2017年08月14日

第4章 いざないの扉 第6話 -決意-

「サタンはまだなの?」
「はい! 王女様」
「何か胸騒ぎがするわ。お父様もお父様よ。何もスクトウム国のモンスターをサタンに退治させることを頼まなくても!!」
「しかし、王女様。あの塔のモンスター退治には、多くに兵士が犠牲になっています。サタン様の強さに王様が苦渋の決断をなさったのは、王女様もご存じのはずです」
「サタンが強いのは、私だって知っているわ。私が言っているのは、国の難題をサタン一人に押し付けるのは良くないと言っているのよ!」

 王女が部屋の中を行ったり来たりしている時、ドアをたたく音がしました。

「王女様、サタン様たちがいらしてますが…」
「え? サタンたち?? いいから、早く、呼んでちょうだい」

 召使いがドアを開けると、サタンたちの姿が王女の目に映りました。

「あら…ペルセウス王子とライ、どうなさったの? そちらの女の子はどなたかしら?」

 ミーティア王女は、加奈の前に走り寄って来ました。

「まあ、なんて可愛い王女なのかしら。もしかして、昨日会えなかったペルセウス王子の妹のセーラ王女!?」
「ミーティア、違うよ。朝、話を少ししただろう、加奈だよ」
「まあ! サタンと一緒に旅をしている女の子ってこの子なの! よろしくね、加奈。サタンと同じ漆黒の髪と黒い瞳、珍しいわね」

 ミーティア王女は、やさしい笑顔で加奈の手を取りました。

「あ…あの…王女様、初めてお目にかかります…」

 頬を染めて恥ずかしそうに挨拶する加奈を王女は思わず、ぎゅっと抱きしめてしまったのでした。

「わ~、可愛いわ~」

 加奈はびっくりしていまいました。サラ王女とはまるで正反対の王女でした。美しさだけでなく、均整の取れた体に、明るく輝いているオーラを持ち、金髪の長い髪がキラキラと光り、大きなブルーの瞳は、包み込むような優しさがありました。
 それより凄いグラマーで、加奈の顔いっぱいに、大きな柔らかな胸を押しつけられて、加奈はますます赤くなってしまったのでした。

「ミ…ミーティア、もう、その辺で、加奈が困っているよ」

 サタンは呆れ顔でした。

「あら、ごめんなさい。私、いつも男ばかりの中にいるものだから、女の子って珍しいのよ」
「それより、ミーティア、塔のモンスターの事で話があるのだが」
「え? 何か長くなりそうね。立ち話もなんだから、お茶を飲みながら話をしましょう。ルイゼ、お茶の用意をしてちょうだい。それと、お菓子も忘れずにね。サタンの好きなお菓子も持って来てちょうだい」
「ミーティア、ぼくはいいよ!」
「あら、何言ってんのよ。子供の頃からお菓子には目がなかったくせに。いつもサラと取り合いになっていたじゃないの」
「それは、子供の頃だろうが」
「まあいいわ。食べないなら、私と加奈で食べるから」

 加奈はサタンが甘いお菓子を好きだとは知りませんでした。クールで無口で誰よりも強いサタンが、お菓子を食べる姿を想像できませんでした。
 サラと取り合いになったというのですから、昔のサタンは、今とは性格が違っていたのかもしれません。
 どこから、サタンの歯車が狂ってしまったのでしょうか。銀星での出来事が、すべての元凶の始まりだったのでしょうか。

 加奈の話を聞くうちに、ミーティアの顔も表情が険しくなってきました。加奈は銀星のタルタロスとシリウスたちの体のこと、そして変身したシリウスの姿、きつね族の話はしませんでした。
 サタンは、加奈が言葉を選ぶように話をしているのに、加奈の優しさを感じるのでした。
 その時、突然、ミーティア王女が椅子から立ち上がりました。

「私も戦うわ!!」
「え!何言ってんだよ、君はこの国の王女だろ」
「王女だからこそ、一緒に戦うべきだわ」
「何かあったらどうするんだ。君一人の体ではないんだよ。国のことも考えなくては」
「分かっているわよ、サタン。でも、人まかせばかりにしてはいけないと思うのよ。自分の国のことなのよ。こんな小さな加奈だって戦うというのに、私だけ、城でのほほんとしていられないわ。私だって、武器を持って戦えるわ。子供の頃から一緒に剣の練習をしたじゃないの」
「サタン、王女の言う事は正しい。一人でも多い方が、タルタロスを倒すのに有利だと思うぞ」

 ペルセウスもミーティア王女と同じ考えでした。

「加奈の言うように、武器が使い物にならないとすると、戦いが長くなりそうだ。体力が続かないと、致命傷になるな」

長い時間4人は、念密に作戦を立てました。加奈は疲れてきて、うつらうつらとしてしまいました。無理もありません。いろんな事が次から次へと起きて、頭の中で整理が出来なくなっていました。

「ミーティア、悪いが今日はこの辺にしてくれないか。加奈が眠そうだ」

 サタンの肩に寄りかかって、半分眠ってしまっている加奈をサタンはそっと抱き上げました。

「え…っと、それで、星の弓で、その後、結界を解くじゅも…ん、ムニャムニャ…クゥ~」

 加奈は、眠そうにしながらも一生懸命タルタロスの戦いについて語るのでしたが、完全に最後の方は寝てしまいました。

「あらあら、おねむの時間みたいね。寝顔まで可愛いわあ~。それじゃあ、今日はこれ位にしましょう。また、明日、お城へ来てちょうだい。ペルセレス王子は、まだ話があるから、もう少し、残って下さらない?」
「私も王女にお話があります。ライ、お前は夜だけ開いている薬屋があったな、そこで、必要な薬草を買っといてくれ。何を買うかはお前に任せるよ」
「ハイ、承知しました」

 城の外はもう暗くなり、町の明かりが遠くに見えました。夜空には、降るほどの星がまたたき、美しい3つの衛星が金色に輝き、その光が夜の闇の暗さを明るくしていました。
 昼間の暑さが嘘のように冷たい風が吹きつけていました。サタンは、黒いマントを羽織り、加奈をマントの中に抱かかえました。
 華奢な加奈は、すごく軽く、それが余計に可愛いらしく、いじらしくサタンは、包むように抱くのでした。

「サタン様、お待ちください」

 後ろからライが走ってきました。

「ああ、ライか。夜だけ開いている薬屋なんて、ちょっと危なげだな。大丈夫なのか?」
「その薬屋の存在は、この星の者でも知っている人は少ないのです。特別な調合の薬もあるので、普通の人は必要ないでしょうね」
「ライは、昔から変わりないな。子供の頃から、ペルセウスとともにいたからな」
「ペルセウス様は命の恩人です。村がモンスターの襲撃に遭い、私ひとりだけ生き延びたのも、ペルセウス様のお陰なのです。でも…」
「でも?」
「あ…すみません。私、ここで失礼致します。加奈様のこと、よろしくお願いします」

 ライは悩んでいました。ペルセウス王子は、ライについて命の恩人であり、兄のような存在でもありました。モンスターによって、きつね族の村は全滅となり、自分だけが生き残ってしまいました。
 きつね族の父ときつね族ではない母の間に生まれたライでした。しかし、きつね族の集落で過ごす事は、亡き母の遺言でもありましたが、集落に行った後は、ライも随分と苦労しました。父もライが訪ねる前に亡くなっていたため、ライは一人ぼっちでした。まだ6才にも満たないライでしたが、自己流で武道・魔法。武術そしてきつね族の術を死にものぐるいで鍛錬に励みました。
 8才の頃には、幼くして、きつね族の戦士の称号をもらったのでした。しかし、突然現れたモンスターによって、村は全滅してしまったのでした。

 危機一髪のところ、たまたまそこを通りかかった王子一行のお陰で、たった一人、ライだけが助かったのでした。
 そして、それから17才の今現在になるまで、ライは王子に仕えてきました。王子もライの事を従者としてではなく、自分の兄弟のように接しくれたのです。
 それでも、父に言われた事を忘れた事はありませんでした。九尾の腕輪をはめている方こそ、命かけて仕える相手であることを。

 ずっと探し続けて、やっと出会えたのが加奈でした。戦士の儀式の時、村の占いのババ様にも言われたこともはっきりと覚えていました。

「きつね族の九尾様からのお告げじゃ。いつか巡り合う九尾の腕輪をはめている方のために、全身全霊お仕えするのじゃ。よいな、忘れるでないぞ」

 命の恩人ときつね族としての定めの仕えし相手、どちらもライにとっては、天秤にかけることは出来ませんでした。

 サタンは、自分の部屋に加奈を連れていきました。そっとベッドに下ろし、布団を掛けて、ベッドの横に座りました。
 静かに時間が過ぎていきます。加奈は深い眠りの世界へ、そして、サタンは、そっと加奈の頭を優しく撫でていました。
 "銀星のタルタロスではないにしろ、強いことには変わりはない。いざとなったら力を解放するべきだろうか…。あの力があれば、タルタロスを倒すことが出来るだろうが、力が暴走する可能性もある。下手をすれば、自分を見失ってしまえば、タルタロスに飲まれてしまう。加奈たちを助けるどころか、襲ってしまうだろう…"

 サタンにとって、加奈を傷つける事が一番避けたい所でした。
 夜の闇に星々の光りとともに、それぞれの想いと決意が交差していました。



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