2017年04月16日

第4章 いざないの扉 第4話 -九尾の腕輪-

 宿屋に戻って、少し心も落ちついて、せっかくの舞踏会の料理が食べられなかったためか、加奈はすごくお腹が空きました。そんな加奈のために、ライは、部屋にパンと飲み物を持って来てくれました。
 ライとリュウトとそして加奈は、小さな丸いテーブルで、遅い夕食を食べたのでした。「加奈様、せっかくのごちそう、残念でしたね」
「ううん、このパンがおいしいわ。気楽に食べられるし、ライもリュウトも一緒でとてもおいしいわ」
「加奈様はお優しいですね」
 加奈は、ふと、ライのことを見つめました。話し方が大人っぽいのですが、まだ少年らしさもあり、整った顔立ちで、柔らかな茶色の髪に緑色の切れ長の目、どことなく誰かに似ているような気がしました。その時、ベッドの上からカタコトと音がしました。

「え? 何!? ま…まさか、虫でもいるのかしら。弓、大丈夫かしら。腕輪も!!」
 加奈はあわててリュックの紐を解くと、白ヘビのオババ様からもらった九尾に腕輪が、触らないのに突然加奈の腕にはまってしまいました。
「キャア~何、これ!?」
 はずそうと思ってもはずれず、しっかりと加奈の腕にピタリとはまってしまったのでした。
「加奈様、どうな……あ、そ、その腕輪は!?」
 ライはその腕輪を見た途端、加奈の足元にひれ伏したのでした。
「ああ…やっと…やっとお会いすることが出来ました。姫様…どんなにこの時を待った事でしょう」
「え? ライ、何を言っているの?? 私は姫様じゃないわよ、加奈よ」
「いいえ、その九尾の腕輪が紛れもない証拠です。私は今は王子の従者でありますが、きつね族として、姫様のお守り役をオババ様より言いつかっております」
「何が…何だか良く分からなくなってきた。確かにきつね族の大蛇のオババ様から頂いた物だけど、私は姫じゃないのよ」

 ライは、話し始めました。星虹銀河より離れた位置にあるサブナック星は、多くの種族が集まった星であるがゆえんに争いが絶えませんでした。大きな戦争といかないまでも、部族同士の衝突は日常茶飯事でした。
 ライたちきつね族は、もともと違う星から来た移民のため、なかなか受け入れてもらえず、特殊な力を持っていたため、妬みも買われ、苦労の連続だったのです。ライの父親は、きつね族の中でも強い戦士でもありました。
 頭領の娘でもあるミモザを妻とし、二人の女の子もいました。
 サブナック星人ときつね族との争いで、父親は一時、囚人として、長い牢屋生活を余儀なくされました。その時に出会ったのが、ライの母親のマチルダでした。
 マチルダは、囚人たちの世話をしていました。マチルダは、どの種族にも平等にやさしく対応していました。囚人たちは、彼女を牢屋の女神として、慕っていたのでした。
 
 ライの父親とマチルダが愛し合うようになった経緯は、ライは聞かされてはいませんでした。しかし、死の間際の最後まで、母が父の名を呼び続けていた事だけでも、母は父をすごく愛していたことは理解していたのです。
 ライが生まれて3年後位に父は、釈放され、きつね族の里へ帰ることになりました。しかし、マチルダと幼いライを一緒に連れていくことは出来ませんでした。その時、父はライに、手紙ときつね族の紋章が入った剣を渡したのでした。父の言った言葉が、幼いライにも強く心に響いたのです。
「ライ、男として生まれたからには、きつね族の頭領、もしくは姫様にお仕えする事が習わしだ。九尾の腕輪を持つ者こそ、その人がお前の仕えし人だ。よいな、忘れてはならぬ」
 
 加奈は、ライの話を聞いても何故自分が姫様なのか、分かりませんでした。まして、加奈はきつね族ではないし、地球人です。
「この手紙をご覧ください」
 ライから受け取った手紙には、文字が書かれてありませんでした。不思議な図とヘビの絵が描かれていました。すると、ヘビの目が光り、加奈の頭の中で声がしました。
“加奈、私だよ、覚えているかい”
“あ!! 大蛇のオババ様??”
“お前のおかげで星へ帰れる事が出来たよ。アロには随分叱られたけどね。でも、お前の力になる事は出来る。お前は苦労を背負い込む定めがあるが、人との出会いは、宇宙からもらった宝だ。さあ、一つめの私からの贈り物だ。ライは、お前の力となるだろう”
“私、姫じゃないし、ライは人間よ。贈り物だなんて…”
“アハハ、加奈は本当に欲の無い子だよ。でも、明日戦うモンスターは、タルタロスの分身だよ。あの二人だけでは勝てないよ。加奈とライの術があってこそ、タルタロスの息の根を止める事が出来る。九尾の腕輪がお前を守るだろう。いいかい、前に戦ったタルタロスの分身よりはるかに強い相手だ。心してかかるんだよ! 健闘を祈るよ”
“あ、待ってよ、明日の戦いって…”

 もう、オババ様の声は聞こえては来ませんでした。加奈はもう何が何だか頭の中がガンガンとして、考えるだけでもくるくると思考判断力が止まってしまいました。
「と…とにかく、今日はもう寝るわ。ライ、自分の部屋の戻って休んでね」
「はい、何かありましたら、呼んでください」
 ライが部屋を出て行った後、隣の部屋のドアの開く音が聞こえて来ました。声が聞こえてきたので、サタンも一緒のようでした。
 加奈は、もう考えるのに疲れて、ドレスを脱いで木綿の下着のまま、布団をかぶって眠りについてしまいました。リュウトもベッドの下ですぐに寝てしまいました。

 静かな夜の闇に、時折訪れる星の光が差し込んできます。加奈の部屋のドアが、そっと開かれても、加奈は気づきませんでした。黒い人影は、加奈のベッドへと近づいてきました。黒い人影はそっと加奈の髪を撫でて、布団をかけ直し、しばらくの間、加奈を見つめていました。
 加奈の部屋のドアが静かに閉まりました。廊下を歩く足音がかすかに響きます。その足音が夜の闇へ溶け込んでいきました。
 



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