2015年03月01日

第1章 光の海へ 第2話 -アンドロメダE-23号-

 宇宙船の窓から、渦巻模様のアンドロメダ星雲が見えてきました。暗黒の宇宙の中で、千億の星が、星花のようにまたたいています。星ぼしに近づくにつれ、光線の色が変化し、光の橋をタイタン号は進んでいきます。

アンドロメダ星雲

「まもなくアンドロメダに到着いたします。エネルギー補充と瞬間移動装置点検のため、72時間停泊いたします。出航時刻は8時30分。出航30分前に鐘を鳴らしますので、乗り遅れませんようにお願いします。
 アンドロメダの科学は地球より数倍もすぐれ、全人口の半分がロボットで、残り半分がアンドロメダ人でした。銀色の幾何学的な建物が建ち並び、ハイウェーが建物の空間をつなげ、車はすごい速さで走っていました。
 銀色の都市を見て、加奈は圧倒されて立ちつくしてしまいました。 
「加奈さん、ご案内しましょう」
 名前を呼ばれてふり向くと、コバルトブルーの服を着た乳白色の髪の青年が立っていました。
「私の名前、なぜ知っているの」
「私は、タイタン号から加奈さんの案内を頼まれていました。E-23号ロボットです」
「ロボット!」

  加奈は失礼とは思ったものの、目の前の青年をじろじろ見ないわけにはいきませんでした。とてもロボットとは思えなかったからです。人間型ロボットが地球でも21世紀後半から実用化され、一般家庭でも利用されているのは知っていたし、現に加奈の家にもいました。でも、もっと機械的だったし、見るからに鉄のかたまりという感じでした。
「私のようなロボットを見るのは、初めてですか」
「ごめんなさい。じろじろ見てしまって」
「地球からこられた方はみんな、びっくりするんですよ。さあ、どこをご案内しましょうか。ゲーム広場にしますか。それともマシーン遊園地にしますか」
「私、緑のたくさんある所にいきたいわ」
「緑?それは何ですか」
「緑、知らないの?山や森は、ここにはないの」
「山はあります。車に乗ってください」
「この大きなボールみたいなのが車?」
 アンドロメダの車は球型で、運転席にはたくさんのスイッチがあり、ハンドルというものがありませんでした。
 加奈はおそるおそる車に乗りました。車のドアガラスが二重に閉まり、すごい速さで走り始めました。その速さときたら外の景色は何も見えず、振動はなくとも、頭ががんがんするし耳鳴りはひどいし、乗っている心地さえしませんでした。

「着きましたよ」
 加奈の降り立った所は、キラキラ輝く二重の星がまたたき、砂漠のような土地が一面に広がっていました。そして、ごつごつした岩のような山が連なり、竜巻が宙を舞っていました。小さな竜巻がお互いにぶつかり合い、いなずまのような光を出して、そのエネルギーのすさまじさは恐ろしいくらいでした。
「風の音が聞こえないわ。あれほどのつむじ風が吹いているのに」
「あの嵐は、ドームの外の景色なんですよ。この都市は、大きなドームの中にあります。アンドロメダでは、たくさんのドームごとに町があって、それぞれの町に行くには地下から特別列車に乗って行きます」
「すさまじい風景だわ。いつも、こうなの?」
「磁気の嵐が、電離したプラズマ大気とぶつかって、高エネルギーを発しているんです。夜になれば、おさまって満天の星が見えますよ」
「これでは、植物が育たないわ。都市には並木道も花畑もないし、アンドロメダにはどんな生物がいるか、とても楽しみにしてたのに」
 加奈は、荒れくるうドームの外の景色を見ながら、地球の美しい自然が、より以上にかげがえのないものに思えてきました。
「科学研究所へ行きましょう。もしかしたら、そこに緑というものがあるかもしれませんから」
 しょんぼりしている加奈を慰めながら、E-23号は考えこんでしまいました。数十年もの間、E-23号は宇宙の旅人たちを案内してきました。誰もがアンドロメダの都市をほめたたえ、科学の偉大さに驚き、外の景色など気にもとめなかったからです。安全で、快適で、豊かな生活以上のものはないと思っていたし、彼の頭に例外はインプットされていませんでした。

「加奈さん、あそこに見える三角形の建物が科学研究所ですよ」
 前方に、巨大なピラミッド型の建物が見えてきました。
 E-23号は加奈に、科学研究所の所長であるアルヴェーン博士を紹介しました。背の高いスマートなアンドロメダ人と違って、博士はでっぷりと太った白いひげをはやした優しそうな人でした。
「ようこそ、加奈さん。わたしも、半分地球人の血が流れているから、加奈さんとは同類みたいなものだよ。母親が地球人でね。なつかしいな」
「アルヴェーン博士、実は、加奈さんをここにお連れしたのは、緑というものが見たいとのことなのですが。ここにありますか」
「残念だが、今のアンドロメダには生息していないんだよ。でも、せっかく来たのだから、かたわれだけでも見ていきなさい」
 加奈は、最上階の部屋に案内されました。広い部屋には、丸い大きな黒い岩のようなものがありました。
「加奈さん、これが何か、おわかりか?」
「岩石かなんかですか」
「よく見てごらん。木の化石なのだよ」
 アルヴェーン博士によると、アンドロメダも数万年前までは、多くの生物が生息していたとのことでした。しかし、何かのはずみで大気の上層が変化をおこし、暗く寒い日が続きました。その結果、すべての生物は氷の中にうずもれてしまったのです。
「普通の異常気象だったら、生物には環境に適応する力はあるが、急激な温度差が何千年も続いたら、外界の生物はたまったもんじゃない。弱いものから絶滅し、今では緑という植物は生息していない」
 加奈は、横たわっている黒い木の化石がかわいそうで、何度も手でさすっていました。昔は大地に根をおろし、生き生きと葉を茂らせ、光をいっぱいにあびていただろうに、こんな姿になるとは、加奈はあふれる涙を押さえることが出来ませんでした。
 そんな時、手に何かがふれたような気がしました。加奈は、そこを少し、こすってみました。すると、どうでしょう。空洞になっていた小さな穴から、たくさんの種が落ちてきました。
「博士、これ、これ!!   これ、種ですよ! 土にまいたら芽を出さないかしら」
「なんと不思議だ。ここにある木の化石はすべて調査済みで、科学線で中も調べたはずなのに。ちょっと見せておくれ。」
「やわらかさがあるから、きっと大丈夫ですよ」
「どれどれ。コンピュータ顕微鏡で見ればすぐわかるはずだ」
 博士が調べている間、加奈は、ひとつひとつ種を大事そうに手の平に乗せました。数えてみると種は五十粒ありました。
「E-23号さん、ほら、かわいい種でしょう」
「わかりません」
「わからない?無理ないと思うけど、この黒い小さな粒から、まっさおな芽が出るのよ」
「それが何で、かわいいのですか」
「見たら、きっとわかるわよ」
「言ってる意味が、わかりません」
「加奈さん、ロボットに言ったてわからないよ。それより、信じられないことだが、この種の組織は生きている」
「わあー、それでは、土にまけば芽が出るんですね」
 加奈は、手の平の小さな種を、そっと机の上に置きました。そして、黒い木の化石にほおずりしながら、よかったねよかったねと話かけるのでした。

 二重の星が西に沈むと、嵐はやんで、満天の星が夜空をかざりました。まるで花火のような華やかさな星空でした。
「昼間の嵐がうそみたい。とってもきれい」
「加奈さんは、不思議な人だ」
「わたしは、わからないことばかりです」
 E-23号が、ぽつりと言うと、博士は大笑いしました。
「博士、そんなに笑ったらE-23号さんが、かわいそう」
「加奈さん、ロボットは人間ではない。機械に感情はない。的確な判断だけだよ」
「私は、そうは思いません。ロボットには作った人の心が生きています」
 加奈のことばに、博士はびっくりしてしまいました。加奈は、E-23号をロボットでなく人間として見ていたからです。
 その時、タイタン号の鐘が鳴りました。加奈は、すっかり忘れていました。アンドロメダは、地球と違って一日が短いのです。
「加奈さん、急いでください」
「E-23号さん、まにあうかしら」
「だいじょうぶです。そのかわり、耳に安全装置をつけてください。超スピードで行きますから」
 加奈は、博士に別れを告げて、星空の中を飛ぶようにタイタン号へ向かいました。昼間は見えなかったドームが、星の光に反射して、輝いて見えました。光る地平線のように見えました。

 ぎりぎりで、加奈はタイタン号に着くことができました。
「E-23号さん、今日は、ほんとにありがとう。ちょっと待っててね」
 加奈は自分の部屋から急いでスケッチブックを持ち出すと、それをE-23号に渡しました。
「案内してくださったお礼よ。こんなもので悪いのだけど」 
 E-23号が何かを言いかけた時、タイタン号の汽笛が鳴りました。出航の合図です。
元気でね。さようなら」
 加奈は船の中へと姿を消しました。そして、降るほどの星くずの中を、タイタン号は出航して行きました。
 E-23号がスケッチブックをめくると、そこには美しい色彩で描かれた地球の大地が、何枚も書かれていました。銀色の都市をみなれていたE-23号にとって、自然の色彩は目を見はるばかりでした。
 その絵は、加奈が四季を描いた地球の自然の姿だったのです。E-23号は、いつまでも星空の下で、スケッチブックに見入ったまま動こうとしませんでした。
 星々も、時空を越えて、かぎりなく広大な宇宙のキャンパスに、神秘の光の筆で描き続けるのでした。


この記事へのコメント

2. Posted by ゴミ屋敷に住む夜の学校の自転車泥棒   2022年04月26日 22:37
4 宇宙旅行のあらすじが銀河鉄道999に似ているっす。
オカルト系やホラー系に怖い話にSFなどのタイトルは趣味の五本指に入る代物っすぅ~♪
アンドロメダの宇宙旅行の途中、生身の様なカッコイイ、ロボの少年が出て来て案内されて好意を持って、いつか別れる覚悟での恋をし、それが現実ならいいなぁ~

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