ロボットが地球でも21世紀後半から実用化され、一般家庭でも利用されているのは知っていたし、現に加奈の家にもいました。でも、もっと機械的だったし、見るからに鉄のかたまりという感じでした。
「私のようなロボットを見るのは、初めてですか」
「ごめんなさい。じろじろ見てしまって」
「地球からこられた方はみんな、びっくりするんですよ。さあ、どこをご案内しましょうか。ゲーム広場にしますか。それともマシーン遊園地にしますか」
「私、緑のたくさんある所にいきたいわ」
「緑?それは何ですか」
「緑、知らないの?山や森は、ここにはないの」
「山はあります。車に乗ってください」
「この大きなボールみたいなのが車?」
 アンドロメダの車は球型で、運転席にはたくさんのスイッチがあり、ハンドルというものがありませんでした。
 加奈はおそるおそる車に乗りました。車のドアガラスが二重に閉まり、すごい速さで走り始めました。その速さときたら外の景色は何も見えず、振動はなくとも、頭ががんがんするし耳鳴りはひどいし、乗っている心地さえしませんでした。

「着きましたよ」
 加奈の降り立った所は、キラキラ輝く二重の星がまたたき、砂漠のような土地が一面に広がっていました。そして、ごつごつした岩のような山が連なり、竜巻が宙を舞っていました。小さな竜巻がお互いにぶつかり合い、いなずまのような光を出して、そのエネルギーのすさまじさは恐ろしいくらいでした。
「風の音が聞こえないわ。あれほどのつむじ風が吹いているのに」
「あの嵐は、ドームの外の景色なんですよ。この都市は、大きなドームの中にあります。アンドロメダでは、たくさんのドームごとに町があって、それぞれの町に行くには地下から特別列車に乗って行きます」
「すさまじい風景だわ。いつも、こうなの?」
「磁気の嵐が、電離したプラズマ大気とぶつかって、高エネルギーを発しているんです。夜になれば、おさまって満天の星が見えますよ」
「これでは、植物が育たないわ。都市には並木道も花畑もないし、アンドロメダにはどんな生物がいるか、とても楽しみにしてたのに」
 加奈は、荒れくるうドームの外の景色を見ながら、地球の美しい自然が、より以上にかげがえのないものに思えてきました。
「科学研究所へ行きましょう。もしかしたら、そこに緑というものがあるかもしれませんから」
 しょんぼりしている加奈を慰めながら、E-23号は考えこんでしまいました。数十年もの間、E-23号は宇宙の旅人たちを案内してきました。誰もがアンドロメダの都市をほめたたえ、科学の偉大さに驚き、外の景色など気にもとめなかったからです。安全で、快適で、豊かな生活以上のものはないと思っていたし、彼の頭に例外はインプットされていませんでした。

「加奈さん、あそこに見える三角形の建物が科学研究所ですよ」
 前方に、巨大なピラミッド型の建物が見えてきました。
 E-23号は加奈に、科学研究所の所長であるアルヴェーン博士を紹介しました。背の高いスマートなアンドロメダ人と違って、博士はでっぷりと太った白いひげをはやした優しそうな人でした。
「ようこそ、加奈さん。わたしも、半分地球人の血が流れているから、加奈さんとは同類みたいなものだよ。母親が地球人でね。なつかしいな」
「アルヴェーン博士、実は、加奈さんをここにお連れしたのは、緑というものが見たいとのことなのですが。ここにありますか」
「残念だが、今のアンドロメダには生息していないんだよ。でも、せっかく来たのだから、かたわれだけでも見ていきなさい」
 加奈は、最上階の部屋に案内されました。広い部屋には、丸い大きな黒い岩のようなものがありました。
「加奈さん、これが何か、おわかりか?」
「岩石かなんかですか」
「よく見てごらん。木の化石なのだよ」
 アルヴェーン博士によると、アンドロメダも数万年前までは、多くの生物が生息していたとのことでした。しかし、何かのはずみで大気の上層が変化をおこし、暗く寒い日が続きました。その結果、すべての生物は氷の中にうずもれてしまったのです。
「普通の異常気象だったら、生物には環境に適応する力はあるが、急激な温度差が何千年も続いたら、外界の生物はたまったもんじゃない。弱いものから絶滅し、今では緑という植物は生息していない」
 加奈は、横たわっている黒い木の化石がかわいそうで、何度も手でさすっていました。昔は大地に根をおろし、生き生きと葉を茂らせ、光をいっぱいにあびていただろうに、こんな姿になるとは、加奈はあふれる涙を押さえることが出来ませんでした。
 そんな時、手に何かがふれたような気がしました。加奈は、そこを少し、こすってみました。すると、どうでしょう。空洞になっていた小さな穴から、たくさんの種が落ちてきました。
「博士、これ、これ!!   これ、種ですよ! 土にまいたら芽を出さないかしら」
「なんと不思議だ。ここにある木の化石はすべて調査済みで、科学線で中も調べたはずなのに。ちょっと見せておくれ。」
「やわらかさがあるから、きっと大丈夫ですよ」
「どれどれ。コンピュータ顕微鏡で見ればすぐわかるはずだ」
 博士が調べている間、加奈は、ひとつひとつ種を大事そうに手の平に乗せました。数えてみると種は五十粒ありました。
「E-23号さん、ほら、かわいい種でしょう」
「わかりません」
「わからない?無理ないと思うけど、この黒い小さな粒から、まっさおな芽が出るのよ」
「それが何で、かわいいのですか」
「見たら、きっとわかるわよ」
「言ってる意味が、わかりません」
「加奈さん、ロボットに言ったてわからないよ。それより、信じられないことだが、この種の組織は生きている」
「わあー、それでは、土にまけば芽が出るんですね」
 加奈は、手の平の小さな種を、そっと机の上に置きました。そして、黒い木の化石にほおずりしながら、よかったねよかったねと話かけるのでした。

 二重の星が西に沈むと、嵐はやんで、満天の星が夜空をかざりました。まるで花火のような華やかさな星空でした。
「昼間の嵐がうそみたい。とってもきれい」
「加奈さんは、不思議な人だ」
「わたしは、わからないことばかりです」
 E-23号が、ぽつりと言うと、博士は大笑いしました。
「博士、そんなに笑ったらE-23号さんが、かわいそう」
「加奈さん、ロボットは人間ではない。機械に感情はない。的確な判断だけだよ」
「私は、そうは思いません。ロボットには作った人の心が生きています」
 加奈のことばに、博士はびっくりしてしまいました。加奈は、E-23号をロボットでなく人間として見ていたからです。
 その時、タイタン号の鐘が鳴りました。加奈は、すっかり忘れていました。アンドロメダは、地球と違って一日が短いのです。
「加奈さん、急いでください」
「E-23号さん、まにあうかしら」
「だいじょうぶです。そのかわり、耳に安全装置をつけてください。超スピードで行きますから」
 加奈は、博士に別れを告げて、星空の中を飛ぶようにタイタン号へ向かいました。昼間は見えなかったドームが、星の光に反射して、輝いて見えました。光る地平線のように見えました。

 ぎりぎりで、加奈はタイタン号に着くことができました。
「E-23号さん、今日は、ほんとにありがとう。ちょっと待っててね」
 加奈は自分の部屋から急いでスケッチブックを持ち出すと、それをE-23号に渡しました。
「案内してくださったお礼よ。こんなもので悪いのだけど」 
 E-23号が何かを言いかけた時、タイタン号の汽笛が鳴りました。出航の合図です。
元気でね。さようなら」
 加奈は船の中へと姿を消しました。そして、降るほどの星くずの中を、タイタン号は出航して行きました。
 E-23号がスケッチブックをめくると、そこには美しい色彩で描かれた地球の大地が、何枚も書かれていました。銀色の都市をみなれていたE-23号にとって、自然の色彩は目を見はるばかりでした。
 その絵は、加奈が四季を描いた地球の自然の姿だったのです。E-23号は、いつまでも星空の下で、スケッチブックに見入ったまま動こうとしませんでした。
 星々も、時空を越えて、かぎりなく広大な宇宙のキャンパスに、神秘の光の筆で描き続けるのでした。


tritonsora at 14:18|PermalinkComments(1)

2015年01月25日

第1章 光の海へ 第1話 -トリトン-

 七色の流星が降りそそぐとともに、タイタン号はゆっくりと帆を広げていきました。白い船は、まるで海の上をすべるように、星がまたたく銀河宇宙へ出航です。ひとりの少女が、その白い船の小さな窓から、離れていく地球の姿をいつまでも見つめていました。
「トリトン、加奈はやっと旅立つわ。私、タイタン号に乗っているのよ」  

sh01_01_1024タイタン号のf船窓
            
「・・・であるからにしてぇー、現代の宇宙科学は、まさに最高の或に達しているわけでありましてぇー」 
  加奈はあくびが出るのを、いっしょうけんめいこらえていました。宇宙科学をを専攻したものの、思った以上にむずかしくて、筑波先生の授業はちんぷんかんぷんでした。それよりも、加奈は学校から見える宇宙船の発着所にあるタイタン号にあこがれていました。 タイタン号は、船の形をした宇宙船です。それも、太陽系内の惑星群への宇宙船ではなく、地球から230万光年のアンドロメダ星雲よりもっと遠い、700万光年も離れているタイタン星へ行くのです。しかし、強力な推進装置と瞬間移動装置を持つタイタン号でも、一度地球を離れると、再び地球に戻るのは50年後になるのでした。タイタン号の出航は一カ月後にせまり、再び加奈の目に映るには50年待たねばなりません。
「冗談じゃないわ。50年もタイタン号を見ることができないなんて!  今のうちに目がくさるほど見とかないと後悔するわ。授業なんて聞いてられない」
 先生が黒板にむかって宇宙年齢について、ハップル定数で計算を始めました。加奈はそっと、教室を抜け出しました。
「ハッブルかワッフルか知らないけど、毎日計算ばっか!  いやになっちゃう」
  加奈はぶつぶつ言いながら、宇宙ステーションへと走って行きました。

Art_D_07_1920トリトンのラスト

  2時30分発、アンドロメダ行、輝く星座列車にお乗りの方はお急ぎください。まもなく発車致します。
  宇宙船は次々と、銀河系に向けて、ニュートウキョウ駅から発車して行きます。その姿に、加奈は、ますます宇宙への夢を託すのでした。
「あの…すみませんが…」
「え?」
  ぼんやりしていた加奈を呼び止めたのは、ひとりの少年でした。全身あわい緑色の美しい少年です。加奈は異星人は見慣れていましたが、これほど美しい少年を見たことがありませんでした。
「ちょっとおうかがいしたいのですが、この辺に森はありませんか。ここには木が一本もありません。息が苦しくてたまらないのです」
「まあ、たいへん。きっと酸欠よ。私、とっておきの場所を知ってるから案内するわ。ちょっと遠いから車で行きましょう」
「車?」
「だいじょうぶ。車と言ってもこれなのよ」
 加奈はバックの中から、おりたたみの小型電気バイクを取り出して、組み立てました。「スピードは出ないけど安全よ。乗って」
  加奈はバイクの後ろに少年を乗せて、緑ケ森へ走りました。緑ヶ森は、緑保護地区になっていませんでしたが、かろうじて昔ながらの自然が残っている森でした。

  森が近づくにつれ、木の葉が風に乗って舞い落ちてきます。黄金色のイチョウの並木道が、まるでトンネルのようにはてしなく続きます。正面に見える山の姿は、紅葉でにしき織りに染め上がっていました。森に入っていくと、小さな池がありました。青く澄んだ池に、燃えるほどの紅のカエデの葉がはらはらと風に散りこんでいました。
「なんて美しい自然なのだろう」
「昔はもっと緑が多くて、どこまでも山が連なっていたのよ。もう、人工の森しかないし、人の手が加わってない森は数えるしかないの」
「地球も危ないのですね。あ、名前も言わずに、ぼく、トリトンといいます」
「私、加奈よ。トリトンさん、あなたはどの星からきたの」
「トリトンでいいよ。ぼくは、タイタン星から来ました」
「タイタン星!あの…!タイタン号に乗って?」
「はい。使命を受けて、地球に来ました」
「使命?」
 少年は、ポケットから小さな木の葉の形をした緑色の箱を出しました。ふたを開けると、美しいメロディが流れでました。その音色は、風の音のように、木の葉がふれあうように音のように、聞こえました。
「風の声と同じね。ノームの音楽会と同じね」「え!」
 少年は、びっくりしたように加奈を見ました。
「君は、聞こえるのですか。ぼくたちの声が」
「ぼくたちの声って?」
 少年は話し始めました。

 地球に生命体が現れた時、タイタン星は、引力に引きよせられるように火山が爆発し燃える溶岩が流星になって、地球めがけて流れていきました。地球に落ちる流星の数は少なくとも、それは何万年も続いたのです。その溶岩の成分は、タイタン星の生命体であるグリーン体をたくさん含んでいたのです。グリーン体は、地球で木や草や花の命を作る生命体となったのです。
「タイタン星は、地球から700万光年離れている外銀河だけど、地球と同じ自然に恵まれた星、緑色に輝く星と、学校で習ったけれど、その通りだったのね。私、夢なのよ、タイタン号に乗ってタイタン星に行くのが」
「それでは、このオルゴールをあげましょう。こんなすばらしい森につれてきてくださったお礼です」
「でも、こんな大事なものを:」
「このオルゴールがあれば、無条件でタイタン号に乗れます。タイタン星に行ってグーリン生命体を、この星に持って来てください。もしかしたら、緑美しい頃の地球に戻るかもしれません」
「グリーン生命体はどこにあるの」
「あなたなら、きっと見つかります」
 少年はふっと笑って、手を高く空に向けました。すると、ひとすじの光と風が少年の体をつつんだかと思うと、少年の体は若草色の木に変わっていきました。
「ぼくの使命は、あなたのように自然と話が出来る人たちを捜し、タイタン星に行ってもらうことなのです。傷ついた木たちを助けてください。今日まで、長い長い道のりでした。加奈さん。ぼくは、やっともとの姿に戻れます」
「トリトン!」
  風がさやさやと加奈の髪をゆらしました。まっかな夕焼けが山と森をおおい、太陽は西の山へと姿を消し始めていました。加奈は、オルゴールのメロディを聞きながら、いつまでもそこに、たたずんでいました。

「11時30分発、タイタン行き、タイタン号はまもなく出航いたします。お乗りの方はお急ぎください」
  タイタン号は白い白鳥のように、大きな羽を広げ、銀河の中へ飛んでいくのでした。
「地球がもうあんなに小さいわ。地球に自然がなくて、人がどうして生きていけるの。トリトン、私が戻るまで待っててね。かならずグリーン生命体を持って帰るわ」
 加奈は、いっぱいにちりばめられた星座を見ていました。何度かワープするので、宇宙船の中には、年月がまるで過ぎていないように感じました。
  グリーン生命体とは、いったいどういう物なのか、加奈にはまだわかりません。ワープを何十回も重ねて、タイタン号はエネルギー補充のため、最初の星アンドロメダ星へ近づいていきました。
 加奈の旅は、いま始まったばかりでした。


tritonsora at 20:19|PermalinkComments(0)
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

アクセスカウンター

    記事検索
    ギャラリー
    • 第5章 最終章 別れ路 -光と影-⑥-
    • 第3章 星の紋章 第12話 -光の糸-
    • 第3章 星の紋章 第11話 -それぞれの想い-
    • 第3章 星の紋章 第10話 -すれ違う心-
    • すみれの説明案内板3
    • 第3章 星の紋章 第9話 -風読みの言霊-
    • 第3章 星の紋章 第9話 -風読みの言霊-
    • 第3章 星の紋章 第8話 -風の音符-
    • 第3章 星の紋章 第7話 -妖精の繭玉-
    • すみれの説明案内板2
    • 第3章 星の紋章 第6話 -タルタロスの影-
    • 第3章 星の紋章 第5話 -苦難の道筋-
    • 第3章 星の紋章 第5話 -苦難の道筋-
    • 第3章 星の紋章 第5話 -苦難の道筋-
    • 第3章 星の紋章 第4話 -星の紋章の剣-
    • 第3章 星の紋章 第4話 -星の紋章の剣-
    • 第3章 星の紋章 第3話 -天空の矢じり-
    • 第3章 星の紋章 第3話 -天空の矢じり-
    • 第3章 星の紋章 第2話 -短剣の謎-
    • すみれの説明案内板
    • 第3章 星の紋章 第1話 -宇宙海賊ルードィヒ-
    • 第2章 ドラゴンの翼 第7話 -星の心-
    • 第2章 ドラゴンの翼 第7話 -星の心-
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-4(明暗)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-4(明暗)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-3(嵐の前兆)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-3(嵐の前兆)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-3(嵐の前兆)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-2(竜の舞)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-2(竜の舞)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-1(夢と現実と)
    • 第2章 ドラゴンの翼 第5話 -2人の王子と水のドラゴン-1
    • 第2章 ドラゴンの翼 第4話 -再会と加奈の想い-
    • 第2章 ドラゴンの翼 第3話 -ドラゴン狩り-
    • 第2章 ドラゴンの翼 第1話 -青き竜星-1
    • 第1章 光の海へ 第9話 -星虹銀河、七色の弓矢-
    • 第1章 光の海へ 第8話 -星虹銀河、宇宙木の音色(後編)-
    • 第1章 光の海へ 第8話 -星虹銀河、宇宙木の音色(前編)-
    • 第1章 光の海へ 第7話 -タイタン号の危機-
    • 第1章 光の海へ 第7話 -タイタン号の危機-
    • 第1章 光の海へ 第6話 -サタンの剣-
    • 第1章 光の海へ 第6話 -サタンの剣-
    • 第1章 光の海へ 第5話 -ブラックホールの謎-
    • 第1章 光の海へ 第5話 -ブラックホールの謎-
    • 第1章 光の海へ 第4話 -原始星よ、永遠に-
    • 第1章 光の海へ 第4話 -原始星よ、永遠に-
    • 加奈の宇宙日記 -花粉モンスターの到来-
    • 第1章 光の海へ 第3話 -氷の花-
    • 第1章 光の海へ 第3話 -氷の花-
    • 第1章 光の海へ 第2話 -アンドロメダE-23号-
    • 第1章 光の海へ 第1話 -トリトン-
    • 第1章 光の海へ 第1話 -トリトン-
    • 光のオルゴール(-プロローグ-旅立ち) その3
    最新記事(画像付)
    にほんブログ村ランキング