2017年12月29日
追憶《サタン編》-強き想いの果てに…。-②
「おい、サタン。久しぶりだな」
サタンが剣の練習をしていた時に、後ろから金髪の少年が笑いながら声を掛けてきました。
「ルーディヒじゃないか、いつ着いたんだ?」
「さっき着いたばかりだけれど、オマエに会いたかったから、真っ直ぐに来たよ。元気だったか?」
「おい、やめろよ。ルーディヒ!!」
「あいさつのキスだろ、お前。昔から、スキンシップが苦手だな、アハハハ」
「アハハじゃないよ、ルーディヒはスキンシップが多すぎるんだよ」
「サタンは真面目すぎるんだよ。それで彼女は出来たか?」
「な…又、その話か! それどころじゃないだろ」
「ルーディヒの声は大きいぞ! 廊下まで筒抜けだぞ」
少し、怒った声で、二人のまえに現れたのは、サラサラの短髪の切れ長の茶色の瞳のシリウスでした。
「おう、シリウスか。久しぶりだな」
「久しぶりと言っても、1ヶ月しか経ってないよ。大げさな」
ルーディヒもシリウスに近づき、あいさつのキスをしようとした時、シリウスはすかさず顔をそむけ、ルーディヒの手を叩いたのでした。
「いて!! 何すんだよ、人があいさつしようとしているのに!!」
「結構だ。お前のキスは、うんざりだよ」
「へいへい、それはすみませんね」
なんだかんだと言い合いながらも、3人の王子たちは幼馴染みで、とても仲良しでした。 大人しく無口のサタンのとって、明るく、おおらかなルーディヒと面倒見の良いシリウスは、悪友でもあり心友でもあったのでした。
「なあ、銀星の話は聞いたか?」
「ああ、3人で行くことに決まったらしいな」
「シリウスは他人事のように言うな。お前、不安じゃないのかよ」
「へ? ルーディヒらしくないな。お前が不安なんて言うなんて、熱でもあるのか?」「不安というより変だろ? 何で王族の俺たちまでが行かないと行けないんだよ。騎士になるための修行なら、散々王族の学校でやらされているじゃないか」
「俺たちは王族と言っても、王様から見れば、王族じゃないんだろ。他の奴らとは違う問題児だからな」
3人とも、銀星の話になると、憂鬱になってしまうのでした。銀星は、騎士になるための修行の星を言われていました。
しかし、銀星から戻って来た兵士たちから話を聞いても、何故か銀星にいた事すら覚えていないような口ぶりだったのです。
行ったものすべてが戻ってくるわけではありません。途中で挫折する者が多く、挫折した者は、何故か帰ってくるわけでもなく、更に違う星へ連れていかれ、その後、消息が途絶えてしまうのでした。
「なあ、サタン。王妃様から何か聞いていないのか?」
「いいや…、でも、母様は、ぼくが銀星に行くことは反対らしい」
「そりゃそうだろう。お前は王妃様にとって、一番大事な息子だからな」
「そう言うシリウスの方が可笑しいぜ」
「可笑しい? ルーディヒに言われたくないね」
「だってそうだろ。お前、自ら銀星に行くことを志願したんだろ」
「フン、ここにいるよりもマシさ。銀星から戻ったら、俺は旅に出るつもりなんだ。サタンはミーティアと結婚して、スクトゥム銀河の王になるんだろ」
「ええ!! そうなのか。恋も知らずに結婚か? お前、早く彼女作って、楽しんどいた方がいいぜ」
「楽しむって何を?」
「そりゃあ決まっているじゃないか」
「やめろよ、ルーディヒ。サタンは、お前とは違って真面目なんだから」
「なんだよ!! どういう意味だよ!!」
「言葉通りだよ!!」
「二人ともやめろよ!! なんでいつもこうなるんだよ!! 僕は剣の練習があるから行くよ」
「あっ、待ってくれよサタン!!」
「サタン、怒ったのか。悪かったよ」
足早に部屋を出て行くサタンに、ルーディヒとシリウスは慌てて追いかけるのでした。端から見たら、いつも言い合いばかりしている3人でしたが、互いに信じ、互いに大切に思っていたのでした。
似たような境遇の3人は、性格が全然違っていましたが、強い絆で結ばれていたのです。3人の運命の歯車は、恐ろしい闇の中へと凄い早さで回転し、奈落の底へ落ちて行く事など、まだ、この時は、そんな予兆さえありませんでした。
サタンは、銀星へ行く事より、戻って来た後、成人式後にスクトゥム銀河に旅立つことの方が不安でした。ミーティアと結婚するのが嫌という訳ではなく、自分が王という器では無いと思っていたからです。
ルーディヒは、銀星から戻った後、自由気ままに生きたいと思っていました。堅苦しい王族の生活にうんざりで、自分の宇宙船を持ち、まだ見ぬ多くの惑星へ旅立ちたいと思っていました。
シリウスは、今の生活に息苦しさを感じていました。家族の中でやさしくされればされる程、自分の居場所が無いような気がしていたのです。
複雑な家庭環境の中で、3人は自分の居場所が欲しかったのでした。そして、少年らしい夢も互いに持っていたのです。
しかし、そんな強い想いとはうらはらに、3人の人生を狂わせる闇が近づきつつありました。