2015年09月20日
第2章 ドラゴンの翼 第6話 -ドラゴンレース-1(夢と現実と)
城に近づくにつれ、加奈の足は重くなってきました。朝の出来事が、又、脳裏に浮かび、憂鬱になってきたのです。
その気持ちをロミオとジュードも理解していました。なるべく明るい話題で加奈を心をほぐすように一生懸命でした。
城の門をくぐり、正面玄関にスチュワートが立っていました。
「加奈、お帰り! 新しい服を着ているね。良く似合ってるよ。加奈は可愛い服が良く似合うね」
「見立てはロミオなんだ。こいつ、センスがいいからさ」
「ジュードには無理だな」
「どういう意味だ、スチュワート」
加奈の回りを囲むように、3人の王子は楽しそうに会話を始めました。その笑い声が城の中まで聞こえたのでしょうか、少し開いた扉からレッドと一人の少女が出て来ました。
加奈は、その少女を見て言葉を失いました。少女は、いかにも高貴な出身とわかるほどの気品さと美しさを兼ね備え、宝石のような輝く瞳、まばゆいばかりの顔立ちのよさ、すぐにサラ王女とわかりました。
顔立ちだけでなく、絹のようなつやつやした銀糸のような長い髪と15才とは思えないほどの細身なのにふっくらとした胸とひきしまたウェスト、一度あったら忘れられないとはこんな少女の事を言うのだろうと加奈は思いました。
「あなたが加奈?」
声までもきれいなのだと加奈は唾をゴクリと飲んで、緊張した面持ちで挨拶をしようとしたのですが、何故か声が出ませんでした。
そんな加奈を見て、すかさずレッドが声をかけました。
「加奈、アクアディンゲン島へ行ったんだって?」
「それがびっくりなんだよ。水のドラゴンが1回で乗れて、加奈もしっかりと乗れたんだぜ」 その時、サラ王女の目が少しきつくなったような気がしました。
「星虹銀河でない人間が、ドラゴンに乗ることは禁じられているはずよ。女性が乗るとレース前なのに、縁起が悪いわ。加奈、あなたは何も知らないから今回は許すけれど、行動には気をつけて下さいね」
サラ女王はそう言うと長いドレスの裾を持ち上げて立ち去って行きました。
「加奈、戻ったのか」
呆然と立ちつくす加奈にサタンが声をかけてきました。
「加奈、渡したい物があるから部屋へ行こう」
返事をする暇もなく、サタンは加奈の手を取ると、引っ張っていきました。
「今日はみんなで食事をするが、食事の間に集まってくれ。加奈、あわてなくていいからね」
「おい、スチュワート、加奈は…」
言いかけるレッドに3人の王子たちは、レッドを引きずるように部屋へと連れていくのでした。
部屋へ入るとサタンは加奈を正面に見据えました。手は握られたままなので、加奈は真っ赤になってうつむいたままでした。
「加奈、王家では食事のマナーがうるさいから、ぼくの食べ方を見ながら食事をするんだ。それと、サラに何か言われても気にするな。質問されても、何も答えるな。皆がうまく答えるから」
サタンはおもむろに大きな箱を加奈に渡しました。
「それから、服だけど、今、来ているのは外出着だ。ドレスは加奈は持っていないから、これを着るんだ。着方があるから手伝うよ」

「ええ~~~!! サタンが手伝うの?」
加奈はさらに真っ赤になってしまいました。
「ほら、早くしないと遅れるよ」
「そ…そんなあ…あんまり見ないでよ!!」
サタンは手際よく着せ替え人形に服を着せるみたいに、王族の服を加奈に着せていきました。ウェストは細く見せるために、コルセットをつけるのですが、苦しくてたまらないので、それをつけずにスカートみたいなペチコートを何枚も穿いていき、ふわふわになったところでの上着とつながってスカートを穿いていきます。
後ろで大きくリボン結びして、髪の毛もサタンは上手に三つ編み風に結んで、耳の後ろ側に可愛い花の髪飾りを飾りました。真珠のようなイヤリングもつけ、うっすらと化粧もしてくれるサタンに加奈はされるがままでした。
「ハイ、これでよし。さあ、足を出して」
加奈の足に淡いピンク色のドレスと同じ色の靴を加奈の足に履かせました。サイズはぴったりでした。
「ちょっと待って、ぼくも着替えるから」
そう言って、上着を脱ぎ始めました。サタンの鍛えられた上半身をモロに見てしまった加奈はあわてて後ろを向いて、冷や汗が出るのを感じていました。
「うう…サタンは、恥ずかしくないのかしら。それとも私を女の子と思ってないのかも…。暑い、なんかすごく暑いわ…。熱があるのかしらん…」
サタンの方を見ると、いつもの黒い服とクールな感じと違って、紺色のベルベット風の服はヨーロッパ貴族の衣装にそっくりで、まるで物語に出てくる王子様みたいでした。
「さあ、行こうか」
サタンが加奈の手を取りました。
“夢、夢を見ているみたい…きっとこれは、夢なんだわ。つねってみよ~っと。えい…!! いたい、やっぱり痛い…”
加奈は、そう思わなければ、信じられない光景でしたが、すぐに現実に戻される難題がこの後に待っていようとは思いもしませんでした。
食堂の間には、王子たちが、すでに座って待っていましたが、サタンと加奈を見ると、驚嘆の声を出しました。
「うわ~、加奈、とても可愛いよ」
「どこの国の王女か、見間違うほどだよ」
4人とも加奈のそばに走り寄り、加奈を褒めてくれました。
そこへさっきとは違うドレスを着たサラ王女が現れました。広いテーブルに凄く豪華な食事が運ばれてきます。フランス料理みたいなフルコースのようで、お皿の横にピカピカに磨かれたナイフとフォークとスプーンが綺麗に並んでいます。
給仕がスープを運んで来ました。今まで話し込んでいた王子たちもさすが王族とあって、食べ方さえも気品があり慣れていました。
“き…緊張する…スプーン落としたらどうしよう。ええと、スープのスプーンはどれだっけ。お箸が懐かしいよ”
オロオロする加奈に、隣に座っていたサタンが目でスプーンを教えて、ゆっくりとスプーンを動かし、加奈に目配せしながら、教えるのでした。
加奈を王子たちも優しく見守っていました。レッドも心配して加奈を見つめていました。
加奈はその時、鋭い針のような視線を感じました。それが何なのかすぐに分かりました。その強い視線の中に、どんな感情が含まれているのか、女の子ならすぐにわかるものです。
体中にチクチクとその針で刺されているようで、その激しさに加奈は恐ろしささえも感じていました。それだけでなく、何故か嫌な予感がしてくるのでした。手が震えて思わずスプーンを落としそうになった瞬間、サタンは加奈のスプーンをつかみました。そして、スープで汚れたスプーンを自分の方へ置いて、自分のスプーンを加奈の方に素早く渡したのでした。
その素早さは手品のようですが、皮肉にもそれが火種となってしまいました。
「加奈、あなた、ドラゴンに乗れるのよね」
「え…?」
「私の弓を必要としているみたいだけど…。この弓は星虹銀河の宝でもあるの」
「あ、は…はい」
「でも、条件によっては、貸して差し上げてもよくってよ」
「ほ…、本当ですか」
「もうすぐドラゴンレースがあるわ。あなたがドラゴンレースに出て、3位入賞までに入ったら貸してあげることを考えてあげてもいいわ」
「サラ!! 何を言うんだ。ドラゴンレースは危険なレースだ。男でも3位までに入るのは難しいんだよ」
「あら、お兄様。忘れてしまったの。私だって13才の時に出て、優勝したくらいですもの。15才の加奈なら無理なことはないはず」
「サラ、加奈はイザベラとは違う。又、同じ事をするつもりなのか!!」
レッドの声も、急に険しくなり、急に立ち上がったせいで、テーブルの上の食べ物が、床に落ちてしまいました。
「レッド、食事中のマナーがなってないわ。王となる者が、小さな事で声を荒げるなんて、帝王学をもう少し、勉強なさったら?」
「や…やめて下さい。私…私、レースに出ますから」
加奈はせっかくに食事が台無しになって、ふと、涙が出そうなのを必死にこらえ、笑顔でサラに言うのでした。
「が、頑張ってみます。3位までに入ったら、弓のことお願いしますね」
食事が終わって食堂の間から出た瞬間、気が緩んだのか、足がふらついてしまいました。「加奈!!」
レッドが駆け寄ってきました。
「レースはやめろ!! 加奈は知らないんだ。あの過酷なレースを!!」
「でも、サラは13才で優勝したって」
「サラは特別な力を持っている。それに武器を使ったことの無い加奈がどうやってモンスターを倒すんだよ」
「え? モンスターを倒すの?」
「レースは4つの島を回るんだ。速さだけでなく、襲っては来るモンスターを的確に倒すのも必要なんだ」
「今回のレースは大気が不安定でモンスターも凶暴化している。この間の巨大モンスターを覚えているだろう。奥深いモンスター谷にいる巨大モンスターが湖まで降りてくることはないんだ。俺がもう一度サラに頼んでみるが、レースはやめろよ」
そう言うとレッドはサラの方へ走っていきました。
部屋に戻ると加奈は考え込んでしまいました。押し黙ったままの加奈にサタンは、そっと抱き寄せたのでした。突然のことで加奈はびっくりしてしまいました。
大きなたくましいサタンの胸は温かく、ホッとして、そのまま一気に緊張が緩んだのか、疲れのためか、寝入ってしまったのでした。
夜の静寂に流星群が流れていきます。
その光の道が2人の行くべき道へとつながっているのでした。















































































