2015年06月07日
第1章 光の海へ 第8話 -星虹銀河、宇宙木の音色(後編)-
「加奈、加奈!」
誰かが、加奈の体を激しく揺さぶりました。
「う…ん、誰?」
「大丈夫か。私だ」
「サタン、どこ行ってたの!」
「一度、母船に戻らねばならない。思ったより早く銀河のゆがみが広がっている。星の動きが狂って、この星もあと数時間で爆発する」
「爆発!」
サタンは、剣を天に向かって垂直に立てました。剣からは、炎のような光がまっすぐと伸びて、光めざして小型宇宙船が降りてきました。
「さあ、加奈、乗って」
「爆発するって、ほんと」
「石星を回っている衛星が、すごい速さで近づいているんだ」
「そ、それじゃあ、あの子もいっしょに連れて行って」
「あの子?ここには、石星星人はいないはずだ」
「だって、私に琴を聞かせてくれたのよ。どこに行っちゃたのかな。私、その辺を捜してくるわ」
「夢でも見たんだろ。ぐずぐずしないで、早く乗りなさい!」
サタンは、加奈の手を強引に引っぱって、小型宇宙船に乗り込みました。
石星の大気圏から離れると、いくつかの衛星とすれ違いました。衛星は、ゆっくりと回転しながら、まるであやつられるように、石星に向かって行くのでした。

加奈たちが母船に戻ると、操縦室のスクリーンからは、石星の姿は消えていました。ただ、大きな石の固まりが、空間をただようばかりでした。あれほどの大きな星が、爆発のエネルギーでこなごなになってしまうとは、加奈は、宇宙の恐ろしさにいいしれぬ恐怖を感じました。それと同時に、ズシリと体に重さを感じました。
「疲れたのかしら。何か、やけに背中にひどく重さを感じるけど…」
加奈は、右手を背中に回すと、どうでしょう!加奈の背中にしっかりと、何かがおぶさっているではありませんか!
「キャアー!」
メシエと、星虹銀河の星表を作っていたサタンは、加奈の叫び声にびっくりとして、ふり向きました。
「加奈、どうした!」
「背、背、背中に、オ、オ、オバケが取り付いたんだ。ワーンワーン」
大声で泣き出す加奈の背を見て、サタンは驚きの声を出しました。
「これは、いったい…」
加奈の背中におぶさっていたのは、オバケでも亡霊でもありませんでした。サタンは、それをそっと持つと、加奈に見せました。
「これは、あの少年が持っていた琴だわ!夢じゃなかった。あの子、死んじゃった。見捨ててきちゃた。グスグス…ウ、ウワーン!」
加奈の激しい泣き声は、広い操縦室に響くほど、すごい大きな声でした。
『た、たまらない!サタン様、加奈様を泣きやましてください。頭脳の電子システムに狂いが生じてしまうほど、すごい波長音です』
メシエの悲鳴にびっくりして、加奈は、泣き顔でくちゃくちゃになったのも直さないで、メシエのそばに走り寄りました。
「メシエ、グズン、ごめんなさい。ヒックヒック、頭痛がするの?シュックシュック」
『ああ、加奈様。かわいいお顔がだいなしですよ。目はまっかか。鼻もかみましょうね』
立体的な姿は人間とはほど遠い、頭脳コンピュータメシエと話をする加奈を、サタンは腕組みしたまま、何も言わず見つめていました。
『加奈様、泣くことはありません。はい。たしかに、私も見ました。加奈様がその少年といたのを。けれども、その少年に生命電波は感じられませんでした。たぶん、加奈様が会ったのは、過去の時間帯から宇宙木が出した精神波の影像でしょう』
「???メシエ、あなたの言っている意味、よくわからないわ」
『宇宙琴は、その少年そのものなのです。弾いてごらんなさい。夢の彼方から、あなたの心に共鳴して音を奏でるはずです。少年はあの時点では、そこに存在していなかったのです』
メシエの話にうなずきながら、何度も首をかしげる加奈に、サタンは苦笑するばかりでした。
「理由はどうあれ、捜す手間がはぶけたわけだ。しかし、神殿に祭られてあるはずの琴が石星にあったとは…。この分だと、弓矢も星虹国星にはないかもしれないな」
神殿に祭られていたということは、琴も弓矢も星虹国星にとって、とても大切な宝物に違いありません。そんな大切な物を、だまって持ち出すのはいけないことだと、加奈は思いました。
「心配は無用だ」
「え!」
「借りるだけさ。用が終わったら返す」
私が思っていること、なんでわかったのだろうと、目を白黒している加奈をよそに、サタンは、星表を壁面スクリーンに映し出し、計算を始めていました。
じゃまをしては悪いと、加奈は琴をそっと胸に抱いて、操縦室から出て、自分の部屋に戻りました。
『サタン様、加奈様に、もう少し説明をなさった方がいいのではありませんか』
「何を?」
『加奈様の脳波が、だいぶ乱れています』
「説明する必要はない。そんな事を考える余裕があるのなら、弓矢の居場所を割り出せ」
『はい…』
「ん?何か聞こえないか、メシエ」
『いいえ、私には何も』
「そのまま計算を続けてくれ。すぐ戻る」
サタンは、かすかに聞こえる音をたよりに、音の方へと近づいて行きました。その音色の響きは、昔、どこかで聞いたような気がしました。
閉ざされたはずの扉が開かれ、その部屋から何ともいえぬ良い香りと、ささやきにも似た緑色の風が、そこだけ吹いていました。
サタンは、部屋の前で動くことも、声を出すにも言葉が見つかりませんでした。
加奈の部屋で、ひとりでに宇宙琴は、若草色の光を発し、美しい音色を奏でていました。深い森の透き通るほどの香りをそえて、その中で、加奈は気持ちよく、スヤスヤと眠っているのでした。
誰かが、加奈の体を激しく揺さぶりました。
「う…ん、誰?」
「大丈夫か。私だ」
「サタン、どこ行ってたの!」
「一度、母船に戻らねばならない。思ったより早く銀河のゆがみが広がっている。星の動きが狂って、この星もあと数時間で爆発する」
「爆発!」
サタンは、剣を天に向かって垂直に立てました。剣からは、炎のような光がまっすぐと伸びて、光めざして小型宇宙船が降りてきました。
「さあ、加奈、乗って」
「爆発するって、ほんと」
「石星を回っている衛星が、すごい速さで近づいているんだ」
「そ、それじゃあ、あの子もいっしょに連れて行って」
「あの子?ここには、石星星人はいないはずだ」
「だって、私に琴を聞かせてくれたのよ。どこに行っちゃたのかな。私、その辺を捜してくるわ」
「夢でも見たんだろ。ぐずぐずしないで、早く乗りなさい!」
サタンは、加奈の手を強引に引っぱって、小型宇宙船に乗り込みました。
石星の大気圏から離れると、いくつかの衛星とすれ違いました。衛星は、ゆっくりと回転しながら、まるであやつられるように、石星に向かって行くのでした。

加奈たちが母船に戻ると、操縦室のスクリーンからは、石星の姿は消えていました。ただ、大きな石の固まりが、空間をただようばかりでした。あれほどの大きな星が、爆発のエネルギーでこなごなになってしまうとは、加奈は、宇宙の恐ろしさにいいしれぬ恐怖を感じました。それと同時に、ズシリと体に重さを感じました。
「疲れたのかしら。何か、やけに背中にひどく重さを感じるけど…」
加奈は、右手を背中に回すと、どうでしょう!加奈の背中にしっかりと、何かがおぶさっているではありませんか!
「キャアー!」
メシエと、星虹銀河の星表を作っていたサタンは、加奈の叫び声にびっくりとして、ふり向きました。
「加奈、どうした!」
「背、背、背中に、オ、オ、オバケが取り付いたんだ。ワーンワーン」
大声で泣き出す加奈の背を見て、サタンは驚きの声を出しました。
「これは、いったい…」
加奈の背中におぶさっていたのは、オバケでも亡霊でもありませんでした。サタンは、それをそっと持つと、加奈に見せました。
「これは、あの少年が持っていた琴だわ!夢じゃなかった。あの子、死んじゃった。見捨ててきちゃた。グスグス…ウ、ウワーン!」
加奈の激しい泣き声は、広い操縦室に響くほど、すごい大きな声でした。
『た、たまらない!サタン様、加奈様を泣きやましてください。頭脳の電子システムに狂いが生じてしまうほど、すごい波長音です』
メシエの悲鳴にびっくりして、加奈は、泣き顔でくちゃくちゃになったのも直さないで、メシエのそばに走り寄りました。
「メシエ、グズン、ごめんなさい。ヒックヒック、頭痛がするの?シュックシュック」
『ああ、加奈様。かわいいお顔がだいなしですよ。目はまっかか。鼻もかみましょうね』
立体的な姿は人間とはほど遠い、頭脳コンピュータメシエと話をする加奈を、サタンは腕組みしたまま、何も言わず見つめていました。
『加奈様、泣くことはありません。はい。たしかに、私も見ました。加奈様がその少年といたのを。けれども、その少年に生命電波は感じられませんでした。たぶん、加奈様が会ったのは、過去の時間帯から宇宙木が出した精神波の影像でしょう』
「???メシエ、あなたの言っている意味、よくわからないわ」
『宇宙琴は、その少年そのものなのです。弾いてごらんなさい。夢の彼方から、あなたの心に共鳴して音を奏でるはずです。少年はあの時点では、そこに存在していなかったのです』
メシエの話にうなずきながら、何度も首をかしげる加奈に、サタンは苦笑するばかりでした。
「理由はどうあれ、捜す手間がはぶけたわけだ。しかし、神殿に祭られてあるはずの琴が石星にあったとは…。この分だと、弓矢も星虹国星にはないかもしれないな」
神殿に祭られていたということは、琴も弓矢も星虹国星にとって、とても大切な宝物に違いありません。そんな大切な物を、だまって持ち出すのはいけないことだと、加奈は思いました。
「心配は無用だ」
「え!」
「借りるだけさ。用が終わったら返す」
私が思っていること、なんでわかったのだろうと、目を白黒している加奈をよそに、サタンは、星表を壁面スクリーンに映し出し、計算を始めていました。
じゃまをしては悪いと、加奈は琴をそっと胸に抱いて、操縦室から出て、自分の部屋に戻りました。
『サタン様、加奈様に、もう少し説明をなさった方がいいのではありませんか』
「何を?」
『加奈様の脳波が、だいぶ乱れています』
「説明する必要はない。そんな事を考える余裕があるのなら、弓矢の居場所を割り出せ」
『はい…』
「ん?何か聞こえないか、メシエ」
『いいえ、私には何も』
「そのまま計算を続けてくれ。すぐ戻る」
サタンは、かすかに聞こえる音をたよりに、音の方へと近づいて行きました。その音色の響きは、昔、どこかで聞いたような気がしました。
閉ざされたはずの扉が開かれ、その部屋から何ともいえぬ良い香りと、ささやきにも似た緑色の風が、そこだけ吹いていました。
サタンは、部屋の前で動くことも、声を出すにも言葉が見つかりませんでした。
加奈の部屋で、ひとりでに宇宙琴は、若草色の光を発し、美しい音色を奏でていました。深い森の透き通るほどの香りをそえて、その中で、加奈は気持ちよく、スヤスヤと眠っているのでした。















































































