2015年05月24日
第1章 光の海へ 第8話 -星虹銀河、宇宙木の音色(前編)-
ブラックホールの引力に引きよせられ、ゆがんだ次元の道を通り、別の宇宙に迷いこんだのでしょうか。そうでなければ、こんな不思議な星があるわけがありません。
サタンと、星虹国星に降り立った瞬間、加奈は足すくむ思いだったのです。加奈は、神秘のベールに包まれた宇宙のひとこまを、垣間見たような気がしました。

虹を細かく砕いて、砂丘にしたような七色の砂の大地が、はてしなく続いています。瑠璃色の空に、幾すじの光の帯が金色のへびのように、天空を舞っています。光のすきまから銀色のすじがゆっくりと、天空から地上へのびてきました。七色の砂丘にその光のすじがふれると、風に流されるように砂は、渦を巻き始めました。渦は大きく激しく回り、数百メートル下に、緑色の湖が砂の中から姿を表しました。
「さあ、加奈。この下に星虹国の地下都市がある。急いで、弓と琴を拝借して、船に戻らなければならない。朝がくれば、地上は灼熱地獄に変わる」
「えー。この湖、潜るの! 私、水が苦手なんだけど…」
「潜る?そんな必要はない。リフトがあるから」
サタンは、手首の銀色のブレスレットをはずすと、湖に投げ入れました。すると、ドドドドーッと音がしたかと思うと、湖の水はまっすぐに噴き出し、サタンの前でぴたりと止まりました。
「こ、これが、リフト!」
「さあ、早く」
サタンは、加奈の手を取ると、水の中に入りました。水の中と言うのに体は全然ぬれず、水のリフトは下へゆっくりと降りていきました。
リフトから降りると、そこは、荒涼とした風景が広がるばかりでした。鍾乳洞の石筍のような白い塔が立ち並び、巨大な枯れ木が塔のまわりにそびえていました。石塔にぶつかって風が、もの悲しい音をたて、まるで廃墟のようでした。
「サタン、何か、さびしい所ね。人がいないみたい」
「しまった!計られた!」
「???」
「ここは、作られた空間だ。危険だ。早く脱出しなくては。加奈。私の背中におぶさるんだ!」
「えっ!おんぶするの!いやだ。恥ずかしい。そんなこと!」
「恥ずかしがっている場合じゃない。早く、するんだ」
サタンは、加奈をひょいとおぶさると、剣で宙を十字に切りました。ほんの数秒後、サタンと加奈は、描象的な空間の中にいました。その中を、サタンの作った重力泡で浮いていたのです。丸とも、四角とも、三角ともいえない物質が渦巻いて、めまいを起こしているような感じで、加奈は、吐き気がしてきました。
【サタン、なぜ、戻って来た】
どこからともなく、声が聞こえてきました。
【お前は、永久に追放の身になったはずだ】
声がしえども、姿は見えません。
【たとえ私の息子でも、国の掟を破った者はどうなるか、わかっているな】
「私のことなど、あなたの好きなようにすればいい。しかし、ただでは、命はやらぬ」
加奈は、姿を見せない声の主と、サタンの会話を聞いているうちに、星虹国星はサタンのふるさとで、サタンは星虹国の王子であることを知りました。サタンが追放されたいきさつは、わかりませんでした。けれども、サタンは自分のために、危険を承知で星虹国星に戻ってくれたのでした。
「加奈」
サタンは、加奈に呼びかけました。
「声を出さないでくれ。今、テレパシーで話をしている。空間移動するから、私が渡した安全時計を0にセットしろ。シールドが加奈の体を守る」
「で、でも」
「心配するな。大丈夫だから」
加奈は、サタンの言うとおりに、銀色の安全時計を0にセットしました。
「私にしっかりとつかまって。いいね。行くよ」
ぐらりと激しいめまいがしたかと思うと、体が宙に浮いたような、まるで感覚のない世界をただよっている感じでした。しかし、それも、ほんのつかの間でした。
加奈が降り立った所は、ごつごつした石原が続く大地でした。まるで石の世界。どんよりと曇った空は、暗く寒々しく、風は吹き抜けて行きます。
「サタン、ここ、どこ」
返事がありません。加奈は、あたりを見回しました。しかし、サタンの姿は見当たりません。
「サターン!サターン!」
加奈の声だけが、響くばかりでした。心細くて、加奈は大声で、ワーンワーンと泣き出してしまいました。泣いて、どうなるわけでもありません。それから、どのくらい泣き続けたでしょうか。泣き疲れて加奈は、大きな石に腰をおろし、しゃっくりをあげていました。
サヤサヤ。風の音でしょうか。かすかに聞こえるその音は、旋律にも似た悲しい調べでした。
「風の音じゃないわ。楽器の音だわ。誰かいるんだ」
音に誘われて、灰色の石の大地を、加奈は歩き続けました。歩いても歩いても、石の大地が続くばかり。時おり、小さな木の姿を見かけても、それは、石灰岩の地層が作った石林でした。
足はもう、棒のようになり、歩いている感覚さえなくなってしまいました。ひとり、さまよう加奈は、今ほど地球を恋しく思ったことはありません。
「帰りたい。緑の大地に帰りたい。クスン、クスン…」
加奈は、あふれる涙をぬぐうことさえしないで、しゃがり込んでしまいました。
サヤサヤ、サヤサヤ、木の葉が触れ合うような風のやさしい調べは、いつしか聞こえなくなり、音のない世界が広がるばかりでした。小さな音さえ聞こえない。いいえ、何か聞こえます。それは人の足音!
小さな影が、おぼろげながら見えます。その影はまるで宙を浮くように、風の流れのように、静かに近づいてきました。
加奈はその時、妖精を見たような気がしました。目の前で、たたずんだ少年は、まるでギリシャ神話にも出てくるような美少年でした。栗毛色の巻き毛は、草のつるで巻き込んで、肩までたれていました。うす茶色の大きな瞳は、加奈をやさしく見つめていました。
少年は加奈のそばに座ると、手に持っていた琴をつま弾き始めました。ああ、その音色こそ、さっき加奈が聞いた調べであったのです。なんと、不思議な音色なのでしょう。
加奈は、いにしえの時代、枯野と言う名の船の木で作った琴が、さやかな音色で遠くまで、響き渡った話を思い出していました。なぜか、なつかしいようなそんな気さえしました。
「あなたも、サタン様と同じ、漆黒の宇宙の色の髪を持っているのですね」
「サタンを知っているの!」
少年は、こくんとうなずきました。
「それじゃあ、今、サタンがどこにいるか知っている?」
「いいえ。でも、ここにいれば、サタン様は戻られます。あなた様が、いらっしゃるのですから」
少年はにこりと笑うと、また、琴をつまびき始めました。心に染みとおる琴の音に、加奈は、まぶたを閉じて夢の世界にただよっていました。気持ちが良くなって、深い眠りにつきました。
灰色の空は暮れて、空には降るほどの星々の光が、加奈をやさしく照らしていました。石の大地は、昼とは違う世界をかもし出していました。加奈のそばには、小さな一本の石木が枝を曲げ、包みこむように加奈の体を、冷たい風から守っていました。
サタンと、星虹国星に降り立った瞬間、加奈は足すくむ思いだったのです。加奈は、神秘のベールに包まれた宇宙のひとこまを、垣間見たような気がしました。

虹を細かく砕いて、砂丘にしたような七色の砂の大地が、はてしなく続いています。瑠璃色の空に、幾すじの光の帯が金色のへびのように、天空を舞っています。光のすきまから銀色のすじがゆっくりと、天空から地上へのびてきました。七色の砂丘にその光のすじがふれると、風に流されるように砂は、渦を巻き始めました。渦は大きく激しく回り、数百メートル下に、緑色の湖が砂の中から姿を表しました。
「さあ、加奈。この下に星虹国の地下都市がある。急いで、弓と琴を拝借して、船に戻らなければならない。朝がくれば、地上は灼熱地獄に変わる」
「えー。この湖、潜るの! 私、水が苦手なんだけど…」
「潜る?そんな必要はない。リフトがあるから」
サタンは、手首の銀色のブレスレットをはずすと、湖に投げ入れました。すると、ドドドドーッと音がしたかと思うと、湖の水はまっすぐに噴き出し、サタンの前でぴたりと止まりました。
「こ、これが、リフト!」
「さあ、早く」
サタンは、加奈の手を取ると、水の中に入りました。水の中と言うのに体は全然ぬれず、水のリフトは下へゆっくりと降りていきました。
リフトから降りると、そこは、荒涼とした風景が広がるばかりでした。鍾乳洞の石筍のような白い塔が立ち並び、巨大な枯れ木が塔のまわりにそびえていました。石塔にぶつかって風が、もの悲しい音をたて、まるで廃墟のようでした。
「サタン、何か、さびしい所ね。人がいないみたい」
「しまった!計られた!」
「???」
「ここは、作られた空間だ。危険だ。早く脱出しなくては。加奈。私の背中におぶさるんだ!」
「えっ!おんぶするの!いやだ。恥ずかしい。そんなこと!」
「恥ずかしがっている場合じゃない。早く、するんだ」
サタンは、加奈をひょいとおぶさると、剣で宙を十字に切りました。ほんの数秒後、サタンと加奈は、描象的な空間の中にいました。その中を、サタンの作った重力泡で浮いていたのです。丸とも、四角とも、三角ともいえない物質が渦巻いて、めまいを起こしているような感じで、加奈は、吐き気がしてきました。
【サタン、なぜ、戻って来た】
どこからともなく、声が聞こえてきました。
【お前は、永久に追放の身になったはずだ】
声がしえども、姿は見えません。
【たとえ私の息子でも、国の掟を破った者はどうなるか、わかっているな】
「私のことなど、あなたの好きなようにすればいい。しかし、ただでは、命はやらぬ」
加奈は、姿を見せない声の主と、サタンの会話を聞いているうちに、星虹国星はサタンのふるさとで、サタンは星虹国の王子であることを知りました。サタンが追放されたいきさつは、わかりませんでした。けれども、サタンは自分のために、危険を承知で星虹国星に戻ってくれたのでした。
「加奈」
サタンは、加奈に呼びかけました。
「声を出さないでくれ。今、テレパシーで話をしている。空間移動するから、私が渡した安全時計を0にセットしろ。シールドが加奈の体を守る」
「で、でも」
「心配するな。大丈夫だから」
加奈は、サタンの言うとおりに、銀色の安全時計を0にセットしました。
「私にしっかりとつかまって。いいね。行くよ」
ぐらりと激しいめまいがしたかと思うと、体が宙に浮いたような、まるで感覚のない世界をただよっている感じでした。しかし、それも、ほんのつかの間でした。
加奈が降り立った所は、ごつごつした石原が続く大地でした。まるで石の世界。どんよりと曇った空は、暗く寒々しく、風は吹き抜けて行きます。
「サタン、ここ、どこ」
返事がありません。加奈は、あたりを見回しました。しかし、サタンの姿は見当たりません。
「サターン!サターン!」
加奈の声だけが、響くばかりでした。心細くて、加奈は大声で、ワーンワーンと泣き出してしまいました。泣いて、どうなるわけでもありません。それから、どのくらい泣き続けたでしょうか。泣き疲れて加奈は、大きな石に腰をおろし、しゃっくりをあげていました。
サヤサヤ。風の音でしょうか。かすかに聞こえるその音は、旋律にも似た悲しい調べでした。
「風の音じゃないわ。楽器の音だわ。誰かいるんだ」
音に誘われて、灰色の石の大地を、加奈は歩き続けました。歩いても歩いても、石の大地が続くばかり。時おり、小さな木の姿を見かけても、それは、石灰岩の地層が作った石林でした。
足はもう、棒のようになり、歩いている感覚さえなくなってしまいました。ひとり、さまよう加奈は、今ほど地球を恋しく思ったことはありません。
「帰りたい。緑の大地に帰りたい。クスン、クスン…」
加奈は、あふれる涙をぬぐうことさえしないで、しゃがり込んでしまいました。
サヤサヤ、サヤサヤ、木の葉が触れ合うような風のやさしい調べは、いつしか聞こえなくなり、音のない世界が広がるばかりでした。小さな音さえ聞こえない。いいえ、何か聞こえます。それは人の足音!
小さな影が、おぼろげながら見えます。その影はまるで宙を浮くように、風の流れのように、静かに近づいてきました。
加奈はその時、妖精を見たような気がしました。目の前で、たたずんだ少年は、まるでギリシャ神話にも出てくるような美少年でした。栗毛色の巻き毛は、草のつるで巻き込んで、肩までたれていました。うす茶色の大きな瞳は、加奈をやさしく見つめていました。
少年は加奈のそばに座ると、手に持っていた琴をつま弾き始めました。ああ、その音色こそ、さっき加奈が聞いた調べであったのです。なんと、不思議な音色なのでしょう。
加奈は、いにしえの時代、枯野と言う名の船の木で作った琴が、さやかな音色で遠くまで、響き渡った話を思い出していました。なぜか、なつかしいようなそんな気さえしました。
「あなたも、サタン様と同じ、漆黒の宇宙の色の髪を持っているのですね」
「サタンを知っているの!」
少年は、こくんとうなずきました。
「それじゃあ、今、サタンがどこにいるか知っている?」
「いいえ。でも、ここにいれば、サタン様は戻られます。あなた様が、いらっしゃるのですから」
少年はにこりと笑うと、また、琴をつまびき始めました。心に染みとおる琴の音に、加奈は、まぶたを閉じて夢の世界にただよっていました。気持ちが良くなって、深い眠りにつきました。
灰色の空は暮れて、空には降るほどの星々の光が、加奈をやさしく照らしていました。石の大地は、昼とは違う世界をかもし出していました。加奈のそばには、小さな一本の石木が枝を曲げ、包みこむように加奈の体を、冷たい風から守っていました。















































































