2015年11月07日

第3章 星の紋章 第3話 -天空の矢じり-

 ポタポタと水滴が落ちて来ました。
 加奈の顔に落ちて、冷たい水が頬を濡らします。
 加奈は、自分が何故ここにいるのか、良く分かりませんでしたが、意識がはっきりしてくると、穴の中へ落ちてしまったことに気づかされました。

「いたたた…、お尻痛い。高い所でも、あんなに上から落ちたのに、骨が折れてなくて良かった…。骨折していたら、命とりだわ。あ、荷物、荷物は大丈夫かしら…」

 リュックの中もみな無事でした。星の弓も折れていなかったので、加奈は胸をなでおろしました。深い穴に落ちていたというのに、中は意外と明るく、浅い川が流れていました。上を見ると、落ちた穴が、かすかに小さく見えました。cave-863155_640浅い川

 周りに、小さな土器や美しいガラスの瓶が散乱していました。
「なんでこんな穴の中に人の作る物があるのかしら。わあ~、この小さな瓶、すごくきれい…。星屑の瓶みたい。何か使えるかもしれないから、何個か持って行こう。この土器も軽いから、少し持って行こう」

 加奈は、川で土器と瓶をよく洗い、リュックの中へ入れました。
 しかし、ここから出るには、どうしたらいいのでしょうか。一緒に落ちたはずなのに、馬車も他の人も見当たりませんでした。

 周りを見渡すと、川上と川下に道は分かれていました。ここはちょうど中間地点なのでしょうか…。幸い、モンスターの気配はありません。
 どちらの道を取るかで、加奈の運命が決まってしまいそうで、少し、中の様子を探ろうと思いました。

 川上から水が激しく流れる音がして、少し歩くと洞窟の中なのに、大きな滝がありました。凄い幅広の滝でよく見ると、滝の間に人が一人通れるような道があり、かすかに滝の中央に、穴が見えました。
 加奈は、石の階段のようなものをよじ登り、滝の中の道を滑らないように少しずつ歩いて行きました。すると不思議な扉みたいなものがあり、変った模様が描かれていました。

「これ、自然のものじゃないわ。誰かが作った感じ。」
 加奈が、その模様を触ると、ギィ~っと扉が開きました。
「うわ…扉開いたけど…中は、どうなっているのかしら…」
 好奇心旺盛な加奈は、穴に落ちたことも忘れて、中に入っていきました。
 加奈が、中に入った瞬間、扉がバタンと閉まってしまいました。
「キャア~、 イヤだ、閉まっちゃった!! ど…どうしよう…」

「ウォー、ウォー」
と、変な声がしてきます。
「何?何か、いるのかな…」
 穴の中は、思ったより広く、両側に変わった壁画が描かれていました。まっすぐと道が次の扉まで続いていました。
 ひかり苔なのか中は明るく、歩いていくと何かが足に引っ掛かりました。
「痛い! 何、この大きな白…キャア~、が、頭蓋骨がいっぱい~~~」
 至るとことに頭蓋骨がいっぱい散らばっていて、もう先へ進むしかなく、変った絵の扉を触ると、ギィ~っと第2の扉が開きました。

 目の前にピラミッド型の台があり、上に何かを祭っているような感じです。そこは何か神殿のような感じで、右側と左側に大きな壁画がありました。
 その壁画を見て、加奈は凍りつく思いでした。その壁画は銀星のタルタロスそっくりだったのです。赤い目を見開き、まるで、あざ笑うような顔…。その回りに多くの人間が逃げまどう、恐ろしい絵でした。
 反対側の絵は、弓を構える戦いの女神の壁画でした。美しい盾を片手に、弓の矢じりに蔦のような草が巻かれ、星図がいっぱい描かれていました。

 いったいこの二つの絵は、何を表しているのでしょうか。
 随分、昔から描かれているようで、色の彩度もだいぶ薄くなっているし、長年の岩の変色で、絵も所々、欠け落ちている所もあります。
 それなのに、タルタロスは何故、銀星にいるのでしょうか。加奈は何かすごく嫌な予感とサタンのことが心配になってきました。

「ウォ~、ウォ~」
と又、変な声がしまして、その声がだんだんと大きくなり、地面がズズ、ズズンと揺れ始めました。
「じ…地震、凄い揺れ、危ないわ。ここにいると、絵の岩が崩れてくるわ。早く出ないと!!」

 突然、背中のあたりから、すごく熱くなって来ました。加奈がリュックを開けると、星の弓が何かと反応しているのでしょうか、だんだん大きくなっていつにも増して光り始めました。
 同時に、ピラミッドの台が崩れ落ち、その上から、七色に輝く矢じりが星の弓めがけて近づいてくるではありませんか。星の弓の光の渦が、七色の矢じりを包み込み、その矢じりが、星の弓の中に吸い込まれてしまいました。

 吸い込まれた後、右側に描かれたタルタロスの赤い目が、ギロリと加奈を睨みつけたような感じがしました。
「ウォ~、ウォ~」
という、不気味な声は、そこから聞こえてくるような気がしました。
 すると、タルタロスの管が、加奈めがけて壁画の中から伸びてくるではありませんか。加奈は恐怖と恐ろしさで、体が硬直して動けなくなってしまいました。

 もうダメだ、と思った瞬間、左側の戦いの女神の絵から矢が放たれ、タルタロスの管は溶けてしまいました。女神の絵から声が聞こえてきました。
“さあ、今のうちに早く、ここから出るのです。強靭の盾、錬金を重ねタルタロスの炎に耐える盾を、その天空の矢じりに命の源、グリーン生命体を含んだ繭玉で作った…”

 そこまで言うと、又、タルタロスの管が伸びて女神の口を塞いでしまいました。そこから、めらめらと炎があがり、あっという間に壁画の絵が溶けていってしまいました。
 加奈は死に物狂いで第2の扉から出ました。加奈が扉から出た瞬間、扉が閉まり、崩れ落ちていくすごい音がしました。
 もう声は聞こえては来ませんでした。

「た…助かった…でも…」
 最初の扉は、まだ閉じられたままでした。この狭い空間で、外に出ようと思っても、出口さえもなく、加奈はその場所にへたり込んでしまいました。
 すると、まわりに散らばっている頭蓋骨が、カチカチと口を開けながら加奈のそばに寄ってくるではありませんか。

「キャー、ず…頭蓋骨が…う、動いた…」
 真っ青になった加奈は、体中が震えるのを必死に両手で押さえ、短剣を構えました。
「そばに来ないで~~~!!」
 すると、頭蓋骨がしゃべり始めました。

〝カワシモノ、タキノナカ、ツルギノマ〟
〝3ツノツルギト、3ツノケッカイノモン〟
〝フウインノドウクツノイリグチ、モンスター〟
〝フウインノドウクツ、ホシノモンショウ〟
〝ノロイヲケシテ〟

 そう言いながら、頭蓋骨はカタカタと口を開けながら何度も繰り返すのでした。頭蓋骨の目から、涙が流れているのに、加奈は気づきました。加奈は、頭蓋骨に向かって、やさしく返事を返しました。
「わかったわ、やってみる。だから、静かに安心して眠ってね」
 加奈がそう言うと、最初の扉がゆっくりと開きました。頭蓋骨はもう何も言わず、動くこともしませんでした。

 加奈が扉から出ると、又、崩れ落ちる音がして、扉の模様も消えてただの岩だけになってしまいました。キツネに包まれているような錯覚を感じました。
「穴に落ちて、幻覚を見るようになったのかしら…あまりにも不思議なことばかりで、なんか頭が変になりそう…」

 加奈は少し、疲れて来ました。落ちた場所まで戻って休んでから、今度は川下の方へ行ってみようと思いました。お腹も空いてきたし、宿屋のおじさんにもらったパンと干し肉を食べようともと来た道を戻って行きました。

 歩いていくうちに、川の水が少し増えたような感じがしました。流れもさっきより速くなったようで、加奈はちょっと不安になってきました。足は疲れているけれど、もう少し、先へ行こうと思った時、前方に人が歩いて行くのが見えました。感じの悪い男
 加奈は嬉しくなって、その人の所まで走っていきました。
「お~い!! あなたも馬車から落ちたの?」
「え?」
 その人が振り返った時、加奈は思わず叫んでしまいました。
「あ~~~!! 感じの悪い男!! あ…」

 ロミオと同じ短剣を持っていた不愉快な男でしたので、つい、口が滑ってしまい、慌てて口を押えましたが、後の祭りでした。
「なんだ、ガキじゃないか。感じが悪くて悪かったな」
「ご…ごめんさない。だって、ガキガキってばかり言うんですもの」
「??? 言うんですものって… お前、男でなくて女だったのか!」
「あっ…、しまった…」
 
 加奈は頭を真っ赤にしてオロオロしてしまいました。その様子を見て、男は何故かクスクスと笑って、その笑い顔が、しかめっ面顔の時と違い、気さくな感じの青年にも見えて来ました。
「アルディ星では、確かに女だとマズイこともあるけれど、子供なら別に関係ないと思うけどな」
「また!! 私、これでも15才なのよ」
「ええ~!! 10才くらいかと思ったよ、悪かったな。それより出口を早く探さないと水のかさが増えて来ている。このままだと危険だ。川下の方へ行けば、確か封印の洞窟の入口へ通じる道があったはずだが…」
「ええ~~?? 封印の洞窟!!」
「ああ、ここは、失われた文明の地だ。高度の技術と優れた天文の知識があって何千年も続いたという話だが、まだ確証的なものは発見されていない。お宝マニアか、この星に来ては探してりうらしいが、お宝は見つかっていないみたいだ。しかし、いろんな宇宙船の部品が見つかるから、そっちを目当てに来る輩も多いけどな」
「宇宙船の部品?」
「ああ、その部品は、その文明の前のものらしいが…」
「???」

 ふたりが話をしながら歩いていくと、急に道が途絶え、流れ落ちる川が見えました。下は滝壺です。滝壺から、その先に、まだ川は続いていますが、岩穴のようになって先の皮へは、とても狭くて行けません。
「まずいな…あの川の先が封印の洞窟へと通じる道があるはずなんだが…」
「あ…あの…滝の中には道はないのですか?」
「え? 滝の中に?」

 男は、少し考え込んでから、回りを見渡し、近くの岩に持っていた縄を括り付け、自分の腰にもう一方の縄を巻きつけました。
 それほど凄い水流ではなかったので、滝の間から大きな石を足場にしながら、男は滝を注意深く降りて行きました。男の姿が急に見えなくなりました。すると、
「お~い、中に通じる道があったぞ。今戻るから、待ってろ~!!」

 男は一度戻ると、自分と加奈の体を縄で巻きつけると、慎重に滝を降りて行きました。滝の中に大きな空洞があり、その先は、やっぱりさっきと同じ模様の扉がありました。その空洞の中で、二人は腰を下ろしました。

「この先はモンスターの気配がするな。お前、少しは武器が使えるのか?」
「多少は…」
「あまり無理するなよ。俺より前に出るな。洞窟のモンスターは、外のモンスターより更に凶暴で、魔法を使う奴もいる。サンダーを使う奴がいる時は気をつけろ。体が痺れて一時的に体が麻痺するからな」

 加奈はさっきの頭蓋骨の言葉を思い出していました。もし、ここが頭蓋骨の言っていた場所であったなら、剣の間で三つの結界の門もあるということ…。まるで謎解きのようで、先行き不安にもなりましたが、男がいることで気持ちも少し楽になるのでした。

 さっきの壁画に描かれた女神の言っていたことも気になりました。確か、命の源グリーン生命体を含んだ繭玉と言っていたような…。タルタロスと天空の矢じり、それとグリーン生命体は、どこかで何かが繋がっているような気がして、サタンとの出会いが自分にとっては、何らかの意味があるような、そんな気がしてなりませんでした。
 サタンに早く会いたい…。加奈は強く願わずにはいられませんでした。



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