2017年07月15日

第4章 いざないの扉 第5話 -忍びよる影-

「加奈、まだ、眠そうだな」
「ほへ…」
 加奈は、持っているスープのスプーンを落としそうになりました。
「アハハハ…昨日と今日の加奈のギャップが可笑しいぜ」
「そ…そんなに笑わなくても…」
「サタンがお前を可愛がる理由が分かったよ」
「え~~!! あ…あの…サタンにばれたんですか!!」
「仕事が終わるまで待っててくれってさ」
「仕事? 仕事って、ミーティア王女に会うことじゃなかったんですか?」
「サタンは、小さい頃、許嫁だったミーティア王女とは、自分の兄弟より仲が良かったんだよ。王女も本当は、サタンと結婚したかっただろうに。銀星の事故で二人には可哀想な事をしたと思うよ」

 王子の話を聞いて、加奈は、さらにサタンが遠くの存在のように思えてきました。何かが心にグサリと突き刺さったような感じがしました。
 気持ちを入れ替えなければと、加奈は思いました。トリトンとの約束が叶えられない今、タイタン号を早く見つけ、地球に戻り、地球でグリーン生命体の事を勉強しようと思いました。宇宙の旅でグリーン生命体の存在はますます謎に満ちて、もう一度、初心に戻った方がいいように思えてきたのでした。何より、学生であった加奈は、普通の学生に戻りたくなったのでした。

「あの…サタンは?」
「王女と話があるらしく、朝早くにまた、城の方へ行ったよ」
“私が加奈とわかったのに会いにも来てくれない…。王女には、朝早くから会いに行くのに…。そうだよね…。私はサタンにとって、あの日助けた厄介者の女の子に過ぎないんだもの。サタンは優しいから…。ただ、面倒を見てくれているだけ。私、何を期待していたんだろう。バカみたい”
 加奈は、心の中でつぶやいていました。
「ああ、そうだった。今日は俺もサタンの仕事を手伝うから、ライと一緒に留守を頼むよ。王様から頼まれたモンスターの退治なんだ」
「え!!」

 加奈はその時、昨日のオババ様の言葉を思い出していました。そのモンスターこそ、タルタロスの分身であろうと。
 一緒に行くと言っても、きっと王子は連れて言ってはくれる訳がありません。ましてサタンも一緒ならなおさらです。
“今まで面倒を見てもらったお礼として手伝おう…そして、これを最後にサタンへの想いを断ち切ろう。私がサタンに出来るのは、これくらいだもの”
 強い決心を胸に加奈は、王子が外出してすぐに、自分の部屋で用意を整えました。ライに頼んで動きやすい服を調達してもらい、ロミオに貰った短剣を腰に差し、弓を背に抱き、ライと共に宿屋を後にしました。

 スクトウム星は、城の周りは緑あふれた町並みでしたが、ひとたび城下を離れると砂漠の世界でした。原因不明の異常気象のせいで、砂漠化が進んでいるのでした。十年前に大きな隕石が落ちてからというもの、モンスターの数も増えて、城の兵士たちがモンスター狩りを毎日行っていても、減るどころか、増えるばかりだったのです。
 原因を調べていくと、砂漠の中央に不思議な塔が出来ていて、そこから不気味な声が聞こえてくるようになったのです。
 塔の中を調べに行った者は、一人として帰らず、サタンに白羽の矢が立ったのでした。

 砂の上に立つ塔は、まるで崩れかかりそうな異様な形の塔でした。高くそそり立つ塔の上は、不気味に稲妻のような光を放っていました。
 塔の中は、至る所に穴があいて、気をつけて進まねばなりませんでした。その間にもモンスターが襲いかかり、強い二人でも先へ進むのは困難でした。
「おいサタン、こんな事していると、なかなか上へ行けないぞ。モンスターが多すぎるんだ」
「上の階段は、一カ所だけじゃないと思うのだが…暗くてよく分からないな…」

 その時、強い風が吹き、モンスターが後方へ飛ばされました。
「今のうちに、上に上がって!!」
 二人の後ろに加奈とライがいました。
「加奈!! なんで来たんだ!!」
「話は後で聞くから、今は急いで! もう一度風の術を使うから、モンスターが気を失っている間に早く!!」
 四人は、ようやく上の階へ少しずつ上がれるようになりました。
 しかし、階を上がるたびに、部屋が迷路みたいになっていて、毒のような水たまりの前で行き止まりになってしまいました。

「まだ半分も来ていないが、少し休もう」
 ペルセウスは、そう言うと腰を下ろしました。サタンは、加奈の方を向いて、少し怒った口調で言いました。
「加奈!! 何のつもりだ。遊びじゃないんだぞ。ケガをしたら、どうするんだ。今からでもライと一緒に帰るんだ。一緒だと足手まといだ!!」
 加奈は何も答えませんでした。
「加奈! 聞いているのか!」
「上の階に、タルタロスがいるの!」
「え!! 今…今、何て言った!?」
「だから、タルタロスの分身がいるの!!」

 加奈の言葉に、サタンは耳を疑いました。銀星にいるはずのタルタロスが何故、このスクトウム星にもいるのか理解が出来ませんでした。
「上の階のモンスターは、タルタロスと言うモンスターなのか?」
 ペルセウスは、タルタロスの事を知らなかったので、普通のモンスターと思ったようでした。
「普通の武器で戦っても無駄なの。強力な魔法を使うし、手のような管がいっぱい伸びてくるからそれも注意しないと…。体中に結界を張っているから、弱らしてもその結界を解かないと、息の根を止めることが出来ないの」
 前にも戦った事を話していなかったので、加奈の言葉にサタンは言葉を失いました。
「ごめんなさい、サタン。私、シリウスと一緒に以前、タルタロスの分身と戦ったことがあるの」
「何故、何故黙っていたんだ」
「シリウスに口止めされて…。ごめんなさい」
 サタンは、口を閉ざしてしまいました。

 二人の様子を見て、上の階のモンスターが普通のモンスターで無いことが分かったペルセウスは、このまま先へ行くのは危険と思いました。
「今日のところは戻ろう。もう少し、準備をした方がいいようだ。ライ、お前、ルーラの魔法を使えるな?」
「ハイ、塔の入口の前に戻ります。今、魔法を唱えますから、加奈様は目をつぶってください。少しめまいがすると思いますが、辛抱してくださいね。それでは行きます!!」

 ライのルーラの魔法で、塔の入口の前まで戻ることが出来ました。加奈はサタンをそっと見ました。サタンの顔はすごく青ざめて、塔を見上げたままでした。
 王女から借りた大鳥のモンスターに乗って加奈たちは、町まで帰ることになりました。大鳥は、ドラゴンと違って、飛ぶ速度は遅かったのですが、それがかえって乗り心地は快適でした。
 空の上からの景色は、一面砂漠で大鳥はそれでも迷うことなく、町の方へ戻っていくのでした。時折、風が吹いてくるので、砂が目に入ってしまいました。
「痛い!!」
 加奈の声に、今まで黙っていたサタンが声をかけました。
「砂が目に入ったのか?」
「うん…」
「手でこするな。こっち向いてごらん」

 サタンは、自分の荷物から布を出して、筒の中の水で湿らせてそっと加奈の目に当て、少しずつ、砂を取ってくれました。
「まだ痛いか?」
「もう大丈夫、ありがとう」
 サタンは、加奈を自分の方へ引き寄せ、自分のマントの中に加奈を抱き寄せました。
「目をつぶっていろ。また砂が目に入る」

 サタンの胸の中で、加奈は自分の胸の鼓動が早くなるのを感じました。加奈はもう自分の気持ちに気がついていました。その気持ちを抑える事はもう出来ないと思いました。サタンが自分に事をどう思おうと、加奈は自分の気持ちに正直になろうと決心したのでした。もう、後戻りは出来ない。この気持ちを大切にしようと思う加奈でした。
 甘えん坊で、奥手の加奈の初めての胸ときめく人がサタンになろうとは、皮肉にも険しい道への始まりを意味していました。 



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